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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
4章 氷翠の召魔律《ゴエティア》
150/314

150話

「悪魔式――四十七」


 白い魔女――氷翠の目が妖しく光る。

 捉えた獲物を逃がさないように、首を絞め壁に押し付けながら。


「ぐぅっ……く、苦し……ッ」


 真兎はジタバタともがき暴れる。

 いかに『身体強化』があるとはいえ、目の前の無法魔女アウトローと比べると数段格が落ちてしまう。


 それでも直接的な打撃は有効なようで、真兎の足が当たる度に氷翠は面倒そうに顔をしかめた。


「抵抗すると苦痛が増すことになる。大人しく死を受け入れて――」


 氷翠の影から悍ましい闇色の魔力が溢れ出る。

 それらは真兎の魔力を欲しているようで、足元から這うように脚へ、さらに胴体へと上がっていく。


「ひっ……これ……やだ、これやだッ!」


 この闇は、魔女の根源たる『魔法』を欲している。

 悪魔式という単語が何を意味するか分からない。

 それでも自分が今から殺されてしまうということだけは理解していた。


「おい、やめろてめぇッ!」


 カルロが駆け寄ろうとするも、追い付いてきた信者たちによって行く手を塞がれてしまう。


 最悪の場合、荷物を捨てて逃げ出せば死ぬことはないと考えていた。

 アダムにど突き回されることを差し引いても、やはり自身の命の方が重要だ。


 彼らの標的は初めから真っ真兎だったらしい。

 初めから想定を違えていたのだ。


「やだぁ……ぐすっ」


 手札は何もない。

 そもそも、彼らに有効な作戦など一つも無い。


 戦闘訓練を施され統率された信者も厄介だったが、それだけならまだ取れる手段はあったはずだ。

 だが、絶対的な強者を前にしては、凡人には抵抗することさえ許されないのだ。


 無法魔女アウトローである真兎でさえ――なおさらカルロにはやれることがない。


「チッ――こうなりゃヤケだ。どうにでもなりやがれッ!」


 なぜだか直感が"全力で徹底抗戦しろ"と声を上げていた。

 荷物を抱えて逃走すべき状況だというのに、普段のように部下を見捨てて逃げることができない。


 ならば、自身に取れる手段はただ一つ。

 雄叫びを上げて突撃するのみ。


「うおおおおおッ!」


 派手に銃声を鳴らしながら駆け出した直後。


「――うるさい」


 声の主は頭上を軽々と飛び越えていき――無数の銃声が響いた。

 武装した信者たちを瞬く間に片付けて、真兎の方に向かって疾走する。


「お前は――ッ!」


 氷翠は即座に真兎を手放して距離を取る。

 クロガネは無理に追撃せず、真兎に駆け寄って保護を優先した。


「あ、ありがとうございます……」


 弱々しい声で真兎が言う。

 随分と弱っているようだったが、命に別状はなさそうだった。

 絡み付いていた"闇色の魔力"も氷翠が離れた時点で消え去っている。


「はぁ……死ぬかと思った。よく場所が分かったな」

「あれだけ叫んでれば誰だって見つけられる」


 意図して声を上げていたわけではないだろう。

 そうでなくともクロガネには『探知』の魔法がある。


 とはいえ、結果的に救援が間に合ったのは彼のおかげだ。

 あれほどヤケになった雄叫びが聞こえてくれば、よほどの窮地だとすぐに察することができる。


「カルロは真兎を見てて」


 まだ敵が潜んでいる可能性は否めない。

 現状では特に反応も引っ掛からないが、『探知』避けの装備でも持っているなら話は別だ。


 クロガネは周囲を警戒しつつ、氷翠と対峙する。


「今度は逃げないの?」

「そうしたいところだけれど――その子の魔法が必要なんだよ」


 ゆらりと闇色の魔力を立ち上らせる。

 以前とは違い、この場を退くつもりは無いようだ。


 氷翠が殺気を露にした途端、息苦しいほどに強力な支配領域が展開される。

 これほどの力を前にして魔法を行使できる魔女はほとんどいないだろう。


「そっちこそ、作戦遂行のために退いてくれない?」


 魔法省の記者会見を襲撃する。

 そのためには、自身の能力を引き上げる必要がある。


「その子は咎人級だけど『身体強化』の魔法を持っている。魔法省を相手にするには――」


 唐突な銃声が言葉を遮る。

 警告するように、弾丸が氷翠の頬を掠めていった。


 二丁拳銃の機式――"エーゲリッヒ・ブライ"を手に、クロガネが殺気立って戦闘態勢に入っていた。


「なら、私から奪ってみればいい――『能力向上』」


 より強力な身体強化の魔法を、見せびらかすように発動させて一気に距離を詰める。


 至近距離からの銃撃。

 その全てを、氷翠は後方に下がりつつ体を揺らして回避する。

 軌道を見切ってから躱しているようだった。


「それも誰かの魔法?」


 逃がすつもりはない。

 これ以上の脅威になる前に、今すぐこの場で仕留めてしまおうと考えていた。

 強力な魔女を殺すことはクロガネにとってもメリットがある。


「黙れッ――」


 氷翠が手を翳すと、無数の氷刃が生み出された。

 その切先は全てクロガネに向けられている。


 襲い来る氷刃の雨を、クロガネは待ち受けるように銃を構え――。


「――『思考加速』」


 視界に映るものがスローモーションになる。

 冷静に観察しながら優先順位を付け、精密な射撃で撃ち落としていく。


 最小限の弾数で道を抉じ開けてクロガネが駆ける。

 掠める程度の傷は気にも留めずに。


 姿勢を低くして特攻するも、撃ち抜いた氷刃の破片が微かに腕の皮膚を裂く――大したことじゃない。


 一見すればクロガネの方が手傷を負っているようにも見えた。

 だが、実際には氷翠を壁際に追い詰めてきている。


 殺すためなら負傷も厭わない。

 そんなクロガネの鬼気迫る攻勢に、精神的な焦りが氷翠の判断力を鈍らせる。


 戦闘経験の差は明確だ。

 彼女は肉を削がれるような"痛み"を知らない。


「そんなに、綺麗な顔に傷が付くのが嫌?」


 さらに距離を詰め――思いきり蹴り付ける。

 氷翠は魔法による補助で見切るも、反撃までする余裕はないようだ。


「ッ――侮るなぁッ!」


 覚悟なら十分にある。

 そう言わんばかりに氷翠は手を翳し、氷剣を生み出して斬りかかる。


 洗練された動きではない。

 クロガネは冷静に対処しようとするが――。


「悪魔式――『複合行使シンセシス』」


 無数の魔法を同時展開させる。

 クロガネを氷刃が取り囲み、足元は凍りついて不安定に。

 そして、発生した冷気が生命力を減衰させる。


「――ッ!」


 氷翠の姿が視界から失われる。

 だが即座に『探知』によって索敵し、氷刃を撃ち落としながらエーゲリッヒ・ブライを突き出して――。

File:複合行使シンセシス


氷翠は他者から奪った魔法を自在に操る。

自身の性質と混ざり合っているためか、魔法全般が冷気を基盤として発動されている。

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