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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
4章 氷翠の召魔律《ゴエティア》

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149話

「クソッ――全員、死ぬ気で走れ!」


 カルロの指示――もとい、悲鳴混じりの絶叫が大通りに響き渡る。

 商業区の大通りだというのに目立つことも厭わずに。


 下っ端を抱えた状態での輸送任務。

 過去の嫌な記憶が甦るようだ……と、想像したことが不味かったのだろうか。


 指示を受けて、彼らも全速力で駆け出していた。

 そんな無法者アウトローたちを軽々と後方から追い抜いて、真兎が先頭に躍り出る。


「カルロさん、絶体絶命じゃないですかこれ!?」


 あわあわと顔を真っ青にしながら真兎が近寄ってきた。

 正直なところ、彼女の言う通りの状況であることは否定できない。


 後方から怪しげな服装の集団が追い掛けてきている。

 最初の奇襲は機転を利かせて躱せたものの、それ以降は逃走劇が続いている。


 敵の数も不明だった。

 立地を利用して上手く撒いたかと思えば、思いもよらない方向から再び現れる。

 まるでこちらの動きが読まれているようだった。


「チッ……あんなカルト集団と今まで関わったことあったか!?」


 心当たりは全くない。

 彼らの不興を買うようなやり取りはなかったはずだ。


 とはいえ、どういった集団か知らないわけではない。

 象徴的な大樹のマークを衣服に縫い付けているため一目瞭然だ。


「今朝のニュースでやってた奴らだ。同時刻に複数箇所でテロをかました、名前はなんだったか……」

「えっと、生命の鳥!」

「あぁ、そんな名前だったような気がする」


 呑気な会話をしていると、後方から無数の銃声が響く。

 威嚇するように撃ち返すが、互いに距離があるため弾は当たらない。


「どうにかして撒くぞ。救援要請も本部に送ったし……まだ終わったわけじゃねえ――っと!?」


 視界の端に影を感じ――即座に銃口を空に向ける。

 確認するよりも早くトリガーを引くと、頭上から呻くような声が聞こえた。


 直後、どさりと道路に男が落ちてきた。

 近くの建物から飛び降りて組み付こうとしていたらしい。


「コイツら、マジでなんでもアリかよ」


 それほどまでに大きな"何か"を背負っているのだろう。

 いくらカルロでも、仕事のために自身の命まで投げ出す覚悟はない。


 幸いにも第六感は正常に働いているらしい。

 追い詰められないギリギリの状態で、どうにか逃げ延びている。


 とはいえ、体力的にも限界は近い。

 下っ端たちは既に息が切れており、カルロ自身もブツを担いでいるため筋肉が悲鳴を上げている。

 この中で唯一、真兎だけは『身体強化』の能力によって余裕があった。


「いっそお前がコレ担ぐか? 俺たちが足止め役をした方が――」


 あれこれ思案しながら駆けていた時、背筋が凍るような"何か"が空間に満ちた。


「――荷物は任せたッ!」


 抱えていたカバンを真兎に投げ渡す。

 即座に臨戦態勢に入るも、同時に部下の一人が悲鳴を上げながら転倒する。


「うわああああッ!」


 平衡感覚を失ったように倒れ込む。

 先ほどまで全力疾走していた両脚が消え去ったかのような浮遊感だった。


 痛みも何も感じない。

 体の芯まで凍てついた空気が侵食し、自身に何が起きたのか状況整理するための思考すら急速に失われていく。

 凍てついた"死"に瞬く間に呑まれていく。


「クソッ――」


 下半身を瞬時に凍らされた結果、慣性に抗えず脚の付け根頭辺りから砕けてしまったのだ。

 あの様子では、助けに向かったところで無意味だろう。


 襲撃者の外見を即座に確認し、本部へメッセージを送信する。

 見捨てられない限りは応援が来るはずだ。


「カルロさんっ!」

「振り返るな! 生き延びられるように……俺の指示をよく聞いとけ!」


 率先して襲撃者たちの相手をしつつ指示を出していく。

 相手が無法魔女アウトローなら、本来はこちらも真兎に戦わせるべきだろう。

 クロガネの紹介とはいえ、彼女を雇うことにしたのはそのためだ。


 魔女と人間では覆しようのない差がある。

 どう足掻いたところで、あの白い魔女を相手に時間稼ぎすることさえかなわない。


 だが、カルロは見てしまった。

 ヴィタ・プロージットの頭目――ゲーアノートは、人間でありながら驚異的な戦闘能力を持っていた。

 彼自身の力量を抜きにしても、捩じ切れるほど頭をフル回転させれば何かができるはずだ。


「クソッ、俺に……俺なんかに何ができるって言うんだッ!?」


 半ば自棄になりながらも思考を続ける。

 こういった窮地にこそ、彼の生存本能が最大限に発揮されるのだ。


「逃がすつもりはないよ――」


 凄まじい速度で迫って来たのは、先ほど部下の一人を殺した白い魔女。

 距離はあるが、第六感が激しく警笛を鳴らしている。


「カルロさんっ!」

「見てろ、やってやるッ――」


 冴え渡る思考が視界を鮮明にしていく。


 チラリと後方を一瞥する。

 手を翳して魔法を行使しようとする白い魔女の姿が見える。

 まだ即座に撃つ気配はない。


 相手の無法魔女アウトローも身体能力は平均より高いものの、迎撃を受けながらではすぐに距離を詰めることも難しいらしい。

 少しでも余裕がある内に状況を変えるべきだろう。


「全員散開しろッ――」


 狙いを一点に定めさせないように、被害を最小限に抑えられるように。

 下っ端たちは迎撃の手を止めて左右の路地に逃げ込んでいく。

 運良く逃げ延びられたならば、彼らが本部との連絡役を担ってくれることだろう。


 カルロは預かっている荷物――それを抱えて走る真兎に追随する。


「いいか、合図をよく聞けッ。カウントがゼロになったら全力で横に飛ぶんだ」

「は、はいっ!」


 真兎もかなり息が切れてきている。

 やはり経験不足が足を引っ張ってしまっている……が、それでも十分すぎるほど働いていると考え直す。


 ここまでの間に襲撃者の大半は真兎が押し返してきていた。

 いくら『身体強化』を持つ魔女とはいえ、無尽蔵にスタミナがあるわけではない。


「あぁ、こういうのは観察が大事なんだ。よーく見るんだ俺。やればできる。いいな?」


 自己暗示をかけるようにブツブツと呟く。

 極限状態の中で、最大限に意識を集中させていく。


 どうやら、左右に逃げた下っ端たちには欠片も興味がないらしい。

 襲撃者は全員がこちらを追い掛けてきている。


 カルロは嘆息しつつ、真兎に見えるように指を三本立てる。


「いくぞ……さん、に――今すぐ飛べぇええええッ!」

「そんな!?」


 事前の指示を吹っ飛ばすように全力で叫び、二人は左右に倒れ込むように飛ぶ。

 その直後、おぞましい悪寒が背筋を走った。


 カルロは酒屋のスタンド看板に衝突して転がり、呻きつつなんとか立ち上がる。

 

「クソッ、痛ってぇ……ッ!?」


 まだ距離はあったはずだ。

 だというのに、まるで『空間転移』でもしてきたかのように白い魔女が目の前にいて――。


「ぐぅ……っ」


 真兎の首を絞めるように、掴みながら壁に押し当てていた。

File:咎人級『真兎』-page2


ガレット・デ・ロワ専属の用心棒。

クロガネの紹介で組織を訪ね、向上心の高さをアダムに評価され迎え入れられた。

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