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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
3章

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130/331

130話

「キミはラプラスシステムがどういうものだと認識してるのかな?」

統一政府カリギュラの軸を担う管理システムだ。魔法省やCEMケムのデータベースもそこに繋がっている」


 世界の根幹となる機能。

 あらゆる物事はラプラスシステムを介して処理されている。


「あのシステム自体、CEMケムの関係者でも名前を知らない者が大半だ。私も機密情報にアクセスするまでは疑問すら抱かなかった」


 内情を知る者だからこそ、余計に秘匿することの不自然さを意識してしまう。

 ただの管理システムであれば名を伏せる必要さえないだろう。


「何かを裏で企んでいる者がいる。ラプラスシステムはそのための道具に過ぎない……そう考えている」


 統一政府カリギュラ全体の話なのか、或いは所属する内の何者なのか。

 そもそも所属している人数さえ公表されていない。


「それで、サーバーの場所は?」

「……分からない。そこまでの権限は得られなかった」


 セフィールは首を振る。

 彼女が知る情報も範囲が限られているらしい。


「私はCEMケム研究開発所ゲハルト支部、煌生物学研究顧問アモジ・ベクレルの権限を利用した。最近ニュースにもなっただろう?」


 一等市民が滞在中の施設に無法魔女アウトローが襲撃。

 多くの研究者が命を落とし、後にアモジも別の場所でエーテル公害に巻き込まれて死亡したとされている。


 それが表向きの情報だ。

 裏で行われていた非人道的な研究については、どの報道機関も触れていない。


「あの男のIDカードと指紋、網膜情報……他にも研究資料まで全て回収させてもらった」

「なんでそれを?」

「彼の研究に興味があったんだ。人格こそ酷く拗らせているが、あの頭脳には価値がある」


 そのお陰で研究資金には困らなかったが……と、セフィールは白状する。

 施設に残されていた煌性発魔剤の残りを解析して量産化した品こそが、彼女が世に広めたマギ・ブースターだった。


「そのせいで、不要にやぶ蛇をつっついてしまったんだけどな」


 彼女が追われる原因となったのは、許可を得ず機密情報を閲覧してしまったことだ。

 正式な手順を踏んでアクセス権限を得られたならこうはならなかっただろう。


 好奇心と統一政府カリギュラへの僅かな違和感が、触れてはならない情報を見つけ出してしまった。


「それで、キミは何に怯えているのかな?」

「自由が失われることだ。社会生活だけでなく、個々の思想、言論まで全てが管理されかねない」


 セフィールが肩を震わせる。

 微かな怒りと、それを押し潰すような大きな絶望に囚われている。


「魔法省は、犯罪抑止を目的に掲げるには強大すぎると思わないか? エーテル公害や無法魔女アウトロー、シンジケートによる組織犯罪。それらの対策をするにしても、魔法工学の研究に資金を注ぎすぎている」


 研究者からすれば、潤沢な資金を得られる環境は理想的だ。

 誰もが疑問を抱かずに技術向上を目指し、実際に社会生活に様々な貢献を果たしてきた。


 だが、CEMケムに所属する研究者だからこそ気付くことができない。

 統一政府カリギュラが欲している力は常軌を逸していると。

 機密情報にさえ触れなければ、セフィール自身も以前と変わらず研究者として働いていたことだろう。


「魔法工学の発展によって、社会そのものを作り替えるような技術さえ可能となってしまうんだ」


 それこそが彼女の恐れている事態。

 ゲーアノートが戦力を必要としている理由。

 変革が起きた後に、どれだけの人間が自由を奪われてしまうのだろうか。


「ネットワークに接続された端末。通信端末やPCだけじゃない。交通制御や防犯カメラもそうだ。あらゆる物の制御を一点に集め、ラプラスシステムをベースとした完全管理社会を構築する……既に、その準備が整っているらしい」

「……それは本当に可能なの?」


 クロガネが問う。

 彼女の話が事実であれば、ラプラスシステムがあらゆる処理を引き受ける形となる。


 一つのシステムのみで社会全てを管理する。

 その処理負荷は想像するに難くない。


 セフィールが思い出したように、慌てた様子で一歩前に踏み出す。


「不可能じゃない。そもそもラプラスシステムは――」


 言葉を遮るように、激しい音と共に視界が激しく明滅する。

 セフィールの右半身が消失し、地面には溶けるように穴が開いていた。


「ま、魔女……の……ッ」


 その場に崩れ落ちる。

 右肩から胴体にかけて消し飛び、誰が見ても助からないと分かる。


 クロガネでさえ認識不可能なほどの速度で空から"何か"が降ってきた。

 最初は雷かと思ったが、空は清々しいほどに晴れ渡っている。


 念のため『探知』の範囲を広げ――再び"何か"が降ってくることに気付く。

 狙いはブレることなく、瀕死のセフィールを今度こそ跡形もなく消し飛ばした。


「――二度も撃つことになるなんて、まだ精密さに欠けるかな」


 コンテナの上に魔女が佇んでいた。

 見覚えのある仮面を付け、こちらを見下ろしていた。


 クロガネは即座に銃を構えて睨み付ける。


「アグニ……ッ」

「やあ、ごきげんよう。ボクのことを覚えてくれているなんて嬉しいよ」


 手をひらひらと振って応える。

 最初に引き受けた仕事で遭遇して以来だった。


「それに裏懺悔まで……もしかして、そこの彼女に?」

「悪いけど、キミと馴れ合うつもりはないよ」


 クロガネを庇うように立つ。

 仮面の魔女――アグニ・グラはこの場にいる皆の敵だ。

File:セフィール・ホロトニス


CEMケム所属の研究者で主に魔法薬学を研究する煌学士。

マギブースターはアモジの研究施設から回収した煌性発魔剤に彼女の知識を組み込んだ改良品。

機密情報に不正アクセスしたことで統一政府カリギュラから追われることになり、身を守るために裏社会での地位確立を目指していた。

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