表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
4章 氷翠の召魔律《ゴエティア》
166/325

166話

 アグニは即座にユーガスマを手放して距離を取る。

 そうするように"彼女"が囁いたからだ。


「……どうして、キミがこの場所に?」

「さてさて、どうしてだろうね~?」


 アグニの支配領域を押し退けるように、莫大な魔力を滾らせながら。

 本人はおどけるように手をひらひらと振って笑みを浮かべる。


 統一政府カリギュラの議員であれば知らない者はいない。

 この世界で唯一、絶対的な自由を得た存在。

 社会秩序の外に放り出さなければならないほどの力を持つ魔女。


「これは……さすがに想定外の事態だ」


 戦慄級の無法魔女アウトロー――裏懺悔。

 彼女の存在こそ、統一政府カリギュラが恐れる制御不可能な危険因子そのものだった。


「よーっす、遊びに来たよ~」

「邪魔をしないでくれないかな。キミに構ってる暇はないんだ」


 視線の先では、ユーガスマが中途半端に薬剤を投与された状態で意識を失っている。

 先ほどの乱入によって注射器は地面に落ち、シリンジ部分が破損してしまって中身が溢れていた。


「困ったな。せっかく彼の調整用にトルメジスエチン剥薬を調合したのに。すぐに新しいものも用意できないし……」


 十分な量を投与できたか怪しいラインだった。

 意識を取り戻した時に暴れられてしまっては厄介だ……と、アグニは舌打つ。

 自身が四六時中監視しない限り、ユーガスマを拘束し続けることは不可能に近いだろう。


 彼を助けるために意図して介入したのだろうか。

 にへらと笑う姿から行動の真意を窺うことはできない。


「……まあ、その場合は彼にでも預けるとして。キミも黎明の杜に興味があって来たのかい?」

「うーん、それもあったんだけどね~」


 当初の目的は黎明の杜によって引き起こされたエーテル公害を確認することだった。

 汚染規模によっては世界に大きな影響を与えることになる。

 状況を把握するためとはいえ、魔法省の戦力が集中している場所に誰かを向かわせるわけにもいかない。


 一先ず、自身が動くべき事態か否か。

 それを判断するためにC-5区画に乗り込んだはずだった。


 今、視界には統一政府カリギュラの議員が七人。

 この場に全員揃っているのか不明だが、少なくとも失っても痛くないという事はないだろう。


 以前セフィール・ホロトニスを口封じで殺されたことへの報復――というほどの事でもない。


 偶然見かけたから嫌がらせでもしておこう。

 ついでに統一政府カリギュラの力を試せたなら上出来だ。

 と、彼女にとってはただそれだけの話だった。


「せっかくだから、統一政府カリギュラの――ラプラスシステムの力もついでに見ちゃおっかな~って」


 裏懺悔が指をパチンと鳴らす。

 何か魔法を使ったわけでもないフェイクだが、議員たちは一挙一動を恐れるように警戒していた。


 個人で保有するには過ぎた力。

 未だに能力の詳細は不明。

 馬鹿げた出力で魔力を放ちながらも、佇んでいる姿は自然体のように見える。


 警戒しつつ、一人の議員が手を翳す。


「……PCMA起動」

『保有魔力測定中――エラー。PCM値を測定できません』


 当然のように測定不能。

 彼が持つPCMAは魔法省の捜査官が携帯しているものとは違い、より性能を高めた高級品。

 戦慄級の測定まで問題なく対応しているはずだった。


 それを見て、アグニが舌打ちながら手首に付けた端末を操作する。


「対象の魔力計測を申請」

《――管理者権限を確認。承認されました》


 端末画面が明滅し、内部から魔力が放出される。

 手元にあるPCMAではなく、奥に隠されているシステムそのものに解析を委ねた。


《――エラー。不明なエネルギーによる妨害を受けているため、対象のPCM値を測定できません》

「にへ~」


 結果を聞いて裏懺悔が笑みを浮かべる。

 統一政府カリギュラの設備では自分を測ることはできない。

 大元のシステムはともかく、それを活かすために必要な魔法工学の技術力が不足している。


 数値化することも叶わない魔女。

 どれほどの実力を持っていて、今こうして立っている状態がどれくらい本気なのかさえ分からない。

 全く底が知れない。


「……本当に、キミの存在は目障りだ」


 アグニが不愉快そうに言う。

 もし裏懺悔が存在していなければ、既に統一政府カリギュラは世界の完全管理を実現させていたことだろう。

 重要な実験等が度々失敗に終わる背景には彼女が暗躍していると睨んでいた。


 だが、ある意味では好機とも言える。

 ラプラスシステムでさえ観測不可能な彼女が、今こうして自分の前に姿を表しているのだ。


「キミがこちらを試すことで、こちらもキミを殺す機会が得られる」


 アグニが戦闘態勢に入る。

 相手は災害とも言うべき魔女だが、彼女もまた比肩する者のいない圧倒的な強者だ。


「この際だから、どちらが強いのかはっきりさせておこうかな――ラプラス」

《――戦闘支援を開始します》


 その背後に、ホログラム姿の少女が生成され――周囲を漂うエーテルが、ざわつくように揺らぎ始めた。

File:PCMA


AIの分析によって魔女・魔物の脅威度を測定する機械。

議員たちが所持するものは特別製で、1000を超えるPCM値も計測可能。

PCMAによって過去に観測された中で最も高いPCM値は1598。

この数値は戦慄級『火輪かりん』という無法魔女アウトローのもの。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ