暖かな箱庭へ
ガラス張りの箱庭の中を、チューリが機嫌良く飛び回る。くるくると三回くらい飛び回ったら気がすんだのか、ようやくチューリは庭の大木に降り立った。
あ、これ綺麗な赤い実がなってる、王都でみた事ある樹みたい。朝はこの赤い実を食べる小鳥達でやかましく、夜はその小鳥達が鈴なりに身を寄せあって眠るあの樹じゃないかな。
ぶっちゃけ樹の下はフンやら実やら木の葉やらが散乱していて、歩くのには難儀するんだ。ただ、この庭にはそんな大量の小鳥なんている筈もなく、赤い実がふさふさとなった、宝石のように美しい樹に見える。
チューリも赤い実をついばんで、幸せそうに囀ずった。
どうしよう、チューリも落ち着いた事だしこの前見た時に気になっていた聖気が濃い物達でもじっくり見てみた方がいいだろうか。それとも、あの少しだけ開かれた扉から見える部屋に勇気を出して入ってみるべきか。
少し逡巡してから、結局まずは庭の中を見る事に決めた。
やっぱり部屋の中に入ったら見つかる可能性も高くなるし、少しでも長く探検して色々と考える材料が欲しい。幸い庭にだってファリエル様の聖気が色濃く残る物がいくつかある。
部屋の中に入るのはそれを調べてからでも遅くはないだろう。
「ピィ……ピピッ」
チューリも聖気が濃い物に近寄るのは嬉しいようで、すんなりと椅子の上に置かれたレースの編み物に近寄る。
う~ん、近くで見てみても聖気が濃いって事以外、なんにも変わった事はないなぁ。
一生懸命角度を変えてチューリが見てくれるんだけど、ヒントになるような物は見当たらない。編み物の近くに置いてある紅茶からずっと温かそうな湯気があがり続けてるのが不思議なだけで、それ以外の変わったところなんて何もなかった。
仕方なく他に聖気が濃く残っている庭の薔薇に近付いてみたけど、
やっぱり特に何も変わったところはないし。
あたし、頭脳労働はあんまり得意じゃないんだよね……。
今まではこういう時って、エルンストとリッツが中心になって考えてくれてて、あたしとニルスは思いついた事があれば言ってみるってくらいのスタンスだった。
ニルスはまだ鍵開けとかの技能があるしトラップには詳しかったから、時にハッとするような事を言ったりしてたけど、あたしなんて役に立った感ゼロだし。ああ、こんな時エルンストがいてくれたらなあ……。
何にもヒントが見出せなくてう〜ん、う〜ん、と唸っていたらさすがにちょっと飽きてきたのか小首を傾げながらチューリが薔薇の小枝にとまって羽根を休めた。
その瞬間。
薔薇の聖気が一瞬にして膨れあがる。
眩い光が辺りを包んだ。
その途端に薔薇の垣根の中にある蕾が一斉に花開く。ポポポポポポッと音が聞こえるくらいに次々と咲いていく様はなんというかもう、本当に壮観だった。今までだって満開だって思ってたけど、まだまだ蕾がたくさんあったんだなってびっくりするくらい。
ひととおり蕾が咲き終わったら、また何事も無かったかのように静寂が訪れる。
なんだったんだろう、今の。
何かに反応したみたいに、急に蕾が咲いたよね?
チューリが薔薇の小枝にとまった時だった。もしかして、重さに反応してる?それとも……聖気?ファリエル様くらい研究熱心な方ならきっと、聖気に反応してるって方がずっとそれっぽい。
でも一回咲き終わった薔薇は、チューリを通して聖気を強めてもそれ以上は反応してくれなくて、あたしは自分の仮説を確かめるのにさっそく困ってしまった。
仕方なくもう一度レースの編み物に近寄ってみる。レースの前で小首を傾げていたチューリがちょこんとレースの上に乗っかった。
どう?
……?
あれ?反応なし?
重さにしても聖気にしても、さっきはチューリが小枝に乗っただけで反応した。じゃあ、なにか違う要素なんだろうか。そうは思うものの他には思いつけなくて、とりあえずチューリを通じて聖気を大きく濃くしてみる。
チューリの体に聖気が漲り始めた途端、今度はレースが光り始めた。薔薇の開花ほどはっきりした効果はないけれど、レースの糸がふんわりと優しい淡い光を放ち始め、チューリの足元からジンワリと暖かさが伝わってくる。
これって、レースが熱を発しているのかな……?
ああ、そうか。
このファリエル様の聖気が濃い物達にはきっと、一定の聖気を鍵にして発動する聖魔法の仕掛けがされてるんじゃないかな。薔薇の蕾が咲いたのも、レースの糸が輝いたり熱を発したりするのも対象物の生命力を一時的に活性化させる、聖魔法を応用してる。
それにしても、なんの意味があってこんな仕掛けを作ったのやら。
この魔族ばっかりの城じゃ、ファリエル様以外の誰もこの仕掛けに気付ける人なんか居なかっただろうに。ファルの話から察するに相当研究熱心な方だったんだろうとは推察できるものの、意味がわからない仕掛けにあたしは首を傾げるしかなかった。
庭にある噴水からもとても大きな聖気を感じたけど、この感じじゃきっと、噴水がキラキラしたり超噴き出したり水が踊りだしたりするに違いない。
チューリ、濡れたらゴメン。




