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トライアルから桜花賞

 3月。クラシックのトライアルレースが始まると、牝馬の有力馬はぞくぞくとレースに出走してきた。

 阪神JF優勝のトランクビートはチューリップ賞に出走し、勝ち馬からは2馬身程遅れた4着に終わった。

 このレースでは前走で2勝目を挙げたばかりの本賞金900万円の馬、ネバーゴナミスユーが2着に入り、見事に桜花賞の優先出走権を獲得した。

 阪神JF5着のユーアーゼアと、先月クイーンCを勝ったドーンフラワーは、翌週に行われたGⅡのフィリーズレビューに出走してきた。

 このレースでは鞍上が網走騎手に戻ったドーンフラワーが再び逃げ、ユーアーゼアが中段より後方で待機を選択した。

 阪神競馬場の芝内回りは最後の直線が短いため、このままドーンフラワーが逃げ切るかと思われたが、ゴール前では多くの馬が押し寄せてきて、横一線になった。

 そんな中でユーアーゼアが1着から4着までがタイム差無し(アタマ差、ハナ差、アタマ差)の大混戦を制して、見事に1着になった。

 一方のドーンフラワーは1着からは1馬身くらいしか離れていないものの、6着まで順位を下げてしまった。

「はぁ~~…。まだまだお金が必要なのに……。」

 夜明さんは入着賞金すら稼げなかったことを、かなり悔やんでいた。

 一方、もう一つのトライアルであるアネモネSでは、数少ない関東の有力馬であるトランクゾーンが勝ち、桜花賞への名乗りをあげてきた。


 そして4月。いよいよ桜花賞(GⅠ、阪神、芝1600m、外回り)の時期がやってきた。

 出走馬はフルゲートの18頭がそろい、トライアルで活躍した馬達が勢ぞろいした。

 これまで通算20勝の私はそのレースで騎乗することはできないけれど、ドーンフラワーが出走するということで、興味津々だった。

 そのドーンフラワーは8枠18番と、大外になった。

 前走チューリップ賞で4着になった雪辱に燃えるトランクビートは1枠1番、そのレースで2着になったネバーゴナミスユーは1枠2番。

 フィリーズレビュー優勝のユーアーゼアは5枠9番、3頭しか出走していない関東馬の1頭であるトランクゾーンは7枠14番に入った。

(うーーん…、18番ねえ…。芝のいいところからのスタートだから逃げることもできそうだけれど、コーナーで外を回ったら意味がないし…。私だったら中段に控え、内を走る馬の隙間に入り込んでいく作戦でいこうと思うけれど、網走騎手はどのような作戦でいくのかしら…。)

 私は自分がこのレースに出走する時をひたすらイメージし続けた。

 もちろんGⅠに乗れないのは分かっている。

 でも、GⅠはたとえ無理でも、GⅡ、GⅢなら乗れるかもしれない。

 もしもその時が来たら、自信もって

「はい!任せてくださいっ!」

 って言えるように、この馬の観察は欠かさないつもりだった。


 レースが始まると、逗子騎手騎乗のトランクビート(2番人気)は先行策に出たはずだが、スローペースの影響もあってか先頭に立ってしまった。

 ネバーゴナミスユー(7番人気)は最初こそトランクビートと並走していたが、徐々に控え、2~3番手につけた。

 坂江騎手騎乗のトランクゾーン(6番人気)は7~8番手辺り、ユーアーゼア(1番人気)は一瞬中段につけた後に後退し、後ろから5頭目あたりで落ち着いた。

 私が気にしていたドーンフラワー(3番人気)は逃げから一転して後ろから2頭目にいた。

(えっ?何で後方からなの?作戦?それにしては極端すぎるけれど…。)

 私は目を疑うようにして、ドーンフラワーと網走騎手を見た。

 3コーナーに向かう直線で、先頭はトランクビート。リードは2馬身くらいあった。

 その後からはネバーゴナミスユーが、他馬をひきつけるようにして2番手をキープしていた。

 トランクゾーンは中段、ユーアーゼアは相変わらず後方、ドーンフラワーはついに最後方になってしまった。

 場内からはどよめきが起こっていた。恐らくドーンフラワーに対してのものだろう。

 レースはどんどん進んでいき、大きな順位の変動のないまま3コーナーから4コーナーに差し掛かった。

 ユーアーゼアは馬群を割るようにして上がっていき、ドーンフラワーも外に持ち出しながら、少しずつ順位を上げていった。

 一方、前にいるトランクビートとネバーゴナミスユーは4コーナーでもまだ動かない。

 トランクゾーン鞍上の坂江騎手は馬場のいい大外に持ち出そうと、指示を出していた。

 そしていよいよ最後の直線。場内からは大歓声があがった。

『先頭はトランクビート!2番手はネバーゴナミスユー!ユーアーゼアは狭いところを割って5番手まで上がってきた!ドーンフラワーは大外からの追い込みに賭ける!』

 アナウンサーの声色もいよいよ興奮してきた。

 穴馬は次々と後方に下がっていき、有力馬が前を占めていく中、トランクゾーンは勢いが止まり、中段から少しずつ後退していった。

 他の関東馬2頭はすでに10着以下になりそうな状況だったため、関東馬を応援していた人達の期待はこの時点であえなくついえてしまった。

『先頭はトランクビート!逃げ切れるか!?ネバーゴナミスユー差を詰める!』

『ユーアーゼアも来た!大外からはドーンフラワー、ものすごい勢いだ!』

『残り100m!トランクビート先頭!2番手はネバーゴナミスユー!後ろにはユーアーゼア!』

『ネバーゴナミスユー!並んだ!並んで交わした!』

『先頭はネバーゴナミスユー!後ろにはユーアーゼア!交わせるか!』

『大外からドーンフラワー迫る!迫ってきたが届かない!』

『ネバーゴナミスユー、ゴールイン!ユーアーゼアは2番手!ドーンフラワーはものすごい追い上げも3着までっ!』

 アナウンサーの大声とともに、レースは決した。

 結局、7番人気だったネバーゴナミスユーが中波乱を起こして勝ち、クビ差でフィリーズレビュー勝ち馬のユーアーゼアが2着。

 私が応援していたドーンフラワーは2分の1馬身遅れて3着だった。

 とは言え、あと20~30m距離が長かったら、先頭に立てる勢いだっただけに、大外枠と後方待機があだになったような結果だった。

 トランクビートは最後で大きく失速して8着、トランクゾーンは関東勢の期待もむなしく14着に終わった。

(あ~あ、残念ね。できれば勝ってほしかったけれど…。今頃夜明さんはどんな気持ちでいるのかしら?少なくとも3着賞金で満足するような人ではないと思うし…。でも、ドーンフラワーが活躍してくれるのは嬉しいんだけれど、果たして再び騎乗する機会は訪れるのかしら…。)

 私はそう思っているうちに、ドーンフラワーがどんどん遠い存在になっていってしまうような寂しさを感じるようになった。



 前走まで逃げていたドーンフラワーがまさか後方からとは驚きました。

 しかし新馬戦では私が乗って、後方から差し切り勝ちをおさめているだけに、この馬は色んな作戦に対応できる馬のようです。

 その後、網走さんはインタビューで次のように言っていました。

「今回は最後の直線も長いし、他の馬達のマークを外す意味も込めて追い込みを選択しました。しかし勝たなければ作戦成功とは言えません。」

 網走さんは言い訳がましいことを一切言わず、自分の思惑や作戦をはっきりとしゃべっていました。

 もし私が乗っていて3着だったら、単に「力不足です。」で済ましていたでしょうけれど、この網走さんの態度を見習いたいと思いました。


 名前の由来コーナー その10

・ネバーゴナミスユー(Nevergonnamissyou)(メス)… 吉沢梨絵 Duet with KADOMATSU T.の歌う「Never gonna miss you」という曲から取りました。僕が聞いていて泣いたことのある曲の一つです。なお、単語の間にスペースを入れると20文字になってしまい、スペース込みでアルファベット18字以内という規則に反するため、単語を詰めた表記になっています。


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