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102話

 合流座標に到着し、回収班と共にガレット・デ・ロワ本拠地へ移動する。

 追手などは『探知』に引っ掛からないが、先ほどまでの事を考えると油断はできない。


『厄介な相手に絡まれたな』


 オーレアム・トリアに雇われた殺し屋集団。

 そこらのシンジケートが雇っているような用心棒とは比較にならない狩りの技術を持っている。


 今回は元々が標的が咎人級や愚者級の無法魔女アウトローだった。

 もし彼らが初めから本気で災害等級の高い魔女を相手にするつもりだったならば、こうして後悔と苛立ちを感じることさえ許されなかっただろう。


「チッ……」


 それが腹立たしい。

 能力に依存した現状では、真の意味で"強者"とされる存在には遠く及ばないと実感してしまう。


 死は常に隣にいる。

 元の世界とは違うのだと、理解しつつも脳は未だに慣れていない。


 人命の価値は安い。

 公安の掲げる"秩序"や悪党の"利益"のために容易く踏み潰されるものなのだと。


 その中で生き延びるには技術を磨かなければならない。

 累積された経験と知識も必要だ。

 今回苦戦を強いられた原因は、場馴れしているかどうかの差だと感じていた。



   ◆◇◆◇◆



――フィルツェ商業区、郊外。


 荒々しい運転でガソリン車が走っていた。

 今時は電子制御式か煌性エンジンが主流の中で、運転手の男は好んで古い型の車両を選んでいる。


 直立すれば、見上げるほどの巨躯を誇る――『火砲』グスタフ。

 対魔女用の高出力武器を軽々と担ぎ上げるほどで、ヴィタ・プロージットにおける攻撃の要となっている。


 音楽プレイヤーからハードロックを派手に響かせながら、鼻歌交じりに運転していた。


「随分とご機嫌だな?」

「こうして生きて帰れるんだからな」


 仕事中は寡黙な男だが、安全が確保されると途端に気が緩む癖があった。


「ゲーアノート。あの魔女を手土産にするのはどうだ?」

「……冗談はよせ」


 助手席に座るゲーアノートは不愉快そうに舌打つ。

 ゆっくりと右手を持ち上げ、何度か指先の感覚を確かめるように動かした。


「あの無法魔女アウトローは戦慄級だ。それに"勘"も良い」


 忌々しげに呟く。

 当初想定していた標的ではないとはいえ、対魔女戦闘の下準備は十分に行っていたはずだ。


「……確かに、殺気を感じ取って動いていた。銃声より奴の回避行動のが早かった」

「"こっち側"の才能もあるってわけだ」


 魔女は固有の能力を持つからこそ強者とされる。

 猛獣が獲物を狩るように、生身の人間など力を振るえば容易く葬れることだろう。


 それを頭脳と技術で覆す。

 殺しの才能で魔女さえも圧倒する――それこそがヴィタ・プロージットのやり方だ。


 だが、その才能も持ち合わせた本物が相手となれば話は別だ。


「汚れの魔女なんざ大半は雑魚だ。MED一つで命乞いさせられる」


 殺しの才能で同じステージに立っていないという前提であれば。

 ゲーアノートが仕事をしくじるようなことは有り得ない。


 不確定要素を全て潰した上で追い詰める。

 僅かな抵抗さえ許さない。


 入念な下準備によって、正しく"狩り"と呼ぶに相応しい状況を作り出すのだ。

 今回も、本来の標的を誘き寄せられたなら容易に制圧できていたことだろう。


「……失態だ。引き際を見誤った」


 オーレアム・トリアとガレット・デ・ロワの抗争が始まる。

 用済みになった無法魔女アウトローを処分してから手を引く予定だったが、彼が予想していたより早く事が動いているらしい。


「厄介事に巻き込むために事を進めた可能性もある」

「進捗に偽りがあったってことか」


 共有されている情報を鵜呑みにしているわけではない。

 全てを疑ってかかるのは、それがたとえ依頼主相手でも当然の事だ。


 とはいえ、仕事に関わる重要な話でさえ嘘を交えて利用しようというのであれば話は変わってくる。


「全面戦争になるとして……"奴"は出張ってくると思うか?」


 グスタフが問う。

 それは警戒心からではなく恐怖心からの言葉だ。


「裏懺悔か? アレは都市伝説みたいなもんだろう」


 怯えすぎだ、と肩を竦める。

 噂話こそ飽きるほど耳にしてきたが、尾ひれが付いているのだろうと考えていた。


「いや……奴はアダム・ラム・ガレットと旧知の仲だと聞く。下手に視界をうろつけば、気まぐれに蹂躙されかねない」

「見たことがあるのか?」

「フリーの用心棒をやっていた時にな」


 人間が策を弄したところで意味を成さない。

 だからこそ、魔法省でさえ存在を黙認せざるを得ない唯一の無法魔女アウトローとして知られているのだ。


「戦慄級『裏懺悔』……あれは規格外だ。勝つとか負けるとか、そんな次元の相手じゃない」

「……他でもないお前の忠告だ。気に留めておく」


 だが、とゲーアノートは続ける。


「あまりビビりすぎるなよ? お前はただ、手放しで俺に全額賭けておけばいい」


 そうすれば大金を稼がせてやる……と。

 戦慄級が相手だろうと、培ってきた経験があれば追い詰められるはずだ。


「ルトガーに伝えとけ。あの工場で交戦した無法魔女アウトローを徹底的に調べ上げろ、てな」


 最大限に場を整えて狩る。

 戦慄級を仕留めた実績さえあれば、運転席の大男も臆病さを捨てられることだろう。


 そして同時に――。


「シェスカに連絡して、オーレアム・トリアの背後関係を探らせろ」


 当然、都合良く利用されるつもりはない。

 こちらに不利益を齎すのであれば、その愚行に相応しい報いを受けさせる必要がある。

File:『火砲』グスタフ


ヴィタ・プロージットの主要構成員。

元は密輸・密売の護衛を務めるフリーの用心棒だったが、ゲーアノートの目に留まって組織に引き入れられた。

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