3 執事の努力と関係性
次話かその次あたりからようやく冒頭に戻る予定です。
顔合わせからしばらくして、俺は正式にスティアお嬢様の専属執事となった。
最初は警戒されていたけど、お嬢様はだんだんと俺に馴れてくれたのか親しげに接してくれた。
驚きなのはやはり性格だ。
ゲームの性格とは違い、お嬢様は人見知りで内弁慶で小動物的なおとなしい性格だった。
そして、人見知りの具合が尋常じゃない。
具体的には、知らない人には話せないのはもちろんなこと、使用人の前にすら出るのが難しいレベル。
同性か同い年ならなんとかなるが、男性は完全にアウトらしい。
今のところ男でセーフなのは父親である公爵と俺だけらしい。
ちなみに、屋敷の使用人もそこそこ年齢のいったおばさんかその娘で気性が大人しいものがほとんどだ。
でも、みんな持ってる技術は一流で一人で10人前の仕事をこなすから驚きだ。
俺も必死に努力して同じことができるようにはした。
なにしろ、この屋敷にはお嬢様に近い年齢のものは俺しかおらず、お嬢様自身も俺と前任の乳母以外には馴れてくれないからだ。
あ、ちなみにお嬢様の母親もかなり人見知りだ。
本人いわく「小さな屋敷で家族のみで暮らすのが夢」らしい。
社交界の華とよばれているらしい公爵夫人の言葉とはとても思えないが、オンオフの差が激しいらしく、普段はほんとに人には会いたくないらしい。
さて、仕事にもお嬢様にもそこそこなれてきたある日、俺はいつものようにお嬢様を起こすためにお嬢様の部屋に入ると、お嬢様はうなされていた。
悪夢をみているのか必死に手を伸ばして助けを求めていたのをみて俺は思わずお嬢様の手をとってしまう。
使用人としては不敬なのだろうけど、仕方ない。
「んん・・・あれ?れすたー?」
「はい。おはようございます。大丈夫ですか、お嬢様?」
「お、おはよう・・・うん。大丈夫だよ。」
そう言って微笑んだお嬢様はどこか影のある笑顔だった気がして俺は思わずいつもなら踏み込まないようなことを聞いてしまった。
「お嬢様。力になれるかわかりませんが。お嬢様は何かを・・・いえ、何かの過去にとらわれてませんか?」
「・・・・!な、なにを・・・」
「あの・・・無理強いはしません。お嬢様が話せるのであればで構いませんので。でも、よければ話してください。私は何があってもお嬢様の味方ですので。」
今にして思えばもっと気のきいた台詞があっただろう。
けど、お嬢様は俺の言葉に偽りはないと信じてくれたらしく、話してくれた。
どうやら、お嬢様は今より幼い幼少の頃に誘拐されたことがあるらしい。
誘拐したのはこの屋敷で働いていた男でそいつはどうやらお嬢様を売るために拐ったらしい。
幸いにもお嬢様はすぐに保護されたが、保護されるまでの間にお嬢様はどうやら何度か体に暴力を受けたらしく、その恐怖がきて、昔から人見知りだったのが輪をかけて人見知りになってしまったらしい。
特に男には過剰なほどに恐怖心が出てしまい、年上の男は完全にアウト。
同年代でも同い年の子供は乱暴なのが多くてそちらもダメだったらしい。
本当はお嬢様は5才の頃に王子と婚約しているはずなのにしていないのも、その経験からの恐怖と王子の態度が好まないらしく、婚約の話はあったが流れたらしい。
公爵は娘が幸せになれないなら王家との婚約など意味がないと言ったらしい。
公爵様マジでイケメンだ。
さて、予想外に重い話を聞いてしまったが、納得はできた。
原作ではなかったであろう誘拐というファクターのせいでお嬢様はこんなに人見知りな性格になってしまったのだろう。
俺は震えながらもすべてを話してくれたお嬢様の手を握って目線を合わせた。
「お嬢様。」
「レスター?」
「お嬢様。私はあなたを絶対に守ります。もう二度と誘拐などさせません。私はあなたの執事です。それだけは何があっても絶対に変わりません。ですから・・・」
俺はお嬢様に笑顔で言った。
「お嬢様は俺を信じて楽しく過ごしてください。笑ってるお嬢様が俺は好きですよ。」
「レスター・・・ありがとう。」
言葉にすると薄っぺらに感じてしまうが、俺はあまりうまく言葉を紡げない。
だから、行動で示した。
体を鍛えて、屋敷で最強の侍女に弟子入りして暗殺者としての戦いかたを学び、その娘に騎士としての戦いかたを学んだ。
その親子は親は暗殺、子は騎士と真逆な職業についていたらしく、色々教わることができた。
そして、知識面も色々勉強した。
そのあたりは昔、文官として働いてた侍女に聞いて文字の読み書きや算術をならった。
とはいえ、意外と簡単で日本語を覚えれよりはよっぽと楽だ。
算術は前世の知識と変わらずこちらは勉強の必要はなかった。
そして、俺は公爵と公爵夫人にとあるものを渡した。
それは長いこと時間をかけて作ったシャンプーとリンスそして石鹸だ。
この世界には風呂はあっても体を洗うものはほとんどない。
お嬢様の美肌のために俺は必死で知識をフルに活用して作った。
一応、屋敷の使用人とお嬢様には使ってもらってみたけど問題はなかったようだ。
むしろ、肌の艶がよくなって売ってくれと迫られたほどだ。
さて、そんな訳で俺はそれを公爵様と公爵夫人にみせると、二人も最初は困惑していたが使ってみて気に入ってくれたようだ。
公爵はこれを売り出したいと言っていたので俺は公爵に作り方を教えた。
利権も公爵にお願いした。
ずいぶんと驚かれたけど、変わりにお嬢様の側付きを絶対に外さないで欲しいと訴えたら二人の好感度が上がったので万々歳だ。
ちなみに、その話をお嬢様にしたらお嬢様の好感度も上がったらしい。
そんな感じ俺は時々前世の知識から引っ張ってきたもので公爵に売り込み、気がつけば公爵家からの待遇は相当よくなった。
というか、公爵夫人からの信頼は特にすごい。
俺は美容関係の商品を多数作ったのでそれで公爵家の屋敷の女の人はみんな肌の艶がよくなり、美容関係ではレスターがいいと言われたくらいだ。
まあ、そんな慌ただしくも充実した日々が過ぎていき、気がつけば学園入学まで1年をきっていた。