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あの夏の蝉はもう泣かない  作者: 土野 絋
その蝉の音は少し歪んでいた
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「おーい!このカゴ、トラックに積んでくれ!」

「はい!分かりました!」


外のセミはうるさく、相変わらず暑い。

僕は果樹園で叔父さんに指示を受けてカゴをトラックに積む。

果樹園の仕事は基本的に果物の入ったカゴをトラックに積んだり、倉庫に入れるだけの仕事だ。

頭は使わなくていいからてんやわんやすることは無い。

肉体的には疲れるが。


とはいえ、長くても昼で終わる。終わったら昼飯を食べて河川敷に行こう。

楓がいるかもしれない。


仕事が終わった。

「日向君、力持ちになったなぁ…」

叔父さんがニコニコしながら僕の肩を叩いた。

「いえ、まだまだヒョロヒョロです。」

「いんや、それで充分だとおっちゃんは思うけどねぇ」

叔父さんは腕を組んで頷きながら少し乱暴にそう言った。

「それ以上力つけても意味無ぇよ。まぁ、日向君の思うように生きれるだけの力はついてると思うぜ?」

「そう…ですかね?」

もし、そうだとしたら僕はまだ力が足りてないだろう。

僕の顔の曇りが読めたからか叔父さんは穏やかな口調で言った。

「今、力が足りてねぇと思うんなら、そりゃ人生を少し重く考えてるからだと思うぜ?」

叔父さんはフフンと鼻で笑いながら

「責任の負い方を間違えるんじゃねぇよ?」

と言って、昼飯だー!と家に戻った。


昼飯を食べた後、叔母さんに水筒を用意してもらって河川敷に出かけた。

たぶん居るはずだ。

河川敷に近づく、少し頭の中で蝉が鳴く。

警報灯の近くに座った。



どれくらい待っただろうか。

ふと腕時計を見ると2時間も経っていた。

予想と期待は外れた。

水筒のお茶を飲んだ。

喉の横を冷やしながら胃に落ちていった。


「私にもくれる?」

ハッと後ろを振り向く。あまりにも懐かしい声だった。

楓。昨日の白いワンピース姿では無くて、ハーフパンツに半袖のパーカーを着ていた。


ミーンミーンミーン…


蝉が鳴く。

「昨日みたいに倒れたりしないよね?」

いつもなら蝉の鳴き声で聞こえないはずの人の声が聞こえた。

蝉の鳴き声の中、楓の声だけが響く。

「久しぶりね、日向。」

楓の顔は大人びて、でも目の奥は幼く感じた。

楓は僕の隣に座った。

「そうだね。」

楓はふふっと笑って元気ないなぁと言った。


お互いに黙った。

とっても短い間ではあるがその沈黙の間が長い。

楓は探りを入れているのかもしれない、僕は傍にいなかったことと佑輝の事でどう切り出して謝るかを考えていた。

あるいは謝るべきではないのかもしれない。

今更、というか謝って何になるのかが分からない部分もある。寝た子を起こすべきではないとも思った。ほじくり出してもお互い辛い。


「ねえ…」

楓が口を開いた。

「私の家に来る?」


その時、楓の幼い目のハイライトが濁ったように感じたんだ。

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