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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
4章 氷翠の召魔律《ゴエティア》
200/325

200話

 戦意を失った啓崇は武器を捨て、大人しく捕まることを選んだ。

 抵抗さえしなければ酷い目に遭わない。

 尋問に対して従順に答えられるのであれば、少なくとも命まで奪われることはないだろうと。


「どこへ連れて行くつもりですか?」


 警戒した様子で尋ねる。

 目隠しと手錠を掛けられた上でどこかに移送されている。

 あまり距離が離れるようだと氷翠たちと合流することも厳しくなってしまう。


 これまで築いてきた全てが虚像だったのだ。

 残酷な真実を目の当たりにして泣き喚かずにいられるだけ立派だろう。


 気丈に振る舞っているようだが、その肩は微かに震えている。

 手のひらに乗せられた小動物のようで嗜虐心が擽られるが、クロガネはそれを呑み込んで周囲の警戒を続ける。


 統一政府カリギュラの干渉が一度だけとは考え難い。

 何か思惑があって黎明の杜に攻撃を仕掛けてきたのだから、啓崇を連れ歩いている間は襲撃のリスクが高い。

 全ての真相が明らかになるまで一切気を抜けない。


「気になるなら"原初の魔女"に聞けばいい」

「ッ……!」


 抗議しようとして、言葉が喉で引っ掛かる。

 まさか『天啓』の魔法が失われたなどとバレてしまえば、自分が不利になってしまうと分かっていた。


 だが、そんなことは既にお見通しだ。


「隠さなくても、知ってるから」

「な、何をですか?」

「もう未来を知る魔法が使えないってこと」


 啓崇を捕らえた後、クロガネは能力の詳細を知ろうと『解析』を行使していた。

 そして、原初の魔女と繋がりが断たれたという事を知った。


 もはや脅威ではない。

 厄介な未来予知も無く、黎明の杜も壊滅状態にある。


 流出した情報に踊らされた者たちによって虫けらのように踏み潰されてしまった。

 最後の希望は氷翠の悪魔式だが――。


――たとえ"儀式"を成功させたとして、統一政府カリギュラに打撃を与えられるほどの物は生み出せない。


 悪魔式による召喚は不完全に終わる。

 フォンド博士の言葉を鵜呑みにするつもりはないが、黎明の杜に希望が残されていない可能性は極めて高い。


「私に手を出すと、各地の信者が蜂起して――」

「殺されに来てくれるって?」


 好都合だ、とクロガネは余裕を見せる。

 壊滅状態の黎明の杜にまともな戦力は残っていない。

 まとめて残党を処理できるなら、むしろ今後の憂いを断てる好機だろう。


「っ……」


 安い脅しが効く相手ではない。

 要求を拒むことは即ち死を意味している。

 言われるがままに、それこそ自らの全てを差し出さなければ命は無い。


 潰れかけている組織を警戒するほど弱くはない。

 それこそ、クロガネ一人だけでも手こずるようなことはないが――。


「着いた」


 短く呟いて、啓崇の目隠しを外す。


 暗闇から開放された彼女の視界には、月明かりに照らされる廃墟が映っていた。

 夜風が吹き抜けるほどの風化具合だ。

 統一政府カリギュラや魔法省に見付からないように、人通りのない荒れ果てた場所を選んだ。


 合流地点として指定した廃工場は、もう十年以上稼働しておらず機材なども全て撤去されている。

 そのため各地の施設から略奪した物資を隠せる丁度良いスペースとなっていた。


 その正面玄関で、月光を浴びて髪を淡く光らせる魔女がいた。

 夜風に当たって冷えることも気にせずに待っていたらしい。

 正式に"招待"された者――下僕の筆頭として。


「お待ちしておりました、クロガネ様」


 真っ先に屍姫が出迎える。

 以前にも増して熱っぽい視線を送りながらも、所作は高貴な生まれの令嬢のように一礼する。


「そちらの魔女が例の?」


 後ろ手に手錠を掛けられている啓崇を見て、少し羨ましそうに尋ねる。

 クロガネが頷くと、屍姫は後方を振り返る。


「ルーク、捕らえておきなさい」


 使役するアンデッドに指示を出すと、廃墟の暗影から三メートルはあろうかという体躯の魔物が現れる。

 人の形をしているようで、どこか歪に骨格が捻れたり筋繊維が膨張している。


 鉄骨など容易く捩じ切ってしまうような膂力がある。

 そんな魔物に体を左右から掴んで拘束され、啓崇は「ひっ」と声を漏らす。

 少しでも反抗すれば、万力のような両手で胴体を押し潰されてしまいそうだった。


「全員揃ってる?」

「はい。他の者たちも、つい先ほど到着しました」


 私は一時間ほど前に到着しましたが……と、屍姫が呟く。

 自分こそ配下で一番優秀なのだとアピールしているようだったが、こんな場所でご褒美を貰えるはずもなく。


「今は戦利品の選別をしているところです」

「案内して」


 今回の襲撃でどれだけ価値のあるものを得られたのか。

 戦果次第で組織内における暫定的な序列を決めることになる。


 屍姫と廃墟の奥に進んでいくと、見覚えのある装いをした構成員が待機していた。

 相変わらず派手な色味のアーマーを身に着けているのは"彼女"の趣味だろう。

 彼らはクロガネの姿に気付くと即座に作業を止めて敬礼する。


「二人はどこに?」

「はっ、奥の部屋で待機しております!」


 そう言った後、気まずそうに「ですが……」と続けようとする。

 どうやら既に問題が生じているらしい。


「必要ない」


 手で制して、作業に戻るように促す。

 招待した三人の内、屍姫を除いた二人には大きな蟠りが存在している。

 そういった関係性も知っている上で引き入れたのだから、それを含めて纏め上げるのが自分の仕事だ。


 この場で因縁のある相手と鉢合わせたことに混乱しているだろう。

 招待枠はギリギリまで定まらず、事前にメンバーが知らされていない状態での合流となっていた。


 当然、組織に不利益を齎すようであれば自らの手で始末するまで。

 従順で利口な者しか手元に置いておくつもりはない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 久し振りの屍姫! [気になる点] 一体誰だ-!めちゃ気になるぅ [一言] すまんThreadsはやってない でもTwitterとYouTubeはフォローした
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