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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
4章 氷翠の召魔律《ゴエティア》
176/313

176話

 道路が抉れるように穿たれ、周囲の建物も酷い惨状だった。

 十秒にも満たない時間で全てを打ち砕いて――否、一人だけ生存者がいた。


「ば、化け物め……ッ」


 リーダーらしき男だけが立っていて、他は跡形もなく消し飛んだ。

 彼が優れていて、咄嗟に回避行動を取れたというわけではない。

 運が良かったわけでもない……強いて言うならば、その逆だ。


 クロガネはカヴァレリストの召喚を解除して、ゆっくりと男に歩み寄る。


「知ってる情報を全て吐いて」

「誰がそんな事ッ――ひっ!?」


 距離はかなり離れていたというのに、声を荒げようと瞬きをした僅かな時間で目の前にまで迫っていた。

 微かな隙さえ見逃さず、こうして逃げ出せない状況を作り出している。

 殺し屋の中でも超が付くほどの一流だ……と、対峙してみて思い知らされる。


 そんな相手が"情報を吐け"と脅してくるのだ。

 纏った空気を見れば、これから行おうとしていることは嫌でも理解できる。


――あれほど強烈な殺気を帯びた人間は、いったいどれだけ残酷な拷問を行うのだろうか。


「……俺は死んでも話さねえ。拷問するなら好きにしろ」


 それでも忠誠心は本物だ。

 彼自身も殺しを生業にしていたこともあって、作戦行動の中で死ぬ覚悟も決まっている。

 組織の足を引っ張るくらいなら自決すら厭わない。


「なら死んで」


 クロガネは銃を取り出して、容赦なく男の頭部を撃ち抜く。

 彼は宣言した内容を違えないだろう。

 その目を見て、時間をかけるのは無意味だと判断する。


 下っ端でさえ口を割らないほどに心酔している。

 黎明の杜は末端まで強固な繋がりを持っているらしい。

 こうして何度か作戦行動を狙って襲撃してみたが、思わず感心してしまうほど情報を得られなかった。


 黎明の杜に近付くには別の方法を考えるべきだろう。

 一つ気になっていたことを思い出して、クロガネはある人物に電話をかける。



   ◆◇◆◇◆



 とあるホテルの一室でクロガネは寛いでいた。

 武器の手入れをしつつ、その人物の到着を待つ。


 情報収集は失敗に終わったが、それ自体に期待していたわけではない。

 戦力を削ぐだけでも十分な効果が見込める。

 いずれ決着を付けるならば、数の暴力に押し潰されないよう注意しなければならない。


 元より殺しが専門分野なのだ。

 それ以外の事は、それを専門とする者に任せればいい。


 一通り武器の手入れが終わった頃合いに、部屋のドアがノックされた。


「――失礼します」


 長い白髪に紫のメッシュを入れた、ゴスロリチックな服装の魔女――屍姫が入ってきて一礼する。

 どこかそわそわとした様子で、ソファーに腰掛けているクロガネに歩み寄ってきた。


「こちらが、クロガネ様に頼まれていた調査の報告書です」


 カバンから文書の束を取り出して手渡す。

 そこには、並の情報屋では入手できないような黎明の杜の内部事情が記されている。


「……へえ」


 クロガネは感心したように声を漏らす。

 黎明の杜に関して、組織としては不自然な点が幾つもあった。

 その疑問の大半を解消して、情報を元に屍姫の個人的な見解まで書かれている。


「調査中に勘付かれなかった?」

「潜入させたアンデッドは今も活動中です。よほど精密な検査を行わない限りは大丈夫だと思います」


 屍姫が自信に満ちた笑みを浮かべる。

 こういう事こそ、彼女の持つ特異な能力が役立つ。


 今回ばかりは情報収集が困難だと判断して、クロガネは屍姫に調査を依頼していた。

 使役するアンデッドを潜入させたり、作戦行動中の部隊を襲撃してアンデッド化させて情報を吐かせたり……正攻法では得られない情報をかき集めることができていた。


 得られた情報は末端では知り得ないものも含まれている。

 これならば、黎明の杜を潰すにはどこから揺さぶればいいのかおおよその見当が付く。


「近々、黎明の杜は大規模な作戦行動に移るようです。推測ですが……"儀式"の準備も完成間近まで進んでいるのかもしれません」


 世界を再起動させるための儀式。

 そのために、氷翠は多くの魔女を殺めて力を集めている。


 条件を満たさなければ発動できない能力。

 魔法を奪うだけでも十分すぎるほど脅威となるが、それ自体が本質というわけでもない。

 もし阻止できなければ、世界に甚大な被害が齎されることだろう。


「……統一政府カリギュラがどう動くか」


 迂闊に近付いて巻き添えを食らうわけにもいかない。

 理想としては、双方の総力戦を横から叩くようなイメージがいい。

 氷翠さえ仕留めれば後はどうにでもなるはずだ。


 問題はラプラスシステムによる監視と筆頭議員であるアグニの存在だ。

 今回の件で彼女はほとんど動きを見せていない。

 どこで何を企んでいるのか、現状ではその動向を知る術が無い。


 あるいは、自分の見えないところで何かが動いているのか。


――まだ、力が足りない。


 何も戦闘能力に限った話ではない。

 対組織を想定する上で、やはり個人で全てを賄うのは限界があるだろう。

 戦慄級の魔女であろうと絶対的な強者ではないのだ。


 未だに裏懺悔も静観を続けている。

 あれほどの力を持ちながら、自分から動くようなことはほとんどしない。

 理由を聞いたところではぐらかされてしまうため、心の内側を知ることは不可能だ。


 この世界で生きていくために対抗手段を得る必要がある。

 利用価値のある者を集め、いずれ統一政府カリギュラと殺り合えるくらいまで力を付けなければならない。


「その、クロガネ様……」


 頬を紅潮させ、何かに期待したように。

 どうやらご褒美が欲しくて我慢ができなくなってきたようだ。


 近くに来るように命令すると、屍姫は足をもじもじと動かしながらスカートをたくし上げた。

 熱っぽい吐息と衣擦れの音だけが聞こえる。

 透明感のある白い肌が露出されて、羞恥と高揚で呼吸が震えていた。


 そんな屍姫の姿を眺めながら、

 

「ここに跪いて」


 クロガネは自分の足元を指して言う。

 ソファーに座りながら、火照った体を疼かせている屍姫を見下ろす。

 視線を向けられるだけでも興奮してしまうらしい。


「んっ……その、ご褒美は……いただけないのでしょうか……?」


 戸惑った様子で尋ねてきた。

 いつもなら既に可愛がっている頃合いだ。

 まさかお預けをくらうとは思っていなかったらしく、屍姫が懇願するように上目遣いで見つめてきた。


 嗜虐心がくすぐられる。

 普段とは違うが、こういう趣向も悪くはない……と。


「奉仕して」


 焦らされて瞳を潤ませている彼女に、主従を教え込むように命令する。

 その一言だけで趣旨を理解したのだろう。


「はい、クロガネ様ぁ……」


 顔を蕩けさせ、屍姫が嬉しそうに体を捩らせた。

File:使役能力


一般的なアンデッドは死体がエーテル汚染されたことによって魔物化したもの。

対して、屍姫の使役するアンデッドは発動対象の生前の記憶や能力・人格等を復元しているため情報を引き出すことも可能。

外見だけでは判別が付かないため、割り出すには煌学スキャン等で検査する必要がある。

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― 新着の感想 ―
[一言] 屍姫有能、能力の汎用性が高いたけじゃなく頭もきれる。 そして献身的てかわいい
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