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自称魔王にさらわれました 〜聖属性の私がいないと勇者が病んじゃうって、それホントですか?  作者: 真弓りの


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強化すべきは

紙とペンを所望して、自称魔王の部屋を辞したあたしは、その後黙々と研究書を転記した。


ファリエル様の知識は深すぎて、今のあたしでは理解できないことであったり、人体に働きかける事だから記述を確かめながら慎重にトライしたいものが沢山ある。


そうなると、自称魔王に研究書を返してあげるのが格段に遅くなってしまうことは火を見るよりも明らかだ。つい先日はからずも大切に育てて来た愛鳥、チューリを取り上げてしまったばかりだし、敵対しているわけだから変な負い目は作りたくなかった。


だから、とりあえずまずは2冊を転記して、ファリエル様直筆の研究書は自称魔王へ届けて貰う。


慣れない作業にすでに肩はばっきばきだし目もシパシパ、もう無理。あとはおいおい、無理のない程度に転記して返していこう。





一息仮眠をとってから、すっきりしたした頭で考えた。


さて、何から取り掛かろう。


ファリエル様の研究書は面白くって、読み始めると止まらない。でも、それを読み耽るだけであたしの魔法の腕が上がるわけじゃない。理論が分かったら、あとは実践しながらひたすら試して体に覚え込ませないと意味がないんだ。


それに、あたしには時間もない。今こうしている間にも、リッツ達は魔王城に向かって足を進めているだろうし、旅の中で怪我をしているかも知れない。


今のパーティーには回復役はいない。とても強い4人ではあるけど、北へ行く程魔物の強さだって桁違いだった。何かの拍子で重症を負う事だってあり得ない事じゃないから。



そう、魔法を強化するにしても、リッツ達の役に立つ可能性があるものを強化すべきだ。



「ピイ♪」



あたしがあんまり考え込んでいるものだから、可愛い相棒チューリが「どうしたの?」とでも言いたげに、あたしの周りをクルクルと飛び回る。チューリが飛ぶと聖気がキラキラと宙に舞ってなかなかに綺麗だ。


ああ、可愛い。


この魔気に溢れた土地、魔気に溢れた城はチューリには居心地が悪いらしくて、初めて出会ったあの日以来、片時もあたしの側を離れない。


自称魔王によると、渡りの途中で襲われてこの地に落ちてしまったんじゃないかって。確かにこの土地で、チューリの聖の気は目立ち過ぎる。城から出たとしてもあっという間にまた魔物に見つかって、襲われてしまうだろう。



「あたし達って似てるかもね」



衣食住完備だからある意味幸せなのかも知れないけど、自称魔王の庇護が無ければすぐに死んでしまうだろう存在。うん、あたしが生きてこの城から帰れる時は、チューリも一緒に連れて行こう、そして魔気の少ないところで離してやるんだ。



そのためにも、あたしは力を付けなければ。



リッツ達がこの城に辿り着くのをただ待ってたら半年以上かかるんでしょう?そんなのは嫌だ。


何とかしてこの城から逃げだしてリッツ達と合流するか、せめてあたしが生きて元気だって事を伝えたい。出来ればニルスやエルンストにも。


それにはやっぱりあたし自身のスキルアップが欠かせない。


まずは気配探知のレベルをあげる事。

自分がこの城から抜け出すなら魔物のいないルートを行くしかないんだから必須の能力だし。リッツ達の居場所が掴めなければそもそも合流するなんて夢のまた夢だ。


次に、攻撃手段を得ること。

パルムお婆ちゃんとの一週間で、攻撃魔法にはどれもこれも適性がなかったあたしだけど、ひとつだけ可能性がある。あの時パルムお婆ちゃんがリッツにやったの、あれがヒントだと思うんだ。


他者の命の衣をガッツリ剥ぎ取って、戦闘不能に追い込むの。あれなら、出来そうな気がする。純粋な攻撃魔法じゃないけど効果は抜群だし、やることが治癒に似ててあたしにとっては凄く向いてる。


治癒は相手の生命の衣を増幅させると効果的なんだけど、これ、いったん自分の中に相手の生命を取り込んで増幅させると凄く効率いいんだ。要はその相手の生命の衣を取り込む時に超取り込めばいいんだもんね。うん、なんか練習すればできるんじゃないかな。


そして、あとはやっぱり他者の気配を操作出来るようになること。

実はこれ、ファリエル様の研究書でかなり詳しく研究されてる。いったん行き詰まったらしい研究は、その後の試行錯誤で立派に方法が確立されていた。


治癒の時に相手の生命の衣を増幅させるやり方のもう一つ、相手の体に直接働きかけて生命の衣を増幅させるのに考え方は近い。相手の体の中に意識を集中させて同化し、体内を巡る力を増幅させるんだけど、相手の体を乗っとるイメージであんまりあたしは好きじゃなかった。でもこの期に及んで背に腹は代えられないもん。



「チューリ、協力してね」


「ピイ♪」



分かっているのかいないのか、話しかけられてチューリはとってもご機嫌だ。


チューリなら、人間の何倍もの速度で移動できる。聖の気さえカバー出来れば体が小さいから魔物に見つかる可能性はかなり薄いだろう。あたしは、チューリをメッセンジャーに出来ないかと考えていた。



「娘、ヴェルティ様がお呼びだ」



チューリを相手に気配操作の特訓をしていたら、例のごとくファルが呼びに来た。なんでも、早速ファリエル様の研究書を2冊返したもんだから、自称魔王がとってもご機嫌であたしに素晴らしいご褒美をくれるらしい。


素晴らしいご褒美って……何なんだろう、気前いいな。

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