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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
4章 氷翠の召魔律《ゴエティア》
138/325

138話

「なんというか、脅し方が手慣れてるわね」


 捜査官がいなくなったのを確認してから色差魔が合流する。

 こうして力任せに退かせるのは、強大な能力を持つ魔女の特権だ。


 慌ただしく撤退したため、その場には様々な器機が残されていた。


「……これは」


 その中から、クロガネは興味を引かれたものを手に取る。

 ハンディスキャナー型のPCMAピーシーエムエー――各捜査官に配備されている災害等級判定機だ。


 利便性に優れているかといえばそうでもない。

 魔女や魔物相手に向けるなら、初めから武器を手に取った方が安全だろう。


 それを用いるとすれば、魔女名簿で管理されていない無法魔女アウトローの捜索だ。

 人混みに紛れて気配を殺しても、PCMAピーシーエムエーを向けられれば一発でバレてしまう。


 これによって魔法省の取り締まりが成り立っている。

 捜査官の数を考えれば、戦闘能力に特化していない魔女は従わざるを得ないだろう。


 魔女同士でさえ魔力を感じ取ることはできない。

 可視化されるほどの魔力を持つ者といえば、それこそ戦慄級のみに限られてしまう。


 だが、関連した能力――『魔力感知』や『魔力操作』等を持つ魔女であれば可能だ。

 クロガネ自身も『探知』を応用する形で大雑把な保有魔力量を調べている。

 だが、この装置ほど正確に数値化することは難しい。


「……『解析』」


 PCMAの仕組みに興味を抱いて、魔法を行使する。

 もし魔法で再現できるなら便利だ……と、軽い気持ちでの行動だったが――。


「……ッ」


 構造自体は単純なものだ。

 エクリプ・シスを用いた動力源と、複雑な回路によって機能が成り立っている。

 対象に向けて命じるだけで数値化されるようだった。


 問題は、その数値化するシステムが内部に見当たらないことにあった。

 どこまでも遠くへ、導線を辿るように『解析』が突き進んでいき――。


《不正アクセスを検知――code:00089E。遮断します》


 無機質な声がPCMAから聞こえ――唐突に『解析』がシャットアウトされてしまう。

 興味本位で踏み込むには危険すぎる情報だったらしい。

 何か"大きな魔力"によって強引に魔法を解除され、反動リバウンドが激しい頭痛を引き起こす。


 クロガネはPCMAを投げ捨てて舌打つ。


「だ、大丈夫?」

「問題ない」


 末端に至るまで張り巡らされた大規模な管理システム。

 クロガネの魔法を退けられるだけの反魔力。

 それが可能なものなど一つしか思い浮かばない。


――ラプラスシステム。


 各捜査官の装備にまで繋がっているとまでは考えていなかった。

 もし想像通りの内容であるなら、セフィールが話していた"完全管理社会"の到来も現実味を帯びてきてしまう。


 どれほどの並列処理を可能としているのか。

 名前以外の全てが謎に包まれている。

 統一政府カリギュラに近しい者なら何かしら情報を握っているのだろうか。


 クロガネは嘆息しつつ、本来の目的を忘れてはならない……と、殺害現場の目の前に移動する。


 戦闘の痕跡は一方的なものだった。

 被害者が『魔力操作』系統で戦闘向きではなかったため仕方がないだろう。

 氷翠に目を付けられた時点で死は避けられないはずだ。


 それ以上に目を引かれたのは、カラースプレーで殴り書きされたメッセージだった。


――"what's your meaning?"


 この現場を目撃した者へ、強く訴えかけるように。

 乱雑なようで確かな意思が込められている。


 魔法省に喧嘩を売るような真似をしたのだ。

 何らかの目的を持った思想犯であっても不自然ではない。

 少なくとも、快楽殺人に興じるような無法者よりはマシだろう。


「存在意義……」


 魔法省の登録魔女が殺された光景。

 そこにメッセージが加わると、目撃者にどのような揺さぶりを与えられるのだろうか。


 厳格に管理された社会への不満か。

 三等市民という身分では覆しようのない格差への嘆きか。

 心の内に黒いものを溜め込んだ者にほど、氷翠の言葉はよく響くのかもしれない。


 そこで、ふと壊廻のことを思い出して納得する。

 二人の間に感じた歪さは、純粋な愛ではなく彼女の捧げる熱狂によるものだったのだろう……と。


 そのカリスマ性で人を集めているとすれば、時間が経過するほどに危険度が高まっていく。

 そして、事件が増えるほど氷翠は能力を得ていく。


 その根源となる能力を解き明かす鍵が、この現場に残されているはずだ。

 だが――。


「……どうして」


 一通りの調査を終え、クロガネは呟く。

 血痕などは物々しく残されているが、この場では『解析』を行使しても氷翠が使ったらしい魔法の残滓は確認できなかった。


 死体があったであろう場所には違和感がある。

 魔法ではない"何か"――それに近しい類いのはずだが、得体の知れない不気味さを抱く。


 考えずとも、殺した相手の能力そのものを奪う時点でおかしな話だ。

 クロガネも似たような能力ではあるものの、得られるのは対象の魔力のみ。

 それも一部に限られてしまう。


 魔法とは、各々が保有する固有の能力だ。

 色差魔が"五感を狂わせる"魔法を持っているように、その力は千差万別。


 どれだけ強大な力を持っていようと、他人の魔法を見様見真似で再現することは不可能だ。

 少なくとも、魔女という括りの中では。


「……」


 クロガネはリストを取り出して思案する。

 危険を承知の上で、次の目的地を決めなければならない。


「ねえ、次はどこに行くの?」

「一番新しい事件現場……"徒花"が殺された場所に向かう」


 事実であれば、魔法省の警備が最も厳重になっているはずだ。

 魔女名簿の中で数少ない戦慄級――特務部の捜査官を率いる執行官でもある彼女が殺されたとなれば、魔法省の威信に関わる事態になる。


「それさ……かなり危ないんじゃない?」

「問題ない」


 以前より魔力も戦闘技術も向上している。

 よほど質と量を揃えない限り、今のクロガネを殺すことは困難だ。


 慢心するつもりはないが、慎重に動きすぎて機を逃すことも避けたい。

 痕跡が失われる前に調べるべきだろう。


 あまり悠長に構えていられない。

 確証はなかったが、焦燥に駆られてしまうような"何か"がこの事件に絡んでいるような気がしてならなかった。

File:PCMA-page2


『processing capability of magical power analyzer』通称PCMAピーシーエムエー

AIの分析によって魔女・魔物の脅威度を測定する機械。

PCM値によって災害等級を割り当てられる。基本的には魔女疑惑のかかっている人物に対して用いられるか、潜在的に魔女になり得る人物の捜索に用いられる。

捜査官・執行官ともに標準装備。

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