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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
4章 氷翠の召魔律《ゴエティア》
190/325

190話

 表向きは慈善団体の看板を掲げている建物。

 敷地面積も大したものではなく、誰が見ても怪しさは感じられない。


 だが、その場所を『探知』してみれば地下に巨大な施設が隠されていることが分かる。

 フォンド博士の情報通りであれば、ここが黎明の杜本部に間違いないはずだ。


 あの男から受け取った情報に頼るのは不本意だ。

 どのように踊らされているのか、その筋書きを見破ることはできない。

 それでも、利用されていることを知りつつも使わざるを得ない。


 自らの利益を最大まで引き上げる。

 黎明の杜を巡る一連の事件は、結局のところ次のステージへ進むための下準備に過ぎないのだ。


 哀れむ必要はない。

 皆でテーブルを囲んで、皿に盛られたパイを切り分けるだけなのだから。


 標的は啓崇及びヘクセラ長官。

 どちらも強い権力を持ち、人質として利用する際のメリットが大きい。

 屍姫に渡して都合の良い傀儡に作り変えるのも悪くない。


 それ以外は全員殺してしまって構わない。

 本部の警備体制は極めて厳重だが、それだけ高価な対魔武器も揃っている。

 戦利品にも期待できるだろう。


 本部襲撃に関しては多くのシンジケートが躊躇している。

 それだけ難易度が高い作戦だったが、成功すれば裏社会での地位を向上させられる。


 他組織の動向を窺っているつもりはない。

 目の前のパイを最初に切り分けるのは自分だ。


 正面から堂々と、電子ロックによって施錠されたドアに手を翳し――。


「――『破壊』」


 ドアを強引にひしゃげさせ、蹴破って侵入する。


「敵襲ッ――」


 即座に警報が鳴り響く。

 施設内部には武装した兵士たちが待ち構えており、襲撃を予測していたかのように陣形を組んでいた。


 高出力の対魔武器に、強力なMED装置も起動している。

 対魔女用の戦闘手段も十分に用意してあるらしい。


「戦慄級"禍つ黒鉄"を補足――迎撃する」


 これまでの黎明の杜とは明らかに練度が違う。

 彼らは素人のようには見えない。

 元々は魔法省に反発していた武装集団か何かだろうと予想しつつ、クロガネはゆっくりと足を踏み出そうとして。


「……違う」


 何かがおかしい――直感に従って、手にしていた銃を投げ捨てる。

 こんなガラクタが通用する相手ではない。


 その行動に疑問を抱きつつも、敵は引き金に指を掛け――。


「攻撃開始ッ――」


 無数の対魔弾が降り注ぐ。

 その等級は全て中級以上で、特に隊長らしき人物は上級対魔弾を惜しみなく使用していた。


 前方に『破壊』の障壁を生み出して防ぎつつ、クロガネは両手に魔力を集束させる。


「機式――"エーゲリッヒ・ブライ"」


 全力で潰すべき相手だと判断し、機式を呼び出す。

 使い慣れた二丁拳銃を手に、銃弾の嵐を突き進んでいく。


 遮蔽物に身を隠すとでも思っていたのだろう。

 障壁によって身を守りつつ、疾走するクロガネを誰も止めることはできない。


「――はぁッ!」


 敵の陣形を乱すように飛び込んで、体を捻るようにして回し蹴りを放つ。

 魔女の身体能力に『破壊』を上乗せした一撃は、周囲の兵士を容易くふっ飛ばした。


 即座に銃を構え、体勢を崩した敵から順に撃っていく。

 機式に込められているのは『錬成』によって生み出した特別製の弾。

 だが、想像以上に頑丈なプロテクターを装備しているようで、貫通するには至らない。


 それでも陣形は崩れた。

 中心にクロガネがいる状況で、敵が同士討ちを避けるには銃の使用が制限される。

 対魔武器抜きで、格闘術のみで魔女と渡り合うことは難しいだろう。


 対して、クロガネは好き放題に撃っても問題ない。

 有利な状況を維持しつつ、各個撃破していくべきだろう。


「――はッ」


 地を蹴って一気に距離を詰め、敵の腹を思い切り蹴り付ける。

 腹部を覆っていたプロテクターが砕け――その部分に集中して弾を撃ち込む。


 たとえ防弾仕様であっても、クロガネの『破壊』の力を乗せた一撃なら通用する。

 それさえどうにかすれば、あとは機式でなくとも容易く処理できる。


 クロガネの狙いを察したのだろう。

 次の標的に移る前に、隊長の指示で即座に陣形が組み変わる。

 互いにフォローしやすい距離で武器を構えていて、こちらから攻め込み難い状況を作り出していた。


 だが、その程度で攻撃の手を緩めるつもりはない。


「――『能力向上』『思考加速』」


 ギアを一段階引き上げ、再び次の標的に襲い掛かる。

 プロテクターの強度は既に把握した。

 これだけ身体能力を高めた上で『破壊』の力を込めれば――。


「これならどう?」


 拳を振るえば、プロテクターを易々と砕いて骨まで砕いた。

 素手で簡単に破られるとは思っていなかったらしく、兵士が苦痛に呻く。


 フォローしようと割って入ってきた兵士を、今度は頭部を蹴り付けて即死させる。

 魔力を惜しまなければ十分に対処可能な相手だ。


 練度の高さから恐らく主力部隊だろうと予想しつつ、クロガネは油断せずに次の標的に視線を向ける。


「……対象の脅威度を更新する」


 隊長が指示を出すと、兵士たちが小型のESSシールドを腕部に展開させて距離を取り始めた。

 何かを企んでいるようだが、その狙いごと『破壊』で消し飛ばしてしまえばいい。


 しかし――。


「――ふむ、貴様も長官を狙って来たというわけか」


 圧倒的な力を誇る強者の声。

 建物内に工作されていたのか、その男の接近に『探知』で気付くことができなかった。


「事態を掻き乱す危険因子。やはり貴様は、この場で排除すべきだ」


 魔法省の最大戦力――執行官ユーガスマ・ヒガ。

 彼の乱入に気付けなかったことは失態だが、後悔している暇はない。


 強烈な殺気を放っている。

 これまでとは違い、全力で仕留めようという意思を感じる。


「チッ……」


 厄介な状況に舌打つ。

 誰かが彼に本部の座標を伝えて向かわせたのだろう。

 この情報を知る者となれば――と、無用な思考を切り捨てて目の前の状況に集中する。


 端から罠である可能性も想定していたが、その中でも特大級の罠を仕掛けられていたらしい。

 そうなれば、待ち構えていた兵士たちの練度が高いことも説明が付く。


――本部は既に制圧されていた。


 ユーガスマと一対一で殺り合うのも厳しいというのに、支援部隊まで用意されている。

 生存を最優先に考えるなら逃げるべきだろう。


 クロガネは苛立ったように息を震わせながら吐き出す。

 その考えは甘いと。

 いつまでも逃げてばかりではいられない。


「ここは私の取り分――」


 譲るつもりはない。

 まだ標的は建物内にいることを『探知』で把握済みだ。

 ここで引き下がると、社会の動乱に呑み込まれることになってしまう。


「――邪魔をするなら、全員死んでもらうから」


 覚悟を決めて、エーゲリッヒ・ブライを構えた。

File:ESSアーム


起動することでESSシールドを盾のように展開させる。

ESSブレードを生成することも可能なため、攻防の切り替えを自在に行うことができる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] クロガネ様頑張れ-! 爺さんの目を覚ますんだ
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