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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
4章 氷翠の召魔律《ゴエティア》
178/308

178話

 銃声が響く。

 エーテルを帯びた弾頭が甲高い音を立てながら突き抜け――空を切った。


「それで待ち伏せのつもり?」

「くッ――」


 銃声が続くも、弾道を見切って全てを躱す。

 当たれば致命傷は免れないだろうが、当たらなければ何も怖くない。


 あれだけ殺気を漏らしていれば簡単に躱せる。

 そうでなくとも、素人の銃撃で負傷するほど生温い世界に生きてはいない。

 残弾全てを吐き出させる前に、クロガネは距離を詰めて蹴り上げる。


「ぐぁっ――」


 ヴァルマンの手から銃が弾き飛ばされて宙を舞う。

 強化された体から放たれた蹴りは、それだけでなく手の骨を派手に砕いていた。


 痛みに呻きつつ、その視線が一瞬だけ銃に向けられる。

 武器を手放してしまったことに焦ったのだろう。

 戦いの最中に敵から視線を逸して、そんな隙を見逃してもらえるはずがない。


 振り上げた脚をそのまま振り下ろして踵でヴァルマンの右肩を砕く。

 その衝撃で地面に這い蹲らせると、クロガネは弾き飛ばした銃をキャッチして突き付ける。


「ぐっ……も、目的は何だ」


 這い蹲ったまま、苦しそうな顔をして尋ねる。

 この期に及んで反抗する素振りを見せれば、きっと目の前の魔女は自分を殺すだろう。


 凍て付いた眼は氷翠と似ているようで、しかし、宿る殺気の質が段違いだった。

 そして、全ての所作が殺しのために洗練されている。

 この年頃の少女が簡単に身に付けられるような技術ではない。


 抵抗を諦め、ヴァルマンは要求を呑む姿勢を見せる。


「あんたが黎明の杜に関与してることは分かってる。氷翠たちが行おうとしている"儀式"について……知っていることを全部吐けば命までは取らない」

「あぁ、なるほど……それで助かるなら、何だって話しましょう」


 命の保証がされるとは考え難い。

 脅し文句とは反対に、後の面倒事を嫌って相手を始末する殺し屋は多い。

 彼の見立てではクロガネはそういう人物に見えていた。


「しかし、なぜ黎明の杜と繋がっていることがバレてしま――ぐッ!?」


 銃声が響き、ヴァルマンの左脚を撃ち抜く。

 弾丸は見事に貫通していて、血がドクドクと溢れ出してきた。


「時間稼ぎをするつもりなら殺すから」


――やはり容赦がない。


 倫理観が死んでいるのだろうか……と、ヴァルマンは奥歯を軋らせる。

 無法魔女アウトローは自身の能力を好き勝手に使いたいだけの者が大半だ。

 ただ魔法省の管理下に置かれることを拒んだだけで、全員が極悪人というわけでもない。


 黎明の杜もそのタイプの無法魔女アウトローが寄り集まってできた組織だ。

 対するクロガネは、この世界で生き抜くために必要な狡猾さと残忍さを兼ね備えている。

 これこそ正しい意味での無法者アウトローの姿だ。


 命の危機に直面して微かに体を震わせつつも、まだ助かる見込みがある内は諦めるつもりはない。

 救援要請が届いたのであれば、間もなく――。


「――ッ!」


 微かな冷気を感じ取り、クロガネはその場から退避する。

 直後に無数の氷柱が降り注いだ。

 その出力には目を見張るものがある。


 虚空から姿を表した者こそ、黎明の杜を束ねる指導者――氷翠だった。


「また私たちの邪魔をするつもりか、禍つ黒鉄ッ!」


 ヴァルマンを庇うように立って、魔力を滾らせている。

 以前より格段に魔力量が上がったようだ。


 冷静に分析しつつ、クロガネは手を突き出すように構える。


「機式――"エーゲリッヒ・ブライ"」


 愛用の二丁拳銃を呼び出そうとするも、何故か反応がない。

 氷翠が何か仕掛けてきたのだろうか。


「悪魔式――『複合行使シンセシス』」


 好機を見逃さず、氷翠が無数の魔法を展開させる。

 悪魔式も順調に集まっているようで、攻撃のバリエーションも豊富なようだ。


 機式を使えないばかりか、どうやら『能力向上』や『思考加速』も封じられているらしい。

 さすがに魔法を使えない状態で戦慄級を相手にするのは厳しい。


 冷気が部屋を満たして体力を奪う。

 氷刃が舞い、氷柱が降り注ぎ、氷剣を手にした氷翠が襲い掛かる。


「今度こそお前をッ――」


 振り下ろされた剣を、クロガネは咄嗟にナイフを取り出して弾く。

 続く切り上げはバックステップで避けて、直後に降り注ぐ氷柱は体を左右に揺らしながら軽やかに躱した。


 しかし、微かな痛みを感じる。


「……へえ」


 いつの間にか氷翠の剣戟が頬を掠めたらしい。

 間合いからは逃れたつもりだったが、どうやら剣に魔力を宿しているようだった。


 同じ戦慄級の魔女とはいえ、クロガネと氷翠とでは踏んできた場数が違いすぎる。

 その差を少しでも埋められるように対策を練ってきたのだろう。


 能力を封じ、剣の間合いで騙して――自分を確実に殺しに来ている。


「なら――」


 ナイフを投げ付け、手を後ろに隠す。

 MEDとは別の手段で魔法を使えなくされてしまったが、焦るほどのことではない。


――『破壊』


 クロガネの根源となる魔法の力。

 氷翠の魔力が冷気を帯びているように、クロガネの魔力は破壊の力を帯びている。

 それこそ、魔力を手元に集中させるだけで――。


「上級-刀型対魔武器『死渦しか』――起動」


 強引に封印を打ち破って、氷翠を迎え撃つように刀を振るう。

 互いの刃が交差して甲高い音を立てた。


「侮るな……ッ!」


 膠着状態に焦れたのか、氷翠が出力を上げて押し返してきた。

 それと同時にクロガネは脱力し、勢いを利用するように横に受け流す。


 体勢を崩させたところで思い切り蹴りつけるが、魔力の層のようなものに阻まれてしまう。

 どうやら咄嗟に障壁を生み出したようだった。


 以前よりは殺し合いらしくなっている。

 短期間でここまで技量を上げられたのは本人の努力によるものか、もしくは能力に依存したものなのか。


 感心しつつも、より多くの情報が欲しいクロガネは様子見に徹する。

 対する氷翠はさらに悪魔式の力を開放していく。


「悪魔式――『万象先視アーリーヴィジョン』」


 視界内に映る全てを予見する魔法。

 自身の力量で認識可能な事象でなければならないという制約はあるが、戦慄級の魔女であれば大半は見通すことができる。


 一対一の場においてこれ以上とない切り札だろう。

 そんな奥の手を披露した氷翠を見て、クロガネは呆れたように肩を竦める。

File:『煌学凍霧レデューサー


氷翠の能力の一つで対象の魔法を封じる効果がある。

魔女本人ではなく周囲のエーテルそのものに干渉するため反魔力の影響を受けない。

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