魔王城にて
ファルが扉の中に消えると同時に、あたしは急いで扉に近寄る。
見れば重厚な扉は、僅かに開いていた。そう、ちょうどあたしがすり抜けられるくらいに。
何これ、まるで誘い込まれるみたい。
一瞬心が警報をならしたけど、さっき考えたみたいにあたしに罠を仕掛けたところでヤツらにメリットなんかないんだからと首を振る。
どのみちこのまま廊下でボンヤリしてる訳にもいかないんだ。
だってあたし、気配は消せても姿がかくせるわけじゃない。視認されてしまえばどっちみち危険なことに変わりはないわけだし。
それでもとりあえず、集中して気配探知してみると、廊下を曲がった先に自称魔王達ほどではないけれど、割と大きな魔気があった。しかも、歩いているのか少し近づいてきてるみたい。
そして扉の向こうには、さっき見たばかりの自称魔王とファルの気配がある。位置的に扉よりは結構奥まったところにいるみたい。
このままさっきあたしが放り込まれた部屋に戻るとか、とりあえず違う方向を散策するとか、考えられないでもないけど、今手っ取り早くあたしにとって有益な情報がゲットできる可能性があるのは、多分ファルの後を追ってこのちょっぴり扉が開いた怪しい部屋に入る事だと思うんだよね。
さっきの様子から考えるに、自称魔王はあたしを今すぐどうこうしようとかは考えてないみたいだし、むしろあたしがここにいる事情を知らない一般魔族に見つかった方がよっぽど危ない気がする。
よし、入ろう。
決意を固めて扉の隙間から、スルリと部屋に入る。
部屋は……誰もいないし、なんだか不思議な部屋だった。思ったよりも全然ちっこい部屋で、あるには書棚と重厚なテーブルセットだけ。美味しそうなお菓子と変わった匂いの干物……おつまみ?みたいなものがお皿に盛り付けられていて、その横にはティーセットみたいなのが置いてある。
確かにファル、この部屋に入ったと思ったんだけど。
キョロキョロ辺りを見回したていたら、どこからか声が聞こえて来た。
「これはまた、随分と思いっきり折檻したものですね。仮にも仲間でしょうに、堪え性のない」
「そうか?充分我慢してるだろう。宝物を勝手に棄てようとされれば誰でも怒る。ファルだってその腰の魔剣、勝手に棄てられたらどうする?」
「そんな命知らずは殺すでしょうね」
「……ああ、うんまあ、そういう事」
なんか物騒な話してるなぁ。
どうやら奥まった所に続きの部屋があって、二人の声はそこから聞こえてくるみたい。声の方にそろそろと近づいていくと、思いもかけない事がおこった。
「もう止めろって!それ以上はやり過ぎだ!」
「それより先にやる事があるだろう!」
もう聞けないかも知れないって思ってた声。
ニルスと、エルンストの声が聞こえたんだ。
まさか、二人もここに連れてこられたの?
「ニルス!エルンスト!」
気がついたら、奥の続き部屋に飛び込んでいた。
「おお、来たか」
なぜ自称魔王が満面の笑みであたしを見る。でもそんな事はどうでも良かった。
ニルスは?エルンストはどこ?
部屋を見回しても、自称魔王とファル以外、誰もいない。しかも二人はあたしなんか完全無視でなにやら金銭の授受を行ってるし。
「私の勝ちだ」
「……どうしてヒト属は、こうもバカが多いのか。実力にみあわぬ行動が多過ぎる。ちゃんと大人しくしているように言った筈だが」
なぜかファルに睨まれたけど、そんな事もどうでもいい。
「今!今、ニルスとエルンストの声が聞こえたわ!二人はどこ?」
「ニルス……?ああ、なるほど。残念だがここにはおらぬ」
「でも……!」
「声はここから聞こえているのだ。見てみるか?なかなか面白い事になっておるぞ?」
自称魔王はニッコリ笑って、テーブルの上に置かれた大きな水晶玉を指差した。
恐る恐る近づいたら、確かに水晶玉からかすかに声が聞こえる。さっきはどうやらニルスやエルンストが怒鳴ったから、離れたあたしにも聞こえたんだろう。
さらに近づいたら、水晶玉の中にニルスと、エルンスト、そしてリッツの姿が見てとれた。
「リッツ!」
もしかしたら、と思って呼びかける。
「リッツ!ねぇ、リッツ!ニルス!エルンスト……!」
でも、誰一人振り返らない。こっちから姿を見る事ができるだけで、あっちと交信できるわけじゃないんだ。
なんだか視界がぼやけた。ついさっきまで、話そうと思えば話せるし、顔見るだけで嬉しかったのに。
「こ、こら、娘。なぜ泣く」
「だって、話しかける事もできない……」
「……ふん、呑気なものだ。あっちは結構な修羅場なんだが」
若干慌てた様子の自称魔王と違って、ファルは至って冷静だ。呆れたように言われて、改めて水晶玉をじっくり見たあたしは、本気で我が目を疑った。
……ちょっと待って。
なんでリッツが羽交い締めされてんの?しかもニルスとエルンストの二人がかりだ。さらに言うなら、その前にはアーサーさんが仁王立ちしている。
……なにこの緊迫した空気感。




