表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/62

【53】潮騒

 湾の外に、岩が積みあがったような小さな島があった。

 尚美たち4人が防波堤の先まで来た為か、カモメたちはみんなその岩の島に移って群がっている。

 4人は防波堤の先まで辿り着くと、灯台の傍らに腰を下ろした。

 遠くで見た時には小さく見えた灯台も、間近で見ると意外と大きくて、二階建てほどの高さはある。

 尚美は堤防の淵に脚を下ろしてぶらつかせながら、テトラポットの隙間を覗き込む。

 頭のちぎれたソフトビニールで出来た古い人形が、隙間に転がっているのが見えた。

 何処からか流れ着いたのか、ここから誰かが投げ捨てたのか――何だか奇妙な出逢いのようで、それから目が離せなかった。

 ――この人形は、いったいどんな主にどのように出逢い、どんな景色を見ていたのだろう。

 開いたままの少し青みがかった瞳が、尚美を人恋しそうに見つめている気がした。


「ナオ、お弁当持って来た?」

 背中を突かれて振り返ると、友恵が言った。

 尚美は頷いて、リュックの中から二人分のお弁当を取り出す。

 友恵とふたりで、お互いふたり分のお弁当を持参する約束だったのだ。

 彼女が敷いた小さなレジャーマットの上に、尚美は自分が持って来た弁当を広げた。

 友恵はサンドウイッチ、尚美はおにぎりをベースに、それぞれおかずの入ったタッパをあける。

「うお、旨そうだ」

 武山は友恵の出したコーラのプルタブを開けると、直ぐにおにぎりに手を伸ばす。

「ちょっと、最初はサンドウイッチでしょ」

 友恵が彼の肩を叩く。

「えっ、なんで?」

「最初はあたしのを食べるのが礼儀じゃん」

「そっちも食べるよ」

 武山が尚美のおにぎりに齧りついた。

 圭吾は遠慮気味におにぎりを掴むと、尚美の顔をチラリと見てから口に運ぶ。

 尚美は気を利かせて友恵のサンドウイッチに手を伸ばした。

 別に普通のサンドウイッチだ。

 ツナと卵とハムが挟んであって、シャリシャリとレタスに歯ごたえを感じた。

 圭吾が友恵のからげに手を伸ばし、武山が尚美の卵焼きを口に入れた時だった。

 ザンッと波がテトラポットにぶつかった。

「あっ」と友恵が小さく叫ぶ。

「なんだよ」と口をモゴモゴさせながら武山が訊く。

「落ちたよ」

「ナニが?」

 武山は友恵の視線を追って振り返る。

 防波堤が「く」の字に曲がって直ぐの辺りの、テトラポットを見ている。

「釣りしてた人」

「マジ?」

「だってほら、いないよ」

「帰ったんだろ?」

「今さっきまでいたよ。後ろに消えたよ」

 圭吾が立ち上がった「見てこようぜ」

「ああ」と武山も立ち上がって圭吾の後を追う。

「あたしも行く」友恵も立ち上がると、尚美も立ち上がった。

 圭吾が走ると武山も走った。

 尚美と友恵もパタパタと小走りで後を追う。

 一瞬、圭吾の背中がやけに遠ざかって行くような気がして、尚美は焦燥に駆られた。

 圭吾は釣り人が居たはずの辺りで足を止めると、テトラポットに脚を乗せる。

 防波堤には釣り道具の入ったボックスが取り残されて、テトラポットの上にも釣竿が横たわっている。

 圭吾はテトラの上をピョンピョンと渡り歩く。

「圭吾っ」

 尚美は何故か彼を呼んだ。

 何故だか解らない――彼がこれから何をするか予測がついたわけではなかった。

 ただ、さっきまでの焦燥が加速して、押し出されるように声に出たのだ。

「待てっ」

 武山が叫んだ。

 圭吾はテトラポットの向こう側に向って、身体を投げ入れた。

「ちょっと!」友恵が声を上げて足を止めた。

 防波堤の上からでは、向こう側の水面は見えない。

 うねった波が音を立てて、白い飛沫だけが空中ちゅうに舞って風に流れた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ