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123話

「チッ――」


 即座に魔力を集束させ――支配領域内に『破壊』の波を生み出す。

 落下してきたコンテナがひしゃげ、クロガネを避けるように落下する。


「……くそったれが」


 ゲーアノートが舌打ちつつ腕を擦る。

 破れたコートの隙間から、金属製の義手が露になっていた。


 崩落を掻い潜ったわけではない。

 義手を叩き付けるようにコンテナを弾いて生き延びただけだ。


 よほど頑丈に改造されているのだろう。

 並みの人間であれば成す術なく押し潰されていたはずだ。

 服こそ酷く損傷しているものの、彼自身に目立った外傷はない。


 状況を把握するのが最優先だと考え、即座に『探知』を発動する。

 幸いにもガレット・デ・ロワ側に被害は無いようだったが、何やら様子がおかしい。


「クソ、座礁でもしたのか?」

「違うみたい」


 何か"得体の知れない気配"が船倉内に蠢いている。

 ちょうどガレット・デ・ロワの目の前――オーレアム・トリアが陣取っていた場所だ。


 そこに凶悪なエーテルの気配があった。

 人間でも魔女でもない、気味が悪い何かがいる。


 放置しているとアダムたちが危ない。

 だが、ゲーアノートを振り切ることも難しいだろう。

 手早く処理するには厳しい相手だ。


 船体の損傷を省みずに仕掛けるべきか――と、考えていた時。


 銃声が一つ。

 甲高い悲鳴のような風切り音と共に、弾丸が突き抜けていく。

 対魔弾による銃撃のようだった。


 それに対する反応は――再び船体を大きく揺るがす轟音。

 今度こそ、その正体が視界に映った。


「"アレ"もそっちのペットか何か?」

「違う。俺たちを巻き込むような作戦なんざ聞いてねえ」


 船体を揺るがすほどの巨体をうねらせ、船倉内に触手が蠢く。

 これまで『探知』に反応がなかったというのに、急に化け物が現れたのだ。


「……船底に穴をブチ開けやがったか」


 海水がどこからか侵入してきていた。

 勢いこそ緩やかだが、このまま化け物が暴れ続けるとすぐに沈没してしまう。


 そこに、ハーシュが駆けてきた。


「マズロのヤツが急に化け物になった。助力を頼めるか?」

「分かった」


 頷くと、ゲーアノートに視線を向ける。

 彼が阻むのであれば話は別だ。


「チッ……こんなボロい棺桶は御免だ」


 苛立ちを露にするも、ここで殺し合いを続けるほど愚かではない。

 戦いに水を差されて不愉快なようだった。


 いずれにせよ、彼に報酬を払うはずだった依頼者は死んだも同然の状態だ。

 船が沈む前に処理しなければ自身の命が危険に晒される。


「部下と連絡を取らせてもらう」

「構わない」


 ゲーアノートをその場に残し、クロガネはハーシュと共に移動する。

 その先では、ガレット・デ・ロワの総力が奮戦していた。


「こいつが……」


 マズロの背中から無数の触手が突き破って出ていた。

 彼自身に意識は無いようで、時折呻くような声が漏れるのも触手に体を圧されてのことだろう。

 既に絶命している可能性が高い。


「おぉ、来たか! こっちも丁度盛り上がってきたところだ」


 アダムが銃を構え――甲高い悲鳴のような風切り音が響いた。


 莫大なエーテルの気配が突き抜けていく。

 弾頭こそ小さいが、その威力はミサイルを優に上回る。


――特級-9mm対魔弾『死渦しか


 一発で豪邸が建つという対魔弾。

 その試し撃ちとして十分な獲物と判断したのだろう。


 弾丸がマズロの胸部を穿ち――血肉が大きく弾け飛ぶ。

 その威力はクロガネも目を見開くほど。


 特級の対魔武器は戦慄級にも通じる。

 使い手がアダムのように優れた者であれば、それこそ命が脅かされるような代物だ。

 現状、量産する技術が無いことだけが唯一の救いだろう。


 だが――。


「甲板に出た方がいい」


 マズロを『解析』したことで、その異常さに気付く。

 損傷した胸部にエーテルが集中して流れ、既に傷口を塞ぎ始めていた。


「急いでッ」


 襲い来る触手に銃弾を浴びせるも、表面に僅かな衝撃を与えるだけ。

 アダムが特級対魔弾を使ったのも頷ける頑丈さだ。


 船倉内で戦うには厳しい相手だ。

 アダムを最優先で避難させ、その後に船ごと処理してしまうのが手っ取り早い。


 オーレアム・トリアの構成員たちはパニックに陥っていた。

 彼らも事前に知らされていたわけではない。

 まさか魔物に変化してしまうなど、マズロ自身も知らなかったはずだ。


――セフィール・ホロトニスが何かを仕込んだ。


 一介のシンジケートにそこまでの技術があるとは思えない。

 何かしら名目を付けて、マズロの体内に"魔物化装置"を埋め込んだのだろう。


 彼女からすれば、これは面倒な関係を全て処理できる最適解だ。

 窮地に陥った際にボタン一つで解決してしまう。

 こうしてガレット・デ・ロワとオーレアム・トリアの両方を始末すれば、彼女を追う者はCEMケムだけになる。


 マズロ本体からは高品質な煌性発魔剤の反応があった。

 人間にとってそれは強力な毒ではあるものの、魔物化するようなものでもない。


 体内に起爆剤となる何かを仕込んでいたのだろう。

 人為的に魔物化を起こす――そんな禁忌に辿り着いたというのだろうか。

File:マズロ・コンラッツェ-page2


元は魔法省の公務員だが、ある時に起きた汚職事件の濡れ衣によって追放されてしまう。

当時の知識と経験を活かして作り上げたのがオーレアム・トリアだった。

金と悪事に強い執着がある。

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