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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
4章 氷翠の召魔律《ゴエティア》
201/325

201話

 何かを言い争っているような声が聞こえる。

 喧嘩というほどではなかったが、見張りの言う通り穏やかな雰囲気でないのも確かだ。


 クロガネは面倒そうに首の骨を鳴らして、ドアを勢いよく蹴破る。

 室内は一瞬、静寂に包まれ――。


「あらぁ、クロガネちゃ……クロガネ様。早かったじゃない!」


 歓声を上げ、慣れない呼び方に詰まらせつつも一礼する。

 招待された二人目の人物こそ、マクガレーノ・フィン・ニア――多彩な稼業を手掛けているマクガレーノ商会を率いるリーダーだった。


「お戻りになるのを、我ら一同待ち侘びておりました」


 拳と掌を打ち合わせ、膝を突いて一礼をする。

 三人目の人物はロウ・ガルチェ――薬物密売を主な稼業とするアラバ・カルテルを取り仕切る男。

 彼を筆頭としてカルテルの幹部達が集っており、その後ろには用心棒のハスカも控えていた。


「アタシたち、目標拠点から金目のモノをぜーんぶ奪ってきたわ。ほら、こんなに」


 自信満々に指差した先には、対魔武器や実弾銃などが大量に並べられていた。

 黎明の杜が抱えている主要な武器庫の一つを襲撃させ、一つ残らず見事に強奪してきたようだ。


 だが、彼女のそんな言動が気になったのだろう。


「マクガレーノ……貴様、組織の長に対して馴れ馴れしすぎではないか?」

「えー、そうかしら? 貴方の手土産の方が失礼じゃないのぉ?」


 ロウが咎めると、マクガレーノが嘲るような口調で返す。

 確かにアラバ・カルテルが用意できた手土産は、マクガレーノ商会と比べると三割ほど量が少ないように見えた。


 元々はゾーリア商業区で縄張り争いをしていたような関係だ。

 マクガレーノは北西部パレシア四番街、ロウは東部ルード街をそれぞれ取り仕切っており、大規模な抗争こそないものの小競り合いは絶えなかっただろう。

 そんな二人が言い争う姿に、


「騒がしいんだけど?」


 クロガネは用意されていた椅子に乱暴に腰掛ける。

 下らないお遊びをさせるために召集したわけではない。

 不愉快そうに脚を組んで、タバコを取り出す。


 傍らに屍姫が即座に跪いて、ライターで火を付ける。

 配下として主の手を煩わせるわけにはいかない。


 途端に争っていた二人は口を噤む。

 首領として既に"完成している"と理解したからだ。

 ほんの僅かな所作の隅々に、裏社会で培ってきたであろう経験が行き渡っている。


 組織の経営などを通して徐々に成長していくのかと思えば、既に首領としての振る舞いを心得ているらしい。

 この年齢の少女が、殺しの腕だけでなく悪党らしい品格まで備えている。


「クロガネ様。煩わしいようでしたら、私が二人をアンデッドにしてしまいましょうか?」


 そうすれば招待状も一枚で済みます……と、屍姫が提案する。

 この場の全てを彼女の配下にできるなら、わざわざ三枚も無駄遣いする必要が無くなるだろう。


「悪くないけど、それは別の不利益に繋がるから」

「そうですか……」


 提案を却下され、屍姫が肩を落とす。

 確かにアンデッドにすれば招待状も節約できるが、生前の能力より劣った状態では手駒としての価値が薄れてしまう。

 悪党としての才能を買ったのだから早々に無駄にするのも勿体ない。


 何より、今後組織を拡大する際の交渉に影響が生じかねない。

 優秀な人材から勧誘を拒まれてしまうような前例は作るべきではないだろう。


「だが、それにしても……この組織だけで戦慄級一人に大罪級二人とは」


 屍姫の提案が通らなかったことに安堵しつつ、ロウが呟く。

 一つのシンジケートが保有する戦力としては過剰すぎるくらいだ。


 抗争の際に無法魔女アウトローを雇うことは裏社会での基本となっている。

 汚れ仕事を稼業とする者は多く、クロガネも元々は殺しを専門として生きてきた魔女の一人だ。

 一時的な雇用関係のみにしなければ、腕のある魔女ほど費用が嵩んでしまう。


 そういった意味では、アラバ・カルテルがハスカを常時雇っていたのはイレギュラーだった。

 治安の悪いゾーリア商業区だからこそ襲撃を警戒する必要もあったが、それだけではない。

 内部不和による殺し合いを牽制する意味でも組織の一員として引き入れていたのだ。


 幹部達が野心に満ちた目付きをしている中で、半ば独断でロウが決定した事項だった。

 結果としてクロガネの視界に入る程度には組織価値が上がったのだから、当時の彼の判断は正解だったと言えるだろう。


「……」


 確かに破格だ……と、クロガネは室内を見回す。

 これほどの戦力を持っているなら、ディープタウンで新参とはいえ早々喧嘩を吹っかけられることはないだろう。


 だが、これでも不十分だ。

 ガレット・デ・ロワのような一流と比べると人材の面で見劣りしてしまう。

 それだけでなく、ゲーアノート率いるヴィタ・プロージットのような戦争屋と抗争をするにも戦力も心許ない。


 最低ラインに立っただけ。

 現状で満足していられるほど甘い世界ではない。

File:大罪級『鬼巫女』-page3


二体の『黒鬼こくき』とハスカによる連携近接戦闘を主としている。

黒鬼は大罪級の魔物である上、死亡しても半日ほどで再度召喚が可能になる。

ハスカ自身も大罪級相応の脅威度を持っているため、等級だけでは測れない能力を持っている。

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