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試練の室

 


 自分が悪いことは理解している。

 人一人の命の重さを理解している。

 だけど、衝動的にやってしまった。

 イジメ低俗で野蛮なことをするから、俺に向かって延々と呪いの言葉を吐き続けるからだ。

 全部こいつらが悪い。

 そうだ、こいつらのせいだ。


 クズがクズがクズクズクズクズ!

 ああもうイラつくなぁ!

 なんだって人生これからってときに殺人犯して少年院確定するんだよ。

 イジメの決定的な打開策がないからこうなったんだよ!

 人間の数がウン億とかまで増えてんのに、なんで対抗策がないんだよ! わけがわからん!


 とりあえず落ち着こう。

 そうだ、素数だ。

 1以外で割れない孤独な数字とかだったな確か。

 2.3.5.7.9……って、9は3で割れるか。


 まあ一応落ち着いたからよしとしよう。




「あ」


 目の前の光景を再認識する。

 網膜を通して脳に流れ込む、視界の8割を埋め尽くす赤くて黒い液体。


「ああ……」


 声が掠れている。

 喉が枯れているんだ。

 それでも、声を出さずにはいられない。


「……どうしてこうなった?」


 どこかの部活の部室。

 俺は返ってこない疑問を投げかけた。

 つまり自問自答だ。

 どうして? それは俺の運が悪かったからだ。

 たまたま廊下でぶつかり目を付けられた、不運が招いた事故だ。


「何が悪かった?」


 また自問自答だ。

 運が悪かったからだ。

 なにもかもが同じだ。俺に非はない。


 そのとき、部室の扉が開いた。

 なんだ女子か、しかも教室の一番右後ろの席で本ばかり読んでいるやつだ。

 確か帰宅部だったな。力は弱いはず。

 もう三人はやっているんだ。今更一人増えたところで罪は変わらないだろう。


「き…………」


 まずい、女の声は甲高いんだ。

 ここからでも隣の校舎に聞こえてしまう。それは拙い。

 慌てて押し倒し、口を手で塞ぐ。

 組み敷かれてもじたばたともがくのは滑稽だが、こんな状況で笑えない。


「ぐ……う…………」


 背後から、声がした。

 あれだけ殴ったのに、まだ生きているのか!?

 幸いにも他の二人は起きる気配はない。


「いいから早く黙って死ねよこのクソ女!」


 低く掠れた声で言い放つ。

 左手で顎を掴み開かないようにして、右手で首を絞める。

 感触が悪い。人間が動物だっていうことを思い知らされる。

 気持ち悪い。だが人を殺めることが禁忌だと知っていてもやめられない。


「み、三咲か……このクソデブが」


 完全に起きやがっ…………


「いっ…………ッ!」


 後頭部に重い衝撃。

 うつ伏せに倒れながら見えたのは、忌々しい男の鬼気迫る表情とその手に持った四角い箱。

 あの箱、携帯電話とかいうやつだったか。

 俺を殴った衝撃で、部品が壊れて分解している。


「三咲! 大丈夫か!」

「ゴホッ! ゴホッ……だ、大丈夫……」


 ああ、そうか。

 そういやこいつらカップルだったっけか……


「豚が、汚い手で三咲に触れただと? 許されるわけねぇよなぁ?」

「そうよ! やっちゃって来駕君!」


 走馬灯が走る。

 一瞬が長く感じることはなかった。

 しかし記憶が一度に全て駆け巡った。

 脳の処理速度を越えて、焼き切れるほどに熱くなるのがわかる。

 自然と足が動いていた。

 もたつく足で必死に駆けた。

 奴らの懐を潜り抜けて、その先の開け放たれた窓へと突っ込んだ。




「ここは四階だぞっ! 馬鹿が!」


 ざまぁみろ。

 このあとお前は俺と他二人を殺した犯人となって少年院に入るんだ。

 悪魔みたいなお前には、最高の置き土産だろう?


 そうしてアドレナリンが大量分泌されているせいか、痛みを感じない体は衝撃を伝えるだけに止まった。

 地面はコンクリートだ、出血量が多い。


 先の事を考える。

 このあと大量出血で死ぬという事実は変わらない。


 ああ……くっそ、駄目だ。

 まだ生きたいと願ってしまう。

 こんな人生をやり直したいと思ってしまう。






 ──今度は、来世は、幸せに暮らせることを願うしかないかな………………

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