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残酷な再会


あの日から5年。鈴蘭は高校生になっていた。もちろんそれは琴上人も同じことだ。


 鈴蘭はこの5年彼を忘れたことは無い。彼は人間側の被害者というべきだろうか。鈴蘭の家系と因縁のある家系だ。


 鈴蘭は自分のこと、ジンのこと、妖怪のこと、長い間見せられた先祖達の悪夢のこと、それらをずっと調べていた。

 

 あの雨の日鈴蘭はジンとただ話したいことがあっただけなのだ。鈴蘭が見た夢は自分の先祖達の悪夢だけではなくジンの家系の悪夢も同じように流れてきたのだ。


 その夢では二世代の悪夢が淡々と音も無い映像で流れてきた。

 

 今でも鈴蘭は目を瞑ることであの日の悪夢を鮮明に思い出せる。

 

 

 鈴蘭は自室で一人目を閉じた。

 

 

 ある日、平穏に暮らしていた琴上家の人達の前にヤマタノオロチと名乗る巨大な蛇の妖怪が現れた。


お寺の一番偉い人は神の怒りを沈めなければならないと村の一番綺麗で人柄もよく清い少女を生贄にすることで怒りは静まるといった。


選ばれたのはウミという少女であった。偉い人の言うとおり娘を差し出すとヤマタノオロチは娘を連れどこかへと消えていった。


だがそんなことを許せない少年が一人いた。その少年は琴上家の跡取りで後の当主であり意を唱えたが聞き入れて貰えなかった。少年は力を欲した。多数を守るために大切な人を失うのならそれを打ち滅ぼせ、と。そう少年はウミを愛していたのだ。


その日の夜少年はオロチをたった一人で殺しに行くことを決意しオロチの眠る場所へ静かに向かった。向かった先でオロチはウミを大事そうに抱き抱えて眠っていた。少年は少し安堵した。殺されていなかったと。今助けてやるからな、と。


オロチに刃をつき立てようとしたが起きたウミによってそれは止められる。


 なぜとめるのだ、ときくと、ウミは言う。彼はただ人と仲良くなりたいだけだと。そんな言葉は嘘であると少年は強く言ったが聞き入れられず、ウミはこう言い返した。このたった短い時間であったが私は彼を愛してしまったと。


その言葉が運命を狂わせた。オロチを殺してやると怒りに駆られた少年はいったんそこを離れウミに納得したよ、と告げる。


そしてそれなりに月日が流れた頃オロチは巧妙な罠を貼られスサノオノミコトにうち滅ぼされた。


そしてウミは心を壊した。それを支えるようにして少年はウミに寄り添い続けた。


数年が経ち少年は琴上家の当主となりスサノオノミコトから貰った刀で妖怪を討ち滅ぼすことを誓った。その姿を見たウミは確信した。すべてこいつの仕業であると。


ウミはその日のうちに少年を殺害した。どんどんウミの心が薄汚れていくのがわかった。


そしてそのあと呆気なく琴上家の人間に恨まれウミは殺された。そして気がついた頃にはウミの恨みつらみが形となり討ち滅ぼされたオロチを真の妖怪へと覚醒させ妖怪と人間による最初の争いと憎しみの連鎖が生まれた。


それからしばらく経ちお互いに協定を結ぶことにした。誤解があったと一人の若者が声を上げたことで争いは簡単に収まった。しかしその若者は翌日琴上家の人間に殺された。妖怪を信じたものは滅ぼす。それが琴上家の信念となっていた。


長い年月が流れ琴上家に二人の男の子が生まれた。義と仁。ジンの祖父とその弟。彼らは妖怪を憎む琴上家に生まれてそのまま育てられたが不思議と妖怪を愛すようになっていた。


琴上家に新たな風が吹いた瞬間だった。しかしそれは義が琴上家の秘密、つまり妖怪を全て滅ぼすという企てを知り、これまでの悪行を知ることで悲しみの連鎖は繰り返される。


そのタイミングで世界の均衡は崩れた、人間を愛したが人間に殺され神獣から妖怪になった九尾が人間を憎む義に力を貸し子を授かった、ジンの父親、恭、どちら側にも敵対する存在が誕生した。


そして状況はさらにおかしな方向へと進む。誰も信じれなかった恭を一人の少女が救った、ジンの母親、那月。そしてそれが定められた運命のように琴上人は生を受け恭同様全ての一族、種族から監視された生活を送り、彼は人であるために妖怪を滅ぼす道を選んだ。


つまり琴上家の人間として妖怪を滅ぼす運命を選択したのだ。それはつまり妖怪全てを敵に回し、鈴蘭も敵に回す、ということだった。





 

 

 ここまでの大雑把な過去、未来、があの日鈴蘭には映し出されていた。

だからそうなる前に止めようと意識が朦朧とする中鈴蘭はあの日さまよっていた。そんな時モモコに遭遇しカイがジンを止めようとしていることを知りその場へと急いだが、結果は何も変わらなかった。


あの日百合野莉理に言われたこと、それだけが運命を変える手立てだと信じて今までちゃんと向き合うことを避けてきたことに目を向け、そしてジンを説得する、それが今鈴蘭を動かす原動力だった。

 

 「・・・とは言ってもこれが限界、そろそろ教えてよ。座敷わらし、知ってること」


 「なにを教えろと?九尾、大蛇、天狗、琴上家の大まかなこと、だいたい分かってるじゃないか。」


 「大蛇、九尾、天狗はどれも微妙だよ。調べたって伝承や逸話ばっか、先祖の亡霊が見せてくれる過去からなんとなくで考えていくしかない。それに大切な記憶だけ見せてくれていない。」


 「お前の一族のことか。そして鬼のことだな。」


 「先祖達の記憶なのに不安や恐怖ばかりが切り出されていく感じなの。なんでそうなったのか、何があったのか、それは分からない。」


 「それがわかっていたならそんなこと起きやしないさ。あの女は色々調べたり、準備をしろ、と言った。あんたは思いつく限りのことはやったさ。あとは運命が導く。」


 たしかに座敷わらしの言う通りだった。鈴蘭は調べ物の他に力の使い方を月花に学んだり妖怪とのコミュニケーションをはかったり色々行ってきた。でも結局はなにも成果を出せていない。それが鈴蘭の考えだった。


 「あんたの家のことはそのうちすぐに分かる、おおよそ理解してる、詳しい話を知らないだけ。ほかも同じさ、そんなこと当事者にしか分からない。特にジンの気持ちなんてアンタがそうかもなって感じただけで違うかもしれない。他に事情があったのかもしれない。大蛇も今現在どうなっているかなんてのはわからない。九尾もなぜ義に力を貸しているのか、子供まで作って、数年待って恭じゃなくジンなのか、そう考えるとキリがない。」


 「そうだけどさ・・・これで本当に良かったのかなって、色々やってきたけど本当に意味があったのかなって。」


 「さあね。それはこれからわかるさ。でも確実に意味はあったさ、アンタは着実に運命に向き合っている。少なくとも背を向けたジンとは違う。それにあれから5年、あの頃やらなかったこと、後悔したことを糧に頑張ったんだ。前のあんたとは違うしそういった気構えが出来ただけでも今後の力になる。違うかい?」


 「・・・違くない。はぁ。今年で封印が解ける。私は私のやれることをやる!」

 

 鈴蘭は気合いを入れ直し自分に言い聞かせた。





 

 

 翌日。モモコは近所の公園で鈴蘭を待っていた。


 今日鈴蘭と遊ぶ約束をしているのだ。カイ、ジンとは離れることになったがモモコと鈴蘭の仲は続いていた。

 

 「ごめん!!ちょっと、委員会あって!!これから向かうね!!」


 通話越しに焦っている鈴蘭の声が響く。

 「しってるよ、無理しなくいいわよ。私待ってるから、それじゃ。」


 これはいつものことだった。あの日から鈴蘭は活発的になった。何かを変えようとしているのが誰の目からみても明らかで意地っ張りで他者と関わりを持とうとしなかった小学生の頃とは打って変わって現在は人気者の生徒会の役員だ。


 モモコは鈴蘭と張り合うのをやめてお互いに高め合うような関係になっていた。だが、ステータスの高さから周囲とは上手く馴染めず取り巻きも煩わしくなりやめた。その結果孤立し男子からは高嶺の花などと言われるような存在になっていた。

 

 「あ、あの宮ノ森さん!!ぼ、ぼくと!!」


 唐突に同じ学校の制服を着た少年が目の前に現れ、勢いよくモモコに話しかける。


 「私、好きな人いるから」

 それをなにも感じないのか、慣れているのか、バッサリと冷たく切り捨てる。


 「えっ!?ぼ、ぼくまだなにも!」

 少年は焦りを見せた。


 「告白でしょ。私今人待ってるの」


 見透かしたように言う。瞳の奥は遠くを見つめている。


 「そ、その好きな人ですか!?それとも鈴蘭さんですか!?」


 まだ少年は食い下がる。

 「別にどーでもいいでしょ」

 面倒くさくなり適当に流す。


 「ぼ、ぼくは知ってるんだ!あんた好きな人いるとか言っていつも振ってるけどそんな人いない!告白をあしらう為に言ってるんだ!!」


 少年は息を荒くし食い下がる。ただの告白とは思えない執着が垣間見えた。


 「どこ情報よ、それ」

 だから探りを入れる。おおよそ検討はついている。


 「君のクラスの女子から聞いた!!みんな言ってますよ!!あんたは人を下に見てるって!!相手してあげてる鈴蘭さんが可愛そうだって!!知ってますか!?あなたがいることで鈴蘭さんはいつも呼び出しをくらったり、生徒会長への推薦を後回しにされてるんですよ!!」


 「そんなの誰でも知ってるわよ、もーいいでしょ、ダルいよあんた。どーせクラスの女子にでも脅されたんでしょ?言っとくから。もう安心して。」


 そのなんでも見透かしたような発言の仕方に少年は怒りを露わにする。


 「くっそ!!アンタが、あんたさえいなければ!!」

 「ちょっ!?」

 モモコは急に押し倒されキスを迫られる。

 

 そして遠くでカメラの音と女子の笑い声。


 「・・・やられたな」


 自分も成長していなければ同じことをしていた。

 モモコはそう感じた。


 「・・・そういやカイにはいつも助けられてたっけな」

 走馬灯のように一瞬思い出が再生される。

 

 『次は俺が!必ず!!』

 幼い頃のそんな記憶。

 

 「えへへ、抵抗しないんですか!?しちゃいますよ〜」

 

 刹那。

 男はモモコの前から消えていた。

 数秒、遅れて遊具の方で大きな物音と共に苦痛の声が響く。


 目の前には黒いパーカーのフードを深く被った青年がポケットに手を入れて立っている。


 「大丈夫みたいだな。安心しろ、写真とかは消させてる、待たせて悪かったな。お前のことはいつでも助ける。約束したからな。弱い俺を助けてくれたお前を今度は俺が守り続けるって。」


 「・・・あなた、だれ?」


 「知らなくていい。きっとお前は全て分かっちまう。アイツは俺がなんとかするから鈴蘭と楽しんでこい。」


 男は言うとスタスタと歩いていき入れ違いになるような形で鈴蘭がかけてくる。

 

 「ん?どうしたの!?砂場遊びに熱中!?」


 公園の砂場に倒れていたモモコを見て小馬鹿にしたように言う鈴蘭。


 「違うわよ。いくつだと思ってるのよ。いくわよ」


 「え!?違うの!?・・・ところで今の人は?見覚えあるんだけど」


 「気の所為よ、きっと。あっ30分遅れたせいで割とめんどくさいことになったから今日アンタの奢りね」


 「えーっ!?知らないよーそんなのー。めんどくさいことになるのいつもじゃんかー」


 「・・・うっさい」


 






 2人は行きつけのファミレスに来ていた。

 

 「さっきの・・・もし、カイだって言ったらあんたどーする?」


 「どーだろ、カイくんって感じはしなかったけどね。それにもしカイくんなら顔見せてるしモモコちゃんに抱きつくよーきっと!」


 「あんた、私をいじるようになったのね〜まあそんな冗談は置いておいてカイじゃないって言うのも違う気がしてね。」


 「元カノの勘ですね!!」

 ニヤつきながらいじる鈴蘭。

 「あんたね。」


 それをすかさず鋭い眼光で返し飲んでいた飲み物を片手に掲げ飲み物をかけようとするモモコに鈴蘭は立ち上がり謝罪する。

 「ごめんなさい!!!」

 

 数秒の間の後モモコは遠くを見つめながら呟く。


 「ともあれアイツなにか抱えてる感じがしたのよ」


 「モモコちゃんは気にしなくていいよ。なんとなく察しはついてるから。」


 意味深めいた鈴蘭の話し方にモモコは浮かび上がった疑問を問いかける。


 「・・・カイもジンくんとなにか関わりある家なの?」


 「カイくんには無いはずだよ。気になるの?」


 「まあ、そりゃ。あれから話してないし、あの日から別人みたいに私を避けてたって言うかその割に今日みたいに助けてくれたりとか・・・」


 「そうだね。私ね実は調べてたんだよ。カイくんのこと。今日の夜前に行った呪われた家あるじゃない?あそこ行くといいよ。気になるならね。」


 その家は小学生の頃鈴蘭とモモコが対立していた頃に訪れた場所。オロチの一族に支配されていたその家はジンの活躍により死者の残す憎しみなどは取り除かれたが現在でもいわく付きの物件で誰も手出し出来ていない。


 「なにそれ?私に危ないことさせる気?」

 「モモコちゃんなら大丈夫じゃない?」

 「どういう意味?」


 「私の口からはなんとも。まだその時じゃないってモモコちゃんも分かってるでしょ?私も確証はないし。」


 「なるほどね。周りのことばっかは一丁前に調べついたわけだ。」


 「んーそれもあるけど。カイくんのことは私が出る幕じゃないんだよね。もし今どーこーできるって言うならモモコちゃんかジンくん、だね。考えてみたらさ、私全然カイくんと話してなかったんだよね、実際カイくんってずーっとモモコちゃんかジンくんの話しかしないし。でもそれ見てるのさ、すごく好きだった」


 懐かしそうに話す鈴蘭にモモコは微笑ましい顔をしあの少年の笑顔を思い出す。


 「そうだね、アイツは周りのことばっかのやつ。自分のことは後回しなのよ。今までのあいつのこと考えたらなんとなく分かるんだよ。変わったのはあの日。いやもっと前からあたしが大蛇にいいように使われた時からカイは何かを抱えていたんだと思う。」


 「そーだったのかもね。私には無理だけどモモコちゃんなら彼を救ってあげられる。だからカイくんのことは任せてもいい?」


 「任せるも何もアイツを助けてやるのはあたしの役目なんだから、誰にも譲ってやんないわよ。だからアンタはあんたのやるべき事をしなさいな。」


 「わかってるよ。言われなくても!」

 

 行きつけのファミレスを後にした二人はすぐ分かれる。

 お互いのやるべき事のために。






 

 「あの娘に任せてよかったのか?鈴蘭。」


 タイミングよく鈴の音が聞こえ鈴蘭の背後には座敷童子が現れる。


 「カイくんはオロチと契約した時モモコちゃんには危害を加えないことを誓ってる。だからモモコちゃんは死なない。モモコちゃんしか彼を救えない。」


 「もう1人にその契約が通じるとでも?」


 「通じるよ。だから私はオロチを殺そうとするジンくんを止める。この前あったジンくんはあの日と同じ目をしていたから。きっとオロチと繋がりがあるカイくんは殺すはず、たとえ友達でも。でもそんなこと私がさせない。」


 強い決意を見せる鈴蘭。座敷童子はその瞳に詩歌やユリノと姿を重ねて見ていた。


 だが、それがほんの一瞬の隙を見せた。

 

 刹那。

 背後にいた座敷童子の体から血がふきでる。

 

 「お前が兄貴の娘か。聞くまでもないな。兄貴と同じ性格で姫君と同じ顔、そして間違うはずもない鬼の力の圧。やっと見つけたぞ。」


 背後に現れた青年は全身を黒で統一した姿で佇み羽織っているジャケットを整えながら淡々と話す。


 「あなた誰?なにしてるか理解してるの?私の友達を傷つけたのよ?」


 鈴蘭は怒りの眼差しを向ける。そして瞬時に座敷童子を抱え距離をとり座敷童子に回復術式を展開する。


 「鈴蘭、いいから、わ、ワシはいいから逃げ・・・て」


 「は?妖怪風情が俺を無視して会話すんなや、死ぬのはやまんぞ。」


 強烈な言葉の言い回し。まるで初対面ではないかのように冷たく雰囲気が凍りつくのが鈴蘭に伝わる。


 「はは、幌先の人間が、百合野にもワシにも手を出せないのは知ってるぞ?」


 座敷童子は何かを知ってるかのように話す。


 「ばかか?お前。ならこんなとこに来ないんだわ。・・・そーか、お前記憶少し抜け落ちてんのか?なら教えてやるよ。幌先の家における禁忌、鈴蘭、お前を消せと命令が出た。百合野鈴蘭はこの世界に一人でいいってことさ。兄貴が狂わせた、だから弟である俺が止めて終わりだ。」


 「ほろ、さき?」


 自分と同じ名字、聞いたことのある名前、自分を殺せというどこから指示されたか分からない命令、多すぎる情報に鈴蘭は唖然とする。


 「んだよ、兄貴、娘にも記憶消させてんのかよ、話すのだりーから、ま、行ってこいよ。一応姪だしな。全部知って殺してやんよ。」


 淡々と話していた男は気がつくと優しい話し方に変わる。

 「待って!私はやることがあるの!全部終わったら殺されるから、今だけは見逃して!!」


 なにか、良くない事が起きる気がして鈴蘭は我に返り死を先送りにするよう頼み込む。


 しかし、男は静止せずに霊力を身体にかきあつめそれを言葉として発する。


 「我が名をもって命ずる。言霊・咲、知りうる過去を遡り、記憶の花を咲かせろ。」

 

 「すずらァああああああああああん!!!!!」

 

 鈴蘭はその場に倒れ眠りについた。








 

 一方。同時刻

 

 「連続して人が死んでいる。そしてその全てがここで完結している。よお、また会ったたな、あの時仕留めそこぬた方のヤマタノオロチさんよ?」


 黒い部屋の一室。1人佇む青年は黒いパーカーを深く被り薄らと青い目を輝かかせる。そしてジンを視界に捉えたことで感情を爆発させる。


 「琴上人!!!!!琴上家は全て滅ぼす!!!!!」


 「俺たち4人が繋がりが強くなったあの日、呪いの家で俺がお前を仕留め損なった、カイは体を奪われた、なら俺がケジメをつけるよ」


 目の前の青年に向けてたのか誰に向けてなのか分からない小声でジンは呟く。


 「お前がお前がお前がァああああああああぁぁぁ!!!オロチ様を殺したんだ!!!」


 ジンにとって身に覚えのないことを叫び始める青年。


 「狂ってやがるな、誰ももう殺させない、お前にそんなことさせない、恨むなら俺を恨め、カイ。お前を殺すことしか出来ない俺を、妖怪を殺すことしかできない俺を!!!!」


 頑なに変わらない意志を力に変えジンは叫び全身に霊力を高める。いよいよ戦闘が開始されようとしている。しかしーーー。

 

 刹那。扉が開かれ夜の月の光が扉を開けた少女ーーー宮ノ森桃子を照らす。

 

 モモコは迷っていた。しかし瞳にカイを捉えたことでその瞳は決意に変わった。

 

 「・・・・・・均衡の天秤は今降りた。事象は確定せず均衡を保て。我が肉体を捧げん。」


 光がモモコの全身を包み込みモモコの姿は神々しくも儚い姿へと変わった。全身を着物で包み込み背中には黒い翼、履物は下駄と現代にはそぐわない、そして何よりもその黒き翼が人間らしからぬ姿を一層増してみせている。


 右手から術式を展開し葉型の団扇を作り出し自らの顔の前に翳し妖艶な瞳でジンとカイを見据える。その力の圧なのか周囲の雰囲気は凍りつきジンは動けなくなっていた。

 

 「か、体が動かねえ」

 

 「世界の規定に従え、人間!」

 モモコは口をゆっくりと動かしたあと手をゆっくり伸ばし羽団扇で仰ぐ。

 

 「おまえ、くっそ、モモコてめえもなのか!天狗に体を売り渡したのか!」


 ジンはモモコのその独特な見た目、圧倒的力、そして羽団扇、その特徴から大妖怪の一体である天狗と判断したのか大声で抗議し対抗を見せる。

 

 「吹き飛べ、半端な狐、お前の出る幕ではない」

 しかしそんな抵抗も虚しくふた振り目の仰ぎでジンは吹き飛ぶ。

 

 「くっそぉおおおおおお!!!」

 ジンは叫びながら飛ばされ部屋を突き破り隣の部屋へと吹き飛ばされ意識を失う。

 

 「迎えに来たよ、カイ。」

 ジンが戦闘不能になったのを見届けるとモモコは優しく微笑む。

 

 「あやつを殺すのは私の役目だ。邪魔をするな、娘。」


 「邪魔するよ、カイ。」


 「あと数時間で封印が解ける。私は消える。あの家の人間は全て殺さなければならない。」


 「・・・あの人殺しても何にもならないよ。この世界じゃあんたはさ、あいつの親友なんだよ。馬鹿やって封印されるぐらいには。」


 「お前、私のことを知っているのか?」


 「知ってるよ。野村海、前世ではヤマタノオロチを愛したウミ、そして琴上家をすごく恨んでいる。」


 「オロチ様と今世の私に免じて見逃してやる。失せろ、天狗の娘。私はあやつを殺す。琴上家を滅ぼしてこの世界を終わらせる。」


 「そんなこと意味ないんだよ。あんたはこの世界でオロチとして妖怪として生きてきた、そしてこの家で私と契約して、カイと契約した。今世の自分と契約したことで人を愛したヤマタノオロチが復活した。そしてあなたも記憶を取り戻した。何かのきっかけでカイは意識を失って眠ってしまったためにウミ、あなたが主人格となった。」


 「そうさ、私は人としての体を取り戻した。昼はオロチ様に夜は私が。」


 「もう終わりにしようよ。私は契約した時あなたの記憶を見てしまった。今あなたが殺そうと滅ぼそうとしてのはあなたの子供たちなんだよ?もうあの頃とは違うんだよ?帰ってきてよ!!!カイ!!」


 「くっ、モモコ、あなたの声はこの体には毒みたいね。自分が浄化されていくようで気持ちが悪い。何も考えていなかった昔の私を見ているようで気持ち悪い!!」


 フードを脱ぎ顔を露わにするウミ。その姿はカイそのものだった。数年たったとはいえ面影を残すどこか大人びた顔。自分をまるで見ていないその瞳。


 「やっぱりカイは海だよ。どこまでいったって誰になったってあなたは人のことばっかり。自分のせいで琴上家は穢れたまま、さらに悪化したって思ってるんでしょ?怒りに任せて当主を殺した。その事を嘆いているんでしょ?自分のせいでおかしくなった当主を救えなかったって。妖怪と人間の闇を産んでしまったって。」


 「何故そこまでわかってて私を止める!!!そこを退け、あいつを殺して全て終わりなんだ!!!この歴史を終わらせるんだ!!!私は見てきたんだ。お前たちのことも。なぜなんだと。流れてくるオロチの心に悲しみ、道を違えなければならないお前たちを嘆き、私は気がついたのだ。私が妖怪になったように、天狗、オロチ、九尾、鬼、座敷童子が集まったように、琴上と百合野が出会えたように、また次があるのだと。」

 

 「だから!!!やり方が間違ってるのよ!!!世界は変わってきてるの!これから同じ道を辿るために頑張ってる奴がいる。人のために体張って眠ってる奴がいる。自分の存在が揺らぐの恐れて震えてる奴がいる。それを救えるのは私たちでしょ?これからなの!この世界は!だからそのために一緒に戦おうよ。立ち向かおうよ!」


 「ふっ、そうか。でも私はこの体でたくさんの人の命を終わらせた。もう手遅れだよ。5年間、いや、1000年以上も私は心を黒く染めてきた。今更ダメだよ。モモコ。止めたいなら私を祓って前世の亡霊から解き放って、この世界の私と生きてやってくれ。」


 「できないよ・・・そんなこと。」


 「祓われたいようなら俺がやってやるよ。オロチ!!!!」


 意識を取り戻したジンがオロチ殺しの刀を振りかざす。

 「まだそんな刀あるんだ。」


 しかしそれをいとも容易く避けジンを蹴り飛ばす。ジンはまたもや吹き飛ばされるが今度は上手く受身をとる。


 「ちっ、てかなんだよ、さっきより落ち着いてやがるな?モモコに当てられたか?カイ。」


 「ジンくん!その人はカイなんだよ!だからやめて!」


 「うるせえな、モモコ。止めたいならさっきみたいにしやがれ。前世だ?今世だ?知らねえな。俺は妖怪を殺すだけだ!」


 立ち上がりまた刀を振りかざすジン。


 「まだそんなこと言ってるの!?あんた、いくつよ!!!鈴蘭も変わった、私も変わった!この大切な5年あんたは何してたのよ!」


 「たしかに、な。何も変わってねえよ。でも妖怪さえいなければみんな幸せなはずなんだ。だから俺がこの世界を解放すんだ。」


 「なんでなのよ!どうしてみんなそんなに馬鹿なのよ!!!!」


 モモコが両手を広げる動作をする。すると交戦中だった二人がいとも容易く壁際へと飛ばされる。


 「均衡と天秤の力か。ありえねえくらい強いな。当たり前か、封印が解ける前とはいえ三妖怪の器が揃ったんだ。決着がつくわけねえ。」


 均衡と天秤の力。ジンが語るその天狗の力とは善と悪両面を持つ天狗にのみ許された力であり全ての力を無力化する力である。しかし無力化するのみで決着のつくことの無い負けない力である。

 

 馴染みのある人達との再会によりジンはあの日を思い出さずにはいられなかった。

 

 アイツならみんなを救ってくれるのにな。アイツなら俺を助けてくるのにな。ジンは口では、行動では妖怪を襲っている。しかしどこかで誰かに止めて欲しいと思ってしまっていた。そのため刀が何度も鈍る。だかそれは本人が認めない心の奥底のこと。それをほんの少し意識した時だった。


 そんな心の隙間を黒く心の傷が抉る。

 

 『気持ち悪い』

 ジンのふとした記憶、トラウマが自らの獣を呼び覚ます。

 

 「ああ。また、これかあっ!ぁあ、くっそ。頭がァああああ!!!」

 

 『攻撃と魅惑の九尾』の力。あの日からジンは自分感情を抑えられなくなっていた。天狗が均衡と天秤の力ならばオロチは防御と癒しの力、そして九尾の力は攻撃と魅力の力であり溢れ出る力と人を支配する力、オロチのみ無効化できる力だが現在オロチは眠っておりカイの前世であるウミが体の主導権を握っている。いくらオロチとして生まれ変わったウミでも元は人間、そして現在は人間の体である。妖怪の力を解放しのジンの攻撃に呆気なく体を貫かれる。


 「カイ!?」


 力を使い始めたばかりのモモコの一瞬の油断である。そしてジンの一瞬の暴走であった。


 カイの肉体からは血があふれでている。


 「いやぁああああああああああっ!!!!」


 モモコの力が暴走した。辺り一面に爆風が巻き起こりジンを吹き飛ばし九尾のチカラを無効化する。ジンは元の姿に戻り脱力する。


 「はは、、やったぜ、オロチを殺したんだ。大妖怪のオロチを、俺が、はは、」


 ジンは乾いた笑いを繰り返していた。頬には大粒の涙が流れていた。


 カイの体を抱き抱えるモモコ。


 「どうしてよ!!!どうしてなのよ!!!やっと!!やっと会えたのに!どうしてよ!友達でしょ!カイはあんたの!!それにあんたのご先祖さまの生まれ変わりだったのよ!どうして!!どうして殺すことしか出来ないの!!!」


 「ごめんね、モモコ。私じゃやっぱ彼をとめらられないよ。狂ったあの家を止められるって、でも気が付いたらまた復讐心に取り憑かれてた。ごめんな、モモコ。最後に逢えてよかった。あいつのこと・・・」


 掠れた声で呟く。死の間際なのか一時的に意識を取り戻したカイ、なにかを言いかけた時静かに鼓動は止まる。


 「・・・・・・最後の最後まで人のことばっか。どうして・・・こんなことに・・・」


 怒りながら泣き叫ぶモモコ。

 

 「間に合わなかった」


 なんとか危機を乗り越えたどり着いた鈴蘭。だがそう呟くことしか出来なかった。


 静かに泣くジン。血が流れるカイ。泣き叫ぶモモコ。

 鈴蘭はその場に立ち尽くしていた。鈴蘭の足元に傷だらけの座敷童子。

 

 鈴蘭の心はもうすでに限界だった。


 5年だ。長い沈黙の果てに再会した四人。決意、覚悟、勇気、不安、それらを乗り越え自分を信じいつかなんとかなると思っていた。

 

 だが現実はどうだろうか。決意したモモコが迎えたのは最悪の結末。自分を信じ抜いたジンは未だ先祖や妖怪に翻弄され心と体がチグハグな状態。どこまでも人のために頑張ったカイ、ウミは命を絶った。

 

 こんなことにならないように力をつけ知識をつけた鈴蘭は結局何も変えられなかった。

 

 負の感情が高まる。

 先程記憶を取り戻した鈴蘭はもう限界だった。

 繰り返される妖怪と人間の因縁。

 全てを知った時には手遅れな自分。

 

 鈴蘭は黒い影に包まれ意識を失った。

 

 そして封印は解け残酷な再会の日、鈴蘭の中の鬼も目を覚ましたのであった。鬼の力の暴走とともに鈴蘭の意識は深く記憶の海へと落ちていったのであった。


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