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EXTRA2 守られた命

俺は18年前幌先の家系に生まれた。


名を栄介と名付けられた。


代々幌先に生まれた男児には左手に鈴蘭の花の紋章が浮かぶが俺にはそれが現れなかった。


それは一族にとってとても不吉な事だった。


多くの一族は俺を避けた。


だが、薫兄さんだけは違った。


長髪で赤みががった髪の毛が特徴的な青年ーーーー薫。


「どーした?またなんか言われたのか?」

「別に。」

不貞腐れて家の庭で遊んでる俺をみつけ薫兄さんは話しかけてくれた。


一族間では周囲からの冷たい眼差しを受け、よく霊能者として成熟の早かった弟と比較され俺は落ち込んでいた。幼稚園頃の俺の淡い記憶だ。


そういったことは敏感に覚えている。


「鈴蘭さんは?」

薫兄さんは特別だった。


幌先の中でも随一の霊能者で次期当主候補の『鈴蘭』さんをパートナーとしていた。


「いつも一緒にいるわけじゃないよ。今日は高校っていう学校に行ってるんだ。」

「ふーん。その紋章、何がいいの。そんなに女の人守って楽しいの。」


俺は薫兄さんにだけはよく本音を漏らしていた。

紋章がないことで俺は一族で浮いていた。

だから百合野と幌先の関係が元々好きではなかったのだ。


「栄介は思ったことをスパッと言えるな。いい事だぞ。」

頭をグリグリと撫でられる。俺は嫌がりながらも数少ない人とのコミュニケーションに喜びを感じていた。


「いいか、栄介。もしお前にこの紋章が現れた時、それは守るべき人がいるってことなんだ。なんとしても守りたい。そう思える相手なんだよ。……だから、命に変えても守りたくなるんだ。」


薫兄さんはどこか遠くを見つめていた。


まるで何かを悟ったように。


「いつか、お前にもできたら分かるさ。自分が生まれてきた意味みたいなのがあるって言うのは幸せな事だよ。」

「でも、」

俺はその時主はいなかった。それを口にするのをわかったのか、薫兄さんは続ける。


「できるよ。栄介。お前には。絶対に。」


何を思ったのか、いやその時から分かっていたのか、薫兄さんは強く言った。


その言葉にその当時の俺は救われた。


強くてかっこいい。兄のような存在。


この人がいればきっと何とかなる。


そう思ったんだ。でも。



それからしばらくして薫兄さん、鈴蘭さんを見かけなくなった。


二人とも俺に優しくしてくれた人だっただけに寂しさを感じていた。


なぜ居ないのか。その時の俺には分からなかった。


数年が経ち、俺が10歳になった頃だ。たまたま深夜に起きた俺は一族の会議を盗み聞きしてしまった。


「どういうことか説明して頂けますか。当主。」


「分かるだろう?奴は確実にユリノ姫君の力を継いでいた。私はこの家を守る立場にある。奴を確実に殺し鬼の復活なんてものは防がなければならない。」


「ですが、まだ鬼がいるかなんてわからなかったでは無いですか。何も殺すことは無かったでしょう!」


「黙れ!!!鈴蘭は危険な存在だったんだ!!!私は間違えていない!!!お前たちに何がわかる!!!この亡霊たちが何を見せるか!分かっておるだろう!!!!鬼を成熟させてはならないのだ。……良いな?」


「ならば、また転生した時も、そのようにするのですか。鬼を成熟させないために。」


「そうだ。全てはユリノの責任。私たちに呪いをかけたユリノのせいなのだ。ユリノとして生まれてくる全てを淘汰すれば鬼は復活しない。」


「だけど、もし生きていたら?」


「どういうことだ。


ーーーーーーー先に薫を殺した。


鈴蘭が生き残るはずなかろう。」


俺は絶句した。

何を言っているのか分からなかった。


鈴蘭さんは特に一族から冷たい視線を受けていた。鬼を復活させたくない一派が今のところ多いからだ。


それを守っていたのが薫兄さんだった。


薫兄さんは優れた霊能者で一族を束ねかけていた。


現当主 百合野 李夢にとっては扱いづらい存在だったのだろう。


二人とも一族にとって、いや李夢にとって気に入らなかっただろう。


俺は頬に伝う涙を噛み締めながら必死に声と怒りを抑え部屋に向かった。


今の俺にできることは無い。


『私と一緒だね。私も家の人によく思われてないんだ〜。だからね、いっーぱい勉強して、強くなって、みんなを黙らせようーってそう思うの。栄介くんと薫さんも一緒に。』


とてもしっかりしている人だった。薫兄さんがそばにいた理由がよく分かる。


そして俺の道を示してくれた1人でもあったのだ。


この家はどこか間違えている。


そう確かに感じた。


それからしばらく経ち、俺はいつか約束した『みんなを黙らせる。』という信念を元に精進を続けていた。


そんな高校3年のある日の事だった。


衝撃が走った。そして全てを理解をした。


薫兄さんの言っていた意味を。


織 果伊菜


彼女はあまりにも鈴蘭さんに似ていた。


「……そういうことか。薫兄さんは守ったんだ。本当に。命に替えても。」



俺はその日、何かが大きく動いた気がした。

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