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異世界転移は驚きの連続だった

素人作品なので温かい目で見ていただければ幸いです。

 私、ラノベは好きだったんだよ? だから悪役令嬢に転生しても驚かずに窮地を乗り越えるくらいできそうな気はしていたんだ。

 でも、それでもね、全部終わった後だと窮地を乗り越えようもないと思うんだ……。



 今現在私がいるのはベッドと机と椅子と……とにかく必要な家具は全て揃った、広くはないけど窮屈でもない部屋だ。シンプルできれいな内装で、なかなか落ち着ける空間と言える。

 窓からの景色は見下ろせば広い森、遠くにはのどかな町並みを見つけることができるが、大部分は青い空が占めていた。


 この部屋は高い塔の最上階にある、王族のための独房だろう。

 王族で、処刑するような罪を犯したわけではないが、心を壊したりして表に出すことができないような扱いに困る人物がここに入れられる。そういう場所だ。

 まあつまり、私がここにいるということは()は一度心を壊してしまっていると言うことなのだろう。……というのが、朝起きて知らない部屋に驚いて、鏡で自分の容姿を見た私が二時間ほど悩んでたどり着いた結論だった。



 褐色の肌に、紅と言うにはくすんだ臙脂色の髪、銀と緑のオッドアイ。なんとも特徴的な姿に、私は自分が何者であるのかを一瞬で自覚した。


 王道ファンタジーと銘打っておきながら、奇抜なキャラ設定と予想外すぎる展開で一部の熱狂的なファン以外に非難を浴びまくった、そしてその割にはシリーズ化してロングセラーとなった乙女ゲームの迷作。『迷宮』シリーズの第一作、『翠玉の迷宮』に出てくる悪役のお姫様、ラシェル・オーバン・エメラルド。それが今の私である。


 『迷宮』シリーズの奇抜なキャラ設定は悪役にも及んでいる。

 ラシェルは可愛らしい容姿のお姫様であるにもかかわらず『男も女もアリ』という非常に漢らしい嗜好で、美人な主人公もストライクゾーンに入ってしまうのだ。

 ラシェルの婚約者である隣国の王子を攻略しようとするとかなりの確率でラシェルの方にも口説かれるので、プレーヤーの多くは攻略が進まない苛立ちよりも、突然美少女に口説かれるという予想外の事態への戸惑いでいっぱいになったという。ちなみにここで靡いてもバッドエンドしかない。

 どっちを狙っているのかはさておき、主人公と攻略対象の邪魔をするという意味では悪役の役割を果たすのだが、結局他国の王子様相手にいろいろと不敬を働いたあげく“精神面に異常あり”とされて世間から隔離されるわけだ。



 …………これが幼少期に転生とか、せめて婚約破棄の直後とかだったらこんな塔に閉じ込められる前に対処できただろうに……!


 そう思いながら頭を抱えたところで遠慮がちなノックの音が聞こえて我に返る。


「お食事をお持ちしました」


 そう言って入ってきたのはメイド姿の美少女だった。

 美少女はなぜか怯えた様子で机の上に食事を置くと、逃げるように部屋を出て行った。


 ちょっとラシェルちゃん、あなたメイドちゃんに何してくれちゃったわけ?


 私にはラシェルの記憶が残っていた……なんてことも無く、困惑したまま部屋に残された。

 とにかくおなかは空いていたので食事に手を付ける。

 異世界転生にありがちなまずい食事……なんてことも無く普通に美味しいごはんだった。私には異世界で飯テロできるほどの料理の知識はないからよかった。


 とにかく部屋は快適だし美味しい食事もある。自由はなくて少し暇だけど楽な生活。

 …………あれ? わざわざ何かする必要は無いのかも……。



 メイドが入ってきた扉を開けると、兵隊っぽいお兄さんがいた。見張りの兵なのだろう。

「どうされましたか?」

「食事が終わったのですが、食器を下げてくれませんか?」

「え……?」

 聞かれたので用件を答えると、見張りは心底驚いたという様子で固まった。


「あの……?」

 一向に動く様子がないので声をかけると、はっとした様子で再起動した。

「も……もももも申し訳ありません! 今すぐ担当の者を呼んで参りますので少々お待ちになっていらっしゃってくださいぃ!」


 おーい、ラシェルちゃーん。もしかしなくてもこのお兄さんにも何かやらかしてくれちゃってるよね?


 慌てた様子で駆け出したお兄さんに「あれ、見張りじゃないの?」と見回すと、すぐ横に無表情のお兄さんがいた。

 気配がなかったからものすごく驚いたけどそうか、もう一人いるからさっきのお兄さんがここを離れたのか。


「…………部屋に戻ってください」

 無表情のお兄さんは目が合うと無表情のままそう言った。逆らう理由もないので返事をして部屋に戻った。


 戻った部屋でベッドに飛び込む。

 メイドが慌てた様子で食器の片づけをしているのを横目に、ごろごろしながら今後について考えた。

 監視付きとはいえ、働かなくても快適な部屋に三食昼寝付き。

 お姫様で良かったよ。心を病んだ少女なんて、平民だったらどんな扱いを受けていたことか想像したくもない。

 ……何て考えても、今の私は“心を壊したラシェル姫”ではないのだ。娯楽に溢れた現代日本の、遊びたい盛りの20歳。それが私の記憶にある“私”だ。

 何が言いたいのかって言うとつまり、暇なんですよ!

 メイドは片付け終わると脱兎のごとき早さで部屋を出て行き、ここには私一人しかいない。サイドテーブルに置いてあった読みかけの本はドキドキもワクワクもないドロドロ100%のミステリー。趣味じゃないしそれ以前にお姫様に何てもの読ませてるんだ周りの人間は。


 げんなりしながら小説を元に戻そうとしたところで、そこに二枚の紙があることに気付いた。位置からして本の下に置いてあったのだろう。

 一枚には不思議な文様が書かれていて、もう一枚は説明書きのようだ。


『サモン・デーモン(魂での召喚)

 魔方陣を左の掌に起いて右手で下記の形を取り、最後に召喚(コール)の呪文を唱える。

 ※失敗すると悪魔に体を乗っ取られる。その際に召喚者の魂は消滅してしまうため、細心の注意を払って術を使うこと』



 ……………………これが原因かな?


 え、ちょっと待って。もしかしてラシェルちゃん、これ試してないよね? 試した上に失敗して魂消滅しちゃったわけじゃないよね?




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