vs 魔王ボラクル
サーシャ「王様!ついに四天王の最後の1人を倒し、残るは魔王討伐のみになります!」
国王「おお!さすが、我が娘であり、国の英雄じゃ!別の部隊からも魔王城の攻略が順調に進んでいるとの報告も受けているぞ、早く城内の魔物が復活する前に魔王を倒してきたまえ!」
サーシャ「その件ですが・・・実は戦闘用の魔法使いの消耗が激しく、せめて回復要員だけでもいればよいのですが・・・」
大隊長「ではウィッターくんはどうでしょうか?少し根暗なところもあるが、魔力は他のメンバーよりも抜きんでております」
国王「大隊長が推薦するのであれば、その者を連れていくがよい」
こうしてウィッターは討伐に連れていかれることになったのだ・・・
◇ ◇ ◇
大隊長から命を受けたとき、ウィッターはこう思った。
『俺はほんの少しだけ魔力が強かっただけなんだ・・・、なのにどうして、魔王討伐に行くことになったんだ・・・』と。
ウィッターの住んでいる国には、唯一の国王が存在し、国民の平和のためにその職務を全うしている。この国の歴史は50年と短く、50年前までは魔物だけが住む世界であった。そこに、とある異世界から来た一人の人間が魔物を退け、この国を建国した。その後、現在の国王に国の統治権を渡し、彼は姿を消した。行方を知る者もいない。
国民的人気の勇者であり、王女でもあるサーシャは、魔法学院時代に劣等生だったウィッターを今回の魔王討伐部隊に入れるのは反対だった。
だが昨今の四天王討伐において、他に魔法が使える者の消耗が激しく、かつ、一刻の猶予もない状況であったため、国王の鶴の一声で彼が討伐に参加することに渋々納得した。
そんなウィッターにサーシャはこう言った。
サーシャ「せっかく魔王討伐という名誉あるメンバーに選ばれたんですから、もっと自信を持ってもらわないと困るわ」
ウィッター「ぶつぶつ」
サーシャ「え、なにっ!もっとはっきり言いなさい!!」
ウィッター「ぶつぶつぶつ」
サーシャ「だめね、これは昔と変わらないようね・・・(大隊長、やはり少し根暗というレベルではないわ)」
ウィッターはとても根暗だった。
この世界の人間には、魔法が使える者、魔法が使えない者、魔法を作る者がいる。
魔法には、対魔物用の攻撃魔法、回復魔法、補助魔法(メンバーのステータスを一時的に上げたり、相手の真実を見たり、人を移動させたりする魔法)があり、大抵の魔法使いはそのいづれかにしか適性がなく、上記の2種類または3種類全てが使える魔法使いはほとんどいない。
ウィッターは対魔物用の攻撃魔法、回復魔法、補助魔法の全てが使える上に、一般的な国に雇われた魔法使いよりも質が高い魔法が使える。
実は魔法学院時代は主席を取れる実力があったが、目立ちたくない性格のため、わざと回復魔法以外の魔法が使えることを隠していたり、筆記で低い点数を取っていた。
このウィッターの本来の能力を、当時魔法学院の学院長でもあった大隊長は見抜いていた。それが今回の推薦に繋がったようだ。
◇ ◇ ◇
道中、ウィッターは討伐メンバーの回復を担当したが、物理が効かない魔物には攻撃魔法を唱えて次々と倒すことで、討伐メンバーはウィッターが他の魔法使いと比べて有能であり、大隊長が推薦した意味を理解し始めた。
既に前回の別の討伐メンバーが、魔王城攻略で最深部を除いて攻略していたため、魔王城へ到着してからはウィッターの魔力消費がほとんどなく、順調に魔王がいる部屋まで辿り着いた。
魔王のいる部屋に突入し、魔王ボラクルの前に、約20名の兵士が陣形を組んだ。
先頭にサーシャが立ち、ウィッターは最後方で援護する体制だ。
特に言葉を交わすこともなく、直ぐに戦闘が始まった。
魔王の取り巻きと兵士達が戦っている隙に、サーシャが魔王ボラクルに切りかかることで、魔王とサーシャ側の戦闘も始まった。戦闘が始まり、ウィッターは兵士やサーシャへ回復魔法を唱え始めた。
戦闘は時間が経つにつれて、兵士が次々に倒れていった。今回の討伐での兵力は、魔王軍四天王討伐の数倍程度の精鋭を集めたつもりであったが、魔王ボラクルの力には到底及ばなかった。
そして遂にウィッターの魔力が底を尽き、回復魔法を唱えられなくなったが、魔王軍はほとんど減っていなかった。
魔王ボラクルは討伐メンバーの回復がされないことから、回復魔法に使える魔力が尽きたと判断し、サーシャに向けて即死魔法を唱え始めた。
魔王ボラクル「ハートブリード!」
サーシャはその場に倒れ、それを見た兵士の一人が、彼女の近くに移動しながら叫んだ。
兵士「隊長が倒れたぞ!早く退散だ。隊長の体も持って帰るんだ!」
兵士の一人がサーシャの体を担いだ状態で出入口に向かうと、魔王ボラクルがテレポートで兵士が逃げる先に移動した。
魔王ボラクル「逃がさんぞ!!大事な四天王を倒してくれた礼はこんなもんじゃないからな!」
魔王の取り巻き達に倒される残りの兵士達、残ったのは逃げ回っていてサポートに徹していたウィッターだけである。
ウィッターは、ぶつぶつと自分自身に何かを言い聞かせるように呟き始めた。これは彼の癖である。
ウィッター「・・・ぶつぶつ(・・・人間は弱過ぎる)」