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3話


□□□


レイジが北に向かって歩きだしてから二時間は経っただろうか、相変わらず荒涼とした大地は続いていた。


「なぁ、スサンダの村ってまだ着かないのか?」


《そうですね、あと3日程かかりますね。》


「は?」


《そうですね、あと3日程かかりますね。》


「いやいやいや、普通はこういうのって町とか村は近くにあるでしょ?」


《主の「普通」はわかりませんが、この世界の町や村のほとんどが魔王の襲来によって壊滅してますので、スサンダ村は近いほうではないでしょうか。》


「あー、人の爪をかじるって魔王の他にも、魔王っているんだな。」


《現在、6柱が勢力争い真っ只中で、4柱が休眠中です。》


「結構いるじゃねぇか! えーと、世界に穴が空いていて、そこに異世界から魂が棄てられて、それが魔物になり、やがて魔王になるんだよな。 なんでそんなに多いんだ?」


《主よ、それは他の世界で育った魔王が棄てられているからです。 ちなみに、ダンプスペース産魔王はツメヲカームだけでした。》


「マジかよっ、地元の魔王って弱くない? もう倒されてるじゃん!」


《はい、魔王ツメヲカームは生まれてすぐに英雄スサンダに倒されましたので。 通常、魔王は永い年月を経て力をつけていくものなのです。》


「それじゃあ、あの女神がセーフティネット?の穴ってのを塞がない限り、全部倒してもまたどっかの世界から棄てられてくるってことか?」


《そうですね。》


「うわー、終わらんぞこれ。 ……なぁ、今って女神は穴を塞ぐ作業に入ってるよな。」


《ルーサレス様は寝ています。》


「おい、さっさとたたき起こせ」

軽く目眩がしてきたと、レイジは眉間を指でマッサージしだした。



□□□



さらに北へと歩いていると次第に辺りが暗くなりはじめる。

レイジはふと顔を上げて目を凝らすと、砂ぼこりをあげながら何かがこちらに向かってくる。


「なんだありゃ?」


距離が近くなるにつれ、先頭を馬車が走り、その後ろをモリマジロ3匹が、そのまた後ろ、だいぶ離れたところにワイバーンが見えてきた。


「ちょっ! 追われてんじゃねぇかっ!!(イベント発生かよ、これって助けたら馬車にヒロインキャラが乗っててムフフな展開のパターンだな)」


偶然だが、レイジはちょうど道ばたに落ちていた黒い長剣を拾い、馬車とモリマジロの間に割って入った。「って、なんで剣がこんなとこ落ちてんのっ?(考えるな、感じろ) とにかく、うりゃーっ!」


『ぎっ!』


モリマジロは突然割り込んだ何者かに三位一体攻撃を繰り出した。


「へっ、その技はもう見たぜっ!! ふん!(俺、今かっこいー)」


1匹を横に蹴りだし、2匹目を踏み台にジャンプ、そして飛びかかる3匹目を剣で切りつけた。


『ぎぎぎぃ…』


剣は鎧の繋ぎ目に差し込まれたため、モリマジロは絶命した。

仲間を殺され数が減り、三位一体攻撃が封じられた2匹のモリマジロは丸まったまま動きが止まってしまった。


『Gyaaaa!!!!』


そこへ高速で、飛び込んできたワイバーンが2匹をパクパクっと口に入れて、さっきのワイバーンが消えた山の方に飛び去っていった。


「昼に助けてくれたヤツとは違う個体か、番なのかもな。」


ヒュンっと剣に付いたモリマジロの体液を振り払い、山の方を見ながらレイジは目を細めた。


「それにしても、なかなか良い剣だな。 なんでこんなもんが落ちていたのか。 コア、この剣のステータスとかもわかるのか?」


《はい、主、アクセス[モリマジロイーター]》


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 名 前 :モリマジロイーター


 能 力 :【切れ味上昇】【スキル封印】【不壊】【不汚】【不錆】

      【三位一体】


 説 明 :切りつけた対象のスキルをたまに吸収することができる。

      英雄スサンダがモリマジロを乱獲した際に使用されたとされる。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「スサンダ、なにやってんのっ? モリマジロ専用メタ武器ってモリマジロに何をされたよっ」


《モリマジロから取れる背中の皮が、鎧の素材になるためクエストで収集でもされたのでしょう。 それより馬車のほうから話し声が聴こえますよ。》



「お嬢様、危険です。 見たこともないおかしな格好で、何か1人でぶつぶつと話してますし、このまま行きましょう。(ぜったいヤバいヤツだ)」


「ダメざんす。 危ういところを助けていただいたのにお礼もせずに去ろうとするなんてマンティス家の恥ざんす。 ポット、早く声をかけてきなさいざんす。」


レイジが振り向くと、馬車が停まり、御者が何やら命じられたのかおそるおそる近づいてきた。


「あ、あのー、私はマンティス家のポットと申します。 先ほどは危ないところを助けていただきありがとうございました。(こっち見た!目つき怖ぇ)」

ポットと名乗る男は、そう言って頭を下げた。肩が少し震えている。


「ポットさんですか、ご丁寧にどうも。 少し前にモリマジロとは一戦していたので出来ることをしたまでです。 私の名前はレイジ・タイダ…じゃねぇや、えっとレイジと言います。(ルーサレスって名前も使いたくないし、レイジでいいや)」

そう言ってレイジが右手を差し出すと、ポットはビクッとしながらレイジの右手をしばらく見つめ、あっと思いついたように腰に巻き付けていた袋から金貨1枚を取り出した。


「あー、そうじゃなくて。(握手の文化がないのか)」


「えっ!あっ、そのぅ、申し訳ございません、今は手持ちがあまりなくて…(ヤバい!俺、死んだかも)」


「いやいや、お金くれってわけじゃなくて、私のいた国では握手という行為でして。」


「アクシュ?、あっ、すみません。 握手はわかります! ひえ、失礼を、ごめんなさい、許してください。」ポットはとうとうレイジの足下にひれ伏してしまった。


「いやいやいや、ちょ、やめてくださいよ。 ほんと大丈夫ですから。 あー、どうしよこれ。(ぜんぜん動かなくなっちゃったよ)」


「ポット!!、何をやっているざんすっ!「おっ、お嬢様!出てきてはなりませんっ!」 お黙るざんす。 レイジ様、ミーはマンティス家の一人娘で、デパリー・マンティスと申しますざんす。 遅くなりましたが命を救っていただき、ありがとうございましたざんす。」


馬車から様子を伺っていたデパリーは、一向に話が進まない上に、命の恩人を困らせている状況に慌てて出てきて、レイジに深々と頭を下げた。


「(ざんす?)デパリーさんも顔を上げてください、私はレイジと言います。 先ほどポットさんにもお話しましたが、お助けできたのは偶然ですし、お礼もいりませんよ。」


「いえ、命を救っていただいたのにそのままでは、マンティス家の名折れざんす。 レイジ様、何かお礼をしたいざんす。 とりあえず今すぐお渡しできる金貨は貰っておいて欲しいざんす。」

レイジはざんすが気になるが、どうしたもんかとデパリーを見る。


華奢といっていいのか、スラリとした細身の長身で少し猫背気味のため顔が前に出ていて、逆三角形の輪郭に、大きな目、口元からはチャーミングな前歯が自己主張している。(やべぇ、出っ歯のカマキリにしか見えない。)


薄い緑色のタイトなドレスは更にカマキリ感を強調していた。

(確かにテンプレ展開だが惜しいっ! ヒロインキャラなら是非ともお断りしたい。)


「うーん、そこまでおっしゃるなら貰います。 それで、えーっと、お恥ずかしい話、実は道に迷ってましてね。 何か食べる物があれば分けていただけませんか? それが金貨で足りない分のお礼ってことで大丈夫です。(そういや何も食ってないし、スサンダ村まで時間かかりそうだから、食べ物でももらって早く立ち去ろう。)」


デパリーはまあっ!と顔を明るくした。

「もしかしてレイジ様は北のスサンダ村に行くざんすか?」


(お嬢様っ! それ以上はっ!!)ポットはその先の言葉を予想し、首をふるふるするが、デパリーの視界にはレイジしか映っていない。


「んー、まー、そうですね。(君たちとは向かう先が違うのだよ)」


「まっ! それでしたらミーの馬車でご一緒するざんす! スサンダ村はここから馬車でも2日はかかるところざんす、ミー達もモリマジロに襲われる前はスサンダ村に向かっていたざんす。」


((ぐふ!))とレイジとポット揃ってダメージを食らう。

「そんな! 馬車に乗せてもらうなんて申し訳ないです。 食べ物いただければじゅーぶんですから。」


「そんな(せっかくの出逢い、もう少し話したい)…ざんす。 あの図々しいとは思うざんすが、またモリマジロに襲われるとも限らないざんす。 スサンダ村に着いたら報酬もお支払いするざんす、護衛をお願いしたいざんすぅ。」

デパリーはくねくね上目遣いで、チラッとレイジを覗いた。もちろん前歯もチラッと覗いている。


(なにこれ? 捕食されちゃうの俺。)


《マンティス家はこの辺の貴族で、スサンダ村は領地の一つです。 乗せてもらうことを推奨します。 ちなみに、この辺りに水場や主が食べられる物はありません。》


(なんでそんなとこをスタート地点にしたぁっ!)


「あ、あのざんす? 護衛の話が不愉快だったざんす、申し訳ないざんす。」

デパリーはコアの声が聞こえないため、固まったように見えたレイジの様子に深読みして頭を下げた。


「あ、いや、逆に貰いすぎかなぁって。 同行させていただいていいですか? ははは。」

頭をぽりぽり掻きながら、乾いた笑いが出てきた。(徒歩で3日、飲まず食わずとかねぇわ。 最初から選択肢ねぇじゃん! 考えるだけ無駄だった。)


「遠慮しないでいいざんす。 ささ、レイジ様も乗るざんす。 ポット、行くざんすー。」


「ははっ、では、れ、レイジ様もこちらからお乗りくださいませっ!(とりあえず悪い人でなさそう? 考えないようにしよ。)」


奇しくも、同じ結論に至ったレイジとポットであった。


馬車の中では、デパリーがテンプレよろしくレイジに惹かれていくのだが、レイジはそのことにあえて気づかない鈍感系主人公で乗りきることにした。



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