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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
4章 氷翠の召魔律《ゴエティア》
148/312

148話

 エスレペス北工業地域と各地を繋ぐ主な移動手段は電車だ。

 C-3区画中央部に駅があり、改札を出てから各区画に向かうことができる。


 エーテル値上昇の都合でC-4及びC-5区画までの道は警告表示がされている。

 そんな場所に進みたがるのは、仕事があると騙されてきた三等市民くらいだろう。


 汚れきった空気を吸いながら働き。

 抵抗するわけでもなく。

 朽ちていく自身の命に目を背けながら、時間が無為に過ぎていることだけを肌に感じて。


 ただ、脱出する意思を失っているだけ。

 一度でも希望を失ってしまうと、そんな状況でさえ受け入れてしまうのだろうか。


 何度目かになる電車の音に嘆息しつつ、クロガネは時計を確認する。

 時刻は午前六時ちょうど。


「よーっす!」


 朝早いというのに元気な声が聞こえてきた。

 駅裏の路地に、二本指をピシッと振りながら裏懺悔がやってきた。


「直接会いたいだなんて、いつにもなく情熱的だよね~」


 にへらと笑いながら言うが、当然反応は返ってこない。

 状況を理解しているため、裏懺悔もそれ以上ふざけたりはしなかった。


「午後一時からヘクセラ長官が会見するらしいねー。そこで決着を付けたい感じなのかな?」


 同意するようにクロガネも頷く。

 反体制を掲げている黎明の杜にとって最大級の好機と言えるだろう。


「戦力に自信があるなら動く……はず」


 必ずとまでは断言しきれない。

 保有戦力を見ると一組織としては余るほどだが、相手は公安組織だ。


 テロ行為を誘い込むように、あからさまな罠を張っている。

 執行官クラスが何人も配備されることは容易に予想でき、さらに言えばTWLMツウェルムのような兵器の実戦導入も考えられる。

 

「うーん、報告は全部目を通してあるけど……今の状態だと、魔法省相手に戦えるようには見えないんだよね~」


 誰よりも多くを知る裏懺悔だからこそ、黎明の杜に勝機は無いと見ていた。


 双方に何かしらの切り札がある。

 全てを明るみにしたわけではないが、魔法省を上回ることはよほど困難だと見ているらしい。


「内通者がいるとかは?」

「それこそ不可能だよー。魔法省の人員管理は、ほんとプライバシーも何もないからね~」


 自由に伸び伸びと生活できる者なんて一人もいない。

 そう言って、裏懺悔は肩を竦めた。


「で、クロガネはどうするのさ~?」


 口調こそ普段と変わらない。

 だが、その質問内容は最も重要なことだ。


 何をするにも好機だ。

 黎明の杜を潰すにしても、魔法省に打撃を与えるにしても。

 第三者という立場で陰から漁夫の利を狙える。


「裏懺悔ちゃんとしては、もう一歩踏み込んだ情報を持ってきてくれると助かるんだけど~……」


 でも、と裏懺悔は続ける。


「魔法省もすっごく本気みたいだし、今回は静観するのもありかも?」


 意外だ……と、クロガネは裏懺悔を見つめる。

 彼女にしては珍しく消極的な提案だった。


 どれほどの危険を孕んでいるのだろうか。

 ヘクセラ長官の警護役として、会見の場にユーガスマが現れる可能性は高い。

 黎明の杜が忍び込んだ後に退路を封鎖して、そこから一人ずつ順番に制圧していくことも可能だろう。


 そんな中に紛れ込んで、狩りの巻き添えを喰らうことは避けたい。

 裏懺悔の言う通りに静観するという選択肢を取るのが賢明だ。


 そもそもの前提として――。


「私は――」


 言葉を遮るように、電子的なメロディーがピコピコと鳴り響く。

 どうやら裏懺悔の方に着信が来たらしい。


 音楽に合わせて上機嫌で体を揺らしている。

 じっと睨むように見つめると、裏懺悔はようやく通信端末を取り出し――応答する。


「よーっす、裏懺悔ちゃんだぞ~」

『おぉ、急に連絡しちまって悪いな』


 相手はどうやらアダムのようだった。

 二人は仕事外でも友人として交流があるらしいが、今回はそういう内容ではないらしい。


『大至急で頼みたいことがある。エスレペス西部の商業区で、カルロのバカが無法魔女アウトローの襲撃を受けちまってな』

「相手の所属は?」

『不明だ。やたらと白い髪が特徴だってほざいてやがる――』


 それを聞いて、真っ先に氷翠の顔を思い浮かべた。

 救援にはそう時間もかからないが、カルロが狙われる意味が分からない。


 何故だか嫌な予感がして、クロガネは通信機を奪い取る。


「アダム、他に同行者はいるの?」

『おぉ、禍つ黒鉄じゃねえか。アイツには下っ端四人と――ちょうど、お前さんに紹介してもらった真兎を付けてある』


 予想が的中してしまった。

 どうやら氷翠は、真兎の持つ『身体強化』に目を付けたらしい。


 咎人級の真兎なら、成人男性より身体能力が少し優れている程度だ。

 あまり大袈裟な能力ではないだろう。


 だが、氷翠の魔力量で扱えるようになるなら話は別だ。

 戦慄級相応の魔法として化けた時、いったいどれほどの力を発揮するのだろうか。


 カルロには個人的にタバコの仕入れ役を任せている。

 真兎にも、わざわざ手を掛けて助けたという過去がある。


 そんな二人を殺されるかもしれない。

 そして、氷翠が明確な脅威になるかもしれない。


 銃を向ける理由としては十分すぎる。


「――大至急で向かう。座標を送って」


 裏懺悔に通信端末を押し付けて駆け出す。


 C-3区画の駅からエスレペス西部の商業区まで時間は対してかからない。

 幸いにも、届いた座標はそう離れていない場所のものだった。

File:C-3区画


エスレペス北工業地域はエーテル値の都合で交通手段は限られてしまう。

だが唯一、この区画には外部と繋がる駅がある。

電車は主にエスレペス西部商業区、ゾーリア商業区を通過し、フィルツェ商業区で終点となる。

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