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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
4章 氷翠の召魔律《ゴエティア》
182/325

182話

「あー、てっきり三等市民居住区に構えていると思っていたんだが……」


 物陰から前方の施設を見据え、カルロが困惑したように呟く。

 ジゼル商業区の慈善事業団体が借りている大きな建物。

 看板には"孤児院"の文字が記されている。


「ブラックマーケットの情報屋から仕入れたので間違いはないでしょう。当然、精査の方も怠りませんが」


 傍らに立つ老齢の紳士――ガレット・デ・ロワの幹部構成員モルド・アーベンス。

 彼もまた、この場所に同行するように命じられていた。


 この孤児院の看板は偽りだ。

 どこから情報が漏れたのか不明だが、目当ての施設であることは間違いないらしい。


「縄張りを荒らされたなら相応の報いを与えなければ。我々の稼業は、舐められて放置するようでは成立しませんから」


 だからこそ徹底的に報復する。

 戦力を結集させ、殴り込みの機を窺っている。


 標的は言うまでもない――黎明の杜だ。


「でもさ、支部一つ潰すのにこんなに戦力が必要なのかな?」


 今回の強襲のために雇われた無法魔女アウトロー

 大罪級『色差魔』が懐疑的な様子で尋ねる。

 主要戦力だけでなく、過剰な数の下っ端を引き連れてきていた。


「ここは黎明の杜にとって物資庫となる施設です。銃火器の類もここに保管されているようで」

「要は略奪の限りを尽くして来いってことなんだよな。下っ端連中にとってはボーナスみたいなもんだ」


 アーベンスの言葉を遮ってカルロが喜々と説明する。

 構成員の士気が高いのはそのせいか……と色差魔も納得する。

 所有権は全て奪ってきた者に与えられるため、いつも以上に気合が入っているらしい。


 視界の端では、真兎も嬉しそうに跳ね回っていた。


「略奪殺戮、なんでも頑張りますっ!」

「ったく……」


 上級-鎚型対魔武器を手に張り切っている。

 そんな様子にカルロは嘆息しつつ、しかし平然を装っているだけで考えていることは同じだった。


「そっちもほんと容赦ないわね」

「そりゃあな。"事情は関係無い。歯向かった事実だけが重要だ"って、ボスの口癖だ」


 黎明の杜が何を思って動いているのか。

 そんな事情を汲み取ってもらえるような甘い世界ではない。

 裏社会でも際立って残忍なアダムの視界を横切ってしまったのだから、その代償は計り知れないものになるだろう。


「でも、そのボスは今回はいないの?」

「そうなんだよ。ドンパチやる時は必ずいるイメージだったんだが」


 カルロは不思議そうに首を傾げる。

 先頭に立ち、嬉々として銃をぶっ放すのかアダムという男だ。

 彼が不在というのは珍しいことだった。


「アーベンスの爺さんは何か知らないか?」

「ある人物に会う……と、ハーシュを連れてディープタウンに向かったようで」


 誰に会うとまでは知らされていないのか、或いは話すつもりがないのか。

 黎明の杜よりも優先すべき相手のようだ。


「さて、お喋りは程々に――」


 アーベンスの纏う空気が変わる。

 作戦が開始すると悟り、構成員たちが武器を構えた。


 十分な戦力を用意したが、相手に無法魔女アウトローが含まれていた場合は状況が変わる可能性もある。

 その際は主戦力となる色差魔に預けることになるだろう。


 アーベンスが胸ポケットから拳銃と通信機を取り出す。

 幹部構成員である彼も撃ち合いに参加するらしい。


「――始めるとしましょう。ドローン爆撃を開始しなさい」


 通信機に向けて指示を出してから約五秒。

 凄まじい速度で飛来してきたドローンが、施設の窓に衝突して派手に爆発する。


「うおっ……あんなものまで用意してたのかよ」


 カルロが冷や汗を垂らす。

 事前に拠点の構造まで掴んでいたらしく、全てのドローンが正確に窓を破壊して炎上し始めた。


 突破するための爆撃ではない。

 過剰なほどに燃え広がる炎によって、正面扉を除いた全ての場所が出入り不可能な状態になった。


 一人残らず掃討するつもりなのだろう。

 アーベンスの眼光が、鋭く正面扉を睨み付けている。


「ふむ、あちらにも戦力が揃っているようですなぁ」

「そんなことまで分かるのかよ?」

「逆に聞きますが、分からないのですか?」


 咎めるような口調にカルロは顔を引き攣らせる。

 アーベンスは長年アダムの右腕として頭脳を捧げてきた男だ。

 自分なんかよりも遥かに優れた洞察力を持っているのだろう……と。


「そんなに寝ぼけてているようでは不安が残りますなぁ。せめて、その銃で挽回してみせなさい」


 下っ端たちが駆け出していく中、アーベンスは落ち着いた様子で銃を構える。

 そして、カルロに手本を示すように前方を指差す。


 ほんの一瞬だけ、正面扉から様子を窺うように敵が顔を覗かせ――その額をアーベンスが撃ち抜く。


「この場の誰よりも多く仕留めるように。さもなくば、ボスに――」

「そ、それだけは勘弁してくれ!」


 無茶な課題を出され、カルロは大慌てで駆け出した。

File:爆撃用ドローン


信号を受信すると『変性エレクトロン』微粒子が放電して起爆する。

同時に粘性の高い液体燃料を散布するため、敵の逃走ルートを塞ぐ目的で使用されている。

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― 新着の感想 ―
[一言] そういえばクロガネ様将来の夢はパティシエだったか、いつかその腕を披露する日が来るかな
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