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106話

 案内された先は"武器庫"と書かれた部屋だった。

 ドアを開けると、そこには何十何百と様々な銃が並べられている。


「さて、お眼鏡に叶うものはあるかしら?」


 ガンラックが壁一面に広がって、無数の銃が掛けられている。

 息を呑むほどに物々しい光景だ。


――期待通りだ。


 クロガネは笑みを浮かべる。

 組織の規模こそガレット・デ・ロワに数段劣るが、品物の流通に関しては引けを取らない。

 或いは、こういった武器類に関してだけ言えばマクガレーノ商会の方が都合がつきやすいくらいだ。


 眺めていても仕方がないため、手近にあったものを持ち上げて使い勝手を確かめてみる。

 ひんやりとした金属の感触と重厚さは、魔力で作られた機式シリーズのように手には馴染まず、異様な存在感を放っていた。


「ウチで扱っているものは全て、火器の威力制限を破って違法改造された代物よ」

「ESSシールドには?」

「効果あるわね。単純な威力なら、低級の対魔武器くらいなら張り合えるはずよ」


 市販の物品では仕事用として不足してしまう。

 販売を主とする"商会"という形態を取っているからこそ、こういった代物を簡単に手に入れやすい。

 通常であれば客の審査が行われるのだが、マクガレーノ相手に直接やり取り可能なクロガネには関係がなかった。


 改めて周囲を見回して――『解析』を行使する。

 室内にある全ての武器について知識が流れ込んできた。


 あるのは銃だけではない。

 ナイフのような得物からスタンガン等、他にもこの世界ではあまり用いられてない旧式の武器が多く見られる。


「どうやって集めたの?」

「貢がせたのよ。アタシって罪な女ね」


 敵対組織から強奪し、傘下に収まる組織には上納品を用意させる。

 悪党として名を上げるまでに多くの組織を吸収してきたため、こういった武器類の収集には困らないらしい。


 気になったものをラックから取って机に置く。

 それを満足するまで繰り返すと、クロガネは紙幣の束を『倉庫』から呼び出した。


「これで足りる?」

「うーん、ちょっと多いくらいね。それより、も……」


 マクガレーノは並べられた武器を見つめる。

 約二十挺の銃と、それに見合うように弾薬が山のように積まれている。

 さらに大型のナイフや手榴弾等も並んで、とても一人で扱うような数には思えなかった。


「……いい目をしてるわね。商才もあるんじゃないかしら?」


 武器庫にある中から質の高いものを上から順に選び抜いている。

 膨大な数が並んでいるというのに、目利きの素人ができるような芸当ではない。


「アナタ、戦争でもするつもり?」

「そうかもね」


 交渉が成立した。

 マクガレーノが紙幣の束を受け取って、クロガネは武器を全て『倉庫』にしまい込む。

 コートの下にホルダーを装着すると、ハンドガンやナイフなど最低限のものを携帯する。


 これで不測の事態にも対応しやすくなるだろう。

 魔力の温存にも繋がるため、継戦能力も向上した。


「ウチで定期的にメンテナンスしていきなさい。アナタの銃と違って、こういうのは繊細なのよ」


 断る理由は無いため了承する。

 取引相手として引き留めたい狙いもあるのだろうが、クロガネとしても武器類のツテが得られるため悪くない話だ。


 簡単な手続きを済ませると、クロガネは思い出したように懐から小箱を取り出す。


「これを見てほしい」


 マクガレーノは小箱を開け、中に入ったカートリッジ式の注射器を手に取る。

 そして、中の薬液を眺めながら「へえ……」と呟く。


「最近流行りのマギ・ブースター……この辺りだと、アラバ・カルテルが流しているわね」

「仕入れ元は?」


 オーレアム・トリアと同じ支援者が裏に構えているかもしれない。

 僅かな期待を抱いて尋ねるも、マクガレーノは首を振る。


「それが不明なのよ。いい稼ぎになっているみたいだけど、追跡避けが徹底されているみたいね」


 色々な場所を経由しすぎている……と、嘆息する。

 よほど慎重な性格の持ち主なのだろう。


「……分かった」


 情報料として追加で紙幣を握らせる。

 ゾーリア商業区での仕事が一つ増えてしまったが、これも良い手土産になるだろう。


「アラバ・カルテルは東部を牛耳ってる悪党の集まりよ。複数の犯罪組織を敵に回すことになるわ」

「本音は?」

「敵対組織を潰してくれるなら助かるわ~!」


 マクガレーノは嬉々として笑う。

 ゾーリア商業区内では、常日頃から過激な派閥争いが至るところで行われていた。

 ここで喧嘩を吹っ掛けてくれるのであれば、その後始末に手を挙げるだけで大きな利益となるだろう。


 クロガネは嘆息しつつ、忠告する。


「言っておくけど、喧嘩をするつもりはないよ」


 その言葉にマクガレーノは肩を落としそうになるが、すぐに気付く。

 既にクロガネが殺気を滾らせて臨戦態勢に入っていることに。


「今は、ね」


 あくまで対話に向かうだけ。

 相手が手を出してくるのであればその限りではない。


「も~し、仮にだけど……派手に暴れ過ぎちゃったらアタシに連絡してちょうだい?」


 クロガネは肩を竦め、次の目的地へと向かう。

File:ゾーリア商業区


極めて治安の悪い繁華街。

凶悪犯罪の温床となっているが、既に様々な組織が縄張りを作っているため魔法省の捜査が及びにくい。

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