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あの夏の蝉はもう泣かない  作者: 土野 絋
その蝉の音は少し歪んでいた
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蛍は鳴かぬ

冷蔵庫の中には何にもない。

ただあるのはお茶と今朝とれたブルーベリーだけだった。沙耶は冷蔵庫を開けたまま三秒ほど硬直していた。

うちの果樹園では夏のはじめから夏の中旬までブルーベリーが取れる。

多分このブルーベリーは家で作るジャム用のものなので食べることが出来ない。


「う…私の朝ごはん…」

朝ごはんが食べたいと思ったが、実際は11時に起きたので朝というべきか昼というべきか…

とりあえずブランチとして冷蔵庫の中に食べ物を求めたがこの様であった。

んあー、という表現の出来ない声をあげながら私は意味もなくテーブルの周りを回った。


朝ちゃんと起きれば朝ごはんがあったんだろう。

………………お腹が空いた…。

今日は部活が休みなので暇だ。

今日の予定はヒナ兄に遊んでもらおうだなんて思っていたが昨日の時点でそれは無くなってしまった。


楓ちゃんか…

ヒナ兄が楓ちゃんのことを好きなのはなんとなく知っていた。でも、それは昔の話だしもう終わった恋だと思っていた。

結局の所、大事な存在なのは変わらないらしく行ってしまった。


「お茶でも飲もうかな」

誰かに話しかけている訳ではないがそんな独り言が出た。

グラスにお茶を注いで一気に口の中に流し込む。

頭までお茶の冷たさが伝わるようだった。

全てを胃の中に入れたあと、吐き出す息とともにため息も吐いた。


今日は勉強をしようか。

そう思いながらダイニングの椅子から立てないでいる。

ヒナ兄は楓ちゃんの事がまだ好きなんだろうか。

ダメだとは思ったがこんな考えがよぎった。


そんな過去のことに振り回されないでほしいな


私は佑輝兄ちゃんのことをよく知っているし、あの時のことは今でもまだ悲しいと思う。

でも、もう時効のような気もするんだ。

それに、ヒナ兄は楓ちゃんを助けた。それだけで良かったんじゃないか。ヒナ兄は昔から少し潔癖なくらい正義感があるから苦しめてしまうんだろう。


ふと、沙耶の頭に日向の顔が浮かんだ。


「昔よりかっこよくなったな…」


ふと沙耶はあることわざを思い出した。


鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす


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