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第四話 銃夢

 

 マリエスタに来て一週間が経過した。

 

「アカン、もう金が底つきそうや!」

「えっ、ウソでしょ、あんなにあったのに?」


 ゲルザから奪い取った物資は、ライガルに『120万エド』で換金してもらった。『エド』というのはこの世界の通貨なのだが、成人男性の平均年収が、だいたい50万エドくらいだそうなので、日本での円の価値と比較すると、ちょうど10倍くらいの計算になる。

 換金に加え、用心棒の報酬として30万エドが支払われ、これで私たちの手には全部で150万エド、日本円にすると、1500万円ほどの大金が舞い降りた。


「だいたい”ランクレス”が高すぎんねん、これ一個15万もすんねんで、一気に全財産の3分の2が飛んでったわ」

「まあでも、これはしょうがないだろ、言葉が通じなかったらどうしようもないんだから、むしろ貴重なものなのに6個も売ってくれたことを感謝しないと」


 私たちは手にしたお金で、すぐに言語を補助する魔術道具”ランクレス”を買い取った。街にある在庫が少ないらしく、ライガルは少し渋ったが、そこはリンコの得意な交渉術で首を縦に振らせた。

 どっちにしても、まだゲルザには、ボスであるゲルニール兄弟と1000人以上の兵士が残っている訳で、マリエスタの脅威が解消されない以上、ライガルも私たちを無下に扱うことは出来ないのだろう。そんなこともあってか、一時的に借りたつもりであった大剣『風切剣』や、その他の剣たちも、かなり安い値段で武器屋から譲ってもらえた。


「それでもまだ50万くらいは残ってなかったっけ?まあ連日どんちゃん騒ぎはしてるけど」

「いや宴なんかは、ほとんどウチら金払ってへんのやけどな、たいてい街のみんなが、感謝の気持ちやいうて、はろうてくれとる」

「じゃあ、なんでそんなに金がないんだよ?」

「……リンコとカナがなんやごっそり持って行きよった」

「はっ?なんで?」

「なんか今後の為に使うとかでな、詳しいことは終わるまで秘密なんやて」

「えー、リサ、そんなんで黙って金渡したのかよ、会計係失格じゃん」

「いやいやリンコとカナやで!あの二人に言われたらしゃあないやん、ウチらの頭脳担当やねんから!そもそも、120万の収入やって、ほとんどあの二人の手柄やし」

「……まあ、それはそうだな」

「ふーん、だからあの二人最近いないんだ」


 この一週間、私たちが何をしていたかといえば、何のことはなく、ただただ毎日食べて飲んで騒いでいた。ゲルザの襲撃を退けた日の夜、街の勝利を祝して大宴会が開かれたのだが、そこで振る舞われた『ミル』という飲み物に私たちはどっぷりハマってしまった。『ミル』はわかりやすくいえばビールのようなお酒なのだが、とても甘くて飲みやすく、後味もスッキリとしていて、悪酔いしない。

 それからというもの昼間からミルを片手に、街の人々を捕まえては、宴会を催す自堕落な生活を送っていた。今日も私とリサとトモカとアカネは、日も明るいうちから飲み屋に入り浸っている。

 そういえば2、3日前からリンコとカナの姿が見えなくなっていたが、あまり気にしていなかった。そもそも私たち6人は、元の世界でも、一人でふらっと行動しがちなメンバーが集まっている、なので人の行動にはあまり干渉しない癖がついている。


「手を上げな、さもないと頭に風穴があくよ」


 するとちょうど二人の噂をしていたタイミングで、背後からカナらしき声が聞こえてきた。それと同時に頭に固いものが当たる感触がした。


「カナ、何してるの」


 呆れながら振り向くと、そこには黒く光った、ピカピカの拳銃を、私の頭に突きつけ笑っているカナの姿があった。


「っておい、危ねーな!ていうかなにそれ?まさか本物!?」

「へへーん、遂に完成したよ、夢にまで見た鉄製!あーホントにこっちの世界きて良かったよ~」


 カナは拳銃に頬ずりしながら、浮かれている。一緒にやって来たリンコも満足げな顔だ


「なんや秘密って、チャカつくっとったんか、またオモロイことすんなあ、ジブンら」

「どうだっ、すごいでしょ~?」

「いや、そらすごいけども……んで残った金はなんぼあんねん?」

「あるわけないでしょそんなの、全部使ったわよ」

「へっ!?全部?全部って渡した50万全部?」

「うん、ぴったり使っちゃったよ、てへっ」


 二人に罪悪感などはなく、そんなことより拳銃の作成に成功した満足感でいっぱいのようだ。対照的に私たちの会計を任されてるリサはがっくりと肩を落としている。


「つうか、すげえな、そんなのどうやって作ったんだよ?」

「ふふっ、よくぞ聞いてくれましたっ、じゃあリンコ説明しちゃって」

「私?まあいいけど、とりあえず座らせてもらうわよ」

「すいませーん、ミル二つ追加でー」


 リンコとカナは席に着き、ゆっくりと拳銃作成の経緯を語った。


「宴会中に住人から聞いたんだけどね、マルカ族には他の種族ではなかなか使えない特殊な魔術が存在するんだって、『ダイシングワクール』っていう魔術なんだけど、これは人の空間認識能力とか、手先の器用さとか、集中力だとかを一時的に向上させる技なの、具体的に言うと、『ワクール紙』っていう魔術道具の紙に描かれた製図を、魔法の力で自動的に頭に読み取り、無意識のうちにモノを作り上げるっていうものなの、まああっちでいうところの”3Dプリンター”みたいなもんよ。製図はかなり正確に描かなければいけないんだけど、そのかわり製図さえ描ければ何でも創り出せちゃうっていうすごい魔術で、この力のおかげでマルカ族は重宝され、今までマリエスタは戦火を逃れてきたそうだわ」

「何でもって、それ凄くない?じゃあ向こうの世界のモノなんでも創れちゃうじゃん」

「いや、それがそうでもないんだよ、この製図ってのが曲者でね、私は銃なんて腐るほど作ってきたし、製図も完璧に暗記してるのに、それでも術がちゃんと発動するレベルの製図はなかなか描けなくてね、結局50枚ほど書いてちゃんと使えたのは2枚だけ……ちなみにワクール紙は一枚で3000エドもするから、それだけで15万も飛んでったよ」

「15万!?そら惜しみなくつこうたなあ、そんでもまだ35万残ってるやんけ、それはどこいってん?」

「もちろんワクール紙代だけじゃなくて、魔術職人さんへの報酬もあるし、拳銃の材料の鉄のお金もかかってるし、でも何より一番お金がかかったのが”弾丸”ね」

「弾丸?」

「うん、製図は型作っちゃえばいいだけだし、鉛も普通にあるんだけどさあ、問題は火薬なんだよ、この世界ってまだ火薬っていう概念がないからさあ、硝石探すのにすっごい苦労したよ、色んな鉱石とか、代わりになりそうなもの片っ端から取り寄せてね~、それで残った資金全部無くなっちゃった」

「そんで結局弾丸は出来たわけ?」

「えへへっ、出来たよ~とりあえず100発ほど。あとはまだ材料取り寄せ中~」

「すげえな、もう撃ってみたの」

「もちろんっ、弾がもったいないから数回しか試せなかったけど、完璧だよ!あ~早く敵に撃ち込みたいよ~、ゲルザのやつら、また早く攻めてこないかな~」

「なに、笑顔で怖いこと言ってんだよ」


 結局拳銃は2丁完成したようだ。カナとリンコがそれぞれ携帯することとなった。カナは「最終的には戦闘機を作る」と意気込んでいたが、この二人なら本当にやりかねない。


 



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 それから数日たったある日、私たちはいつものように行きつけの居酒屋で昼間からだらだらと他愛もない話をしていた。


「カナの夢は叶ったわけだろ?じゃあそろそろ私の夢も叶えてくれよ!」

「……聞きたくもないけど一応聞いてやるよ、お前の夢って?」

「もちろん、ショタハーレム!」

「当たり前みたいにゆうとるけど、なんやねんそのショタハーレムって?」

「はあ、しょうがない、教えてやるか!まず私がでっかい屋敷の主になんのよ、そんで屋敷の住み込みのお手伝いさんとして、12~15歳くらいのマルカの少年を何人も雇うんだ、彼らの衣装はもちろんメイド服、まあいわゆる女装子ってやつだよ、あっもちろん下着も女性物ね。んで給仕してもらうんだけど、いってもまだ子供だからさ、色々ミスをするわけさ、そこで私が”おしおき”をしてあげるの、ああもちろん上手く出来た時は”ご褒美”もあげるんだけどね、ふふっ、まあその内容については、ここじゃあちょっと言えないかな」

「…………聞いてホンマに損したわ、何ニヤニヤしながらゆうてんねん、気色悪い」

「アカネ、あんたここの少年たちにイタズラとかしてないでしょうね?」

「おいおい、人聞き悪いこと言うなよ、さすがにまだ実行には移してねえよ」

「ちっとも信用できない――――おーい、ルルっ、ちょっとこっち来てくれる」


 私はカウンターでマスターと話していたルルを呼んだ。


「はい、なんでしょうか?」

「ねえルル、あなた毎朝アカネを起こしに行ってるけど、何かされてない?」

「へっ?何かとは?」

「いやだから、いわゆる性的なことよ、無理やり押し倒されたとか」

「ええっ!?いやっ、あのっ、……な、なんにもないですよ」


 ルルはそう言うと、顔を真っ赤にして俯いてしまった。これでは何かあったと言ってるようなものだ。


「おい、アカネてめえ!!」

「アカネちょっと表でな!一発ぶん殴ってやるから!」

「ちょ、ちょっと待て、そんなヤバいことはしてねえよ、ちょっと確認しただけだって!」

「確認?なにそれ?」

「いや、だからほら、どうなってるか見とかないとさあ、いざってなった時に、とんでもないものが出てきたらマズイだろ?」

「……つまりルルの男性器を確認したのね?」

「も、もちろんちゃんとお願いしてだよ!なっ、ルル?」


 ルルは恥ずかしそう小さく頷いた。


「そんで、どうだったの?」

「おっ、なんだ~文句言いながらも興味はあるんじゃねえか、大丈夫ちゃんと知ってるやつだったよ、あれならたぶん子供も作れると思う」


 この世界で子供が産めるかどうかは、やはり女である以上、私も気にしていたことだ。しかしながらアカネからは欲望の臭いしかしない。


「ルル、今度もしアカネに何かされそうになったら、すぐ私たちを呼ぶのよ、守ってあげるから」

「ひっでー、人を変質者みたいに」

「いや、十分変質者だよ」




 そんなしょうもない会話をしている時だった。

 「カーンカーンカーンカーンカーン!」

 聞き覚えのある敵襲を伝える鐘の音と共に、住人の一人が血相を変えて店に飛び込んできた。


「みなさん!ゲルザの奴らが来ました!」

「また来たの、懲りないねえ」

「もう戦い始まっちゃってんの?もしかして被害出ちゃった?」

「いえ、今回は戦争をしにきたわけではないようです。……どうやらみなさんと話しがしたいようです」

「話?ふーん、まあ聞かないこともないけど……じゃあここに呼んできてよ」


 ―――数分後、ライガルに連れられてゲルザの兵士たちが店に入ってきた。先頭にはひときわ体がでかく、ギラギラと光る趣味の悪い装飾品を体中にまとったゴリラが立っていた。そのゴリラは不敵な笑みを浮かべながら席に座り、私たちと対峙した。後ろには側近と思われる兵士が8人ほどこちらを睨み付けながら立っている。


「やあ、お嬢さんたち、俺はゲルザを仕切るゲルニール兄弟の弟、グル・ゲルニールってもんだけどよ、あんた達かい、うちのかわいい兵士たちを600人ほどぶっ殺してくれたっていう女戦士は?」

「そうだけど、なにか用?」

「はっはー、すごいねえ、そんなひょろっちい体で、一体どうやったか教えて欲しいもんだ?」

「あら?お仲間から聞いてないの?どうやって無残に殺されたのか」

「あんたらが、後方隊も含め全員やっちまったからねえ、生き残って報告してくれる奴がいないんだわ、まあでも大方予想はつくさ、どうせ悪知恵でも働かせたんだろ?うちの奴らは戦闘は滅法強いが、いかんせん頭が足りねえ、卑怯な真似されるとまんまと引っかかっちまうのよ」

「ふふっ、卑怯な真似ねえ」

「なにが可笑しい!!!…………本当だったら今すぐにでも全員ぶち殺してやるんだがなあ、残念だが今日はそういう訳にもいかねえんだわ、うちの兄貴がお前らにいたく興味持っちまってよお、よかったなあお前ら、特別にゲルザに連れてってやるよ」

「……はあ?連れてく?」

「おう、うちの兄貴は気に入った女がいると種族関係なく囲っちまう癖があるんだわ、お前らは光栄にもその一員になれるんだからよお、まあせいぜい可愛がってもらうんだな」

「はっはっは、おもろいこというやん、このゴリラ」

「ふふっ、ゴリラ大奥だって、どうするみんな?」

「気持ちわりい、変な病気とかガンガン移されそうだな」

「鏡見てから言えよ、クソゴリラ!」

「ああん!なんだとてめえら!…………てめえらまさか断る気じゃねえだろうな?どうなるかわかってんのか?ああん!」

「へー、断ったらどうなるのよ?」

「皆殺しだよ!お前らが黙って付いて来るなら、この街の住人は半分くらい生かしてやってもよかったんだけどなあ、断るってんなら女子供容赦なく皆殺しだ!」

「あははは、面白いねえ、気持ち悪いゴリラのとこなんか行くわけねえだろ!やってみろよザコ!」

「…………くっくっく、ムカツキすぎて笑えてきたぜ、交渉決裂だな、今の言葉忘れんなよ、明日にはすぐ戻ってきて、全軍率いて街ごと粉々にしてやるから、せいぜい人生最後の一日を楽しむことだ」


 ゲルニールは笑いながら椅子から立ち上がり、私たちに背を向けて、店の出口へ歩き出した。


「……はあ?明日?なにいってんのお前?まさか今日は帰る気でいるの?」

「ははっ、残念なことに今日は100人しか率いてないからよ、楽しみは明日にとっておくことにするさ」

「いやいやいや、お前アホだろ?そんな宣戦布告しといて、黙って帰れる訳ないだろ」

「なに?どういうぃ――――――」


『ドンッ! バンッ!ドンッ! バンッ!ドンッ!ドン!』


 ゲルニールがこちらを振り向いた瞬間、けたたましい銃声が店内に鳴り響く。ゲルニールとその側近たちは一瞬でカナに脳天を撃ち抜かれ、血飛沫と共に床に崩れ落ちた。


「ファッキンジャップくらいわかるよバカヤロー!」


 カナが煙の出る拳銃を持ちながら、びっくりするほど似てないモノマネをした。そしてトモカとアカネの方を向き、右肩を一回クイっとあげながら


「おい、ダンカン、らっきょ、外の奴ら始末して来い!」

「……おい、まさかそれ私とアカネのこと言ってんのか!だれがダンカンとらっきょだ!つかそのひどいモノマネやめろ!聞いててこっちが恥ずかしくなるわ!」


 トモカとアカネは文句を言いながらも、外の敵を始末しに向かった。


「あーあ、マスターごめんねー、汚しちゃって、ちゃんと弁償するからさあ」

「いやあかんでユキ、うちらもうほとんど文無しやで」

「えっ、マジで?どうしようリンコ?」

「まあしょうがないわね、じゃあ面倒だけど一つ働きに行くしかないわ」

「働きに?ってどこへ?」


「決まってるじゃない、ゲルザよ――――ゲルザ潰して、貯め込んでる財産、全部奪っちゃいましょう」




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