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白い彼女と黒い彼

改めまして、よろしくお願いしますm(_ _)m


 ズドォン、ズドォンと、腹に響く幾つもの銃声。

 外は大雪だというのに、その冷たさを一切感じさせない、北方義勇兵団本部の中に作られた広い射撃場にて、老若男女問わず何人もの人間が横一列に並んで銃の引き金を引いていた。

 彼ら彼女らが手にしているのは、エルフィーネ王国軍が制式採用したボルトアクションの後装式ライフル銃だ。威力、命中精度、射程距離、全てが従来のものを大きく上回り、この北方義勇兵団においても主力小銃として確固たる地位を築いている。

 その使い勝手の良さを証明するかのように、今もこうして入団希望者の若者達が鉛弾を放ち、10m~100mの間に幾つも配置された標的に命中させていた。


「まぁまぁだな、元猟師ってとこか。だが、まだ甘い」


 その様子を見守るのは、防寒着をベースに作られた白い隊服を身に纏う壮年の男…北方義勇兵の一人。ベテランでもある彼は入隊希望者リストを手に、今回の新人候補達の様子を見回っていた。

しかし残念なことに彼の表情は余りよろしくない。そして、視線を隣の希望者に移した途端、機嫌も悪くなった。


「ど素人め、安全装置も知らないのか。名前は…くそッ、汚ねぇ字だな。だから名簿の名前を本人に記入させるのは嫌なんだ」


 いつまで経っても銃声が聴こえてこない奴が居ると思ったら案の定、そいつは安全装置の外し方を知らないようで、焦ったように引き金とボルトレバーをガチャガチャやり続けていた。しかも、その状態に陥っているのは一人や二人では済んでいないようで、ひょっとすると、ちゃんと撃てている者より多いかもしれない。

 思わず舌打ちを溢し、吐き捨てるように呟いていると、『よー』と気の抜けた声が聴こえてきた。振り向くと、自分と同じ隊服、同じ年齢の同僚が手を軽く振りながら近寄ってきた。

おやと思い、懐中時計を取り出して時間を確かめてみると、既に昼の休憩時間に突入していた。


「もうこんな時間だったか、気付かなかった…」

「だから交代しに来てやったぞ、感謝しろ。ところで、今回はどんな感じだ?」


 犯罪者でも無い限り、元猟師だろうが農家だろうが誰でも入団できるのが、かつての冒険者ギルドであり、現在の義勇兵団だ。

 しかし、そうなると当然、入団希望者達の実力はピンからキリまでバラつくようになり、無知で軟弱な身の程知らずも多く集まってくる。なので、この射撃場にて軽い実力調査を行い、集まった入団希望者達がどの程度使えそうなのかを試しているのだ。

 因みに、その実力調査の内容は『最大装填数五発のライフル銃で、複数設置された標的目掛けて十発撃つ』という至ってシンプルなもの。これで彼ら彼女らが銃の撃ち方を知っているのか、そして当てられるのかぐらいは判断ができる。


「今回も全然駄目だ、一人残らず『研修組』だろうな」

「うへぇ、なんてこった。幾らなんでも最近来る奴ら、レベル低過ぎないか?」


 とは言え最近の入団希望者は全体的に質が悪く、銃を撃ったこともなければ、魔物どころか野犬とすら戦ったことが無い素人ばかり来る。

 そんなのばかり来るものだから、数年前に『教導部』なるものが設立された。この実力調査でド素人、あるいは役立たずの烙印を押された者は『研修組』と称され、現役のベテラン団員を中心に集まった彼らの手によって、必要最低限の技術と知識を突貫で叩き込まれるのだ。

 まるで軍隊の真似事だと、誰かが言った。しかし、その軍隊に優秀な人材を根刮ぎ持っていかれてしまい、人材不足に陥った今の義勇兵団は、こうでもしない限りやっていけない程に追い込まれていた。


「国政改革で軍の待遇と生存率が改善されて以来、優秀な奴ほど国軍入隊の道を選ぶようになったからな。ここだけの話、俺も今の国軍兵あいつらの平均月収知った時は、割と本気で転職を考えたぞ」

「冒険者ギルドが廃れた原因がそれだと初めて聞いた時は鼻で笑っちまったが、いざ目の当たりにすると全くもって笑えねぇな。辺境伯が後ろ楯になってくれてるからなんとかなってるが、こんな調子が続くようなら…」

「まぁ、不味いだろうな。とにかく今後も、教導部の連中には頑張って貰うしかない」


 お先真っ暗な北方義勇兵団の未来に、二人は深過ぎる溜め息を漏らした、その時だった…


 ズドドドドドドドドドドォン


「ん?」


 ボルトアクションでは有り得ないくらい短い感覚で、十発もの銃声が聴こえてきた。ふと視線を向ければ、二人の入団希望者が隣同士で並びながら銃に弾を込めていた。

 一人は、雪のような白銀のロングヘアーに白い肌、エメラルドの瞳、そして美しさと儚さを兼揃えた整った容姿。動きやすさを考慮したのか紳士服をベースにした旅装で身を包み、腰に下げた細身の十字剣がやけに目に付く、若い娘だった。

 そしてもう一人は、娘とは対照的な黒い髪に褐色の肌、獣を連想させる金の瞳を持った青年。少し荒々しい顔つきにも思えたが、その出で立ちはとにかく静かだった。まるで、誰かの隣に立つこと、それだけに専念しているかのように感じる。

 そんな二人の足下には、先程の銃声の元だったのであろう、銃弾の薬莢が五個ずつ、合わせて十発分が転がっていた。


「たまに居るんだよなぁ、ああいう無駄弾使い。早ければ良いって訳じゃないんだよ、まったく…」


 銃声の数と、落ちている薬莢の数から考えるに、あの二人が並んで撃ちまくったのだろう。二人同時だったとは言え、あの連射速度は中々のものだ。しかし、そう言う奴は大抵、弾を当てることより撃つことにこだわってしまった、銃を使う者として本末転倒な野郎ばかり。特に最近、ボルトアクションのライフルに慣れ始めた奴は結構な割合でそうなる。

 あの二人と言い、さっきのど素人共と言い、本当に最近の入団希望者には録な奴が居ない。


「……いや、早いだけじゃないみたいだぞ…」

「あん?」


 何故か目つきを変えた同僚が、そんなことを言ってくる。どういうことだと、ふと視線を彼と同じ、この射的場の的が設置された場所…正確には先程の二人が発砲した位置、その射線上に向けた。

 そこで漸く気付いた。今回の入団希望者の多くは、先程も言った通り期待外れのポンコツばかり。撃ち方を知ってるだけマシに思えてくる程で、弾を的に当てられる奴は更に貴重ときた。おかげで射手が交代する時に的を変える必要が無くて楽だと、皮肉気に笑っていたぐらいだ。

 あの銀髪と黒髪の二人の射線上に設置されていた的だってそうだ、少なくとも二人が配置に着くまでは一個残らず無傷だった。しかし…


「おい、マジか…」


 目を向ければ、二人の射線上にあった筈の的が、綺麗に五個ずつ、合わせて十個、全て綺麗に撃ち抜かれていた。


ジャキン


 と、装填が終わった音が二つ、同時に鳴った。白の少女と、黒の少年がゆっくりと、いっそ優雅にさえ感じる動作で、同時に銃を構えた。そして…


「クロノ」

「いつでもどーぞ」


 ズドドドドドドドドドドォン


 発砲、排莢、装填、発砲、排莢、装填、発砲、排莢、装填、発砲、排莢、装填、発砲、排莢、装填、発砲、排莢、装填、発砲、排莢、装填、発砲、排莢、装填、発砲、排莢、装填、発砲…


 先程と全く同じスピードで行われた驚異の連続射撃、その光景を目撃して気付いたことは三つ。


 あの二人は同時に撃ったのでは無い。意図的に、寸分の狂いなく、交互に撃っていたということ。


 弾は、一発たりとも無駄にしていないということ。


 そして、その二つを、あの連射速度を維持しながら行っていたということ。


「……前言撤回だ、『即戦組』候補が…それも、とんでもない奴が二人も居る…」


 瞬く間に追加で撃ち抜かれた十個の的を前に彼はそう呟くと、手元の名簿に目を落とした。


 アリシア・トンプソン


 クロノ・ローランド


 年齢は共に十八歳


 やけに綺麗な字で、そう書いてあった。




○王国軍制式採用小銃

外見:リー・エンフィールドに酷似

装填数:従来型は五発、国軍の改修型は十発

備考:エルフィーネ王国軍の主力にして最新型のボルトアクション式ライフル。威力、射程、精度などの基本性能が総じて高く、魔弾にも対応しており、しかも丈夫で滅多に故障しない。

悪環境にも強い為、北方義勇兵団にも主力小銃として配備されている。しかし、金と腕前に余裕ができた義勇兵は、各々が自分の好みに合わせて装填数を増やしたり、銃身を伸ばしたりと様々なカスタマイズを施すので、最早原型を留めてないものもザラにある。



キリの良いところまで二万字ほど書き溜めたので、それを数話に小分けにして定期的に更新しようと思っています。致命的なミスや用事が入らなければ多分明日、今日と同じくらいの時間に次話を更新しますので、どうかお待ち下さい。


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