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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
3章

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107/331

107話

――ゾーリア商業区東部、ルード街。


 治安の極めて悪い商業区内で、どのように歩けばいいのだろうか。

 マクガレーノの言葉を思い出しながら、クロガネは目的地へと進んでいく。


 行き交う人々の大半はチンピラやゴロツキの類いだったが、たまに本職らしき風格の者も見かけた。


「……あぁ、そういうこと」


 そういった者は決まって殺気を放ちながら歩いている。

 己の存在を見せつけるように闊歩して、小物たちを散らしながら街を征く。


 要は無法者アウトローとして格の違いを見せ付けているのだ。

 威張るように声を上げながら歩くだけの者たちは、本物を前にすると途端に萎縮して道を開ける。


 であれば、この混雑極まった商業区を歩くのも苦にならない。


「……っ」


 誰かが息を呑む。

 そして、悲鳴混じりに「ひぃっ……」と声を漏らす。

 雑踏のざわつきが伝播していき、その強烈な殺気の持ち主を慌てて探し始める。


 その中で一人、クロガネだけが堂々と足を進めていく。

 ゾーリア商業区にはたかが"少女"だと侮るような素人はいない。


「どこの無法魔女アウトローだ……?」

「ハスカでもない……新顔にしては、慣れてるツラしてやがる」


 ざわつきに軽く耳を傾けつつ、クロガネは通信端末を取り出す。

 後の事を考えて事前に確認を取るべきだろう。


『おぉ、禍つ黒鉄。どうした?』


 応答したのは、やけに上機嫌そうなアダムだった。


「"そっち"は順調?」

『そりゃもう完璧だ。お前さんもきっと楽しめるだろうよ』


 自分をエサに内通者を炙り出すというのに、その話しぶりは遠足前日の子どものように明るい。


『用件はそれだけじゃねえんだろ? 言ってみろ』

「いい"手土産"が手に入りそうなんだけど。名前、借りていい?」


 その質問は説明を大きく省いたものだったが、アダムは即座に意図を汲み取る。


『おぉ、名前なんざ好きなだけ使ってくれ。何なら肩に刺青でも掘っちまえ』

「カルロに薦めておくよ」


 通信を切ると、クロガネは嘆息する。

 頭の切れすぎる相手と付き合うのは、利益も大きいが相応の疲労も感じてしまう。


 幸い、アダムから見てクロガネは合格点を大きく上回っているようだ。

 早々に見限られるようなことはない。


「……さて、と」


 治安の悪いゾーリア商業区の中でも、一際荒れた地域――アラバ・カルテルの牛耳るルード街にいる。

 そんな場所で殺気を隠しもせずに歩いていれば、相手も無視することはできない。


「おい、そこのお前。ちょっとツラ貸せや」


 黒服を着た男たちが行く手を阻む。

 その手には大口径の銃――『解析』すると、中に中級の対魔弾が込められていた。


 街を行き交う小物と比べれば随分とマシな佇まいをしている。

 こちらの一挙一動に警戒をしており、やたらと場馴れしているように見えた。


「断ったら?」

「薬漬けにして風俗店に売り飛ばす」


 かなり強気な振る舞いだ。

 こちらが魔女と分かった上で脅しをかけてきている。


 そのまま大人しく連行されても目的地に辿り着けるだろうが、それでは気分がいいとは言い難い。

 クロガネは男たちを嘲笑するように口角を上げ――。


「――やってみなよ」


 試し撃ちにはいい機会だ――と、瞬く間にコートの内側から銃を取り出す。


 引き金に指を掛けて照準を合わせるまでコンマ四秒。

 機式と比べると手に馴染まず、ほんの僅かな遅れが生じていた。


 とはいえ、相手が発砲するよりも遥かに速い。

 鋭い眼光で狙いを定めたせいか、殺気に当てられた何人かが体を硬直させてしまう。


 膠着はしていない。

 クロガネが一瞬にして場を制したことを、この大通りに居合わせた全員が理解していた。


「……はぁ」


 呆れたように肩を竦める。

 この街での抗争に、等級の高い魔女はほとんど絡んでいないらしい。


 そもそも戦慄級自体が希少な存在だ。

 これまで引き受けてきた仕事内容が極端だっただけで、街に繰り出して遭遇するような輩に同程度の水準を期待してはいけない。


 男たちも"迂闊に手を出すべき相手ではなかった"と気付いたようで、慌てた様子で銃を捨て、戦意が無いことを示す。


 とはいえ、相手からすれば縄張りを荒らされそうになっていたのだ。

 無法者なら先手を取って脅し掛けることも至極当然の振る舞いだろう。


 だからこそ、しっかりと力関係を理解させた上で問い掛ける。


「アラバ・カルテルに用がある。案内して」

「……分かった」


 このルード街で好き放題できるのはアラバ・カルテルのみだ。

 縄張り内で他組織の構成員が大きな顔をしていれば、今のように関係者が絡んでくる。


 それを利用して案内役を得る。

 情報屋と取引して関係者と接点を……などという、面倒な手間は容易く省けた。


 明日にはアダムの護衛を務めなければならない。

 時間を掛けてマギブースターの調査をするわけにもいかないが、手掛かりだけでも掴んでおけばガレット・デ・ロワで調べ上げてくれるだろう。


「……ここだ」


 案内された場所は、一際目立つ金装飾が施されたビルだった。

 無法者の巣食うゾーリア商業区では、魔法省の目を気にする必要もないらしい。


 黒服の男が入口に立つ用心棒に声を掛ける。

 取り次いでいるのか、或いは応援を呼んで仕掛けてくるのか。


 そんなことを気にする必要はない。

 この街では強者が絶対だ。


「お、おい待てっ――」


 黒服たちの制止を無視し――ドアを蹴破って殴り込む。

File:ルード街


売春と薬物の蔓延る欲望の街。

風俗街として有名だが、ゾーリア商業区の中で最も治安が悪い。

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