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あの夏の蝉はもう泣かない  作者: 土野 絋
あの夏の蝉はもう泣かない
33/37

沙耶と0.02

私はもう眠くて限界なので前書きは省略。

なんで眠いかって?

アイナナ(アイドリッシュセブン)やりすぎたんだよ。

ヒナ兄は知ってるかな。

手の水かきの部分ってね、少し性的な意味合いがあるんだよ。

だから恋人繋ぎは…。



花火は枯れた。

夏はもう冷えていくのを待つのみになった。


なにかに包まれているんじゃないかと錯覚する生温(ぬる)い夏の夜に。

私の右手はヒナ兄の左手に包まれていた。


「ねぇ、沙耶は僕のこと…その、いつから…?」

私はヒナ兄の顔を見た。

彼は私の顔を見ずに、伏し目がちに前を見ていた。

「ん…いつからかな…」

気付いたら…そんなの…。


カラ…カラ…と下駄の音。

私は自分の足元ばかり見ていた。

「沙耶…僕は…その…」

「返事なんて言わないで」

私はヒナ兄の言葉を、現実を聞きたくななかった。


例え、それが失恋でも叶っていたとしても聞きたくなかった。


家に帰ると、お父さんもお母さんも居なかった。

地域の飲み会にでも行ってるんだろう。

お姉ちゃんも居なかったけど、何となく想像が出来る。


とりあえず、私は自室に戻って浴衣を脱ぐ、そして部屋着を着る。

浴衣を本畳みして、タンスに戻す。

タンスに見慣れない箱があった。


これって…

手に取ると、その箱は避妊具のゴムだった。


思えば、なんでこれを買ったのかよく分からない。


持ってみると、どろっとような嫌な気持ちがした。

息が詰まりそうな感覚。


…今、いけないこと考えた…?


何となく箱を開けて、1つだけポケットに入れる。

息の詰まりそうな感覚は治まらず、むしろ酷くなった気もする。


でも、不思議とそれを知りたいような…


馬鹿みたいな好奇心はとにかく抑えることにした。

なんか…ほら…キスの後でサカってるみたいだし…。


お茶飲も…

そう思って、自室を出て階段を下る。


サカってるって…。

正直、少し前に好きな人と花火見ながらキスしたとは思えないくらい間抜けな発想だ。

キスをしたら、そういう事をする…みたいな単純な思考と本能が働いているのかもしれない。


冷蔵庫を開けてお茶のポッドを取り出す。

「あ、沙耶」

「ヒナ兄、飲む?」

私は右手に持ったお茶を少し持ち上げるみたいにして聞いた。

「うん、飲むよ」

2つグラスを出して、順に注ぐ。

「はい、ヒナ兄」

「ん、ありがとう」

お互い、別に合わせたわけではないけれど同時にお茶を飲む。


お互いにお茶を飲み干して、椅子に座る。

丁度、机の角を挟んで隣に。

「楽しかったな、沙耶」

「そうだね」

嘘みたいに普通な会話。

いや、あんまりあの感じが続いていても苦しいだけだけど。

「叔母さん達いつ帰ってくるかな…?」

「お母さん達は…朝までコースじゃない?」

「やっぱ、祭りって大人もはしゃぐんだな…」

ヒナ兄は笑って言った。

本当の所、あのキスはどこに行ってしまったのか。

ヒナ兄も頑張ってあのキスから普通に戻そうとしているのが分かる。


「ねぇ」

私はさっきから変だ。

「手、繋いでいい?」

妙に興奮してるっていうか…浮き足が立ってるみたいな…?


「もう家の中だよ」

ヒナ兄の正論。

手を繋ぐ必要なんて自宅では無い。

「うん、それでも手が繋ぎたい」


たぶん、私の願望を無意識に頭が許して止めてないんだろう。

私は手を握った。

普通の繋ぎ方から恋人繋ぎにシフトして、片っぽの空いた手で包んだ。


「ごめん、ヒナ兄…今だけ甘えさせて」

どうせ4日しかない。

存分に今を楽しんだって問題ないと思った。

こんなに大胆になれるのは、ポケットのゴムがお守り代わりになってるんだろうか。






今日の沙耶はとても積極的というか、大胆というか。

そもそも、大胆なところも積極的な所も見たことは無いんだけど。


まず、沙耶ってキスするんだみたいな。

ちょっと僕の中では想像出来なかった事だった。

そして何より、沙耶が僕のことを好きだということも想像出来なかった、むしろありえない事だとすら思っていた。


沙耶は僕の手を握ってしばらくした後、シャワーを浴びるとかで行ってしまった。


僕は自室に戻り、布団を敷いた。

タオルケットを被り、僕は目をつぶって、今日のことを思い出していた。


祭りは楽しかったし、沙耶と久しぶりに一緒にいるのも良かった。


沙耶の気持ちには遅かれ早かれ答えなくちゃいけないと思っている。

沙耶自身、僕の返答を遮ったからどう思っているか分からないけれど。


コン…コン…と襖がノックされた。

「どうした?」

「今日は一緒に寝たい…かな」

沙耶は今日、甘えたいんだろう。

今日は、それでいいと思う。


「いいよ、入んな」

すっと襖を開けて沙耶は入ってきた。

当たり前みたいに自分の布団は持ってきていないらしい。

一人用布団に沙耶は入ってきた。

自然と体は密着する。


シャワーを浴びたからか、沙耶はいい匂いがした。

元の匂いかもしれないが、とにかくいい匂いだ。

「ヒナ兄」

「ん?」

沙耶は寝返りを打って、仰向けから僕の方に向き合うように体勢を変えた。

「抱きしめて」

「……」

僕はかなり迷ったが、今日だけ、と許すことにした。


手を回して、沙耶を抱きしめる。

手に何かが触れる。

沙耶の部屋着のポケットから出てきたようだった。


それは手に触れただけでわかった。



これは、ダメなやつじゃないか?




さて、残すところ4日の物語となりました。

彼らはどういうことを夏に思ったでしょうか。


次回、沙耶と楓


楓は沙耶に言った。

「私も日向が好きなのよ」


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