7.水龍の王とアルテ村
8月5日 ――5日目――
26の王の石碑はクリスタル湖の底に沈んでいるということなので、泳ぎスキルのLvを上げることにした。
王都の西門から街道を進んでいくとすぐに分かれ道に突き当たる。
右に向かうとクリスタル湖とサンオウの森に挟まれ、隣国のプレミアム王国へ続く道。
東に向かうとサンオウの森を迂回して西にあるウエストシティへ続く道へ。
俺は右の道を行きクリスタル湖に向かう。
クリスタル湖は大きな湖だ。
大きさは日本最大の湖、琵琶湖より大きい。
下手をすれば四国と同じくらいの大きさの湖だ。
クリスタル湖についた俺はさっそく湖の中に入って泳ぎスキルを試してみる。
もちろんゲームなので服のまま入っても泳ぎに影響はない。
と思っていたのだが水の中に入った途端、俺の魔法少女の服が変化する。
「は?」
紺色のワンピースタイプの水着に、胸には「ふぇんりる」のゼッケンが貼られている。
そう、いわゆるスクール水着だ。
「ちょ! なにこれ!? すげーハズいんだけど!?」
萌えスキルの影響で水に入った途端、萌え仕様の服に変化するみたいだ。
うおぉぉお・・・ まさか女の子のスクール水着を着る羽目になるとは・・・
ただでさえ魔法少女の格好でダメージがあるのに・・・
悶える気持ちを落ち着けて水の中に潜っていく。
とりあえずどれだけ潜っていられるか試してみる。
驚いたことに5分間も潜っていることが出来た。
水の抵抗も現実よりは少なかったように感じる。
泳ぎスキルのLvが上がればもっと長く潜っていられて、もっとスムーズに泳ぐことが出来るのだろう。
泳ぎスキルのLvを上げがてら湖の中心に泳いでいくことにした。
水中を泳いでいると無数の魚が居た。
よく見てみると魚たちにはHPのバーが見える。
襲いかかってこないところを見るとノンアクティブモンスターなんだろう。
魚が手に入れば料理するプレイヤーには喜ばれるだろうと思い剣を抜いて襲いかかる。
ステップで一気に間合いを詰め二刀流スキル戦技・十字斬りで攻撃すると魚は一撃で消滅する。
始源竜の剣と飛翔竜の剣の二刀流だ。そこら辺の雑魚は相手にはならない。
この調子で魚たちをゲットしていく。
アユ、コイ、ボラ、スズキ、サケ、アジなどが手に入っていく中、水中の向こうからかなり大きな生物がこちらに向かってくる。
BGMを付けるとしたら、かつて映画で一世を風靡したデーデン、デーデンという音楽が流れたに違いない。
現れたモンスターはジョーズだった。
「ゴボボッ!?(なんでサメが!?)」
ちょ!? サメは海の生物だろ!? なんで湖にいるんだよ!
そういえばサケやアジは海水魚じゃなかったっけ?
水中生物なら何でもいいのかよ。こういうところはいい加減だな、AI-On!
突進してくるジョーズをステップで躱し、すれ違いざまに一撃を入れる。
ターンして動きが止まったところに魔法を・・・
「ゴボッ!?(呪文が唱えられない!?)」
今まで気が付かなかったが、いくらゲームとはいえ水中では喋ることが出来ず呪文が唱えられなかった。
これはまずい。いや、ジョーズは問題ないけど、いやいや、魔法が使えないのからやばいんだけど、ああ、ちょっとパニックになってしまっている。落ち着け。
再び突進してきたジョーズを二刀流スキルのLv30で覚えた戦技・三連撃を叩き込み、攻撃を受けたジョーズは消滅する。
俺は慌てて水上に顔出し何とか一息をつく。
「ぶはっ はぁはぁ、焦った~。まさか魔法が使えないとは・・・」
考えてみれば当たり前のことなんだけどね。
思考操作が出来る戦技は水中でも使用可能だ。言葉を喋る必要がないからね。
いままでの水中戦闘でもそれは証明している。
だが呪文詠唱によって魔法を発動する魔法職にとって魔法が唱えられない水中戦闘は致命的だ。
「これ、水中ボスが居たらやばいんじゃね・・・?
回復魔法は不可能、魔法火力なし、戦技だけでどう戦えって言うんだ・・・?」
妙な寒気を覚えつつ湖の中心に向かって泳いでいく。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
途中小島などで休憩を取りながら半日ほど時間をかけて湖の中心へたどり着く。
その間にも泳ぎスキルはガンガン上がりLvは33になっていた。
Lvが上がるにつれて潜水も長い時間潜れるようになったし、泳ぎのスピードも現実じゃ考えられないほど速くなった。
もちろんジョーズなど、エイ、シャチなどの魚類モンスターの他に、サハギンやマーマンといった魚人モンスターも襲い掛かってきたりもしたが。
魔法の使えない水中戦闘では物理攻撃が物を言うので、武器の装備を変えたのは先見の明だった。
「さて、ここが湖の中心か。早速石碑のサルベージと行きますか」
補助魔法でライトを唱え、湖の底を目指して潜水する。
明かりが水の中に入っても消えないのは魔法のいいところだ。
どのくらい潜っただろうか。
時間にして10分もかからなかったと思うが、周りが同じ景色なので変化が分からず何十分も潜ってた 感じがする。
湖の底が見えてきたと思ったら、そこに何かが居た。
最初は石碑かと思ったが、違う、物じゃない。
長い体をとぐろにして湖底に佇んでおり、青い鱗に二本の角。
そう、龍が居た。
『始まりの王』がトカゲのような西洋の竜に対し、こちらの龍は東洋の蛇のような体を持つ水龍だ。
俺の存在に気が付いた水龍は、こちらに顔を向けて荒々しい口調で話しかける。
『何者だ貴様。我は26の王の1人、『水龍の王・Vortex』
生贄の儀にはまだ早い。それとも我が怒りを抑えるために貴様も生贄になりに来たのか?』
えーと・・・ 湖底には石碑があるんじゃないの?
まさか王がいるなんて聞いてませんよーーー!?
「ゴボボボ」
俺は『水龍の王』の質問に首を横に振る。
『答える気なしか。ならば貴様も我が怒りを抑えるために我が血肉にしてやろう。
生贄の儀までの前菜だ。精々足掻くがよい』
ちょ!? こっちは喋れないんですけど!? 首を振ったんですけど!?
こっちのジェスチャーは無視ですか!?
やばいやばすぎる!
何せ俺のメイン攻撃である魔法が使えない上に、俺は今はソロだ。
『始まりの王』の時と違って流石にデスゲームでいきなり『水龍の王』に挑戦するのは無謀すぎる。
『水龍の王』は口を大きく開き、俺に狙いを定め水弾のブレスを放つ。
泳ぎとステップを駆使して辛うじてブレスを躱す。
俺はすぐさま身をひるがえし水面に向かって全速力で逃げる。
追撃に注意しながら水面に向かっていたが、『水龍の王』の追いかけて来る気配はなく、何とか水面に出ることが出来た。
「ぶはっ はぁはぁ、マジやべぇ、死ぬかと思った。いきなり王とご対面なんてシャレにならなんよ。
というか、水中ボスマジで居たよ。どうすんのこれ・・・?」
このまま湖に居てもしょうがないので近くの陸に向かって泳ぐ。
クリスタル湖とサンオウの森の間の街道の付近に村があるから、そこで休息を取りつつ『水龍の王』の対策を練ろう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
街道沿いの村――アルテ村にたどり着いた俺は、村で唯一の宿に向かう。
「こんにちは~」
「おや、いらっしゃい。こんな田舎の村に冒険者なんて久しぶりだね」
「そうなんですか? プレミアム王国へ続く街道にあるんだから人が集まるんじゃないんですか?」
「はは、旅人はよく泊まるけど、冒険者はなかなかね。近くに遺跡とかも何もないからね。
それに今は・・・いや、なんでもない」
そうか、冒険者=プレイヤーはなかなか通らないのか。それともまだここまで足を延ばしてないのか。
「えっと、とりあえず1泊お願いします」
「あいよ、1泊100ゴルドだよ」
100ゴルドを支払い部屋の鍵を受け取って2階の部屋に向かおうとしたが、ふとこの村が『水龍の王』に近い村だと思い出して何か『水龍の王』の情報がないか宿の店主に訪ねる。
「クリスタル湖の中心に26の王の石碑があるって聞いたんですけど何か知りませんか?
実際には『水龍の王』が居たんですけど」
すると宿の店主は驚愕して俺に掴み掛らんばかりの勢いで話してきた。
「お前さん、『水龍の王』に遭ったのか!? それで!? 何ともなかったのか!? 何か気に障るようなことをしたのか!?」
店主の気迫に思わずたじろぐ。
えっと、気に障ることはしてないよな・・・?
「お前も生贄になれって言われて慌てて逃げたんですけど・・・」
「そう・・・か。何もなかったならそれでいい。無用な生贄が増えなかっただけでも良しとしよう」
店主の話によると、数年前に石碑が湖底に沈んだことに『水龍の王』が怒り、湖が荒れて湖の近くにあるアルテ村にも被害が出たんだそうだ。
海が荒れて被害が出るとは聞くけど、湖が荒れて被害が出るなんてあまり聞かないよな?
それともそれほど『水龍の王』の怒りが凄かったんだろうか。
それで『水龍の王』の怒りを鎮めるために1年に1度アルテ村より少女の生贄を捧げて湖と村の平穏を保っているそうだ。
「それで生贄って前時代的ですよね」
「・・・分かっちゃいるんだが、対抗手段が何もなくてな。今村にいる少女はルーナだけになってしまった。そのルーナも今年の生贄の予定だ・・・ 遠からずどころか来年にもこの村は滅びるだろう。いや、来年を待つまでもなく滅びるだろうな・・・」
俺に非難めいた言葉に店主は自虐的に答える。
「おじさん、わたしが『水龍の王』を倒してあげる。何か問題でもあるかな?」
俺の『水龍の王』討伐宣言に店主はポカンと口を開ける。
「そ、そりゃあ倒してくれるなら何も問題はないが・・・お嬢ちゃん1人で大丈夫なのか?」
「流石に1人では無理よ。これから仲間を募って挑戦するよ」
「そうか、ありがてぇ。しかし何でこの村を助けようとする?」
そりゃそうだ。
いきなり無償の助太刀が現れれば疑惑の眼差しを受けるに決まってる
「こっちにも『水龍の王』に用事があるのよ」
「・・・さっき言ってた石碑か」
「そう言うこと。石碑は他の冒険者にも必須だからね」
「そういうことだったらこっちも協力するよ。たいしたことは出来ないけどな。とりあえず宿の値段は半額にしてやろう」
店主のおじさんは顔をほころばせながらこちらに協力体制を見せてくれた。
メニューのクエストタグの一覧を見てみると『アルテ村を救え』が表示されていた。
今のでクエストを受けたことになってたよ。
ちなみに生贄の儀は8月31日。
怒りの蓄積によって1日ごとに強くなっていくらしい。そして8月31日に『水龍の王』の力が最大になると。
そして生贄を食らうことによって怒りが静まり『水龍の王』の力は最弱になる。
8月31日前に挑戦すれば力の弱いうちに倒すことが出来る。または8月31日後なら最弱の『水龍の王』に挑戦が可能になる。
前者はともかく後者は下策だ。いくらNPCだとは言ってもここで見捨てるのは後味が悪すぎる。
俺は早速水中で魔法を使う方法を調べる。
自分のスキルや掲示板等で調べた結果、水中で魔法を使う方法を3つ見つけることが出来た。
1つ目は水属性魔法スキルの魔法・アクアブレス。
この魔法は水中でも呼吸が出来て会話が可能になる魔法だ。
但し、当然のように水中では呪文を唱えることが出来ないので水上にいるときに魔法をかけなければならない。
2つ目は水属性付与魔法スキルの魔法・アクアラング。
アクアブレスと同じように思われるが、こちらの魔法は付与魔法ということで他人にもかけることが出来る魔法だ。
もちろん魔法である以上アクアブレスと同じく水上でしかかけられない。
3つ目は獣化スキルの戦技・フィッシュブレス
魚のエラ呼吸の獣化によって水中でも呼吸・会話が可能になる戦技だ。
先の2つの魔法との最大の違いは水中でも使用可能という点だ。
戦技であるから思考操作によって言葉を発する必要がないからだ。
但し首元にエラが出来て見た目が変化するので獣化スキルは不人気なんだとか。
「よし、後は泳ぎスキルと水中呼吸可能スキル持ちの臨時PTの募集をかけるか」
掲示板に臨時PTの募集を載せて今日のところは早めの睡眠を取る。
泳ぎと水中呼吸の両方のスキル持ちは限られてくるだろうが、せめてPTの上限の7人が集まることを期待しよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
エンジェルクエスト攻略に関するスレ
443:フェンリル
クリスタル湖中心の湖底にて『水龍の王・Vortex』を発見。
討伐のための臨時PTの募集をします。
なお、水中戦闘のため〈泳ぎ〉スキルと水中呼吸可能スキル(〈水属性魔法〉スキル、〈水属性付与魔法〉スキル、〈獣化〉スキル)が必須です
三日後の8月8日10:00までにプレミアム王国行街道のアルテ村の宿屋に集合お願いします
444:エルリック
水中ボスキター!
445:天夜
というか臨時PTの招集者がソードダンサーか
これは是非とも参加したいが残念ながらスキルがないorz
446:オーバードラゴン
俺も参加したかったがスキルがねぇ
447:朱里
水中呼吸は別にスキルである必要はないんじゃない?
アイテムとかないかな?
448:シ者カヲルン
残念だけど今のところそんなアイテムは存在しないね
449:ホリーポッポー
と言うかソードダンサーの名前ってフェンリルなのか
450:天夜
>>449
魔法少女改めソードダンサーのスレ >>191参照
451:はぐれてないメタル
この調子じゃ他にも水中ボス居そうな感じだね
452:一福神
だね
俺も泳ぎスキル取って育てておこうかな
453:ホリーポッポー
というか何で水中呼吸スキルが必要なんだ?
454:オーバードラゴン
>>453 お前は水中で呪文を唱えられるのか?
455:ホリーポッポー
あ~ そういうことか
456:クリムゾン
ん? じゃあ水中で呼吸が可能になれば泳ぎスキルはいらないんじゃね?
457:天夜
いや、泳ぎスキルは必要だろう
呼吸が可能になったところで水中で動きが鈍ければ何の意味もない
458:はぐれてないメタル
水中戦闘か・・・何気に難易度高そうだな
459:まほろば
2次元戦闘じゃなく3次元戦闘だからね
460:オーバードラゴン
だがしかし! ソードダンサーならやってくれると信じている!
461:天夜
>>460 お前も舞姫信者かww
462:オーバードラゴン
>>461 おお!同志よ!
463:朱里
>>461 なにそれ?ww
464:オーバードラゴン
ソードダンサーを愛でる者たちのことだ
もちろん彼女の実力は折り紙つきだから強さに憧れる者たちのことでもある
465:天夜
剣の舞姫の信者。通称:舞姫信者
466:邪気癌
舞姫信者の話と聞いて
舞姫信者おっぱい名誉会長参上!
467:天夜
名誉会長キター!ww
468:華麗なる管理人
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