7話
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ぐうぅ~、腹へったな。レイジが目を覚まして外を眺めると、忙しなく村人が働いているのが見えた。(結構、疲れてたのか寝てしまったなぁ。)
とりあえず、宿屋で軽くご飯を食べて、冒険者ギルドへ向かうことにした。
--スサンダ村 冒険者ギルド--
「昨日ぶりのギルドだが、クエストってどんなのがあるかな?(さすがにゲームとリアルは違うから楽しみだ♪)」
~ 依頼板 ~
Zランク以上 ・ゴブリンの宴後の清掃活動 小銀貨1枚
・共同トイレの清掃活動 小銀貨2枚
・デパリー嬢と文通(指名あり) 小銀貨5枚
・デパリー嬢の買い物護衛(食事込み、指名あり) 銀貨1枚
Yランク以上 ・友好ゴブリンへの宴のお返し 小銀貨5枚
・デパリー嬢のろくろ回しの指導(素人可、指名あり) 銀貨9枚
(あんまりいいのないな……。)
《効率の良いクエストや人気のあるものは早朝には取られてしまいます。 主が来るのが遅すぎのです。 おや、デパリー嬢がクエストを出していますね。 内容のわりには報酬も高そうです。》
(デパリー関係は悪いけど却下だ。 これ絶対マンティス夫人が出してるだろ? ろくろ回しの指導(素人可)って素人じゃ指導にならねぇよっ。 これ映画の切ないシーンであったわ、てか夫人がなんで知ってんの?)
《夢の世界は色々の世界とつながってますので、マンティス夫人が偶然そのシーンを知ったのでしょう。 主のいた世界の言葉もそうですが、異世界の言葉や文化、技術が夢を通して知られることはよくあります。》
(あー、突然の閃きとかで過去の偉人が技術革新してたのって夢の世界で仕入れてたんだ、へー、知らなかった。 それはそうと、今回はお前やったろ?)
《………、デパリー関係を除くと清掃活動を受けるか、一つ上のランクまで受けられますから、ゴブリンへの返礼を届けるでしょうか。》
(露骨に話題変えられたが、こんなかだとマシなのはゴブリンの返礼の一択だよなぁ。)
「すみません、この友好ゴブリンの宴のお返しってのを受けたいんですが。」
取り立てて特徴のない受付嬢モブーミに、依頼書と冒険者証(名前、ランクが書かれたもの)を提示した。
モブーミは、冒険者証の名前を確認すると、にっこりと笑顔で、「はい、あ、レイジさんには指名依頼も入っておりますが、こちらの依頼書でよろしいですか?」
「(指名依頼のくだりは聞かなかった。俺は聞いてない。)はい、この依頼を受けます。」
「あのー、この依頼はレイジさんの一つ上のランクで難易度が高めです。 一つ上のランクといえば指…「この依頼に全身全霊を注ぎたいでっす!」ちっ(ヘタレがっ)、はい、わかりました。」
うわっ感じ悪ぅっ!、舌打ちと小声もばっちり聞こえたレイジは何か言いたげだったが、全て聞かなかったことにした。(そもそもデパリーとはそんな関係じゃないからヘタレ言うなし!)
「んで、入口に準備してある食べ物やお酒が積んである荷車を、西の集落 [ギーガさんとこ] に持ってけばいいのね?」
「はい、道中はモリマジロがいますので、お気をつけてください。 ゴブリンのギーガ首長からこちらの依頼書にサインを貰えば依頼完了となります。 報酬はギルドでサイン済みの依頼書と交換になります。」
「よっしゃ、初任務頑張ってみるか!」
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入口いた門番に依頼書と冒険者証を見せると、荷物の取り扱いについて軽い説明を受けて荷車を西に向けて歩き出した。(ゴブリンの集落ってどれくらい先なんだ?)
《そうですね、スムーズに行けば今日の夕方には到着すると思われます。》
(だいたい3時間ってとこか、スサンダ村に戻れるのは夜遅めかもな。)
《前方に黒いホワイトラビットが何匹かいますね、濃い瘴気に侵されて狂化しているようです。》(ややこしいなっ)
がらがらと荷車の車輪の音に、呼ばれるように魔物達が集まってくる。
「それじゃ、試しに右手を前にしてっとっ!『ファイアーボール』」、レイジの右手から拳程の大きさの火が球状になって、黒いホワイトラビットにぶつかった。『もきゅっ』っと声を上げて黒いホワイトラビットは燃えつきた。
「おー、初めての魔法使えたわ、詠唱いらないのか。 ウサギが一撃か、結構強いほうか。」
《四つの元素が一つ、火の精霊よ、眼前の敵を焼き尽くすため、我が手に集まり発現せよ、とは言わないのですか?》
「絶対言うと思ってた! それでも恥ずいからやめれっ!」
《読まれるとは面白さ半減です。》
「弄んなやっ!! というかやっぱり黒いのは倒しても何も残さないんだな。『アースボール』」『もきゅっ!』
《ご存知のとおり、瘴気に侵された魂が魔物になります。 魔物が死ぬほど弱れば私が魂を浄化したうえで回収します。》
「頭に知識ねじ込まれたからわかってはいたけど、実際、何も残らないのって寂しいな。からの『ウォーターボール』」『もっきゅぅ~』
「『ウインドボール』」
『もきゅうぅん』…なんだろう、こちらの心が痛い。
《お気になさらず、どんどん倒してください。 世界レベルが上がれば主にも特典貰えますから。》(特典いらねぇから解放してくれ。)
そんなこんなで、黒いホワイトラビット時々黒いモリマジロを狩りながら、魔法の効果を確認する。
「○○ボールとホット、クールが体温調整、ブロックが壁を作っての防御、ウォーターキュア、ウォーターヒールが回復系か、基本パックってお得だよな。」
《魔法は基本と想像力が大事です。 基本を備えた主なら新しい魔法を創ることも出来るはずです。》
「あぁ、確かにこないだと違ってなんとなくだけど、コアの言ってることがわかるわ。」そういって、レイジはモリマジロ3匹に両手を向けて『マッドグラウンド』、モリマジロ達の足元が柔らかくなり、その重さで沈む、泥から抜け出そうともがく3匹に、『ファイアトルネード』、炎の竜巻が3匹を燃やし飛ばした。
《完全にオーバーキルですね。 【魔法の才】は強力なスキルです。(なるほど土+水、火+風の組み合わせですか、相性の理解、豊富な魔力と想像力。 簡単に上級魔法を創りだすとは、さすが無駄にハイスペック)》
「結構、ゲームの魔法のイメージを理論的に考えたら色々出来そうだな。」
《まぁ、あまり魔力を使いすぎると、知らない間に疲れが溜まりますから、ご利用はご計画に。》
《おや?》(どうしたんだ?)
《いえ、そろそろ西の集落に到着します。(どうやら、この近くに異物が発生したようですね。)》
目の前に見えてきたのは、お粗末な魔物避けの柵に囲まれた小さな集落とその背後に拡がるうっそうとした森だった。
--ゴブリン集落 [ギーガさんとこ] --
『ぎい?(誰だ?)』『ぎいぎい(がらがらの音がする)』『ぎいぎっ(人族だ)』『ぎぎっぎ(昨日、宴にいたヤツ)』『ぎぎぃっ(この世界を守るのも悪くないかもなっ♪の人だ)』『ぎぎゃぎゃ、ぎいぎい(首長を呼べ)』
「なぁ、なんかぎいぎい言ってるけど、大丈夫だよな? ん?、昨日見かけたゴブリンもいるな)」
《主は人族の中でも、好感度が特に高くなってますから大丈夫ですよ。 どうやら首長を呼びに行ったようです。》
入口で待っていると、よぼよぼのしわしわゴブリンが杖をつきながらやってきた。
『ワシハ、コノシュウラクノオサ『ギーガ・ゴーブリ』。 ギーガ、トヨベ。 キノウハタノシカッタ。 セワニナッタ。』ぷるぷる震えながら、礼を述べるギーガ。(人語を話せるゴブリンがいるのか)
「こちらこそ楽しい時間をありがとうございました。 私は冒険者をしていますレイジです。 今日はスサンダ村からささやかなお礼をお持ちしました、お納めください。」荷車から荷物を下ろし、村長の警護役の屈強な戦士風ゴブリンに引き渡した。
『イイサケ、カンシャスル。 ココニサインダナ。』村長が依頼書にさらそらっとサインする。どうやら慣れているようだ。
『レイジ、ドノハ、マサカヒトリデキタノカ?』
「えぇ、まあ3時間程度でしたし。」
『フム、ココニクルマデ、マモノニ、オソワレナカッタカ?』
「襲われましたけど、黒いウサギとモリマジロぐらいでしたから、そんなに苦労はしていませんよ。」
『ナント! キョウカシタ、マモノハツヨイ。 レイジ、ドノハ、トテモツヨイノダナ。』
「どうでしょうか、実感はないですけど。」
《ゴブリンの返礼クエストは、通常Yランクがパーティーを組んで行う難易度なので、主はおかしいのです。》(それなら受けたときに言えや! いつも遅いわっ!!)
『ソウ、ケンソンスルナ。 ジツハ、タノミガアルノダガ…』
ギーガ村長の話をまとめると、
・最近、瘴気が濃くなってきた。
・北の集落 [ギーゲルトさんとこ] (森沿いを北に30分ほど歩いたところにあるらしい)にいる仲間との【同族同調】が突然途切れた。
・仲間の様子を見に行きたいが、瘴気の影響で魔物が増えていて危険。
・自分達の集落を守る必要もあるため、北の集落に行くための人手が足りない。
・何かしらお礼をするから様子を見に行ってほしい。
(ふむ、イベント発生だな。 やるしかないか。)
「やりましょう!」レイジが頷くと、周囲が『ぎい』『ぎぎっぎ、ぎぎっぎぃ』と盛り上がっている。(なんとなく感謝されている気がする。)
『スマナイ、ミチアンナイトシテ、コヤツラヲ、ツレテイッテクレ。』
ギーガの前に、3人ほど若者ゴブリンが出てきてレイジに頭を軽く下げた。(なかなか強そうだな。)
一人目は、ちらちらと、向こうにいる幼なじみを見ながら右手の指輪を握りしめているゴブリン。
二人目は、好奇心旺盛で、「何かの撮影? よく出来てんなぁ」と未確認生物でも不用意に近づいて触りそうなゴブリン。
三人目は、「や、やったか?」とみんなに聞いてまわりそうなゴブリン。
レイジはふるふると顔を振りながら「………、のおおおぉぉぉっ!!!! ダメえぇぇぇっ!(特に三人目のヤツは皆に一番迷惑かけるタイプぅっ!!)」
「えぇっと、ごめんなさい、一人で行きます。 申し訳ないが、言葉が通じないと何か起こった時に危険なので。」
『ミチガ、ワカランジャロ。』「ぐぬっ、いえ、地図で場所を教えてもらえればなんとかします。」
しかし困ったのぅ、若者はコイツらしかおらんし、正確な地図もないのだがと思案するギーガ。
『ジー様、オレなら人族の言葉、ある程度なら話せる。 集落まで案内も出来る。』、声のする方にレイジが振り向くと、ゴブリン特有の低い身長に、頭に小さな角と緑色の肌を有しているが、見た目は人族の女の子(将来有望)だった。(幼女とか連れて歩いたら通報される。)
《人外幼女キターーー!!、俺ちゃん大歓喜!とでも言うのかと思いました。》(俺はロリコン違うわっ!! …コアが持ってる俺のイメージについて話し合いを所望したい。)