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あの夏の蝉はもう泣かない  作者: 土野 絋
その蝉の音は少し歪んでいた
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あの日と同じ

君が川の向こう側に立っている


君は向こうからまっすぐ僕だけを見ていて


たまに君は僕を見て笑う


僕は君の大切な人の為に君のふりをする


それを見て君はまた笑う


君の大切な人は同時に僕の大切な人でもあって


僕は君と大切な人が楽しそうにしているのを


ただ指をくわえて見ているしかなかった


大切な人の為に僕は君のふりをする


それは大切な人の為?


それとも僕の為?







タタン、タタン...


電車の中はクーラーが効き過ぎていて軽くお腹が痛い。


タタン、タタン...


等間隔な線路の繋ぎ目が一定のリズムを繰り出し、独特な心地よさを生み出している。


タタン、タタン...


でも、そんな心地よささえ掻き消す程、僕の気持ちは沈んでいた。


タタン、タタン...


あれから五年。

相変わらずあの日から蝉は鳴き止まない。


タタン、タタン...


効きすぎるクーラーが膝の上の花を悪くしないかと心配になる。


タタン、タタン...


そのとき、目に見覚えのある景色が流れる。

外を見るとあの川が見えた。


タタン、タタン...


もう、着いたのか...

車内アナウンスが流れる。


[次は瀬尾川(せおがわ)駅ー、瀬尾川駅ー、お出口は右側です]


プシューというガス音と共に電車は駅に停車し、僕はその駅で降りた。

河川敷の独特な泥臭さと草の匂いが鼻を通り頭の中を充満させた。


そして呼び起こされたように頭の中の蝉は鳴き始める。あの時と変わらない蝉の音。僕はあの日から蝉の音があの事に関係することがあると鳴り始める。


両手に荷物をまとめて狭い改札を通り、中なのか外で鳴いているのか分からない蝉の音と一緒に僕は親戚の家に向かった。

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