表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/15

前世と悲しみの家系

薄暗い闇の中。気がついた鈴蘭は目を開ける。

 

 「ここは?・・・私どうしたんだっけ。いや、違う。みんなは!?」

 徐々に意識が覚醒していく鈴蘭。

 

 「やあ。おはよう。やっと逢えたね。ユリノ。」


 暗闇の奥底。人影が鈴蘭を捉える。

 「だれ?私をここから出して!」


 鈴蘭は混乱し何者か分からない影に問う。


 「判断を急ぐのは君の悪い癖だ。もう少し状況を考えて動かなきゃ。・・・でもそうだな。君にいじわるするのは僕の趣味に反するね。」

 

 淡々と少年は囁く。そしてその声は徐々に鈴蘭へと近づいてくる。


 「まだなにも分かっていないみたいだから。ゆっくり話でもしようかなって。記憶が戻ったみたいだけれども、まだ受け入れていないだね。まあその上でどうするか、君に選ばせてあげるよ。」


 気がつくと少年は鈴蘭の目の前にいた。

 

 現れた少年は15歳ぐらいの見た目で、額から生えている鋭い角と長く綺麗な髪が特徴的だった。

 

 長く綺麗に伸ばされた藍色の髪の毛は後ろで低めに結ばれている。瞳に光がさすことがなく、暗闇の中にただ鈴蘭が捉えられている。

 

 服装は白と水色を基調とした民族衣装のような服を着ている。襟元は黒く統一され美しく縫われており、現実らしからぬ姿を映し出している。


 「僕は鬼。君の家に代々封印されている鬼。天邪鬼って言えば伝わるのかな?幌先鈴蘭・・・いや、百合野鈴蘭が正しいかな?まあ少しの間よろしくね。」

 

 

 天邪鬼。百合野一族が代々封印してきた妖怪。古より三代妖怪が復活する時世界に終焉をもたらすとされた悪意を根源とする最強の妖怪。妖怪の元凶、悪意の象徴、人間が唯一対抗できないとされている妖怪だ。

 

 昔から人間には陰と陽の側面が存在しているとされている。陽の力は文明を発展させたり、力を合わせたりすることで、人間は愛を、正義を育むことで繁栄してきた。しかしその反面、陰の力は人の悪意によって引き起こされる、欲望、争い、略奪、恐怖といった側面によっても時代は発展し、人は生き残ってきた。

 

 そんな人間の悪意、そのものが天邪鬼という存在なのだ。

 通常の人間であれば近づくだけで無に帰る。それほど人間にとって天敵となる存在である。

 

 人は少年を妖怪の象徴として『終焉と虚無の天邪鬼』と呼んだ。

 

 少年が天邪鬼であるということを知り、鈴蘭はようやく自分がとうなったのかを理解する。

 

 「そう。あなたが天邪鬼。・・・私は悪意で封印を解いてしまった・・・ということ?」

 

 「そういうことだね。ただ君は昔から間が悪いのさ。今回みたいに幌先の人間による襲撃、それによって前世、過去の記憶を戻し、なんとか危機を脱したものの、友人たちの争った形跡を、傷ついた彼らを目撃してしまった。・・・だれでも悪意に飲まれるよ。」


 ひたすら語り続ける天邪鬼。淡々と冷たく話すがどこか鈴蘭を甘やかすような言い回しが垣間見える。

 

 「どうしてそんなに親切に教えてくれるの?」

 不意に鈴蘭は疑問に思ったことを口にする。


 「僕は人間が心の底から嫌いなんだ。君が勝手に感じただけさ」


 やはり淡々と冷静に語る。まるで機械と話しているように話そうとしているのが鈴蘭には伝わってくる。


 「ならあなたの目的は?」


 「僕には力を使う制約があるんだ。仕方なく君に協力している。君の心が壊れない限り僕の意思で力を使えない。今は君の心が一時的に壊れた。でもちょっとした細工をされたみたいでね。君の心が壊れないように霊力が働いている。辛いことがあった時一時的に記憶を失ってしまう力がね。」


 「もしかしてお母さんに働いている力と同じ?」


 「そうだよ。果伊菜は自分の力を否定した。だから詩歌は月花、陽太に力を分け与え、果伊菜の記憶を封じることで普通の人間として暮らさせたのさ。だから数年前、月花、陽太が雪娘によって弱った時君は僕を呼べた。そして果伊菜も一時的に力を取り戻した」

 

 「じゃあ今はどうして?」


 「君は元々百合野一族と琴上一族の混血だ。正確に言えば果伊菜からだけど。」


 「えっ!?そうなの!?じゃあ私ってジン君と親戚なの!?」


 「まあそうなるね。ハトコだったかな?ジンは九尾と仁の兄、義の孫。君は仁と詩歌の孫。」


 「わたしに封印が解けたのは、二代の家系の力が備わっていたからなのか。・・・じゃあそろそろ、目的を教えてよ。」


 「君の知ってる通り琴上の人達は妖怪を決して認めない。だから半妖である恭は認められず、その息子であるジンも認められていない。僕はね、昔から琴上が嫌いなんだ。だからずっと壊したかった。なあ。ユリノ何も思い出さないかい?」


 「憶えてるよ、でもね。私も子供じゃない。今やるべきことがそうじゃないって分かってる。だから私はあなたの本当の目的を知りたいの!!」


 「そうか・・・そういうことか。ならもういいよ。・・・僕は天邪鬼だ。本当のことは言わない。決して君の願いだとしても。でもそうだな、思い出しても気がついて貰えないのは辛いな。君は彼のことばっかりだもんね。」


 淡々と話していた天邪鬼であったが、全身から霊力が溢れ出る。


 「僕を倒してみなよ。君一人で。僕が君を助けてあげるよ。今度こそ!!」

 

 強く意気込む天邪鬼。彼の瞳には鈴蘭そっくりの少女ーーーユリノが映し出される。





 

 記憶。いまでも容易に思い出せる。

 

 ユリノはどんな妖怪とだって接する少女だった。

 

 ユリノは白い美しい髪が特徴的で、人も妖怪だって、彼女を自分の妃に迎え入れたかった。僕だってそうだった。でも彼女には好きな少年がいた。

 

 彼の名前はゲン。琴上家で育った少年だ。今で言うジンの前世だろうか。僕は知っていた。この家で育つものは妖怪をいずれ憎むようになり、百合野の家系を苦しませる存在になると。

 僕には妖怪になる前の力、『アメノサグメ』としての力が備わっていた。そのため大抵の未来は予知できていた。


 だから僕は伝えた。


 「あの家は危険なんだ!!!いまなら、いまなら犠牲にならずにすむんだ!!わかってくれ!ユリノ!!」


 「分かっていますよ。女性は昔から殿方の些細な行動も見逃しません。前にゲン様は妖怪たちと遊んだ後手を拭っておられました。私に見えぬように、ね。他にも、色んなことがありましたね。あの家の方々は。神獣である九尾様を妖怪と知った途端、切り捨てて、八岐大蛇様を好いたウミという少女の目の前で八岐大蛇様を殺害し、天狗の家と深く関わった少女を殺害して、と。最後は私のようですね。」


 「わかってて、わかってて!!どうして!!!」


 「私は彼を愛してしまっているからですよ。」


 「あんな!!あんな醜い人間のどこをだ!どこにそんな要素がある!」


 「だから、あなたは皆さんを狂わせたのですか?」


 「・・・え?なにいってんだ?」


 「天狗、九尾、八岐大蛇、全てあなたが力を与え、妖怪としての力を増幅させた。」


 「ちがう!ちがうちがうちがうちがう!!!!!みんな良い妖怪だったんだ!なのに!なのに!みんな僕の言うことを聞いていれば人間なんかと関わらなければ!僕が忠告したとおりみんな裏切られた。だからさ、だからだよ!だから僕は彼らに復讐する力を与えた。」


 「私は妖怪も、もちろん、天邪鬼。あなたも好きですよ。だけれども、、それと同じように人間も大好きなんです。あなたを責めるつもりはありません。でも一つだけお約束してください。これから私に、私の家系、私の未来、私に関わる全てに何があっても見守ってください。私は誰も憎みません。いつか人と花が並び立つように私は願っています。」


 「なにいってるんだ!!何をするつもりだ!ユリノ!!」


 ユリノは着物から1つの札を出し、僕に向けて翳す。


 「私たち百合野の家系とともに生きていきましょう。居場所がないあなたの一時の居場所となりましょう。」


 「いやだ!!やめろっ!!僕は!!また主を救えない!!!」

 

 それから僕はセイナというユリノの妹に当たる存在に封印された。僕を封印してまもなくユリノは琴上家に赴き、妖怪を傷つけている一件を報告しまもなく、殺害された。

 

 ゲンはユリノは天邪鬼という妖怪に唆され、操られたと嘘の報告を受けたという。その後ゲンはユリノ一族を滅ぼしたという。最後までセイナの付き人である太陽の一族と月の一族に守られセイナのみ生き残ったと言う。後にセイナに封印された鬼は消滅しかけている座敷童子に『アメノサグメ』の力を付与し座敷童子を最後の鍵とした。


 そしてその後ゲンは一生自分のことを責め続けたと言う。

 

 後でわかった話だが、ゲンは純粋に妖怪と人を区別しない、何事においても平等に接するユリノを好いていた。そして自分もそうなりたいと。しかし天邪鬼の一件でその心は黒く染ったのであった。

 

 僕は後悔した。ユリノは正しかった。彼は純粋な少年だった。ユリノみたいなになろうと必死で妖怪と接していたのだ。

 

 今回だってそうだ。全ては琴上寺が悪いのだ。

 

 だからあの家さえ滅ぼせばいい。あと少しだ。

 義の妖怪を愛する気持ちを増強させ、カイの中にあったウミを目覚めさせ、琴上を破滅に近づけた。

 

 上手いことジンも恭も人間でありたいと強く願った。鈴蘭とはどうやっても敵対するだろう。

 

 いい感じで天狗も依代を見つけてくれた。抜け殻となったオロチ、もう時期九尾も来る。

 

 あと鈴蘭、そのユリノの器だ。最強の霊能者としての体。それを手に入れれば、あとは座敷童子に渡した『アメノサグメ』としての力だけ。

 

 全て揃えばユリノ。君と僕だけの世界だよ。








 

 一方、現実世界では。

 

 「・・・ちっ遅かったか。兄貴が余計なことしたせいで鈴蘭、覚醒したじゃねーか。」


 鈴蘭と座敷童子を襲った男。幌先咲がフードを深く被った男と交戦している。


 「建前をごちゃごちゃと。我が名をもって命ずる。我が名は栄介、意を君影草、『影』!月下影撃!!」


 栄介と名乗った男はフードを脱ぎ素顔を表した男は黒髪にボサボサの髪の毛、鋭い目付き、髭を生やしている。詠唱の効果か月明かりで出来た咲の影から刀が形成され咲を貫く。


 「ちっ!我が名は咲!!意は『草』!草の壁を作れ!!」


 瞬時に咲も詠唱するが省略したせいか威力はなく影の刀に吹き飛ばされる。


 「ぐわぁあああっ!!!」


 「言霊使いは瞬時の攻撃に弱い。そのために札を持ち歩く。もしくはユリノ継承者に助けてもらう。それが戦い方だ。」

 「人の継承者、後ろに侍らせてよく言うぜ。わかってんのか、琴上寺ほどじゃなくても百合野家はユリノ姫君を失ってから殻に閉じこもって厄災を恐れている。鈴蘭を殺害して、莉理を当主にしたがってるのもしたがってるのもそれが理由だ。鬼ごと、鈴蘭を殺すって言うな。」


 栄介の後ろに隠れていた莉理は顔を覗かせ、笑顔を浮かべる。


 「誰に何言われても私は鈴蘭ちゃんを助ける。だってユリノの名前を本当に継ぐのは鈴蘭ちゃんなんだから。私は誰かの代替品にはならない。私は私として生まれてきた役割を全うする。」


 「なんで、俺が悪者みたいになってんだ!!兄貴!お前だってわかってるだろ!薫にいさんは、一族に刃向かって殺されたんだ!俺はもう家族を失いたくない!」


 「従ったところでどうなる?俺の家族は鈴蘭と果伊菜だけだ。お前に命を狙われているだろ!!」


 「そうかよ、俺は俺でやらせてもらうぞ。鬼をこの世に放つわけには行かない。」






 

 一方呪いの家では。

 

 「な、なんだよ。鈴蘭、来たと思ったら鬼になったのかよ?」


 霊力の高まりのせいか、心のどこかで期待していた鈴蘭の姿が理想とかけ離れていたからか、ジンは絶望する。


 それを見ていた、モモコはジンの襟首を掴み、強烈なビンタをお見舞する。


 「いってえなっ!!!なに・・するんだよ?」


 突然の出来事に声を荒らげるジン。しかし泣きじゃくるモモコの顔に絶句し一歩下がり、そのまま、尻もちをつく。

 

 

 心が痛い。

 

 ジンは声が出なかった。

 

 親友を殺し、友を泣かせ、大切な人を壊した。

 

 不意に倒れた座敷童子の姿が目に入る。

 

 『お前は大切な人を守れない。』

 

 「・・・・・・俺のせいだ。」

 

 ポツリと出た遅すぎる答え。涙が止まらない。

 

 何をやってるいるのかわからない。何がしたかったんだ、その言葉が永遠に繰り返される。

 

 「・・・いいやお前は間違ってない。妖怪を全て殺すんだろ?ジン。」


 嫌な声だ。今、1番ジンが聞きたくなかった声。

 

 暗闇から赤く燃え上がる九本の尻尾が見える。

 

 刹那。炎によって天井や壁は崩落し、辺り一面は火の海となる。

 

 「これで会うのは2度目じゃな?ジン。」


 「鬼が隙だらけで立っているぞ?ジン?止めないとそれこそ人間では無いなぁ?」


 「・・・・・・っ!」

 刹那。空から大きな狐の獣になった恭とそれに乗った那月、仁が現れる。


 「こいつら九尾はワシとお父さんで片付ける。知っての通り因縁があってな。・・・・・・鬼をなんとかしろ、ジン。」


 「かっハーハッハッ!!!自分の孫を殺す気か?シノブ!!」


 シノブの話を聞いた義は吹き出し、シノブに忠告する。

 「・・・・・・孫って」


 ジンは困惑する。

 「鬼はこの世界の害じゃ。妖怪も皆!!!ジン、お前に無理ならワシが九尾を倒したあと葬り去る。鈴蘭をこの世界に誕生させたワシがな。」


 困惑する。何が正しいのか分からなくなる。でも。

 

 どうしても。胸が熱くてしょうがない。

 

 『今度は間違えるな』

 そう、誰かに言われた気がした。ジンは決意を固める。

 

 

 「俺・・・・・・変えるよ。鈴蘭。お前と一緒に。人間としてじゃなくて、琴上人として。一緒に、馬鹿みてえな家系変えようぜ。今更遅いってわかってるけど、だけど絶対!今の俺は間違ってない!!」

 

 ジンの周りを一気に霊力が包み込む。

 

 青い光を全身にまとい、そこにいた恭、シノブ、那月の力を吸収する。

 

 「この光は迷いを力に変える力。じっさまたちは結局躊躇ってたってことだ。分かるよ。なにをしたらいいか、分からないよな。」

 

 「息子にしてやられるとはな。俺ができなかったこと、いやしようとしなかったことをやるんだ。止めないさ。自分を信じろジン。家とか宿命とかそんなの気にすんな。お前にならできる。」


 恭は言うと膝をつき、何もしないことを誓う。

 続けて那月も同じように膝をつく。


 「私の力は妖怪を愛してる人にしか使えないの。あんたにそれが宿ったってことはきっと、私より相応しいってことだよ。私は苦しんでいるあんたやお父さんを支えることしか出来なかった。琴上寺の偉い人が怖くってさ。だからさ、あんたは何も気にせず、鈴蘭ちゃんを助けに行きな。それが一番あんたらしい!」


 那月は満開の笑顔でジンに伝える。

 

 「ワシはまだ戦える。この日のために力をつけてきたんだ。兄貴に大切なものを全て壊された!!」


 「じっさまだって、分かってるだろ。傷つくのは自分なんだ。俺が九尾も義のじいちゃんも救ってやる。そんで鬼も止めてやる。」

 

 「馬鹿なことを言うな!!お前に何が出来る!!」


 「なら、もし俺が全て成し遂げたら当主の席譲れよ?」


 にこっと微笑むジン。復讐に囚われていたあの頃の数倍のたくましさを魅せる。

 

 「だってさ、お父さん。」

 トンと後ろから肩を触る。現れたのはカイナ、月花、陽太である。


 「カイナっ!?どうしてこんな所に!?」


 「鬼の封印解けたのよ。記憶もこのとおり、力も使えるみたい。鬼の力は全部持っていかれてるみたいだけど。」


 「ならお主たちはなぜ?」


 鬼の力を分散させてあるのが月花と陽太の力の源である。そのため月花と陽太は何も力を使えない状況である。

 

 「それは、まあ色々あって。」

 見ると陽太にはオレンジの光が身体に迸り、月花には紫色の光が漲っている。どちらも以前の数十倍の霊力である。

 

 その様子を見てシノブは少し笑う。

 「落ちぶれたのはワシじゃったか。」

 

 「ジンは九尾を頼む。ワシは義を迎え撃つ。カイナ達は鈴蘭を!外にもウシャウジャ妖怪が出てきておる!那月と恭で何とかしてくれ!手が空き次第幌先と琴上寺、百合野一族が時期攻めてくる!鈴蘭を守り抜き、鬼をどうにかするぞ!!」

 

 それぞれが役割につく。

 

 そしてジンとシノブが九尾と義と対峙する。

 

 「気に入らぬな、その青い光。前世と繋がることで覚醒したか。」


 「まあそんなとこだな。あんたに長年掛けられていた呪いのおかげだよ。」


 「だがどうする?オロチの器は、お前の親友はお前が殺した。それは変わらない。」


 「わかってるさ。俺がもっと早く目を覚ませばこんなことにはならなかった。だから、何しても変わらないけど。これ以上間違わないことは出来る。だからさ。俺は戦うんだよ。その力があるから!」

 

 「綺麗事をごちゃごちゃと!!!!」


 横から殴りかかってくる義をシノブが止める。

 「兄貴!お主の相手はワシじゃ!!」

 義の腹部に蹴りを叩き込むと、霊力を高め筋力を上げ始める。


 「今ので温まったな!霊力が、コレでフル解放できる!!」

 長年蓄積されたシノブの霊力は限界をさらに超えていた。

 霊力を高め終えると見た目は若返り30歳前後の風貌となる。


 「人間ごときが!!!」

 同じく妖怪になり若さを手に入れた義の勘に触れたのか義も霊力を高める。

 

 そして殴り合いの攻防が繰り広げられる。

 

 一方隣ではジンと九尾の青い光と赤い炎がぶつかり合っている。

 

 「我の狙い通りオロチを殺してくれてありがとうな。」

 攻撃を続けながらも余裕で会話してくる九尾。

 「はは、まだ全然力使いこなさせねえ!!」

 

 「ほほう?守りで精一杯か。情けない。結局口だけか。まるで赤子と戯れている気分だ。」


 「なんでだ、体が動かねえ!!」

 「よそ見をするな!!ジン!!」

 「っ!?ぐっ!!」


 力を上手く扱えないジンは攻撃に対応しきれず、一瞬膝をついた隙を九尾に蹴り飛ばされる。


 受身を取ったものの威力は凄まじく壁際まで吹き飛ばされる。


 「だめだ、体が動かねえ・・・ちっ、ここまでか。改心すんの遅すぎたか・・・笑えねえよ。神様。もう少し、俺にチャンスくれよ!」

 

 「散々かっこいい事言ってそれですか!!アンタの覚悟そんなもんかよ!!鈴蘭もカイも、あんたが目を覚ますのどれだけ待ってたと思ってるのよ!!立って!!立って戦いなさい!!」

 

 ジンの泣き言をかき消すように九尾の攻撃を防いだモモコが大きな声で叫ぶ。

 

 「モモコ!?」

 「ちっ、仕留め損ねたか!!いくら無力化する力でもたかが人間。そう何度も霊力が持つかな!?」

 

 九尾は何度も何度も火の玉を形成し放ち続ける。

 

 次第に押され始めたモモコ。

 「くっそ、なんで、なんでだ!!!うごけ!!間に合わなくなる!!!なんのために決意したんだ!俺は!」

 

 何度も地面を叩き霊力を使おうとするが高まって下がるのを繰り返している。

 

 「ジン!!なにやってる!!っ!?しまった!?」

 ジンを心配し強い打撃を食らうシノブ。


 「お前もよそ見しんてじゃーか!!」

 義は嘲笑い、シノブを袋叩きにする。


 「サラバじゃ。天狗。そしてジン。ソナタのちからは我が頂こう。」

 

 それまでとは比べ物にならない火の塊を形成し解き放つ。

 

 モモコは羽扇子で応戦するが、霊力切れでその場に倒れる。

 「ちきしょー!!!!!モモコ!!!!!」

 

 刹那。一つの人影がモモコとジンを抱えて、九尾の攻撃を避ける。

 

 「・・・・・・さっさと立てよ。また決意鈍ってんぞ。」

 「・・・だれだ?お前?」

 「・・・さあ。誰なんだろうな。それはお前が決めてくれよ。俺はモモコを守る。ついでにお前も救ってやるよ。ジン。」

 

 そこに現れたのは紛れもないーーーーー野村海である。

 

 

 「・・・カイ、なのか?本当に?・・・でもどうして!?俺が・・・」


 「・・・オロチが九尾にやられるわけないだろ。俺は野村海、前世はウミ、そして今世は人間で唯一、八岐大蛇の力を継承した男だぞ?」

 

 カイの霊力は今まで見た誰よりも洗練されている。

 

 「まあ簡単に言えば一回死んだ。でもまあ俺って魂三つあるみたいでそれが一つになった。詳しいことはよく分からないけど、俺はウミとオロチと融合した存在らしい。感覚みたいなものだから、なんとも不思議な感じなんだけど。だから、鈴蘭の足止めぐらいはできるはずだ。」


 「なんなんだろうな。笑えてくるよ、お前。もともと普通の人間なのにさ、モモコの時も自分から契約上書きして、たまたま前世と繋がってとかさ。・・・今度は蘇ってとんでもなく強くなってさ。・・・・・・でもよかった。またお前と会えて。・・・本当にすまなかった。」

 

 ジンは笑いながら泣きじゃくる。

 

 「へっ。気にしてねーよ。お前に迷惑かけられるのはガキの頃からだろ。・・・あとはやれるな。もう恐れんなよ。お前はお前でしかない。」


 カイはジンの肩をそっと叩く。

 「ああ。やっと立ち向かえるよ。」

 

 カイは気を失っているモモコを抱き抱える。

 「モモコ。助けに来たよ。全部終わったらみんなでどっか行こうな。」

 「・・・そこは二人で、とかじゃないの。フツー。」

 目を開けて、少し涙ぐんで、不貞腐れたように話すモモコ。

 

 「なんだよ、起きてたのか。・・・・・ずっと会いたかった。・・・でも俺行かなきゃ。今鈴蘭止められるの俺だけみたいだし。」

 「わかってる、でも」

 モモコはカイの首に手を回す。岩陰に隠れて何をしているのかはわからない。

 

 「行っらっしゃい。」

 「おう。」

 モモコは少し頬を赤らめ、カイも少し恥ずかしがりながらモモコをそっと下ろし、鈴蘭の元へと向かう。

 

 「全く、2人ともイチャつきやがって。っ!?おっと」


 1人ボヤいていると九尾の攻撃がジンに当たりそうになる。

 「ほう?先程より見極めが出来ているな?」


 「俺はどうしても、あんたから受け継いだこの力に嫌悪感がある。だから力を使うのが怖かった。自分に戻れなくなるって。だから力をセーブしていた。でもさ、俺は俺なんだよな。この力を含めて。最後の決意が埋まったよ。」


 ジンの瞳の色が金色に変わり、髪の毛も銀髪へと染まる。動物の牙のように髪は逆立ち、後ろへと伸びてゆく。全身を取り囲むように青い光が青い炎へと変わる。霊力がさらに高まり九本の青色の尻尾が生えてくる。筋肉は膨張し、爪は伸び、牙が生える。


 「迷いは消えたぞ。力もコントロール出来る。今の俺に敵はいねえ。」


 普段よりもワントーン低くなった声に凄まじい霊力の膨張。

 これがジンの本来の姿なのだろうか。

 

 「っ!?これは!?ハッハッ妖怪の道を選ぶか!ジン!!」

 「口じゃなくて体動かせよ?止まってんぞ?」


 瞬時に九尾の懐に入り込み、爪で腹部を引き裂く。回転し連撃を繰り出し、反撃してきた九尾の蹴りを同じく蹴りで打ち返す。


 「やるな!楽しくなってきたぞ!ジン!!」

 「だから止まってんぞ?」


 後ろに瞬時に回り込み肘で首を叩打する。強烈な打撃音が響く。そのまま状態を崩したが下蹴りをかましてきた九尾を避け、空上から腹部に蹴りをお見舞する。


 九尾の悲痛の声が響く。


 ジンは手に霊力を込め、九尾の尻尾を根こそぎ掴み、まとめ縛るとグルグルと回転させ吹き飛ばす。


 滞空時間中にジンは大量の青い炎を形成し全弾命中させる。


 煙が上がり、九尾がボロボロの状態で現れる。


 「ま、まさかここまで差がつくとはな。・・・殺せ。お前にとって我は忌むべき存在だろ。殺されて当然のことをした。」


 「しないよ。・・・・・・だって、おばあちゃん、だろ?」


 「・・・そうか。私は・・・・・・。いやもう遅いか。我はお主たち人間を許しはしない。そっちには行けぬ。琴上は人を裏切り、妖怪を忌み嫌う。・・・・・・変えないとお前はまた繰り返すぞ。」


 「わかってるさ。だからこそ、俺は鈴蘭と変えていくんだ。」

 

 「色々、義とやってきたが。最後に救われるとはな。義、弟と仲直り出来たか。」

 

 「一生出来そうにないなあ。」

 見ると向こうも戦闘を終えている。

 

 「兄貴。どうしてだ。どうしてなんだ。ワシに話してくれれば、琴上は変えられたのに!!」


 「そうかもな。・・・・・・恨みつらみは遺伝なのかなあ。復讐もあったけど、きっと俺は九尾を救いたかった。それだけなのかもな。」

 

 九尾も義も体が消えかかっている。

 

 「どうやらお別れだな。シノブ、恭、ジン、あとは任せたぞ。」


 義は最後にそう口にし、九尾に手を伸ばし消えていった。

 九尾もそっと義を見つめ、消えていった。

 

 シノブはその場に倒れる。

 「ジンすまぬ。ワシはもう、限界じゃ。鈴蘭を頼むぞ。今のお前なら助けられる。ワシみたいにはなるな。・・・面倒なお偉いさんはワシがまとめておく。あとは任せたぞ。次期当主。」


シノブは疲れたように、安心したように、そっと涙を流しながらジンに全てを託す。

 

 「じっさま。・・・わかったよ。」

 

 こっちの家系の問題は片付いたよ。鈴蘭。こんなに命って尊かったんだな。


「俺は、罪を償っていくよ。九尾や義じいちゃんみたいに人間を憎んでしまう存在を作らないために。俺みたいに妖怪を憎む事をしないために。」

 

 永きにわたって復讐の呪縛に駆られていた琴上家はジンの覚醒によって解き放たれた。

 

 カイも復活し、残るは鈴蘭と鬼との戦い。そして幌先や百合野一族との因縁のみが残った。

 

 鈴蘭は鬼を救うことができるのだろうか。

 

 

 

 

 「コレで準備は整ったよ。鈴蘭。君を僕のものにする。僕といれば君は安心なんだ。」

 

 「っ、はぁはぁ。絶対、意識取られたりなんかしない。あなたも救う。『人と花は並び立つんだ!!』」

 

 鈴蘭の体は光り出す。

 「ユリノ!?」

 以前ユリノの発した言葉に天邪鬼は息を飲む。

 

 「私はやっぱり、人間も、妖怪も大好きだから。負の感情に飲まれたりはしない!!前世でもそう言ったよね。待ってる人がいるの。いや、私が会いに行かないといけない人なの。」

 

 「また、それかぁあああああっ!!!!!!琴上家は君を殺したんだぞ!!!!」

 

 「知ってる。みんな殺された。それから私の家系は悲しみの家系として、霊力を増し続け、掟を守り続け、命を守り続けた!」

 

 「それがなんだ!!!結局君は!琴上と交わった存在だ!だから百合野一族、幌先に狙われている!」

 

 「私がいけなかったんだよ。あなたを納得させないまま封印した。分かり合うまで話すべきだった。居場所になるんじゃなくて救わなきゃいけなかった。だから私は何代もユリノとして生まれ変わって妖怪と人との道を模索した。」


 「結局何も出来ていない!!!」


 「だからみんな生まれ変わって、悩んで、ここまでたどり着いたんだよ。何回も生きて、失敗して、失って、今だからこそ、積み重ねてきた命があるからこそ、私たちは選択するの!」


 鈴蘭は指先に霊力を集中させる。

 「訪れる幸せのために!」

 光は札となって強大な力を発揮する。

 「ユリノ!!僕を一人にするなぁああっ!!!!」

 

 「我が名をもって命ずる。我が名は鈴蘭。我が望む幸福な世界へ!!」

 

 鈴蘭が叫ぶ!!すると世界は黒から白く染まり、鈴蘭と鬼の間にあった呪縛を解き放つ。

 

 

 「現実に戻ってもまだ終わらなせない!!!全て消し去る!!!」

 

 「分かってるよ。今度はちゃんと向き合うから。」

 

 鈴蘭は優しく微笑み、精神世界を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ