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【完結済】【挿絵あり】鈴蘭の花言葉〜ある日妖怪が見えるようになった少女。辛い現実の中で成長し、前世からの運命に立ち向かいます〜  作者: パスタ・スケカヤ
【第2章】elementaryー運命と一族ー

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暗躍と心の変化


少し昔の話。まだ鈴蘭が産まれる前のことだ。


 とてつもない霊能力の才能を持った少女が誕生した。


 名を果伊菜といい、後に鈴蘭の母となる存在だ。


 彼女は幼少の頃から力のコントロールを心得ており、詩歌の教育もあり妖怪と人間を区別し平等に愛し、また社会的な理解も出来ていた。


力がコントロールできるため問題なく平穏に過ごしていた。


 だがそんな力は彼女には膨大すぎた。


社会的な理解、人や妖怪、全てを理解することは出来ても力を理解することが出来なかったのだ。


つまり早くから自分とはなんなのかという疑問にたどり着いてしまう。


精神的にまだ未熟であるのにもかかわらず、自分を理解することよりも、周囲を理解する方が成長してしまい、自分に目を向けることが出来なくなっていたのだ。そんなある日のことだった。事件は起きた。


 公園でボール遊びをしていた二人の姉弟が、ボールを公園の外、道路に飛ばしてしまう。


取りに行こうとした際、運悪く居眠り運転をしていた車に衝突しそうになる。


見ていた果伊菜は思わず能力を使ってしまう。


 「っ!?危ない!!」


 空間を歪ませ空気の波を生み出し、車と姉弟の間に空間の捻れを作りクッション性の壁を出現させ、衝撃を吸収させる。

 

 二人は無事救われ、運転手も眠っていたため、特に何事もなく済んだ。


だが、そこに偶然居合わせた一人の少年の恐怖心を煽ることになる。


 「・・・おまえ、霊能者か?」


 震えて人を悪魔のように見る少年の目に果伊菜は自分は人に恐怖を与える存在であると強く感じてしまう。


周りにいた大人たちも異変に気づき軽蔑するような目を向ける。


自分が殺されないように逃げる妖怪たち、人と妖怪を平等に愛する果伊菜にとってその現実はあまりにも辛いものとなった。

 

 「あなたが私達を助けてくれたの?すごいね!!どうやったのさっきの!!」


 なにも知らない様子で話しかけてくる二人。


そんな善意で話し掛けてくれた二人の言葉さえ、その時の果伊菜には届かず、走り出してしまう。


 「まってよ!!」


 そう声をかける二人だが果伊菜には届かず二人もようやく周囲の反応を理解する。


 「姉ちゃん、あの人、怖がってた。」

 「そうだね。いこう。お礼言わなきゃ」

 「うん!!」





 

 「お母さん・・・こんな力いらない。」

 「なにかあったんだね。」


 家に帰り一通りの事情を説明する。


ものすごく辛い経験をしたはずなのに、涙ひとつ流さないその姿に詩歌は果伊菜の異変に気づく。


このままでは感情をうまく出せない子に育つ。自分と同じように辛い経験を重ねて行ってしまう。


そう感じ、能力を封じることにする。全能力の大半と寿命をかけて行う禁忌の技である封印、本来超上級の妖怪にのみ使われる特殊霊能者が四人いなければ成立しない大技。それを施すというのだ。

 

 「果伊菜、あなたは普通に生きて、幸福になってほしい。だからその力封じさせてもらうよ。」


 「お母さん?」


 刹那。勢いよく扉が開かれる。


 「みつけた!さっきの人!!」


 そこに現れたのは弟の少年である。


 「さっきみたいに助けて欲しい!!姉ちゃんが変な妖怪に襲われてるんだ!」


 突然の事で驚く二人だったが様々な疑問が浮かぶ。

 なぜ妖怪がみえるのか

 なぜ家がわかったのか

 

 こたえはひとつしかない。

 

 「そのお姉ちゃんも妖怪が見えてるのかい?」


 「そうだよ!急にいっぱい見えるようになって!!」


 「そうか、いいタイミングだね、わかった助けてあげるよ。」

 

 それからすぐに現場に駆けつけ状況は一瞬で好転する。


 「な、なんだ!?その力!!」


 少女をグルグルと触手で掴んでいたカエルのような妖怪は圧倒的な詩歌の力に驚愕の表情を見せる。


 「その子を離しなさい。」


 静かに諭すように一言だけ話す詩歌。


 「だったら力ずくでやれ!」


 その恐怖すら感じる様子に怯えながらも抵抗する意志を見せる妖怪。


 「な、なんなんだよ、君のお母さん。なんでトドメをささないんだ。」


 圧倒的な力を持っている事は事実で勝負がついてる事は子供の目から見ても分かるほどであった。なのに一向にトドメを刺さずただ悪戯に体力と時間を消費している詩歌の様子に違和感を感じた少年は娘である果伊菜に問う。


 「お母さんは妖怪がすきだから。」と即答し特になにかを考える訳でもない果伊菜に事の重要性と危険性を訴えようとする。


 「でも!あのままじゃ!!」

 「大丈夫だよ。もう終わる。」


 だが、そんな言葉も予期していたかのように遮られ果伊菜に見ていろと促され黙りこくることにする少年。


 「どこでそんなに汚れたんだい。私が浄化してあげる!」


 溜息とともに流れるように空に術式を描き掌を妖怪に向ける。しばらくして妖怪の体は溶け始め触手で縛られていた少女も開放される。


 「なぁっ!?からだがァあああああ!!」


 自分の体の異変に気付き理性を保てなくなったのか慌てふためく。そして気が付くと肉体は消失し魂だけとなる。


 「よいしょっと。ちょっと仕事あるからアンタはあとでね。」


 開放された少女を拾い上げ、魂となった妖怪に一言告げると少女に向けにっこりと微笑みかけ安心するように促す詩歌。


 「あ、ありがとう!」

 落ち着いたのかそんな言葉が少女からこぼれ落ちる。


 「礼はいらないよ。それよりあなた達に頼みがあるんだ。あなた達の為にもなるしこの子の為にもなる。だからーーーー。」

 

 そこから果伊菜の記憶は途切れている。




 

 「いま、なにか大事な夢を見ていたような。」


 朝目を覚ますと果伊菜は夢を忘れてしまう。だがこの記憶は本人を構成する上で欠かせない記憶であり、夢としてときどきこうして具現化する。だが、同時に忘れ去らなければならない記憶でもあるため記憶を保持することは難しくいつももどかしい気分にさせている。


 不意にガチャと扉が開く音がしてその後すぐにバタンと扉が閉じる音がして果伊菜はハッとする。


 「またやられた。」


 夏休みになってからというもの鈴蘭は毎日のように琴上人と会っている。果伊菜としてはどうしても不快な感覚が流れる。


 『おまえ、霊能者か?』


 頭に激しいノイズと共にモザイクがかかったように思い出される映像。


 「...へんな夢のせいかしらね。」


 その様子を見ていた座敷童子は果伊菜にはなにか隠された秘密かあると確信する。





 

 夏休みになり数日。会うことを辞めるようお互いの親に言われているもののジンと鈴蘭は時折会っていた。


 「最近この辺で妖怪騒ぎあったらしい。んでここは一時封鎖だっけか。なってるらしいから気をつけろよ。」


 「うん。ごめんね。わざわざ。」


 座敷童子の提案でほかの力の使い方を探すということで危険は伴うがジンと行動を共にするということになっていた。


 「んいや、丁度依頼も入ってたし。いいさ。」


 「で?なんでお前はここにいんだよ?座敷童子。」


 「ちょっとな。童には関係のない話だな。」


 果伊菜の様子から百合野一族の情報を得ようと着いてきたのだ。本来はこの近辺に住んでいる月花や陽太に話を聞こうとしていたのだが二人とも外出中で暇つぶしで着いてきたというのが正しい。


 「あそ。」


ジンはどうでもいいよ、言わんばかりに切り捨てる。


 「ん?聞いたことある声がすると思ったら鈴蘭とジンじゃないか!どうしたんだ。ここは危ないぞ!ってうぉっ!?妖怪か!!」


 後ろから見知った声がすると駆けつけてきたのはクラスの担任である陽太であった。


 「うるせーよ。タマタマ」

 「だれがタマタマじゃ!!」


 「おっそうか。そうだったな。うん。まあいいか。」

 一瞬鈴蘭がいることに戸惑いをみせるが納得したように頷く。


 「鈴蘭か?こいつも霊能者だぜ。」


 「ああ。そうだったな。だが少し不安だな。前の様子だと力は使えないのだろ?」


 前回石の妖怪と退治した時の様子から鈴蘭にはチカラが使えないと判断し不安げな表情を見せる。


 「はい。」

 「うーむ。いくらジンがいるとはいえなぁ。」


 「問題ないさ。わたしがいる。それとも、なにか居られたくない理由があるのかな?」


 異様に鈴蘭を避けようとする様子から怪しさを感じたのか、もしくは探りを入れたいのか不気味な表情を見せる。


 「・・・それならいいさ。でも相手は強力だ。」


 すこし眉間にシワをよせ困った表情を見せる。


 「は?なんだよ、それ。先生相手知ってんのか?てかそもそも何しに来たんだよ。」


 知ったような口ぶりからジンも少し不安を感じる。

 

 一瞬にして張り詰めた空気が訪れ、静寂が起きる。一呼吸置いて陽太は静寂を破る。

 

 「姉さんがやられた。」

 

 「っ!?どういうことですか!!」


 理解できない言葉に鈴蘭は数秒経過した後に口を開き驚きを隠せない様子を見せる。


 「落ち着け。そんな簡単にくだばったりはしない。ただ、このままじゃまずいって話だ。連絡もとれねーし。たぶん囚われている。」


 「なんだよ。俺だけ話わかんねーじゃんか。二人で盛り上がっちゃってさ。」


 一人だけ現状が理解出来ず戸惑い不貞腐れた様子を見せるジンに対して少し落ち着いたのか鈴蘭が説明を加える。


 「あ、ごめん。前にお姉さん、月花さんにお世話になったことがあって。」


 「へえ。その人も霊能者なのか?」


 「うん。先生と違って凄く強くてかっこいいんだよ!」


 「シンプルに傷つくなあ。」

 「実際よえーじゃんか。」


 「俺は戦闘じゃないの!回復とか強化とか守りとかサポートなの!」


 「はいはーい。」

 「くっそぉお。教え子に舐められるなんてなぁ。」

 

 『俺は姉さんを守るんだ!!』

 

 昔姉に向かって叫んだ決意を思い出しすこし自虐的に笑う陽太。

 

 「笑える話、俺はそれしか持ってないのに今回姉さんを守れてない。お前らに頼ることになるかもしれない。」


 「何言ってんだよ。陽太らしくねえ。今回お姉さんが負けたんならやっぱあんたの力がなきゃダメだってことだろ。それに俺は仕事、座敷も鈴蘭も自分の用事、あんたのために動くんじゃねえよ。」


 「ほんと、君たちからは、学ぶことが多いな。」


 「でたよ、口癖。言ってないでサクッと終わらせよーぜ。」

 「そうだな。」

 

 「封鎖されてまだ間もないって言うのになんでこんなにこの建物廃墟みたいになってるんだ・・・」


 ジンは首を傾げながら不安そうに口にすると鈴蘭が自分の意見を口にする。


 「それだけ妖怪の力がすごいってことじゃないの?」


 「まあそうなんだろうけど・・・」


 「空間に影響を与えるだけの力。そんなものを使えるのは大妖怪だけって言われてるのさ。」


 不意に落ちない顔をするジンの様子を見てか座敷童子が説明を加える。


 「大妖怪?」

 聞きなれない単語に鈴蘭が聞き返す。


 「それくらいなら俺でも知ってるぞ。大妖怪、始まりの妖怪、人間が存在する前からいたと言われている一番最初の妖怪らしい。」


 先程の不甲斐なさからか陽太が得意げに鈴蘭に説明してみせる。


 「そんな妖怪がこの先にいるって言うこと?」


 「さあな。だったらもっと強大な力を感じ・・・っ!?」


 鈴蘭に状況を説明しようとしたジンであったが背後から感じた冷気に即座に対応し応戦するものの悠々と上空に蹴りあげられてしまう。


 「ジンくん!?」

 やっと状況に追いついた鈴蘭が声を上げるが既にジンは目の前に立ち塞がる人影に囚われている。


 「まだこの程度ですか。そうか、使いきれていないのね。でもさすがだわ。あの方によく似て美しい。」


 誰かと比較するように感嘆の声を漏らす人影。


 「九尾の手下か?そんなとこに下っていようとはな。雪娘。」


 何者による犯行なのか気が付いた座敷童子は問いかけるように冷静に反応する。誰もが固唾を飲む中その人影は姿を表す。


 「馴れ馴れしくしないでくださるかしら。薄汚い。まあでも貴方はさすがですね。諸々の事情を知っていらっしゃる。」


 現れたのは白装束に身を包みほのかに青みがかった髪が美しい女性が姿を現す。まさしく雪娘、雪女という名前が似合うような悲しげで儚げな表情が伺え、なによりそれらしさを演出しているのは彼女の周りだけ凍りついて白一色に染まってるいることだ。顔や肌も白く透き通っており傍から見て寒い、凍えるといった感覚に陥る。


 「これでも選ばれているからな。」


 そんな姿に周りが絶句し沈黙する中悠々と会話を進める座敷童子。まるで知り合いかのような口ぶりだ。


 「くっそ、力が入らねぇ。体が凍ったみてえに冷てえ。」


 やっとの思いで喋ることのできたジンであったが雪娘に囚われているせいで抵抗はまるでできていない。


 「ジン!!大丈夫か!!」


 その様子に対して思考の停止していた陽太が動き出す。


 「大丈夫じゃ・・・ねぇ!!先生たちは早く逃げろ。こいつはーーー。」


 ことの危険度を察したジンがなにかを発言しようとしたが雪娘によって遮られさらにジンは凍えることになる。


 「すこし黙りましょうか。」

 「ジンくん!?」


 「安心してくださいな。傷つけたりはしません。目的は達しました。あなた達が危害を加えないのであれば私も何も致しません。どう?いい提案でしょう?」


 「出来ればそうしたいんだけどな。そういう訳にも行かなくてな。俺は姉さんを探してる。知らないか!」


 「恐らくはこの方ですね。」

 指で促されて天井に目をやると氷でコーティングされた月花の姿があった。


 「まってたよ。その瞬間を!!身体強化!!紅蓮付与!!」


 その一瞬の隙をつき月花とジンに対して術式を展開させる。その効果により二人の身体は燃えたぎるように暑くなり雪娘の冷気を吹き飛ばす。


 「なっ!?貴方の能力は少々厄介ですね」


 状況の好転に気付いてか若干の焦りを見せる雪娘。

 「助かった・・・ぜ。せんせ。」


 雪娘の拘束を破り危機を脱するジン。続いて月花も天井から落ちてくるが意識の覚醒は見られない。先回りして待機していた鈴蘭が不安になる。


 「陽太先生!月花さん、か、体冷たくて!!息もしてなくて!!」


 「っ!自力で回復できるな!?ジン!!」


 状況が刻一刻を争うと判断した陽太は駆け出しながらジンに問いかける。


 「当たり前だ。もうしてるよ。」


 状況を瞬時に理解してか既に回復を行っていたジン。


 「座敷!奴の狙いはジンだ!守れるか!」


 その姿を確認すると続いて座敷童子へと指揮を促す。


 「時間稼ぎ程度ならね。」


 こんな状況でも冷静に対応する座敷童子に安心感を覚えすぐさま鈴蘭と月花のところへと向かう。


 「ごちゃごちゃうるさいわよ!人間ども!!ジンは我らのものよ!!」


 状況が不利になったと判断したのか先程よりも余裕の見られない雪娘は目的の先行へと急ぐ。


 「くっそ。まじか!俺狙いかよ!!こい!!妖刀!!」


 陽太の思った通り目標はジンであり、先程と同じ失敗をしないように刀を手に構えをとる。


 「私の冷気に耐えられるかしらね。そんな刀で!」


 実力に自信があるのか高速で移動しながら攻撃の体制に入る雪娘。その様子に気付いてか即座に対応する陽太。


 「冷気は任せろ!身体強化!!紅蓮付与!!」

 「サンキュー!センセ!!」


 先程と同じように術式を展開しジンのからだを燃え上がらせる。


 「やかましい術式ね!あなたからやってあげるわ!!」


 陽太の術式に策が無いのか攻撃の対象を陽太へと変更し減速せずにそのまま突っ込む。


 「まずい!」


 サポートなら陽太に勝るものはないが戦闘となると一気に不利に傾く。陽太は元々の霊力に対する抵抗が低いため自分の体への強化が行えないのだ。それをジンは知っているいるので状況の不利さを理解し飛び込もうとするが距離とジンのスピード的に届きそうになく体から嫌な汗が吹き出る。


 「鈴蘭!!お前の力借りるぞ!」


 戦況の不利さを理解してかまたは雪娘の行動を予期してか瞬時に対応する陽太。


 術式は一回に一つしか展開できないという制約の元で行われるが莫大な霊力を糧とすることでその常識は覆せる。


 「えっ!?」


 状況への理解が及んでいない鈴蘭を他所に陽太は肩に手を触れ鈴蘭の霊力を触媒とし同時に二つ術式の展開を成功させる。


 「空間術式!防御障壁!回復術式!稲妻!」


 ひとつは空間を歪ませ空気に圧を生み出し自らを守る障壁を生成する空間術式。もうひとつは瞬間的に体内に適切な電流を流し込むことで擬似的な心肺蘇生を可能とする回復術式で先程の身体強化・紅蓮による体温調節から心臓に電気ショックを起こし微量な霊力を流し込むことで呼吸を起こさせるといった意図で月花に向け行う。


 「ふたつの術式を同時に!?」


 障壁が作ららたことで一時的に雪娘の攻撃を遮ることに成功する。


 「余所見してんじゃねぇーぞ!雪娘!!」


 その数秒のチャンスを見逃さなかったジンは一気に距離を詰め刀を振りかざし陽太と雪娘に距離を作らせる。


 「しまった!?こうなったら!!」


 隙をつかれ防戦となった雪娘はなにやら奥の手を使おうとする。


 「させないよ。喰らいな!」


 その思惑を先読みし座敷童子は持っていたケマリに最大出力の蹴りをかまし雪娘目掛け解き放つ。


 「座敷!?」


 攻撃に転ずると思っていなかった座敷童子からの攻撃とジンによる猛攻でバランスを崩しその場に倒れる。


 ケマリは一直線を描き風を切りながら猛スピードで雪娘へと衝突し雪娘のからだを壁際まで吹き飛ばす。

 

 「・・・九尾様。お力、使わせて頂きます。」


 衝撃による煙の中雪娘の影はおもむろに立ち上がりなにか小声で話す。この時点で全員の体力はそこをついていたたのにも関わらず立ち上がる様子を見せその場にいた全員が絶望を感じる。だがそれでは事態は収束せず霊力がものすごい勢いで跳ね上がりジンは体の震えを感じすにはいられなかった。


 「くそ、なんだ、あいつ!!こ、この感じはマジでヤバいやつだ!大妖怪級の力を感じる!みんな!逃げるんだ!!」


 「だめだ、まだ姉さんが!!意識がもど・・・」


 言葉の最中で陽太は意識を失いその場に倒れ込む。依然月花は目を覚ますことはなく事態は悪化した様子を見せる。


 「能力の使いすぎですね。これでもう邪魔は入らない。一人はもう動けない。もう1人は回復して一命を取り留めたようですが、体は動かないどころか霊力の枯渇。残りは三人。うち一人は能力なし。現状わかります?あなたに、一番弱い貴方に選択を委ねましょう。どうすべきか分かりますよね。」


 力を増大させもはや力の圧を感じないほどに漲ったエネルギーに鈴蘭は体を動かせずにいた。その様子を見て冷静な状況の分析を行い憐れむような顔で鈴蘭に選択の権利を譲渡する。


 「ジンくんを連れてどうするつもりですか。」


 ガタガタと体を震わせなながら必死に言葉を絞り出す鈴蘭のその姿に感服したのか肩を竦めて一言だけ添える雪娘。


 「仕方ありませんね。教えてさしあげます。琴上人、あなたは九尾様の孫に当たるのですよ。」


 シンプルに一言にまとめられた衝撃のカミングアウトにその場にいた誰もが状況を飲み込めず数秒の沈黙が流れる。


 「・・・は?なにわけわかんねえことを言ってんだ」


 数秒の沈黙の後ジンはやっとの思いで口をひらくことができたが出てきたのはその言葉を否定する言葉だけであった。


 「仕方ありませんね。刺激してあげますよ。」


 にやりと不敵な笑みを浮かべ顔を歪ませる雪娘。気がついた時にはジンの目の前に姿があり誰も対応することが出来なかった。目の前に立たれているジンでさえ状況を認識できておらず鈴蘭ただ一人が声を上げる。


 「ジンくん!!」

 「させぬ!!」


 その呼び掛けに意識を戻し攻撃に転じた座敷童子だったが攻撃は全くもってかすりもせず吹き飛ばされる。


 「もうあなたでは止められませんよ?」

 「座敷童子!!」


 「九尾様の力です。有難く受け取りなさい!!」


 片手を大きく振りかざすと雪娘の手に一気に冷気が集まり先程の何十倍もの霊力が集中する。それを練り込むようにジンの体にあてがい体の内部、中心で爆発させる。


 「あぁあああああああっ!!!」


 悲鳴ともなんとも言えない痛みに悶えるジンの声が建物全体に響き渡る。だが、それでは済まなかった。ジンの瞳は金色に変色し髪は白く染まり全身の筋肉は膨張を始め妖力によって生成された九本のしっぽが現れ見た目のそれは妖怪と何ら変わりなくなる。


 「うそ、じ、ジンくん・・・?」


 口に手を当て先程の雪娘の霊力を簡単に超えてしまったジンの信じられない姿に鈴蘭は体全身の力が抜けその場に倒れ込む。


 「アガァアアアアアアアっ!!」


 もはや人が発する声とは言えない音を発するジン。その妖怪としての姿に雪娘は感動し笑い声を上げる。


 「アッハハハハハハハ!すばらしい!これが最強の妖怪!次期九尾の姿か!!」


 「くっや、やだ!!なんだ!?これ!!おれ、俺!!うぁあああああ!!」


 瞳の変色が元に戻り理性を取り戻したジンは自分の姿に恐怖を感じ意識を失う。

 

 刹那。その自分を恐れるジンの姿に過去の自分を重ね鈴蘭の中で何かが動き出す。ドクンドクンと鼓動は早まり怒りという感情と、友の悲しみを、辛さを痛感した気持ちをどこに発散したらよいのか分からなくなり周りが真っ暗になる鈴蘭。


 「まだ制御できませんか。まあいいでしょう。お分かり頂けたなしょう?彼は人間ではありません。だから我々と暮らすのです。」


 「ちが、」

 「なにが違うのですか。」


 だんだんと周りの音が消えていく。そしていつしか感覚さえもどこか遠くへ遠くへと向けられていく。


 「ゆるさない。あなただけは!!!」


 今の鈴蘭を支配しているのは負の感情である。


 「許さない?はあ。で?どうするのですか。もう誰もいませんよ。」


 「わたしが、戦う!!」


 もはや鈴蘭には言葉という概念が消失し全ての感覚が意識へと接続され負の感情という一つを昇華することにのみ向けられる。


 「だ、だめだ。鈴蘭。わた、しとの約束・・・」


 もはや誰の声も聞こえない。


 「・・・ジンくんは嫌がってた。たとえ、血が妖怪だとしてもジンくんは人として生きてきたんだ。それを無理矢理。あなたは!ジンくんを傷つけた!ゆるさない!!」


 あるのは潜在意識にまで立ち上った感情だけ。

 

 意識はついに次元を超え封印されている何者かと繋がる。


 『力が欲しいの?』

 問う。

 『欲しい。私は!!あいつを!!』

 答える。

 『その言葉に嘘はないんだね。苦しいよ、きっと。』

 また問う。

 『それでも私は!!』

 そして。

 『そう。ならその力は僕があげるよ。』

 

 こたえに応じた結果が具現化する。


 

 「・・・・・・・・・」

 気が付くと鈴蘭の辺り一面は白と黒、虚無が蔓延り闇を具現化させ有を無へと変換していく。


 鈴蘭の意識は何処か遠くへと飛ばされ負の感情を体現するかのように莫大な妖力が溢れ出てドロのように醜くあたり一面を変色させていく。そこに人影のみが姿を現しするどい怒りの感情が眼光となって雪娘に向けられ、時々ノイズともにツノが見え隠れを繰り返す。


 「なっ!?鬼!?」


 そう理解した時には既に雪娘の体はズタズタで妖力を半分以上削られていた。痛みにすら反応できないほどに雪娘は怯えていた。そう今、雪娘は全ての感覚、機能を恐怖で埋め尽くされているのだ。


 「だめだ。今その力は・・・鈴蘭!!」


 異変に気付き目を覚ました陽太は目を開き掠れた声を鈴蘭に向けるが反応はない。


 「・・・・・・・・・」


 「だめだ!!鈴蘭!!戻ってこい!!くそ!俺がいながら、鈴蘭を目覚めさせた!!」


 完全にこの世の終わりを感じた陽太は後悔の言葉を発する。


 「安心して。まだ目覚めたわけじゃない。」


 だがそこにこの危機を唯一回避出来る存在が現れる。


 「果伊菜さん!?どうしてここに!!今ここは、っ!?まさか、記憶が・・・。」


 その人物の登場に危険であると伝えるが物怖じしない落ち着いた普段とは違う、いや本来の姿の果伊菜に気付く。


 「娘は私が止める。ついでにアイツも私が片付ける。」

 

 「な、なんで鬼が、まだ目覚めて・・・あぐっ!!だ、誰だ!貴様!な、なにをした!!ち、ちからが!」


 鬼の力かそれとも彼女の力か背後に現れた果伊菜に気付かず容易に攻撃を許す。


 「あんたの九尾の力は私が消した。」


 「消した!?ばかな!!たかが人間が!・・・いやおまえなんだ?ほんとに人間か?まさか!!お前が!!」


 そしてようやく気付く。鈴蘭を遥かに超える鬼の力を持つ存在が目の前にいることに。


 「そうさ。私が百合野一族の現当主、幌先果伊菜。鬼の力の継承者だ。」


 そう告げると雪娘の肉体は消失し跡形もなく消し飛ぶ。九尾に魂を売ったことによる代償だろうか。


 「・・・・・・・・・」


 「悪いね。怒ってたみたいだけど、私が片付けたよ。鈴蘭。」

 「・・・・・・・・・」


 「その力はまだあげてないよ。鈴蘭。返してもらうよ。」


 話しながら瞬時に鈴蘭の横に並びたち、やさしく頭を撫でると鈴蘭は元の姿に戻りその場に倒れる。


 「相変わらずのスピード、パワー、詠唱無しで術式の適応、俺と姉さんじゃ辿り着けない、本来の能力者。」


 「陽太、あとは頼むよ。お母さんの能力が働き始めてる。たぶん、また忘れる。だからーーー。」


 「分かってます。」

 「ありがと、鈴蘭、ごめんね。」

 そう言い残すと満足したのか果伊菜もその場に倒れ込む。

 

 「なるほどな。大体事情は分かったぞ。」


 ボロボロなからだを奮い立たせゆらゆらと立ち上がる座敷童子。


 「あとで説明してやるから。とりあえず、二人を。俺は姉さんを。」


 「私はもう大丈夫だよ。それよりジンくんだね。アフターケアも必要そうだ。まあでも、今回ばかりはあんたに助けられたよ。陽太。」


 目が覚めたが、少し辛そうな表情を浮かべながらもにこやかに笑いかけ今回の功労者である陽太に感謝を告げる月花。


 「そうか、その言葉を聞けてよかったよ。姉さん。」

 

 事態はなんとか収束し陽太はほっとし優しい笑顔を見せた。

 

 だが、確実に大妖怪たちが動き始めている。それはどうしようもない現実であり、そしてその大妖怪は今回の雪娘を軽く超えているという事は明確である。そうつまりは大妖怪による混乱がもう既に始まっているということである。

 

 今回明かされた果伊菜の過去、ジン、鈴蘭の覚醒。


 座敷童子は今後これらが妖怪たちに狙われるのではないかと考えていた。


 そしてジンは考え方を変えてしまったことをこの時はまだ誰一人知る由もない。鈴蘭はただ自らのチカラの恐ろしさと無力さを痛感したのであった。

 

 それぞれの思惑が交錯する今日という夜をそれぞれの空に思いを馳せ夜が明け鈴蘭たちに分岐点が訪れようとしていた。


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