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16話

「所要時間は?」

「半日かそこらだな。仮眠でも取っててくれて構わねえ」


 ベルナッドは素っ気なく言いつつも、出来れば寝ていてほしい……と心の中で願う。

 後部座席で腕を組んで、ずっと威圧され続けていたら心臓が潰れてしまいそうだった。


「そう」


 退屈そうだ、とクロガネは瞑目する。

 眠気があるわけではなかったが、合流してからは移動続きになってしまう。

 休息は今の内に取っておいた方がいいだろう。


 厳重に管理されていたはずの密輸ルート。

 その一つが嗅ぎ付けられてしまったのだという。

 密輸中の"ブツ"の回収も重要だが、そもそもどこから情報が漏れてしまったのだろうか。


 ルートが割れたとして、芋蔓いもづる式に引っ張り出されるとしたら現地のカルテルの方が先だろう。

 最終的にガレット・デ・ロワに辿り着くにしても、様々な場所を経由しているため時間がかかるはずだ。


「現地のカルテルは無事なの?」

「今のところは問題ねえってさ。魔法省の監視にビビって大人しくしてるんだろ」


 下手な動きを見せればすぐに捕まってしまう。

 ルートの中でも、今回抑えられてしまったのは相手方に極めて近い場所だ。


「割れちまったのはリュエスって港町の倉庫らしい。表向きは貿易のためって看板を出してたみてえだが、どっから情報が漏れたのやら……」


 ベルナッドは肩を竦める。

 同じ場所で続けていればいずれ見つかってしまうのは仕方がないとして、魔法省の捜査網が優秀ということを考慮しても不可解だ。


「ルートのどこかにスパイが潜んでいるとかは?」

「まさか。大御所の役者だってボスの目は誤魔化せねえよ」


 随分と信頼しているようだ。

 彼がアダムに対して抱いているものは、どうやら恐怖ではなく畏怖だったらしい。


 確かに……と、クロガネも納得していた。

 自分と似たような形で試されたなら、まず"善人を殺す"というところで引っ掛かってしまうだろう。

 アダムはそこで躊躇するような人間を好まないようだった。


「なら、裏切ったとか」

「もしそうだとしても、ウチを裏切るには旨みがねえなぁ」


 ガレット・デ・ロワはかなり広域を牛耳る規模だと、クロガネは裏懺悔からの事前情報で把握していた。

 そこらの裏通りを占拠するような木っ端とは訳が違う。


 現地の取引相手――マッド・カルテルは小規模だ。

 その資金源もガレット・デ・ロワとのやり取りが大部分を占めている状態。

 たとえ戦争を仕掛けても勝てる見込みは皆無と言っていいだろう。


「カルロのやつ、よほど運が悪かったんだろうなぁ」


 ベルナッドは同情するように呟く。

 逃亡も出来ず、検問も越えられずに敵に追い詰められているのはかなり厳しい状況だろう。


 だが、元の世界と異なるのは、魔女という存在によって盤面を大きく変えることが出来る点だろう。


 並みの人間が複数集まったところで止めることの出来ない大駒。

 遭遇してしまえば全ての作戦が無意味となる。

 銃火器がまともに通用するのは愚者級までで、それこそ戦慄級ともなれば手榴弾も素手で握り潰してしまえるほどだ。


 クロガネ自身にとっても、そこらの銃火器はあくびが出てしまうくらいに緊張感の無い代物だ。

 警戒すべきものは対魔武器くらいだ。

 対魔女に特化された銃弾を惜しみ無く投入されたなら、さすがに命の危機を感じるかもしれない。


 魔女を雇うということは、それだけ大金を積む必要が出てきてしまう。

 裏懺悔に仕事を持っていけるような犯罪シンジケートはかなり限られてくるのだろう。


 であれば、それに応えるような働きをしなければ。

 大駒らしく派手に暴れてやろうと、クロガネは殺意を滾らせる。


「ひぃっ……まだ、到着まで結構あるぜ?」


 ベルナッドが肩を震わせてから、地図で現在位置を確認する。

 まだ目的地まで二割ほど進んだ程度だった。

 この調子だと胃に穴が空きそうだ……と、彼は弱気そうに呟いた。

File:港町リュエス


交易の中心となる港町で、日々大量の船が行き来している。

三等市民が積み荷の運搬などで労働力として扱われる数少ない場所でもある。

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