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転生 005

「これが……風呂?」


 クライスの前にあるのは、白く硬い浴槽。

 もうもうと湯気が風呂場全体を覆っている。


「すごいや! こんなの貴族でもお目にかかれないよ!」


 はしゃぐノーブルを横に、クライスは思考を巡らせる。


(確かに見事なものだが、得体がしれない。普通の貴族でも湯で汗を流す程度で、ここまでのものだと余程の財力を持っていなければ作れない。あの男、一体何者……?)


「これが普通じゃないのか?」

「これを普通だと言えるのがおかしいよ?」

「へぇ……そうなのか。あ、脱いだ服は渡してくれ。洗うから。」

「有り難いな」「ありがとう!」

「乾くまで時間が掛かるからな。かわりの服を置いておく。……それじゃ、ごゆっくり」



 二人は体を流して浴槽に浸かる。

 華奢な体のクライスと、肉付きの良いノーブルが丁度パズルのようにすっぽりとはまった。


「どうした、元気がないな?」

「いやー、なんていうか……目のやり場に困るというか……」

「確かに、この家は何で出来ているか予想もつかんからな。珍しいものばかりで驚いた」

「そうじゃなくて……」

「なんだ?」


 ノーブルは思わず口から漏れそうになった言葉を飲み込み、ゆっくりと言った。


「もしかしてだけど、女の子(・・・)だったの?」

「え?」


 今はクライスがタオルを体に巻いている。

 ノーブルにはそれが不思議で不思議でならなかったのだが、そういうことだと気付いたのは浴槽に入ってからだった。


「ああ、女だが。何か問題でも?」

「いやあ、びっくりしたなぁって」


 実際、ノーブルは知識欲が満たされた程度にしか感じていなかった。


「まあ、髪が長すぎるようには思っていたんだけどね」

「女らしく振る舞ったことはないものだから、そう思われていたのも仕方ないか」


 ノーブルはまじまじと髪を見やると、しっとりと濡れたクライスの髪は、肩に掛かり毛先が肘に触れている。

 その長さから、学内の生徒は各方面に引っ張りだこで髪を切る暇もないだろうと解釈していた。天才と呼ばれる程の人物なのだから、そのような理由なのだろうと。当然ながら教授らは名簿にて性別を知っている。


「そうだ、僕も聞きたいことが在るぞ。勉強が出来ない人物が入学することは通常出来ないんだが……どうやって入学したんだ?」

「話すとちょっと長くなるんだけど、元々住んでいた村が閉鎖的な所で、魔力で村を隠すくらい外を毛嫌いしていて。数百年前からずっとそこで誰にも見つからずに在ったんだ」

「新聞でそんな記事があったな」

「で、去年国に見つかってから村を解体して各地へ散ったんだよ。国の保護付きで」

「成る程な」


 ノーブルにはノーブルの事情があった。


「世の中には色んな人が居るんだな」



 こんな森の奥でも人がいた。

 数百年隠れ続けていた村民がいる。

 想像もつかない出自だ。考えもしない。


 ――クライスに足りないのは、人生経験。

 天才と呼ばれようと、幾つもの理論を発見しようと、その身は子供に過ぎない。

 そのことをクライスは今、嫌というほど実感していた。



「おーい、服洗い終わったぞ。そろそろ上がれよー」


 少年の声が、扉一枚を隔てて響いてくる。


「わかりました」

「……上がるか」


 クライスが立ち上がると、タオルがはだけた。


「おっと」


 ノーブルはしっかりとその裸身を目に焼き付けていたため、顔を赤く染めていた。


「顔赤いぞ、大丈夫か? のぼせるなよ」


 クライスは、そこまで湯が熱かったかなと思いながら風呂場を出て行った。

 残されたのは、放心状態のノーブル一人。


「不意打ちすぎるよ……」


 顔に手を当てて、はぁっ、と息を吐いてから後に続いた。






※姓名についてですが、日本と同じように『姓・名』となります。『名・姓』ではありません。

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