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前篇

 押入れは藤森明(ふじもりあきら)のスペースシップだ。

 十三歳の明は小柄で、押入れの上段にこもっていても、それほど窮屈に感じなかった。頭上の裸電球のスイッチを入れる。一畳半ほどのコクピットが照らしだされた。積み上げられた座布団に寄せて、背もたれの動かなくなったリクライニングシートが、側面の壁に向けて置かれている。そこがチーフパイロットの操縦席だ。もともと入っていた布団類は、ぜんぶ下段の船倉に押し込んである。

 明は操縦席に腰かけ、前方の壁を凝視する。

 白い壁はスクリーンで、そこに大宇宙が映し出されていた。漆黒の闇を滲ませ、赤い球体が渦巻いている。スペースシップは火星に到達しようとしていた。

「明」

 母親の声に、明の夢想は破られた。

「担任の狩野(かのう)先生がいらしてますよ。早く出てきなさい」

「うるさい」

 明は、ふすまごしにどなりつけた。

 明が中学に行かなくなったのは、一年生の夏休みのあとだった。宇宙や異星人の話ばかりするので、明は友達として受け入れてもらえなくなった。仲間外れにされ、もう四ヶ月近く学校に通っていない。

 階段を上がってくる音がして、二人の足音が部屋に入って来た。

「明くん。先生だ」

 明は無言でふすまに耳を押しつけた。

「きみが出て来ないんで、クラスのみんなはとても心配している。先生だって心配だ。早く学校に来い。みんな待ってるぞ」

 その言葉が本当なら、そもそも不登校にならなかった。狩野は受け持つクラスの状況を見ていないし、知ろうともしない。まるで無関心だった。

 明は担任の言うことをいっさい信用していない。

「息子さんはいま心を固く閉ざしているようです。無理にこじ開けようとしてはいけません。少しずつ歩みよりましょう」

 狩野が母親に言い聞かせている。

 明は、異星人がしゃべっているようだと思った。

 一月十五日になった。その日は〈月刊大宇宙通信〉の発売日で、明はその雑誌を買うため、月に一度決まって家を出る。玄関を出たとたん、冷たい風が吹き込む。明はマフラーに顔をうずめた。

 明がいつも〈大宇宙通信〉を買う本屋は、駅の反対側のアーケード街にあった。道路の両側に並んだ店の多くは、シャッターが下りている。一年中、シャッターは閉ざされたままだった。

 駅前に巨大ショッピングセンターができたので、地元の商店街はさびれるいっぽうだ。ショッピングセンターのなかにも大きなブックストアはあるが、明が求める雑誌は置いていなかった。アーケード街の小さな本屋は、店主もまた宇宙フリークで、その超マイナー雑誌を扱ってくれていた。

『明くん』

 商店街を歩いていて、声をかけられたような気がした。

 明は立ち止まると、周囲を見まわす。まばらな歩行者のなかには、自分を呼んだとおぼしき人はいない。

『明くん、こっちだよ』

 声のした方向には花屋があった。夏休み明けにオープンした店だ。それまでは開店休業中の理髪店だったはずだ。

 ショーウインドーのなかのサボテンの鉢植えが、明の目に止まった。ひょろりと細長く、細い棘におおわれ、片手を、「やあ」と上げている形状だった。

『そう、ぼく』

 ええっ。明はウインドーに歩み寄り、歩道に膝をついた。

『地球人とは初めて話すんだよ』

「地球人とはって?」

 明は言葉につまった。

 じゃあ、このサボテンは本当はサボテンじゃなく……。

『きみからすれば宇宙人かな。ぼくの故郷は火星なんだ。ちょうど地球のおとなりさんだね』

 明は信じられなかった。いや、信じたかった。背後を振り返るが、誰もサボテンの声に気づいた様子はない。テレパシーを使っているんだろう。そんな能力があるなら、普通のサボテンのはずがなかった。

『テレパシーっていうのか。ぼくは明くんのボキャブラリーを利用して、地球の言葉を話しているんだ』

「ほんとうに火星から来たの?」

 明は半信半疑でたずねてみた。

 火星は赤い砂と岩石におおわれた天体で、いまのところ生物の存在は確認されていない。

『そう。いつもは砂に埋もれているから、ちょっとわからないんじゃないかな。この前、地球の探査機が走りまわっていたけど、ぼくには気づかなかったみたい』

「でも火星で、どうやって暮らしてるの?」

 火星の大気の主成分は二酸化炭素だという。表面のほとんどは乾いた土壌だ。それでも、かつて水があった痕跡はみつかっていて、天体の両極に氷が張っていることも確認されている。

『ぼくらは二酸化炭素とわずかな水で生きている。体が貯水タンクになっていて、少ない水分をためこんで利用できるんだ』

 明の思考をよんだのだろう、火星人がそう答えた。

「サボテンみたい」

 明は感心した。

『ぼくも花屋でサボテンを見たときは、あまりにも似ているから、ぼくらの仲間が、すでに地球に来ていたのかと驚いた。ふつうの植物だったけどね』

「それで花屋にいたんだ。地球にはどうやって来たの? やっぱりUFОとか?」

『それは企業秘密』

「ずいぶん気に入ったみたいね。安くしましょうか」

 えっ。明は顔を上げた。

 エプロンをした三十歳くらいの花屋の女性が、笑顔を向けている。

「そのサボテン。ぴったり千円でいいわよ」

 値札には千三百円とある。

 千円は明の全財産だ。サボテンを買えば、大宇宙通信は買えなくなる。それでも火星人をゲットできるんだ。

 明はかつて宇宙にまつわる空想話ばかりしていた。それがもとでクラスの仲間とうまくいかなくなったのだ。けれど、これで宇宙人の証拠が手に入る。そう考え、 明は鉢植えの購入を決めた。

 なけなしの千円を払い、火星人をラッピングしてもらった。サボテンの育て方をあれこれ教えてくれたけど、適当に聞き流して店を出た。

 入れ違いに、学生服の少年とすれ違った。

「あっ」明は目を見開いた。

 スポーツ刈りの角ばった顔に、太い眉毛の下のぎょろ目。五木猛夫(いつきたけお)だ。夏休み明けに転校してきて、すぐにクラスの番長になった。明を宇宙バカだと言い、率先して仲間外れにした生徒だ。

 店の看板を見上げると〈五木フローラ〉とある。

 猛夫も明に気づいたようだ。

「おまえっ」

 突然、胸倉をつかまれ、ショーウインドーに背中を押しつけられた。相手は頭ひとつぶん大きく、明はつま先立った。

「ひきこもりじゃねえか」

 げじげじ眉の下から、にらみつけてくる。

 なぜ、猛夫に乱暴されたのか理解できなかった。ぼくがなにをしたんだろう? きっと、明の存在じたいが目障りなのに違いない。

「ここ、五木くんの店?」

「うるせえ。そんなわけないだろ」

「猛夫」

 さっきの花屋さんが、店から出てきた。

「うちのお客さんだよ。乱暴したら承知しないから」

 猛夫が舌打ちし、明をにらみつける。

「おれんちが花屋だってしゃべったら、そのサボテンをおまえの口に突っ込んでやるからな。ようく覚えておけ」

 猛夫が、そう念を押して手を離した。

 明はあわてて逃げだした。家に駆け込み、階段を上がり、押入れのコクピットに逃げ込む。操縦席に座り、壁のスクリーンに想像の世界を描き出す。そこには明だけの大宇宙が広がっていた。

『そんなの、本当の宇宙じゃない』

 ――えっ。

 その声は、抱えていたサボテンの鉢から伝わってくる。

『明はどうしてこんな狭い場所に閉じこもっているの。宇宙はもっと広いんだよ。押入れの外に地球があり、その外に太陽系があり、その外に銀河系があって、そんな銀河が無数に集まって宇宙は無限に広がっている』

「だって恐いんだ。新しい世界に出て行くのが恐いんだよ」

 明は鉢を抱え込んだ。

 小学生のころから人付き合いは苦手で、なかなか友達がつくれなかった。中学に上がったら、新しい人間関係をきずけるかと不安だった。結局、明はクラスからはみ出し、自宅に閉じこもったのだ。

『地球人はそうして成長していくんでしょ。学校を卒業して、会社に就職して、結婚して、子供を作って、そうやって人生の花を咲かせていくんじゃないの』

「――はな?」

『ぼくの人生の目的は、自分の頭に花を咲かせることなんだ。地球人の人生とは違うかもしれないけど、立派な花を咲かせるために努力する。明くんが新しい世界に出るため努力するのと同じだと思うよ。ぼくもがんばるから、明くんも、学校に行けるようにがんばろう』

「でも」明はためらった。

『だったら、ぼくもいっしょに学校に行く』

「サボテンと登校するなんて恥ずかしいよ」

『ぼくはサボテンじゃない』

 火星人だった、と明は思い出した。

『自己紹介がまだだったね。ぼくはポロッコ。よろしく』

 ラッピングのなかから、サボテンが、やあ、と片手を「く」の字に上げている。なんだか勇気がわいてきた。

「わかった」

 明は、外の世界に第一歩を踏み出す決意をした。

 翌日、明が登校すると、クラスのみんなは驚いた。ビニールの手提げには、サボテンの鉢植えがあり、もっと驚いていた。それが火星人であることは黙っていようと決めた。変に注目は浴びたくなかった。

 明の席は窓際で、ポロッコは窓枠のそばに置いた。カーテンのすきまから柔らかい日差しがそそいでいる。教室は二階で、窓から校庭のネットと、その向こうの森と神社の屋根の一部が見えている。

 鋭い視線を感じて振り返った。一番うしろの席に、五木猛夫の険しい顔がある。慌てて顔を戻した。

 なぜ、猛夫に目のかたきにされているのか、明にはやはりわからなかった。

 朝のホームルームが始まった。

 担任の狩野は、ことさら明の話題はださなかった。まるで三ヶ月のブランクがなかったように、自然に明をクラスに溶け込ませようという配慮なのだろう。明と目が合うと、わかっているぞ、とばかりに大きくうなずいた。なにがわかっているのか、明には理解できなかった。

 ホームルームが終わり、一限目には少し間があった。生徒たちがてんでにしゃべり始める。誰も明には話しかけず、クラスでひとり浮かび上がっているような気分になった。うしろは振り返らないようにした。猛夫のぎょろ目が、まだにらみつけているのを感じていたから。

 最初の授業は数学だった。数学の教師が黒板に記号を書きはじめたが、明にはちんぷんかんぷんだった。教科書を見ても、まるで暗号書のようだ。授業についていけるわけがなかった。

 数学教師と目が合った。眼鏡の奥の目がかすかに笑う。

「藤森くんはよほど勉強ができるから学校に来る必要はなかったんだろうね、この等式を解いてみてくれないか」

 教師にうながされ、明は恐るおそる立ち上がった。

 解けるわけがなかった。助けを求めるように、窓際のポロッコを見た。日差しにサボテンの緑色が鮮やかだ。

『X=5。Y=7』

 ――えっ。

 ポロッコは頼もしげに棘をきらめかせている。テレパシーに気づいた生徒はいないようだ。明はうなずき、震える足を運んで黒板に向かった。

 だしぬけに答えをかくと、先生の眼鏡がずり落ちそうになった。「途中の式も書きたまえ」と裏返った声で言う。

 ポロッコに目を向けると、瞬時に等式のイメージが頭に送られてきた。明はそれを板書していった。

 先生はなにも言わなかったが、明には正解を出したとわかった。先生の眼鏡はずり落ちたままだった。

 昼休みになり、明は鉢植えを持って、校庭の水飲み場に向かった。ポロッコのおかげでピンチを切り抜けられた。お礼に水をたっぷりあげるつもりだ。

 明の足が止まった。

「男のくせに花なんかいじりやがってよう。なにが園芸部だ」

 テラスの花壇の前で、猛夫と二人の取り巻きが、園芸部員にからんでいた。部員は男子二人に女子三人で、そのうち女子の一人が猛夫とにらみあっている。彼女は、明の隣の席の女生徒だ。

「五木は古いのよ。フラワーショップは、いまではイケてる職業なの。男性のカリスマ店員がテレビで紹介される時代よ」

「なにがカリスマだ。軟弱野郎じゃないか」

 猛夫の言葉は、自分の家が花屋ではないかのようだ。

 明は水飲み場に行くのを止めた。言い争いに巻き込まれたくなかった。

「明くん」

 ふいに呼びかけられ、ぎくりとした。

 校舎と体育館をつなぐ渡り廊下に、狩野が立っていた。

 猛夫と園芸部員にも気づかれたようだ。猛夫がものすごい顔でにらみつけ、仲間をうながして足早に立ち去った。

 狩野が、にこやかな表情で近づいてきた。

「先生は信じていた。きみはかならず戻ってくると。ご両親に、授業について話したいことがあるから、学校に来るよう伝えておいてくれないか」

 明がサボテンの鉢植えを下げているのを見て、

「先生はなんでもわかっているぞ」

 明の背中を力強く叩き、校舎に戻っていった。

「サボテンに水をあげすぎないように」

 振り返ると、猛夫と言い合っていた女生徒だ。

 肩までの髪がつややかで、切り揃えた前髪の下から、いたずらっぽい瞳を向けている。明が鉢植えを持って水飲み場にいたことから、水やりだと推測したのだろう。他の園芸部員が、花壇から様子を見守っている。

「きみは、ぼくの隣の席の……」

 明は名前が出てこなかった。

稲田香(いなだかおり)。三か月会わないと忘れられてしまうのか」

「ごめん」

「わたし、園芸部の副部長をやっているの。きみさ、数学の授業で当てられたとき、そのサボテンと話していたじゃない。なんだか答えを教えてもらっていたみたいに見えたんだけどな」

「ポロッコはサボテンじゃないよ」

「ポロッコっていうんだ」

 明の手から、鉢植えの入った手提げを奪い取り、

「サボテンには優れた精神能力があって、テレパシーで人間と交信できるらしいの。だから、きみがサボテンにうなずいているのを見て、ピンときたのよ」

「いや、ポロッコは……」

 火星人という言葉をのみこんだ。香に真実を話すのはまだ早いと判断した。

「放課後、わたしんちに寄っていきなよ。ポロッコと会話する極意を教えてもらいたいからさ」

 香が言うと、明の返事を待たず、部員のもとへ戻っていく。

「――ポロッコを返してよ」

 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

 校庭に出ていた生徒が、どっと校舎に戻ってくる。そのなかにのみこまれ、香と園芸部員の姿は見えなくなった。

 午後の授業が始まった。香がすました顔でノートをとっている。その椅子の下にポロッコの鉢植えが囚われていた。明が鉢植えを取り戻そうと、香の足もとにもぐりこめば、変態だと思われるだろう。

 香が横目でちらりと見て、にっと笑った。

 放課後になると、香がすばやく帰り支度をはじめた。友達に、「今日はお先ね」と言うと、椅子の下から鉢植えの入った手提げを手早く取る。明に取り返すひまを与えず、教室を出て行った。

 明はため息をつき、席を立った。

 教室を出るとき、刺すような視線を感じた。うしろの席から猛夫がにらみつけている。険悪さがいっそう増したようだ。

 玄関では、香が下駄箱に寄りかかって待っていた。明に気づくと、ポロッコの入ったビニール袋を振って見せる。

「約束どおり、サボテンとの会話術を教えてもらうからね」

 そう言うと、香が先に立って歩きだした。

 そんな約束をした覚えはないけど、明に否応はなかった。なにしろ大切な火星人は、香の手によって拉致されているのだから。

「五木の家がなんの商売をやっているか、知っている?」

 香の自宅への道すがら、明は訊いてみた。

「あいつんちって、お店でもやっているの? そういえば、五木が両親の話をしているのは訊いたことないな。学校では仲間とつるんでいるくせに、放課後は決まってひとりで下校するんだよね」

 やっぱり、猛夫は自分の家が花屋なのを隠している。昼休みの言い争いから、男のする仕事じゃないと、恥じているのがわかった。

 明は、猛夫が口止めをした理由を理解した。

 香の自宅には生垣をめぐらした庭があった。柿の木の枝ごしには、小さな温室が見える。なかの棚に、様々な鉢植えが置いてあるようだ。

 香の部屋に入ったとたん、いい匂いがした。壁紙には、自分で撮影したらしい草花の写真がたくさん貼られている。ベッドと机がほとんどのスペースを占める。明と香は、ポロッコを挟んで絨毯に座った。

 香がかがんで、鉢植えに顔を近づけている。真剣な表情で耳をすまし、サボテンの『声』を聞こうとしているようだ。

「ぜんぜん、しゃべらないね」

 香の顔は残念そうだ。

「ふつうのサボテンだから」

「嘘。きみはポロッコから二次方程式の答えを教わった。前後の席の人が教えていないのは、わたしが見ている。隣のわたしは教えていない。すると窓枠のサボテンしかいないじゃない。単純な消去法よ」

 明が自分の力で解いた、という選択肢はないようだ。それでも香なら本当のことを話しても信じてくれそうだと期待した。

「笑わないって約束してくれる」

「する」

「ポロッコは、実は火星人なんだ」

 香の顔がすっと真面目になった。

 明はやっぱり打ち明けなければよかったと後悔した。明の宇宙の話がもとで、仲間はずれにされた経緯がよみがえった。

「やった。火星のサボテンなんだ。だからテレパシーが使えるのね」

「そうなんだ」

 明はうなずいた。

 香の解釈は事実と少し違うが、おおよその意味は伝わっているようだ。

「どうして、わたしと会話してくれないのかな。藤森くんといっしょで、人見知りしているとか。かわいい――痛っ」

 香がポロッコを突っつき、棘に刺された。人差し指をなめながら、ぺろっと舌を出す。明はすこし胸がときめいた。

「ポロッコをどこで手に入れたの」

 香がとうとつに尋ねた。

 明は答えるのをためらった。ポロッコを買った花屋を教えるのはなんでもない。猛夫の脅し文句が気になっていた。

「ねっ、教えてよ」

 香が、いたずらっぽい瞳を向けてくる。

 明にすれば、中学に入って初めてきずけた関係を、つなぎとめておきたい心境だった。これは秘密だよ、と念を押し、

「ポロッコを買ったのは……」と一部始終を説明した。

 帰り道、明は後悔していた。頭を占めていたのは猛夫の言葉だ。

 ――おれんちが花屋だってしゃべったら、そのサボテンをおまえの口に突っ込んでやるからな。ようく覚えておけ。

「それはいやだなあ」とつぶやくと、

『ぼくだっていやだよ』

 ポロッコもこぼしていた。

 明は家に帰ると、〈五木フローラ〉のフローラをパソコンで検索してみた。ローマ神話に出てくる花の女神とあった。猛夫の太い眉とごつい顔を思い浮かべる――とても彼のイメージにはそぐわない。

 猛夫は、よほどその店名を嫌っているのだろう。香にばらしたと知ったら、サボテンを口に突っ込まれるのは間違いなかった。



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