第七話 キングダム
「よし、じゃあユキ、ほらっ、代表して乾杯の挨拶!」
「えっ!?急だなあ、もー、わかったよ……えーっと皆さん、今日はこのハナ――――」
「かんぱーい!」
「………………おい!」
着工からわずか2か月で、ハナミヤの街づくりは完成した。私たちが初めてやって来た時に存在した城の周りのみすぼらしい掘っ立て小屋は、今ではすっかりその姿を変え、立派な城下町へと変身を遂げている。
元の世界では考えられない程の建設速度は、さすがマルカ族といったところだ。
本日は、ハナミヤの完成を祝して、お城で大宴会が催されている。マリエスタの住人も、かなりの人数が駆けつけてくれた。
「じゃーん、見て見て!ウチラの武器が完成したよー」
「えっ、何それ?聞いてないよ」
「へへーん、ジブンらには内緒でマリエスタの武器職人の兄ちゃんに注文しとったんや、今日出来上がったっちゅうて持ってきてくれたわ」
「ずるーい、なんで3人だけ?私のは?」
「ユキには風切剣があんじゃんか、カナとリンコはピストル持ってるし、私らだけ普通の武器とか不公平だろ」
そう言ってトモカとリサとアカネは、新しい武器を私たちに披露した。まずはトモカが私の風切剣よりも長身で、突先に三日月形の刃が付いた”槍”を見せてきた。
「これが私の”青龍偃月刀”。どう?かっこいいでしょ?これから私のことは『トモカンウ』と呼んでくれてもいいよ?」
「呼ばないよ、なんだそのダサい名前」
「まあでも、槍ってのは良いんじゃない?トモカの身体能力を生かすには、剣よりも槍の方が理に適ってるわよ」
「でしょう?さすがリンコはわかってるね」
続いてはリサの武器だ。こちらもトモカのと同様、かなりの長さを誇る”鉄製のバット”だ。表面にはトゲがいくつも付いており、よく昔話で鬼が持っている”金棒”そのものである。
「やっぱ、このチームの四番はる人間としては、これしかないやろ、どんな敵でもスタンドまでぶち込んだるわ!」
「強そうだけど、それ持ち運び大変じゃない?肩に担いだりできないよ、トゲ付いてるし」
「………………ホンマや!?」
最後はアカネだ。彼女の武器は、武器というよりも防具に近く、鉄製のグローブとレガースだ。
「私は武器とか使わないんだけど、さすがに素手で生き物殺し続けるのも、感触が気持ち悪いからさあ、特別にこれ作ってもらったよ、リングに上がった時の格闘家みたいでかっこいいっしょ?」
「アカネにしてはまともじゃん、もっとバカみたいな武器出してくるかと思ったけど」
「失礼な!」
それにしても、これで6人揃うといよいよヤバい集団にしか思えない。大剣に長槍、金棒、鉄のグローブに拳銃、私たちがつい2か月前までは、ただの女子高生だったという事実を誰が信じるのだろうか。
ハナミヤやマリエスタのみんなは、特注の武器を披露する私たちを、頼もしいといった表情で、温かく見てくれてはいるが、中には心底怖がっている人もいるのではないかと不安になってしまう。
宴会は夜通し続いたが、その中で嬉しい報告があった。それはマリエスタの住人のうち30もの人が、ハナミヤに移り住んでくれるというのだ。その中には医者や料理人、大工さんや、『ダイシングワクール』を使える職人さんもいる。
もちろん彼らは、こちらから一方的に、無理を言って来てもらった訳ではなく、新たな仕事のチャンスを求めて、自発的に移住することを希望した。それに、現ハナミヤの住人もそうなのだが、基本的にハナミヤでは、街に住んでいるだけで、私たちから何もしなくても暮らしていけるだけの生活費を支給しているので、その辺りの福祉面も考慮してのことだろう。
しかし、だからといって、私たちのように毎日ダラダラと遊んで暮らしている人は一人もいなく、皆せっせと自分の仕事をまっとうしている。ここら辺が、ニートばかりの日本とは大違いだ。
ちなみにルルもハナミヤに移住してくれることになった。彼には、私たちのそばに居て、マリエスタとハナミヤの連絡係を務めてもらうことになった。人一倍喜ぶアカネを見て、ルルが冷や汗をかいていたのを私は見逃さなかった。
(ハナミヤの代表として、アカネの魔の手からルルを守らなければ……)
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ハナミヤの本当の意味での始まりを祝う大宴会も終え、都市として動き始めてから数日が経過したある日、私たち6人は今後の予定について話し合った。
「とりあえず、ガラシアからは早速いくつか案件が来てるわ、基本的にはどれもゲルザのような、ガラシアの近隣にいる無法者の始末ね、色々情報を集めてみたけど、ゲルザに比べるとかなりしょぼいものばかりよ、報酬もあまり期待出来なそう」
「そっか、でも困ってる人がいるんなら、引き受けないとね」
「いえ、今回はスルーしましょう、私たちは別に正義のヒーローじゃないんだから」
「ええー!なんでよー?小物だろうと、片っ端からやっつけに行って、みんなに感謝されようよ~」
「そない時間かかることしてたらババアになってまうわ、悪人っちゅうのは無限に生まれてくるもんやからな、持ち金しょぼそうなんやったら、やる必要ないやろ、もっと金になることせな」
「うわっ、最低!結局お金じゃん!」
「まあ今は金に困ってないしね、また今度でいいんじゃない。それより、わざわざリンコがみんなを集めてるんだから、どうせ他に何かやりたいことがあるんでしょ?」
「ふふっ、ええ、もちろん、じゃあちょっと説明する前に人を呼ぶわ」
そう言うとリンコは、ドアの前に待機させてたミーレを中に迎え入れた。
「みんなはミーレがここから少し北にいった街”ファルファンサ”の出身だってのは知ってるわよね?」
「ああ、そういえばそんなこと言ってたね、あれだろ?そこの人は皆ミーレみたく緑色の目してるんでしょ?」
「いえ、比較的移住者の多い街なので、全員ではありませんが、ファルファンサに住む人々の、半数以上は私と同じ”サグ族”になります。サグ族はまたの名を”緑目種”と呼ばれており、この緑色の瞳が特徴なのです」
「サグ族は商売人気質の強い民族だそうよ、まあミーレが他の女の子と比べてとてもしっかりしてるのを見てもわかるんだけど、だからファルファンサは別名『商人の街』とも呼ばれ、この大陸の中央市場のような街になってるの」
「へー、じゃあリサと気が合いそうだな、ならファルファンサは日本でいうところの”大阪”って感じか」
「ええ、そうね、その例えが正しいわ。ファルファンサには、世界中のありとあらゆる商人と品物が集まるし、一つの街とは思えないほどの貨幣が毎日流通してるの。そんな理由もあって、ファルファンサもマリエスタ同様に、大陸の中央という危ない地域に存在しながら、昔から三大大国のどれにも属さない中立国という立場にいるそうよ。……まあ大国が攻めてこないのにはもう一つ別に大きな理由もあるんだけどね」
「なんだよ、その理由って?」
「それはまたおいおい説明するわ、私も実際に見たわけじゃないからね、――――それで私の話はここからなんだけど、私たちの国をつくってそれを大きくしていくって目標、あれみんなはどういう風にしようと思ってる?」
「どういう風にって、まあその言葉通り、金と土地と人を集めて国をつくるんじゃないのか?」
「じゃあこのハナミヤは何?ここはもう私たちの国じゃないの?」
「一応都市って感じだけど、国っ言えば国だよね、まあ首都みたいなもんかな、それでハナミヤの近くをどんどん自分たちの国にして行くってイメージかも」
「そうね、ユキの言う通り、首都っていうのが正しいわ、でも周りを国にしていくっていうのはちょっと難しそう、例えば未開の新大陸を発見して、っていうならそれも可能なんだけど、このハナミヤの周りには既に違う街や国が存在してるからね、そこを飲み込むためには、それこそヒムレスじゃないけど戦争しかけて力ずくでやるしかないわ」
「戦争はダメだよ、それじゃあ完全にワルモノじゃん」
「ええ、だから私が考えた案なのだけど、ここハナミヤを中心とした”ハナミヤ連邦国”をつくるっていうのはどうかしら?」
「連邦国?」
「そう、このハナミヤを首都とした新たな国よ、参加する都市は、それぞれが独立して政府や長を持ってもらって構わないのだけど、友好関係とかではなく完全にハナミヤ連邦国として、私たちの傘下に入ってもらうわ」
「ソ連みたいなものね?でもそれこそ飲み込むのとあまり代わらなくない?結局力ずくになりそう」
「そこは大丈夫、ファルファンサもそうだし、それこそマリエスタもそうなのだけど、実はこの世界って、あまり『国』という意識が無いみたいなのよ、ちゃんと『国』って謳ってるのは三大大国以外では数えられるくらいしか無いらしいの、その他は全て『街』や『都市』になるわ、もっと言うと同じ種族で形成された『集落』みたいなものよ。だからそんな街々に声をかけて、みんなで固まろうって提案するの、まあ、もちろん代表は私たちにやらせてもらうんだけど、だからといって税金を納めさせたり、無茶な法律を作ったりとかはしないわ、逆に私たちはこの力で加入した街を守ってあげるの」
「なるほどね、それなら私たちの武力を見せつければ、呼びかけに応じてくれる街もありそうだね」
「うん、いいじゃん、賛成!」
「せやな、ええと思うわ、なら話の流れ上、一発目に狙うんはファルファンサっちゅうことか?」
「ええ、もちろん、もし最初にファルファンサほどの大都市を口説き落とせたら、その後はもう簡単なはずよ、下手したら向こうから入れて欲しいって言う街もあるかも、ただその分ファルファンサを説得するのは容易ではないわ、何といってもファルファンサはそれほど武力を欲していないのよね、だから私たちの力を見せつけたところでそうそう効果があるとは思わないわ」
「うーん、それは困ったなあ、ウチらから武力をとったら他に何にもないぞ」
「まあでもリンコのことだから、何か糸口を掴んでるんでしょ?」
「ふふっ、まあ少しはね、それでミーレの登場ってわけ、ミーレは幼い頃に両親を亡くして、それからはとある商人の弟子として、独り立ちするまでお世話になってたらしいんだけど、どうやら最近その師匠がファルファンサの偉いさんに抜擢されたらしいのよ。だからそこから何とか話をつけてって思っているの」
「はい、つい先週のことなのですが、私の恩人であり師匠でもある”ヤマリ先生”が、ファルファンサの執行部”12人協議会”の最年少議員に選出されたという話を聞きました。ヤマリ先生はとても聡明で賢者であらせられます。ですのでリンコ様のこの素晴らしい提案を必ず受け入れて下さると思います」
「そら都合がええわ、ほなこれからミーレ連れてファルファンサに行くんか?」
「そうね、用意が整い次第出発しようと思ってる」
「おお、マリエスタ以外の街に行くの初めてじゃん、楽しみだー、ミーレも久しぶりに帰れるね」
「はいっ!心より嬉しく思います。これも全てゲルニールから救い出して頂いた皆様のおかげです!」
こうして私たちは『ハナミヤ連合国』の建国を目指し、ミーレと共に商人の街”ファルファンサ”へと向かうことになった。
ハナミヤからファルファンサへ行くには、険しい山道を越えなければならないため、普通の人間だとマリエスタのおよそ2倍、丸2日かかってしまうらしいのだが、直線距離にすると、マリエスタの約半分しかなく、私たちの超人的な身体能力で、道の無い岩山を突っ切れば、たったの30分で到着してしまう。
もちろんミーレには不可能なため、武器が軽いアカネが背負って連れていくことになった。道中、背中のミーレに、サグ族の少年についてしきりに質問するアカネに呆れつつも、私たちは心を躍らせながらファルファンサへと続く岩山を走り抜けて行くのであった。