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109話

黒鬼こくきたち、行きなさいッ」


 凛とした声が響く。


 ハスカの指示に従い、二体の鬼が同時に襲い来る。

 即座に銃を構えて撃つが――。


「チッ――」


 硬質な表皮に阻まれて弾が弾かれてしまう。

 やはり、魔物相手に通常の武器は通用しないらしい。


 ハンドガンを捨て、両手にマシンガンを呼び出す。

 装填されているのは中級の対魔弾――狙いを定めて惜しみ無く弾丸をばら蒔く。


 多少の効果はあるようだが、二体の鬼を足止めするには至らない。


「固すぎッ――」


 既に間合いは詰められて、鬼たちが拳を振り下ろそうと上段に構えている。

 ハスカと比べると俊敏さは劣るものの、繰り出される一撃の重さはそれ以上だろう。


 左右から逃げ場を塞ぐように襲い掛かり――二体同時に勢い良く吹っ飛ばされた。


「なっ――」


 ハスカは驚愕して声を漏らす。

 見上げるほどの体躯を誇る"黒鬼"が力負けしたのだ。


 クロガネはマシンガンを放り捨てて駆け出す。

 立ち上がった黒鬼たちが行く手を阻むように飛び掛かるも、片方を蹴り飛ばし、もう片方の胸部に懐から取り出したナイフを突き立てる。


 頑強な表皮に阻まれて浅いが――。


「――はッ!」


 刺さったナイフを蹴り付けて深々と突き刺す。

 人間であれば致命傷だが、魔物相手では不十分かもしれない。

 ショットガンを『倉庫』から呼び出すと、倒れ込んだところに銃を向けて弾を叩き込む。


 邪魔な鬼を一体潰した。

 と、一息吐く暇もなくハスカが襲い掛かる。


 だが、既に一通りの戦いは楽しませてもらった。

 クロガネは『能力向上』と『思考加速』を最大限まで引き上げる。


「ッ――」


 膨れ上がる魔力。

 そして殺気。


 クロガネの放つ気配が一変する。

 これまでのやり取りとは明らかに気配が違い、ハスカは思わず足を止めてしまう。


 即座に黒鬼を傍らに呼び戻して、自身を守らせるよう盾にする。

 それでもなお、目の前の魔女には不足しているのでは……と、不安になってしまうほどの威圧感を感じていた。


 もう飽きてきた頃だ。

 終わりにしてしまっていい。

 そんな冷徹な目をして、クロガネはその手にエーゲリッヒ・ブライを呼び出した。


 その銃を見て、ハスカは完全に動きを止めた。


「来ないの?」

「……降伏が許されるのであれば」


 殺人狂らしい気配を掻き消してハスカは両手を挙げる。

 ここから先の段階に、自身の力量ではついていけるとは思えなかったらしい。


 殺し合いは好きだが一方的な蹂躙は望んでいない。

 強烈な殺気を前にして、魔女としての格の違いを感じ取ったようだった。


 クロガネは嘆息して召喚を解除する。

 通常の銃火器でも魔女や魔物相手に通用することが確認できた。

 それ以上の収穫は端から期待していない。


「銃を呼び出す魔女……そしてこの強さ。お客人、あなたは戦慄級の」


 裏社会で『禍つ黒鉄』を形容する言葉だ。

 虚空から銃を呼び出して戦う姿から、そのように注意喚起されているらしい。


「……無尽蔵の武器庫ですか?」

「さあね」


 答える義理は無い。

 クロガネは殺気をそのままに黒鬼に視線を向ける。


 手駒を生み出す魔法――それこそがハスカの能力なのだろう。

 身体能力の高さや魔力を用いた闘法は努力によって身に付けたもので、その『鬼巫女』という名の通りの性質を持っているらしい。


 個体で見れば屍姫のアンデッドより質の良い手駒だ。

 戦闘は単調ながら、鋭敏な反応速度と頑強な肉体は脅威足り得る。


 何より、その動きには"主を守る"という事項が最上位に置かれていることが窺えた。


 止めを刺したもう片方に視線を向けると、その場から跡形もなく消え去っていた。

 その様子に気付いたのか、ハスカは首を振る。


「すぐ甦りますので」

「そう」


 だからこそ、黒鬼たちの損傷を気にせずに特攻させられたのだろう。

 数こそ二体と少ないが、これほどの力を持つ魔物を使役できるのは大きな強みだろう。


「それでは、ご用件を伺いましょう」


 ハスカは満足げに微笑む。

 殺気を交えた手合わせによって友好的になったようだが――。


「その前に」

「ひゃっ――」


 ハスカの腰に手を回して抱き寄せる。

 戦闘後の火照った体が温かく、その熱をさらに感じられるように抱え込むようにして捕まえる。


 巫女装束の手触りが心地いい。

 質の良い召し物を着ているようだ。


 強引に抱き締めたまま、腰や背中を撫でるようにして反応を楽しむ。


「あ、あのっ……お客じっ……んっ」


 声を押し殺すようにしつつ、ハスカが弱々しく押し返そうとする。

 だが、彼女の力では『能力向上』を発動しているクロガネに敵うはずもない。


 間近で顔を覗き込むと、潤んだ瞳が羞恥に揺れている。

 先ほどまでの威勢は消え去って、顔を赤らめる姿は清廉な乙女そのものだった。


 顔を背けようとするハスカに、


「抵抗しないで」


 と、顎に手を添えてこちらに向かせる。

 まだ残存魔力も多いようで、顔色には余裕がある。


 降伏したのであれば、憂いなく見逃せるように魔力を奪うべきだ。

 と、理由を付けて。


「こんな辱しめは――んぅっ」


 全てを奪い尽くすように、強引に唇を重ねる。

 舌をねじ込むと、ハスカは目を瞑って行為を受け入れる。


「んっ……はぁっ……」


 息苦しそうにしつつクロガネの背に手を回す。

 魔力を奪われて体が脱力していくが、舌使いは積極的になっていく。


「ぷはっ……」


 もう十分な魔力を奪った……と、唇を離す。

 だが、ハスカは火照った体を疼かせながら再び顔を寄せてきた。


「お客人、私……」


 スイッチが入ったのか、熱っぽい吐息で縋り付いてきた。

 先ほどまでの羞恥が消え去ってしまうほど夢中になっているらしい。


 クロガネは求められるままに、再び唇を重ね――。


「あっ……」


 魔力が枯渇してしまったのか、ハスカは腕に抱かれたまま気を失ってしまった。

File:ハスカ-page2


十四歳の時に目覚めた後天的な魔女。等級は大罪級。

マギ=トランス忘失による混濁の中、偶然行き着いた場所がこのゾーリア商業区だった。


巫女装束の清楚な少女が踏み入れるには治安の悪い街。

だが、混濁から回復するまで、夢遊病のようにふらふらと足取りの覚束ない彼女を常に二体の鬼が守っていたという。

その姿から『鬼巫女』と呼ばれるようになった。

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