結果発表
ひとまず今回の話で一区切りとしまして、次回以降はまたある程度書きためてから更新しようと思います。
今回は戦闘ばかりでしたから、次はラブコメ要素を多めにしたいなと思ってはいますが、果たして…
「「お疲れ様ー」」
ランドラプターの群れを撃退して以降これと言ったトラブルも無く、野営して一晩明かした後、魔物の一部と原生生物を本部に持ち帰って試験は無事終了。そんなアリシアとクロノの二人は、本部の大食堂にて、大量に料理を乗せたテーブルに着いていた。他の同期達も各自テーブルに付き、入団と試験終了を祝っていた。ベンとリック、エリーゼの三人も一つのテーブルに着いて楽しんでいる。どうやらあの三人は、今回の試験を機に三人で活動することに決めたらしい。
「試験やるって言われた時は、てっきり大型の魔物とでも戦わされるのかと思ったけど、意外と楽な内容だったわね」
「まぁ確かにそこらより過酷な環境だったが、一番酷い時期の公爵領と比べたらな」
あの後、評価がどうなるか分からないけど、と言う前置きをしてから、このまま土に返すだけでは勿体ないので持って行けたら持って行っても良いよと、残ったランドラプターの骸を同期達に譲ったら大層喜ばれ、それを切っ掛けに彼らとはそれなりに仲良くなった。特に直接命を助けたエリーゼには随分と懐かれ、アリシアに至っては『お姉さまと呼ばせて下さい!!』と言われていた。そして試験の参加者全員がランドラプターの一部、もしくはその骸自体を持ち帰って来たことにより、彼らの帰還を出迎えた教導官達は純粋に驚き、その全てがアリシアとクロノの二人だけで仕留めたものだと知って絶句した。
因みに、肝心の試験の結果なのだが…
「とは言え、それでもCランクか」
内勤のEランク、安全領域のDランク。そして、危険領域に足を踏み入れる資格があると判断された、ルーキーのCランク、ベテランのBランク、エリートのAランク、最早人間辞めてるSランク。
昨今の新人はDかEで初期ランクが始まり、比較的安全な場所で経験を積んでからフロリア地方の未開拓地、通称『危険領域』に足を踏み入れることを許される。故に暗黙の了解として、危険領域で活動できるようになって初めて一人前の義勇兵として認められる、というものがあるぐらいだ。因みに、今回の試験参加者も大半がDランク判定だった。
なので初期ランクがCというのは充分に凄いことなのだが、クロノとしては少々複雑な気分だった。事前に聞き込み調査を行い、試験に役立つ情報を集め周り、当日も張り切ってアリシアの実力を同期達、そして陰からずっと様子を窺っていた教導官達に見せつけたのだ。正直、Aランクといかないまでも、Bランクぐらいは確実だと思っていた。
「それだけBランク以上の担当区域は危険ってことか」
「そうね、でも大丈夫よ」
「おいおい慢心か、らしく無いじゃないか」
「慢心じゃないわ、信頼よ。いつも私に付き添ってくれる、とても頼もしい人に対する、ね」
さらりと、ウインク付きでそんなこと言ってくるアリシア。そこらの気取り屋がやったら鼻につくだけのそれも、彼女がやると非常に様になっていて、並のイケメンよりもイケメンしてた。そんな彼女の言葉に一瞬だけきょとんとしたクロノだが、一拍おいてから嬉しそうに微笑みを浮かべる。
「抱きしめても良い?」
「な、何言ってるのよ…!!」
クロノの言葉に分かりやすいくらい動揺するアリシア、しかしそんな自分を見てクロノがニヤニヤしているのに気付く。どうやら、からかわれたらしい。なんか悔しいが、誤魔化す様に咳ばらいを一つして、テーブルに置かれたジョッキを手に取った。クロノもそれ以上は何も言わず、彼女に倣ってジョッキを手に取る。そして、二人はそれを掲げ…
「まぁ取り合えず今は、改めて…」
「私達の新しい門出に…」
乾杯
キンっとガラス同士をぶつけた甲高い、それでいて綺麗な音。ありきたりで安っぽい音だが、二人には新たな始まりを告げる福音の如く、心地よいものに感じた。
◆
「で、実際に遠目で見た感じは?」
「アリシア、だっけか?彼女は富裕層…いや貴族出身だな、食事の所作と姿勢が綺麗過ぎる。そんでクロノって奴は、それに仕える側の人間ってとこか。今も一緒に食事してる傍ら、常に周りに気を配ってやがる」
同じく義勇兵団本部に設置された大食堂。ただし、テーブルはアリシアとクロノが居る場所から随分と離れていた。そこには監督官を務めたグラハムを始め、複数の教導官とベテラン義勇兵が席に着き、遠くからアリシア達の様子を窺っていた。
「何者なんだあの二人は、逸材なんて言葉じゃ片付かんぞ?」
久しぶりに現れた即戦組、それだけでもニュースなのだが、その二人が更にとんでもない実力の持ち主だったのが彼らの悩みの種。最初の実力調査でも、座学でも優秀な結果を残し、研修不要の即戦組として認められた後も、研修で教えないような知識を周囲に聞きまわっていた。ここまでは良い、問題は今回の初期ランク試験だ。
試験中、彼ら教導官はずっと参加者達を影から監視していた。実を言うと、事前に伝えた評価基準は建前で、本当はその過程が本当の基準なのだ。他人の獲物を横取りしたり、同僚を騙したり陥れたりするインチキ野郎は、例え短時間で大量の土産を持ち帰ったとしてもEランクだ。そう言った輩が居ないこと。確かめるのが、彼らが参加者達に同行する理由の一つ。
そして、もう一つ。試験を行った場所は、Dランクが担当する安全領域だ。しかし安全と言ってもランドラプターやそれに匹敵する魔物は生息するし、並の野生動物も他の地域のものより大きく、強い。なので万が一に備え裏でこっそりと、参加者達を評価すると同時に見守っているのだ。故に、エリーゼが熊に追いかけられていた時も、ランドラプターの群れに参加者達が遭遇した時も、あの二人がやったことを全て見ていた。
「一応様子見を兼ねてCランクにしたが、能力的には明らかにBランク相当、戦闘面に関してはAランクに通じるものがある。魔弾も魔道具も無しでランドラプターの群れを壊滅させるなんて、生まれる時代を間違えてるとしか思えん…」
無闇に新人を死なせる真似はしたくないので、監視役の教導官達はあの状況をどうにかするだけの装備も実力も持っている。だが、あの二人と同じ年齢、同じ時期に同じ装備で同じことが出来たかと問われたら、確実に無理である。少なくとも、小型とは言え魔物相手に接近戦するような奴はAランクでも稀だ。しかもクロノとか言う少年は、恐らくこちらの監視の目に気付いていた。気付いていた上で、あの立ち回りを見せたのかと思うと、色々な意味で末恐ろしいガキだと思わざるを得なかった。
「まぁここに来たってことは、何かしらの訳ありってことだろ。俺達だって似たようなもんだ、あまり深入りするのは互いの為にやめておこう。それよりもだ、明日は絶対に荒れるぞ…」
とは言え彼らの頭痛の種、その最たる理由はそれでは無い。別に実力があるのも、野心や出世欲があるのは別に構わない。むしろ今の義勇兵団の現状を思えば、素直に歓迎すらできる。彼らが気にしているのは歓迎した直後、つまり例の二人が義勇兵として正式にデビューする明日。
「滅多に現れない即戦組、しかも超有能。Sランクの連中はともかく、中堅パーティによるヘッドハンティング合戦が、乱闘の果てにヘッドハンティング(物理)に変わる様子が目に浮かぶ…」
これだ、これが一番の原因だ。冒険者時代と同じく、義勇兵もパーティやチームを組んで活動することを推奨している。ただここ最近の人材不足のせいで、新人の初期ランクはDが殆どだ。なので最近は優秀なのかどうかを、如何に短期間でDランクからCランクに昇格したのかを基準に考えている節があり、短期間でCランクに昇格した者は積極的に勧誘される。その時点で既に怪我人が続出する程の激しい取り合いになるのだが、そんな彼らの前に例の二人を放り出すと思うと…
「どうする?」
「どうするも何も、誰とパーティ組むかは本人達の意思を尊重する決まりだ、当事者同士で話し合って貰うしか無い。懸念通り話し合いで済まないようなら、俺達で鎮圧するだけだ」
「あぁクソッ、何で俺達がこんな事にまで頭悩ませなきゃなんねーんだよ。教導部に異動してから貧乏くじばっかだ」
一人の教導官が再び大きなため息を零し、同時に愚痴を零すとそれに同調したのか、残りの面々も最近の愚痴と不満を零し始めた。用意した酒のせいもあり、アリシア達に関する話し合いの場は、あっという間にただの飲み会に変わってしまった。
「ふーん、期待の新人ねぇ?」
そんな教導官達の様子をしり目に、少しだけ離れたテーブル席に座っていた栗色の髪の青年。彼は教導官達の会話に聞き耳を立てながら、普段から愛読しているゴシップ紙に目を通していた。
「今のが事実なら、是が非でも勧誘したいとこだが…」
試験用の装備でランドラプターの群れを正面から蹴散らすなんて真似、普通はできないし、そもそもやろうとすら思わない。そんなことをやってのける人材は実に稀有だ、何がなんでも自分のパーティに欲しい。
しかし、ふと読んでいた新聞の記事に目を落とし、次いで遠くに居る銀髪の少女にチラリと視線を向けた。あの白銀の髪の美しさは遠くからでも、新聞の写真からでも良く分かる。
「……まさか、な…」
直前まで読んでいた記事、その見出しのタイトルは『第一王子、消えた公爵令嬢を捜索中』。記事に載せられた写真に写る少女は、向こうで酒盛りしている彼女にそっくりだった。
⚪クロノ
年齢:18歳
備考:クビにされたので、もう我慢する必要はなくなった。とは言え彼女は束縛を嫌い、自由を愛する。あんまりガツガツ行くとパニクった挙げ句、逃げられる可能性があるので、じっくりゆっくり、時間を掛けて想いを伝えていくつもり。
でも昔から変わらないあの言動…不意討ちでキュンとくる言葉と仕草を叩き込んでくるの、どうにかならないかな。本当はさっきのアレも超ときめいたし、ポーカーフェイス維持すんの凄い大変だった。
⚪アリシア
年齢:18歳
備考:我慢する必要がなくなったのは、彼女にも言えることだった。クロノは一緒だし、身分差無くなったから周りの目は気にしなくて良いし、憧れの冒険者ライフ始まったし、良いことずくめで御満悦。
クロノに対する言動は昔から、特に幼馴染特権を発動させた時はあんな感じで、本人としては自分の気持ちを正直に伝えているだけのつもり。
⚪ベン
年齢:15歳
備考:農家出身。退屈な畑仕事と、実家を継ぐのが嫌で故郷を飛び出し、刺激を求めて義勇兵団へ。そして、自分の考えが如何に甘かったのかを身をもって思い知った。
試験の結果は、一応Dランク。途中で意気投合したリックとエリーゼの三人で組むことにしたが、二人が入団した経緯を聞いて自分の薄っぺらさに情けなくなった。とは言え今更逃げ帰るつもりは無く、自分なりに頑張ろうと思っている。
⚪リック
年齢:17歳
備考:先祖代々故郷の山で猟師をやっていたが、近年は不猟続きの赤字続き。このままだと路頭に迷うのも時間の問題と感じ、猟師としての経験を活かせそうな義勇兵団の元へ出稼ぎに来た。
試験結果はDランクだったが、同期達の中では最もCランクに近いDランク。ベンとエリーゼと組むことにしたが二人とも自分より年下で、性格もアレなもんだから、手の掛かる弟や妹みたいに感じる時が多々ある。
⚪エリーゼ
年齢:14歳
備考:口減らしの為、実の家族にその身を売られた。そして、売られた相手には『見た目が好みでは無い』と言われ、呆気なく捨てられてしまう。暫くの間、文字通り路頭に迷っていたが、その最中に義勇兵団の存在を知り、一攫千金を夢見て入団を決意。試験の結果はギリギリDランク、しかし脚力は中々のもので、以外と根性もあるので将来性はある。
泣き虫でビビりの癖に、もっと安全で普通の仕事があったにも関わらず、身の安全より稼ぎを優先した理由は、早く家族を養えるだけの大金を稼いで、もう一度家族とやり直そうと思っているから。その旨と、近況(試験で死にかけたこと含む)を記した手紙が仕送り付きで、娘を売ったことを心底後悔している家族の元に届くまで、あと三日。
因みに本来エルフィード王国において、人身売買は違法行為である。しかし、彼女の故郷ではそれが黙認され、むしろ横行していた時期があったようだ。
⚪栗色の髪の義勇兵
年齢:?
ベテラン義勇兵でもある教導官達に気付かれず、盗み聞きできる程度には実力がある模様。
因みに彼の読んでいたゴシップ記事によると継承権を失った第一王子は、父王が元婚約者を気にかけていたという話を耳にしたようで、彼女を連れ帰れば王位継承権について考え直して貰えると思っているらしい。