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ありふれた感情論の波

その世界はどことなく、僕の居た世界に似ていて、そして―

僕の居た世界とは異なっていた。



「ありふれた感情論の波」



 僕は交通事故で死んだ。

 原因は相手の自動車の信号無視。


 ありふれたつまらない理由で、僕は警察署のカウンターを1だけ進めた。


 起きたのは学校だった。

 よもや、助かったか?と思ったが、僕は僕ではないことに気がついた。

 鏡に映るは別人の顔。僕の考えたことを話すは、聞き覚えのない声だった。


 教室には誰もいない。ただ、僕が在るのみだ。

 窓にかかっている汚れた白のカーテンが、風にのってふわり、と揺れた。


 窓の外には誰もいない。ただ柔らかな陽の光が、そばの小さな池に反射してきらきら、と光っているのみだ。

 草木がさわさわ、と揺れた。


 机から降り、教室を出る。

 靴下の足音が、廊下に響く。


 てかてかに磨かれた廊下には、足跡ひとつない。実に綺麗である。

 まだ見ぬ外へ、その一歩を踏み出す。


 そこにあるのは、人が歪めた自然な町並み。

 人の気配などまるでしない。


 “誰もいなかったら、幸せだったのに―”

 不意にそんな声が世界に響き、僕の意識は溶けていった。




 起きたのは公園だった。

 家の近くにある公園に似ている。でも、なにか違う。


 幼稚園児だろうか、そのくらいの背丈の子供が砂場へとかけていった。

 滑り台の方には、親御さんが微笑ましそうに眺めながら、会話をしている。


 ありふれた公園の風景。でもその中に、僕は居なかった。


 これも僕じゃない。僕でない僕だ。


 せきを切ったように流れだす時の流れは、彼らの空間を彩る。

 楽しげ、悲しげ、深い意味もあれば、軽い雰囲気もそこに詰まっている。


 透ける僕の存在感は、しかし彼らに届くことなく、跳ね返って僕を苦しめた。


 “誰も僕に話しかけなかったら良かったのに―”

 世界に反響する声は、僕を深い睡眠に陥れた。




起きると、そこは家の中だった。

 友達の家だろうか、生活感がしない。


 母親らしき人が出てくる。

 大声をあげて、家族を呼び寄せる。


 夫らしき人と、中学生くらいの子供が出てくる。

 彼らの目にはしかし、恐怖ではなく嘲笑いが見える。


 その見下したような目ときたら、一番懐かしい。

 その語彙のない罵倒。僕が何度バカにしたか。


 何もできない僕を、彼らのような人は何度蹂躙したことか。


 僕は笑った。

 笑い転げた。


 これがきっと、人なのだろうと―




 起きると、そこには何もない。

 ただ、真っ暗な空間が広がっていた。


 そこが一番落ち着いた。


 ここは自分の場所じゃないと、自分ではないと感じた。

 でも僕はここから動きたくなかった。


 だんだんと体が馴染むのを感じた。

 空間内を泳げるようになった。


 でも、どこにも行く必要はない。此処は僕の場所だ。

 もう、誰にも渡さない。


 次第に僕の意識は、暗闇に同化して消えていった。




 起きると、そこは病室だった。


 自虐的に心で笑った僕は、

病室の前で泣く、誰かを目にした。


 僕は彼を知らない。


 彼の目的も、僕ではないだろう。

 きっと―


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