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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

病弱乙女ゲーム 思い付き

生け贄娘は病弱少女

作者: マヤノ

 生け贄を差し出せば、願いが叶う。そんなのでたらめだ。ありえないことだ。


「神様! 神様! 生け贄をあげるから、約束をちゃんと守ってね」


 大声で笑い、真っ赤に染まったナイフを振りかざす女の子をぼんやりと私は見つめた。


 なんだろう、これは。

 なんでこんなことに私は巻き込まれているの?


 真っ白に輝く何かが女の子に頷いた。にやあ、と口を大きく開いたそれを見ながら、私は大好きな人のことを思う。


 ごめんね、約束は守れない。


 将来、結婚しようと言ってくれた人。どうかあの人には、幸せになって欲しい。私が今、不幸になった分だけ彼の不幸が減ったらいいな。私の幸せがまだ残っているなら、全部あの人に――……。





 死んだらすべて終わり。そう考えるのが普通だ。けど、私は再び新しい生を歩き始めている。


「姉さんも早く学校に行けるようになったらいいのに」


 悲しそうに眉を寄せるのは、可愛い弟の西城佑樹さいじょう ゆうきだ。黒髪に緑の瞳を持つ弟が家族になった時、私は目眩がした。弟が鳳來ほうらい学園に通うと知って、気絶した。


 気のせいだと思っていた事実を突きつけられた。ここは、乙女ゲームの世界。いろんなゲームをしまくっていた私の記憶は、曖昧な部分もあるが弟は攻略対象である。


 そして、病弱な姉などいない家族構成の中になぜか私がいる。


「ごめんね。私の代わりにたくさん学校を楽しんでおいで」


「うん。姉さん、今日も帰ってきたらいろいろんな楽しい話を教えるね」


 通わなくても学校生活や行事を知っている。でも、そんなの言えるはずがない。


 可愛くて姉思いの弟に、私は笑顔を浮かべた。


「ふふ、いってらっしゃい」





 なんで私がこの世界に入り込んだのかは不明だ。調べるために動けない身体が恨めしい。病弱で貧弱な私は、ふかふかのベッドでごろりと寝返りを打つ。


 俺様キャラの東孝弘あずま たかひろ


 子犬属性の西城佑樹。


 ツンデレ双子の南修みなみ しゅう南俊しゅん


 スポーツ少年、北原颯人きたはら はやと


 攻略対象は、東西南北の名を持つ人。隠しキャラの名前は忘れた。乙女ゲームだから、美形なのは当たり前だけれど、はっきり言って詳しい見た目や設定は浮かばない。


 確かなことは、姉がいる攻略対象は一人、颯人だけである。なぜか私が佑樹の姉になっているが。


 乙女ゲーム世界に転生したけど、学校に通っていない私には無関係だ。家庭教師がいるし、前世の記憶があるから勉強の心配はあまりない。


 勉強の大事さは痛感している分、しっかり勉強に時間をかけているつもりだ。倒れて意識を失ったりしない限りは頑張りたい。


 早く佑樹、帰って来ないかな。一人で過ごす時間はつまらない。本と勉強道具に囲まれるのは別に平気。でも、静かな空間は寂しくて怖い。


 あの女の子に、刺されて意識がなくなっていた時に静かすぎる空間にぽつりといた時を思い出してしまうからだ。


 あの人に会いたいな。寂しい時にはいつも側にいてくれた。大好きな人にまた会いたい。





「姉さん!」


 荒々しく扉を開いた弟は、ベッドに座りながら本を読む私に抱きついてきた。ぼすん、とベッドに倒れ込む。


「学校でいやなことでもあった?」


 ぎゅうぎゅうと私を抱きしめる佑樹は、顔を上げると口を閉じた。


 幼い頃に怖い夢を見て、私に抱きついてきたのと同じだ。怖いことを口にしたくなくて、むすっとした表情をしている。


「佑樹、怖いことは自分の中に入れっぱなしにしないの。私はあなたのお姉ちゃんだよ」


「……すぐに子供扱いする」


「子供扱いというか、お姉ちゃんだから仕方ないでしょ。佑樹はいつまで経っても、可愛い私の弟だもの」


「学校にいやな奴が来た。あんな転校生嫌いだ」


 基本的に誰とでも仲良くなれる佑樹が珍しい。はっきりと言い切ると、言葉を続けた。


「馴れ馴れしくて、勝手になんでも知ってるみたいに言って……俺に姉さんがいるのはおかしいんだって。意味がわからない。姉さんが学校に来たらいいのに!」


 私と同じように、ここが乙女ゲームの世界だと知っている?


「見た目はいいよ、見た目はね。けど、逆ハーだとかモブだとか意味のわからないことを影で呟いてるんだ。すごく気持ち悪い」


 佑樹は情報通だ。ゲームでもそうだったのかわからないけど、噂話から真実まで幅広くなんでも知っている。


「姉さん、なんでだろう? 俺の憧れていた北原先輩が、あの転校生に惚れたんだ」


「可愛いからじゃないの?」


「それは違う。確かに可愛いけど、先輩は好きな人がいたんだ。なのに、なんであんな急に心変わりするんだろう?」


 信じられない、と佑樹は呟いた。


「先輩は、見る目がある。腹が立つことに、俺の姉さんを好きなんだから」


「え?」


 いつそんなフラグが立っていたんだろう。初耳すぎて、今日がエイプリルフールじゃないか日付を確認してしまった。


「俺が滅茶苦茶に邪魔して、諦めさせようと奮闘して、いろいろ仕掛けたのに……姉さんのことを好きだって言ってた」


「いや、なんで?」


「教えたくない。あれ、待てよ。先輩はあの転校生が好きになったということは、姉さんには近寄らない! 問題ないや」


 ぱあっと表情を明るくした佑樹は、次の瞬間にはずうっと暗く沈んだ。


「俺もなんか狙われてるんだった。すごくいやだ」


「お疲れさま」


「うう、姉さん。姉さんも学校に来てよ」


「うん、無理だから」


 許可をくれない医者、心配しまくる両親。どう考えても無理だ。もしも通えるようになっても、出席日数がひどいことになりそうだ。


「姉さんが倒れたら俺が運ぶ。何かあったら、俺が守るよ。だから、学校来てよ」


「無理だからね。というか、そんな過保護いらないから」


 シスコンな佑樹の我儘を聞くつもりはない。無理なものは無理だ。


「でも、転校生が姉さんを見たいって言ってたから諦める。姉さんがあいつを見たら、目が腐っちゃう」


 どんだけ嫌いなの、その転校生。見た目はいいと言っていたのに、目が腐るとは何事だろう。


「転校生に姉さんは会っちゃだめだ。なんか怪しい妄言吐いてたから危ないよ」


「妄言?」


「神様がなんとか。いるかわからない存在のこと言ってたよ。気味が悪いよね」


「神さ、ま?」


 妖しく笑った白い影が脳裏に浮かぶ。何か私に言っていた。何か、私に向けて言葉を放った。


 ずくり、と横腹が痛みを訴える。一番始めに女の子に傷つけられた場所だ。


「姉さん?」


 生け贄だと笑った女の子。真っ赤なナイフ。痛みはなくて、ただひたすら熱かった。意識が落ちていく中、あの人のことばかり考えていた。


 嘘、もしかして――あの女の子が私を生け贄にして願ったことは、望む世界にトリップすること?


 まるで小説のように、神様にお願い事を叶えてもらったのだろうか。私はそんなくだらない叶うかどうかもわからない理由で生け贄にされたのか。狂った思考で行ったのか。


 乙女ゲームの世界で逆ハーレムを築く予定の女の子。普通ではありえない方法で願い事を叶え、他人を巻き込んでいながら自分だけ幸せを掴もうとする存在が許せなかった。


「佑樹、その転校生を佑樹は好きにならないでね」


 何よりもこの現実の世界で生きている私にとって、可愛い弟があんなおかしな女の子と恋をするのはいやだ。恋愛は自由というけれど、弟が幸せになれる気がしない相手と結ばれて欲しくない。


「心配しなくても、俺はあんな転校生に落ちないよ」


「絶対?」


「なんでそんな心配するのかわからないけど、絶対落ちない」


 約束と指切りをしてくれる。


 不安になるのは、ありえないことが起きているからだ。生け贄を使って願いを叶えられたのなら、また何か願いをする可能性がある。また生け贄が必要となれば、あの女の子は躊躇いもなく誰かを犠牲にするだろう。


 もしも、神様とまだ連絡する手段があるなら、存在しないはずの佑樹の姉、美鈴みすずを生け贄に選ぶ可能性は高い。私はもう死にたくないし、誰かが不幸になるのは見たくない。できたら、神様との連絡手段がなければいい。


 そういえば、北原颯人は私のことが好きだったらしい。なのに急に転校生を好きになった。何か補正をつけているんだろうか。異性に愛される性質にでもなっているのだろうか。


 考えれば考えるほど、学校に行きたくなる。何が起きているのか実際に見て対処法をしっかり考えたい。


 白い神様はなんて言っていただろう。私に何を言っていただろう。


 ぎゅっと瞳を閉じた先に、真っ白な光の塊としか思えない神様が意地の悪い笑みを浮かべている。神様は私の隣を指差した。誰もいない私の隣。その席にいた人とはもう会えない。


 ――君の想い人がいるよ。巻き込まれたねぇ。


 問いかける前に人の形をしている光は弾け飛ぶ。どろりとした影が世界に広がった。遠くで弟の叫び声が聞こえた。次に目を覚ます時には病院だろうか。

思いつきで書いてみました。なんだかプロローグのような仕上がり。


主人公の彼氏は登場していませんが、真也まさや予定。


神様の形は人の形をしているただの光の塊。口の場所がにたあ、と開くけれど光の塊です。人影の真っ白版?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 乙女ゲームとは思えないほど最初の始まり方が独特で鮮烈です。マヤノさまの小説は初めて読ませていただきましたが、大変楽しませていただきました。 [一言] 乙女ゲームモノは僕も書いておりますが、…
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