vs 魔王軍四天王ガート
魔王ボラクルの即死魔法「ハートブリード」を食らい倒れる隊長サーシャ。
次々に取り巻きに倒されていく約20人の兵士達。
残されたのは、根暗な魔法使いウィッターのみ。
絶体絶命な状況でウィッターは冷静に一つのスキルを使った。
ウィッター「リリース!!」
「リリース」とは、自身の本来の力を解放するスキルであり、魔力はいらない。
ウィッターの場合、底を突いた自身の魔力を回復させる効果があった。
ウィッターはテレポートの呪文を唱え、サーシャや兵士達と共に城外に出た。
魔王ボラクル達はその一部始終を見ていただけで、追っては来なかった。
城外にでたウィッターは、大隊長とテレパシーの魔法で連絡を取り現状の説明をした。
結果、馬車に兵士達とサーシャを乗せ、その場は国まで引き返す指示をされた。
帰りの馬車の中で、サーシャは目を覚ました。
サーシャ「ん、あれ?私は魔王に倒されたはず・・・」
ウィッター「・・・ぶつぶつ(・・・そうだよ)」
サーシャ「あぁ、あなたが助けてくれたのね。」
ウィッター「ぶつぶつぶつ(レザレクト【蘇生】の魔法を使っただけ)」
サーシャ「他の兵士たちも助けてくれたのね。ありがとう!」
サーシャはウィッターの回復魔法を受けることにより、少しずつウィッターの「ぶつぶつ語」を少し理解するようになっていた。
◇ ◇ ◇
国内に到着すると、サーシャは直ぐに国王と話した。
国王「大隊長から今回の魔王討伐の任務は失敗したと聞いたぞ」
サーシャ「残念ながら、力敵わず・・・」
国王「そうか、今回は数合わせの部隊でもあったからな。ゆっくりと休むとよい。向こうも四天王の復活までには時間がかかるじゃろう」
サーシャ「面目ございません。そうさせていただきます。」
下がるサーシャ。
国王は、次にウィッターを呼んだ。
国王「この国は幾度となく、魔王軍の四天王に街を焼かれ、その都度国民の犠牲があった。四天王は魔王さえ生きていれば復活し、この国を襲ってくる。わしはこの国を平和な国にしたいのじゃ。」
ウィッター「ぶつぶつぶつ」
国王「大隊長から聞いたぞ、全滅した部隊を魔王から犠牲なく撤退したのは、君の功績であったと。」
ウィッター「ぶつぶつぶつ」
国王「何を言っているかわからんが、もっと自信を持て!国は君の力に期待しているのだ!」
ウィッターは微かに聞こえる声で次の言葉を発した。
ウィッター「・・・王様、四天王の一人が復活したみたいですよ、西から来ます」
国王「え?」
西の方から爆発音が聞こえた。塀が一部壊されたようだ。
国王は、すぐに気を取り戻し、大隊長に四天王討伐を指示した。
大隊長「ウィッター、君も部隊に入れ」
ウィッター「・・・」
大隊長「いけるだろう?」
ウィッター「・・・はい」
ウィッターは人の頼みを断れない性格だった。
◇ ◇ ◇
西の塀が壊された音を聞き、すぐに城内から3人連れて、大隊長とウィッターはその現場に急行した。
3人の内、1人はサーシャの妹ターシャであり、魔法剣を得意とする。
現場に急行したが、既に国民の犠牲が数名と、偶然その場に居合わせたであろう兵士も数名がやられており、残りの兵士が今まさに四天王の一人に足の骨を折られたところであった。
四天王ガート「雷人か・・・ようやく骨のありそうな者が来たな。我が名はガート、魔王軍四天王の1人だ。まぁ言わなくても分かるだろうがな。50年前に奪われた土地を返してもらうぞ!」
雷人は大隊長の二つ名だ。
大隊長はすぐに5人の陣形を取る。大隊長とウィッターの手前に連れてきた兵士2人、四天王の背後からターシャが首を狙う陣形だ。
大隊長が魔法を唱えた。
大隊長「フルミネ!」
天気が怪しくなり、すぐに雷が落ち、四天王ガートに命中する。
四天王ガート「ぐあっ」
ぐおーん(音が遅れてやってくる)
その予想以上の衝撃に対し、ウィッターは思った。
―――『フルミネは下級魔法だが、この火力は凄い。大隊長がいれば、俺はいらないのでは?』と。
四天王ガートがひるんだ隙に、背後からターシャが火炎剣で切りかかる!
四天王ガートは寸での所で動き、急所は外したが、腕を一本切断することができた。
四天王ガート「ぐ、背後からとはな、人のやることは卑怯なものだな」
―――形勢は、人間側が有利のように見えるが、今の背後からの攻撃をかわされたことで、決め手をなくしてしまった。
四天王ガート「魔王様に頂いたスキル、”リリース”を使うしかあるまい」
四天王ガートは”リリース”を使った。
すると体が黒い霧に覆われ、切断された腕が復活し、体が2回りほど大きくなった。
魔力も回復しており、四天王ガートは体力万全の状態だ。
―――四天王ガートがターシャに対して、試し打ちをするかのように、攻撃を仕掛ける。
ターシャは回避したが、四天王ガートの攻撃は家を数軒消し飛ばしてしまった。
衝撃は凄かった。犠牲者が出たかもしれない。その状況を見て、大隊長が魔法を唱えた。
大隊長「マニエティコ!」
磁気を帯びた空間が大隊長を中心に広がる。
ターシャや四天王ガートまでを内側に取り込み、家の手前で止まった。
この磁気は壁一定の弾力があり、魔物の攻撃を弾く性質がある。
大隊長は、ものすごい見幕で四天王ガートを見ながら叫んだ。
大隊長「次からは建物さえも壊させないで、お前を倒す!」
四天王ガート「おぉ怖い怖い」
―――都合よく、人間側には援軍がやってきた。その中にはサーシャもいる。
四天王ガート「やはり国内では、人間側の人員が集まりやすくて、こちらには分が悪い。ここは退散させてもらう。」
四天王ガートは以前サーシャとの戦いで敗れた経験を鑑み、逃げる判断に至った。
四天王ガート「ネビアネーラ!」
黒い霧が四天王ガートの周りを覆った。
大隊長「待て!」
その場に四天王ガートの姿はなかった。
その状況からウィッターは、”マニエティコ”は攻撃であれば跳ね返せるのだが、逃げる者を内側に留めておく効果はないと推察した。
大隊長は四天王ガートが塀の内側にいないことを確認し、すぐに犠牲者の回復を指示した。
大隊長「すぐに犠牲者の回復だ!ウィッター頼んだぞ!・・・って、あれいない?」
だが、その場にウィッターの姿も見当たらなかった。
◇ ◇ ◇
―――塀の外の森の中を四天王ガートは走りながら、今後の国民を滅ぼすための段取りを考えていた。
四天王ガート「魔王軍を集めて再度突撃だ。夜までには二百体は集められるだろう。」
四天王ガートがそんな算段をしながら逃げる先に1人の人間がいた。
ローブを着ているウィッターだ。
四天王ガート「なんだお前、人間か?死にたくなければそこをどけ。まぁそれでも今夜には死ぬことにはなるがな。がっはっは」
ウィッター「ぶつぶつ」
四天王ガート「なんだ?何も聞こえんぞ?もっと大きい声で話せ!」
ウィッター「ぶつぶつ」
四天王ガート「ん?」
ウィッターは魔法を唱えた。
ウィッター「・・・ハートブリード!」
四天王ガートの心臓付近に複数の光の剣が刺さる!
四天王ガート「ぐぁ馬鹿な!この魔法は魔王様だけが使える即死魔法だぞ!」
そのまま四天王ガートは倒れた。ハートブリードでウィッターの魔力は底を突いたようだ。
ウィッター「・・・」
―――ウィッターが壊れた塀の付近へ歩いて戻る途中、サーシャがいた。
サーシャはウィッターに話しかけた。
サーシャ「ねぇ、ウィッター・・・さん?さっき魔法で四天王を倒したよね?」
サーシャは続けた。
サーシャ「さっきの魔法って私見たことある。確か魔王と戦った時に私が倒された魔法だよね?」
ウィッター「・・・」
サーシャ「もしかしてさ、あなたって一度見た魔法は覚えられるの?それって上級魔導士の素質があるってことじゃないかな」
ウィッターは、少しして頷き、サーシャと一緒に塀の中へ入っていった。