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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
4章 氷翠の召魔律《ゴエティア》
167/325

167話

 世界全体の観測を可能とするほどの膨大な魔力。

 それを用いた戦闘支援を受けることで絶対的な力を得られるのだ。


「ふむふむ~?」


 裏懺悔が興味津々といった様子でアグニを観察する。

 ラプラスシステムから直接支援を受けて戦うとなれば、統一政府カリギュラの実力――その片鱗くらいは見られるだろう、と。


「その憎たらしい能天気な顔を――」

《座標確認。煌学エネルギー集束中――》


 遥か空高く――それよりも上の大気圏外に膨大なエネルギーが集まっていく。


 軌道衛星による対地レーザー。

 それも、以前に統一政府カリギュラの威を示すために行った牽制とは違う本気の一撃。

 集まったエネルギーはその時の十倍を超えるほど。


「――消し飛ばしてあげるよッ!」

《――攻撃開始》


 直後、裏懺悔の間近に光柱が突き立つ。

 一つだけではない。

 逃げ場を奪うように絶え間無く、数えきれないほどのレーザーが空から降ってきていた。


 激しい光によって視界が奪われて状況が分からなくなるほど。

 だが、見えなくとも戦況は観測されている。


「うわわっ、そんなに撃ったら危ないよ~!?」


 降り注ぐ攻撃の全てを裏懺悔は無傷で躱していた。

 対地レーザーは余波だけでも周囲の地形が変わるほどの馬鹿げた出力を誇る。


 だというのに、それを涼しい顔で掻い潜りながら、楽しそうに間近で観察している。


「これでも効かないなんて……やっぱり、世界そのものをパーツに組み込むしかないか」


 呟いて、アグニが手を構える。

 対地レーザーは強力だが、単なる物量任せで押し潰せるほど易しい相手ではないだろう。

 技術を伴って仕留めに掛からなければこちらが呑まれかねない。


 ラプラスシステムの補助を受け、魔力を全開に。

 強大な力が湧き上がってきて、これならば殺せるという確信を抱いていた。


 だが、それを遮るように裏懺悔が声を上げる。


「うんうん。それじゃあ、次は裏懺悔ちゃんのターンかな~?」


 手を高々と翳し挙げる。

 人差し指をピンと立てると、周囲のエーテルが呼応したように流れ始めた。


 可視化されるほどに高濃度のエーテルが空に昇っていく。

 その光景は幻想的なようで、しかし、途方もない悪夢の予兆でもあった。


 上空にC-5区画一帯のエーテルが集束していく。

 汚染された瓦礫の山が天に昇っていく。

 蠢き犇めいていた魔物たちも皆、その災害等級を問わず地面から引き剥がされて打ち上げられていく。


「な、何を――くッ!」


 自身も空に吸い上げられそうになり、アグニは反魔力によって抵抗する。

 どうやらエーテルを宿すあらゆるものを呑み込むつもりらしい。


「ラプラスッ!」

《無効化領域を展開――エラー。出力が不足しています》


 裏懺悔の魔法行使を止めることができない。

 C-5区画一帯にどのような被害が齎されるのか見当も付かなかった。


 安易に手を出していいような相手ではない。

 それを理解していたはずだというのに判断を誤ってしまった。


「――ラプラスッ!」

《非承認――その行為は推奨されません》


 対抗できるだけの力を寄越せ、と。

 そんなアグニの要求をラプラスシステムが拒んだ。


 それを許してしまえば、この区画を包囲している魔法省に甚大な被害を及ぼしかねない。

 今後の社会秩序維持にも多大な影響が生じてしまうことだろう。


「……なら、今すぐ転移を」

《――承認。十秒後、対象者を一等市民居住区フォルトゥナに転送します》


 カウントが始まる。

 たった十秒という短い時間でさえ、天変地異の間近では永遠のように感じてしまう。


 これは単なる殺し合いではない。

 個人と世界による終末戦争だ。


 アグニは一対一での殺し合いを望んでいるようだったが、裏懺悔には関係のない話だ。

 単純な好奇心でラプラスシステムを試したいだけ。

 そのついでに議員の誰かが命を落としたらラッキー程度の認識でしかない。


「それそれ~! みんな集めてぐーるぐる!」


 空が唸るように鈍重な音を立てて歪んでいく。

 エーテル公害によって齎されるはずだった災害の全てが、遥か上空に集束していく。


 常軌を逸した魔法。

 はたして、発動を許してしまった場合どれほどの被害が出るのだろうか。

 類を見ない莫大な魔力反応に、各地のアラートがけたたましく鳴り響いていた。


「名づけて! 裏懺悔ちゃんスペシャルっ!」


 あざとくウインクをして見せる。

 空が激しく明滅した直後――光も音も全てを押し退け、文字通りの災害がC-5区画一帯を崩壊させた。



   ◆◇◆◇◆



「……ん?」


 裏懺悔が首を傾げる。

 魔法発動の余波によって、視界には真っ暗な世界が広がっている。


《過剰なエーテルによる空間崩壊を検知》

「あちゃー、何事もやりすぎはよくないってことなんだね~」


 そう呟いて、声の方向に振り返る。

 先ほどアグニの背後に生成されていたホログラム――ではない。


「まさか、キミの方から接触してくれるなんてね~。もしかして裏懺悔ちゃんのこと好きだったり?」

《秩序維持のため空間修復リカバリーを行います》

「もー、無視しないでよ~!」


 どうやら意思は存在しないらしい。

 だが、そこにいる少女がラプラスシステム本体だということは直感的に理解していた。


 どこからか流れてきたエーテルによって崩壊した空間が再構成されていく。

 過剰なエネルギーによって空間まで破壊すること自体も常軌を逸しているが――世界そのものを修復する力など聞いたこともない。


 もし被害を省みずに戦うことを選択していたなら……と、裏懺悔は残念そうに肩を竦める。

 彼女は社会秩序を維持する装置でしかない。


《――作業完了》


 約五分程の時間で、裏懺悔の魔法によって崩壊した全てが元通りになっていた。

 さすがに魔法に呑まれた魔物までは再生させないようだが、C-5区画は感心するほどに安定している。


「この力……キミは何のために生み出されたんだろうね~?」


 声をかけるも返答はない。

 いつの間にか姿を消していたらしく、その場には裏懺悔だけが佇んでいた。


「ちぇー、逃げられちゃった」


 統一政府カリギュラに所属する議員たちだけでなく、近くで気を失っていたユーガスマも転送されたらしい。

 魔法省の最大戦力である彼でさえ、首輪に繋がれて自由を奪われている。


「なんだか甘いもの食べたくなっちゃったよ~。クロガネ誘っちゃおうかな?」


 一通りの好奇心を満たして、裏懺悔もその場を後にする。

File:裏懺悔ちゃんスペシャル


周囲に存在するエーテル全てを空に打ち上げ、捻じ曲げ、ね回して条理から外れた破壊エネルギーを生み出す。

空間そのものに作用するため、いかなる防護障壁も意味を成さない。

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― 新着の感想 ―
[一言] ん〜。 やっぱり階級間違ってね?普通に最上位判定出されそうなものだけど、、、
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