1話
--タマカン 魂管理部 転生魂集中センター-
「アクセス [ストリアス・ワールド -ジ・アース- ]」
とある作戦がうまくいったため、ルーサレスは転生魂集中センターに来ていた。
ストリアスからの宿題は2つ。
・穴を塞ぐこと(これは私がやる予定)
・荒れた世界を正常化させること(こっちは中に入れる魂を探さなきゃ)
2つ目の宿題のため、転生候補の魂を探したのだが、ルーサレスの持つ魂リストに魔王に立ち向かえるほど優秀な者などいない。
通常、魂を転生させる場合、管理者が担当する世界間で行うのだが、ルーサレスはまだ一つの世界しか担当しておらず、他の管理者を頼るしかない。
そこでルーサレスは、「ストリアスの世界に多く存在する真面目で優秀な魂を借りパクするため、ストリアスがお酒を飲んでいるときを狙って頼み込み、快く?ストリアスの世界へのアクセス権をゲットしよう」大作戦を実行し、まんまと成功させたのだった。
余談だが、ストリアスは『困ったときのチョロリアス』として、ルーサレスや同期の管理者達からは大人気だ。
《ルーサレスの[ストリアス・ワールド -ジ・アース- ]へのアクセス許可を確認しました。》
「おけおけ、えーと、ランダムサーチ 転生回数が昇華待ち、死にたてほやほや、無駄にハイスペックなハンサムチェリーボーイ?」
ルーサレスは適当に条件をコアに伝え、検索を始めた。
《アンサー 1名該当しました、モニター表示開始します。》
名前:レイジ・タイダノ
転生回数:9999
国 :ニホン(文化レベル5)
性 別 :男
年 齢 :40才0ヶ月(前世の年齢を合わせると100才)
職 業 :無職(前職タイダノグループ センムトリシマリヤク)
能 力 :【武術の才】(カラテ、ケンドー、ゴシンジュツ他多数 上級)
【魔法の才】(魔素がないため封印中)
【上級世界内言語】(ニホン語、他多数)
【前世記憶:スッゴイススンダー連邦(文化レベル8)(限定解禁)】
称 号 :【効率厨】【カンストしたもの】【ヘタレ】【チェリー】
【自殺者】
今世の記録:世界のタイダノ財閥の長男として生まれる。
5才のときにポニーから落馬したときに、頭を強く打ちつけ
その拍子に前世記憶の封印が一部解禁される。
前世の知識(大人的思考)、学力、財力、武力をフルに駆使
し、中学、高校、大学と華々しい成功を修める。
大学卒業後、タイダノグループのお荷物会社の代表に就任、
経営改善を図り、短期間でタイダノグループの年間売り上げ
トップクラスとなる。(現在、グループ会社の中心になって
いる。)
現代表(父親)からその功績を認められ、タイダノグループ
全体をマネジメントする立場に置かれ、権限が増えたため、
知識チート全開で「世界のタイダノ」を超絶大企業体に押し
上げることに成功した。
恋愛遍歴は皆無、見た目と大人びた性格でかなりモテていた
が、本人が、小学生時代は「俺はノーロリ」、中、高校時代
は「不純異性交友、ダメ、絶対!」と異性との接触を避け続
けたため、大学、社会人になった時には、異性を意識しすぎ
て仕事モードで話さなければまともに会話することができな
いほどヘタレをこじらせてしまう。
趣味は、「極めるまでやめません」をモットーに文武両道に
数々の伝説を作る。※スポーツの祭典等に関しては自重して
いる。
中でもオンラインゲームに関しては「札束で殴れば勝てるの
だろ?」と運営会社にお布施を払い続け、ハマったゲームは
セールスランキングが必ず一位となるほどやりこんだ。
知名度、課金度、プレイジヤースキル全てが高いため、他ユー
ザーからは「運営の犬」、「世界の廃課金者」「リアルチー
ター」と呼ばれるようになった。
しかし35才を過ぎた頃からほとんどの趣味がマンネリ化し
たため、放置するようになり、ラノベを読みつつ部屋と会社
を往復する毎日を過ごすようになる。
39才のとき、弟に仕事のノウハウを全て叩き込み、財産の
引継ぎや、パソコンの保存データ等の身辺整理をした上で、
自殺の名所からダイブすることで寿命の強制終了に成功した。
モニターには、黒くて長い髪は全体的にぼさぼさで、前髪の隙間から覗く目はどこか人生を達観したようなやる気のない表情をしている。 身長は170くらいだろうか、鍛えていた筋肉の上から脂肪がうっすらとつき始め、ややぽっちゃりとした体型に、アニメキャラがプリントされたTシャツと青色のジャージ、緑色のサンダルの組み合わせがお似合いの男が3Dで映されている。
「んー、確かに無駄にハイスペック。(記録長すぎ、俺つぇーの人ね) おけおけ。」
ルーサレスは全文を読むのが面倒になり、そのままタッチパネルを操作する。
《レイジ・タイダノの魂を[ルーサレス・ワールド -ダンプスペース-]で転生させますか?》
「イエース♪」
眠くなってきたルーサレスだが、なんとか頑張って[YES]をタッチ。
《レイジ・タイダノの転生先が決定しました。 異世界転生の場合、魂への説明義務が発生します。 今すぐ行いますか?》
「えー? 説明しないといけないの? 眠たいから自宅で眠ってから、あとで説明する。」
《了解しました。 ルーサレス様がお目覚めの頃に魂を転送いたします。》
「ほいほーい。」
ルーサレスは話し半分でタッチパネルを操作し、一通り終えたので転生魂集中センターをあとにした。
《……………………………………………………………………………》
どこか物言いたげな雰囲気で、コアは眠そうにふらふら帰るルーサレスの背中を見送った。
□□□
--タマカン 居住区 ルーサレスの家--
「……、あれ?俺は終活できたから重石をつけて崖からフライしたはず。」
レイジは気がつくと畳に座っていた。
(どこだ? 天国ってわりにはフライしたときに着けていた魔女ッ子プリティのキャラシャツとかそのままだな。)
薄暗く湿気の多い部屋に、ちゃぶ台があり飲みかけのジュースやお茶が置いてある。
足元を見回すと、空のペットボトルや女性物の衣類が足の踏み場もないほどに敷き詰めてある。
「きったねぇ~、ここは地獄か? げほっ」
少し動いただけで埃が舞い散り、容赦なく気管を攻撃する。
「うるっさーい! もう少し寝たいんだけど。 んあ~って、え?」
突然、洗濯物の山が動き出したかと思えば、年は高校生くらいだろうか、金髪ストレートに緑の眼をしたフランス人形びっくりの美人がぶつぶつと言いながら体を伸ばしたところで、レイジと目が合った。
「……………」ピッピッピッピッ『はい、こちらタマカン警備セン…「待てぇ~いっ!」プツッ!
無言で流れるように通報を行うルーサレスからスマホンを奪いとり、通話を切って速やかに御返した。
「あ!えと、しゅ、すみません。 お、おれじゃなくて私はレイジ・タイダノと申します。 し、信じられないと思いまっしゅごが、私はさっきまで高いところを飛んでいたはずのんですが、気づいたらこのゴミ部屋に座っていたのです。 怪しいとは思いますが通報だけはなんとかご勘弁くださいませ!」
わけのわからない場所で、ニホン語が通じるのかもわからない、しかも数年ぶりの異性が超絶美形の高校生事案、テンパりまくりの噛みまくり。とりあえず土下座もしてみた。
「レイジ・タイダノ…どこかで聞いたような? その頭を畳にこすり付ける格好は確か土下座?かな。」
(おお! 土下座が通じるぞ!! しかし知らない女の子の部屋に入り込んで状況説明とかヤバすぎ地獄っ!?)
「はい、私の国では最大級の謝罪ポーズでございましゅ、す。 し、失礼ですがこの状況を鑑みると、私は死んで女神様である貴女が私を喚ばれたとかではないでしょうか? 例えばどこかの国を救えとか、魔王を倒せとか。」
土下座ポーズのまま、察しの良いレイジは置かれた状況を見事に推理した。
「あっ! そうだった、悪いんだけど私の世界を救って欲し「お断りしますっ」いの…」
ルーサレスの言葉を食い気味で断るレイジ。
「……………」
ピッピッピッピッ『はい、こちらタマカ…「待て待てぇ~いっ!」プツッ!
「おいぃ! とりあえず通報はやめましょうか? 俺を勝手に喚びつけて何の説明もなく、世界を救えって勝手すぎやしませんか?」
「…説明いるの?」(正直めんどいすー)
「そうですね、俺としてはニホンでやるべきことを終え整理もつけて死んだはずでした。 もう前世から合わせたら100年は生きてることになりますし、もう疲れました。 それなのに今度はゲームみたいな世界で生活しろとか勘弁してほしいのですが。」
「んー、とりあえず私の名前はルーサレス。 いきなり喚びつけてごめんなさい。 ただ転生あるあるで察しの良い貴方なら気づいてると思いますが拒否権はありません。 で、今までの経緯を説明します。便利魔法『カクカクシカジカ』ほいっ♪」
ルーサレスの指先が光ると、目の前にドットで出来たシカが現れレイジの頭の中に吸い込まれた。
「ぐっ!がああああぁっ 頭がぁっ!やめっれろ!! な、に、をした…」
「えーと、カクシカって魔法で、貴方の前頭葉と海馬に私の意向をダイレクトアタック?」
「おまっ、ふ、ざ………る…な」
頭の中を直接素手でかき回されるような、冷たいのいきなり食べたらキーンのひどいやつのような……レイジは昏倒した。
「あらら、気を失っちゃったぁ。 とりあえずコア、今のうちにこの子をダンプスペースに転生させちゃって。(またごねられると面倒だし。) あっ!0才からだと世界を救う前に終わっちゃうから、この世界の成人なりたての18才まで【成長超促進】でお願いね!」
《これよりレイジ・タイダノの魂を[ルーサレス・ワールド -ダンプスペース-]で転生させます。》
「ほーい、じゃ私は二度寝します。 あとのことよろしく。」
洗濯物の中に潜り込みながら、ルーサレスはコアに手をひらひら振った。
《了解しました。 レイジ・タイダノが目覚めたらサポート入ります。》
(ヘイトたまりますね、ざまぁ系ならラスボスといったところでしょうか。
-フラグが立ちました-