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Angel In Online  作者: 一狼
第1章 Start
4/84

3.露店と同級生

 セントラル城を中心に広がる王都セントラル。

 セントラル城から東西南北に延びる大通りにはそれぞれ特徴がある。

 北の大通りはNPCの店が並ぶ商店街通り、東の大通りは職人の工房が並ぶ職人通り、西の大通りは宿屋が並ぶ宿屋街通り、そして南の大通りは初心者広場を中心に構える広場通りとなっている。


 剣を補充するため王都に戻った俺は北の商店街通りに向かうため、南門を通って広場通りを歩く。

 そして初心者広場に広がる光景を目にしてちょっとビックリする。

 スタート直後にはたくさんのプレイヤーが居た初心者広場は、今は数多くの露店が広がっていた。

 露店の品を見てみるとそれなりに品揃えが充実していた。


 えーと、オープン初日なのになんでこんなに露店が出ているんだ?


 疑問に思った俺は近くの露店のお姉さんに声をかける。


「あのーすいません」


「はーい、いらっしゃいま・・・せ。お嬢さん何か買ってってくださいな」


 声をかけられたお姉さんは俺の姿を見てぎょっとするも、すぐに営業スマイルで対応する。


 あ、そうか。今の俺は魔法少女だもんな。びっくりするよなぁ。

 言葉使いも気を付けなきゃ。ネカマプレイネカマプレイ、女言葉女言葉・・・

 ん?無理に女言葉を使おうとするとかえっておかしくなるか?

 まぁ、適当でいいか。無理をしようとするとぼろが出そうだ。


「広場にたくさんの露店が出てるみたいだけど、オープン初日・・・ほんの数時間でこれほどの品ぞろえの露店が出てるってどういうことなのかな?」


「お嬢さん正式オープンからのプレイヤー?」


「うん」


「そっかー。まぁ、ぶっちゃけ広場の露店のほとんどはβプレイヤーなんだよね」


「どういうこと?」


「βプレイヤーの特典としてβプレイ時の生産スキル・生産素材を持ち越しできるのよ。

 だからオープン初日で品揃えの充実した露店が出せるのはβプレイヤーってわけ」


「なにそれ! ずるい!」


「あはは、気持ちは分からないでもないけどね。でもゲームを潤滑に進めるためにはアリだと思うね、あたしは」


「そうなの?」


「ちょっと考えれば分かることだよ。

 プレイヤーが狩ってきた素材をあたし達が買い取る。その素材でいいアイテムを作る。プレイヤーは素材を売って手に入れたお金であたし達のいいアイテムを買う。

 いいアイテムを手に入れたプレイヤー達がゲームの進行速度を速める。

 ね、初期装備から始まるプレイよりはゲームが進むでしょ?」


 お姉さんの説明に俺は納得する。

 普通MMOでは強力な武器を手に入れるには大抵が生産職が作り上げたものになる。

 強力な武器があればゲーム進行も進むし、生産素材が手に入りやすくなる。またそれによって生産職も新たな武器を作り上げることもできる。うまく循環する。

 そのためにスタート直後に生産職をブーストさせるのはアリだ。


「ね、折角だから何か買っていかない?」


 見たところお姉さんの露店は主な商品は革装備だ。

 うん、革装備なら魔法職だけど動きにペナルティを受けずに防御力を上げることが出来る。

 丁度いいから買っておこう。


「あ、そういえばお金がない・・・」


「うん? 何か素材アイテムはない? 買い取るよ?」


「えーと、ちょっと待って」


 俺はメニューを開いて狩りで手に入れたアイテムを確認する。


 ホーンラビットの肉

 ホーンラビットの毛皮

 ホーンラビットの角

 コボルトの肉

 コボルトの毛皮

 コボルトの牙

 コボルトの爪

 ゴブリンの牙

 ゴブリンの爪

 ゴブリンの角

 ウルフの肉

 ウルフの毛皮

 ウルフの牙

 ウルフの爪


 うん、それぞれが20個以上あるね。

 結構狩ってたんだ。


「へぇ、ウルフまで狩ってたんだ。すごいじゃない。結構森の奥まで進んだんだね。

 あ、ゴブリンの角まである。これなかなかドロップしないんだよね。

 あ、肉は他の料理人の露店に売った方がいいよ。

 んー、そうだね。全部で6,900ゴルドでどう?」


 俺は思わず目を見張る。

 思った以上に高い値段で買取してくれた。


「そんな高い値段でいいの?」


「うん、いいよいいよ。そのかわりたくさん買ってね?」


「あはは、たくさんは無理だけど、なるべく高いのを選ぶよ」


 お姉さんの商品は結構いいのがそろっていた。

 βプレイヤーってものあるかもしれないが、腕のいい職人なのかもしれない。

 強化ウルフレザーの胸当て

 強化ウルフレザーの籠手

 強化ウルフレザーの脚当て

 お姉さんの商品の中からこの三つを選ぶ。


「ん、じゃあ3点で4,000ゴルドのお買い上げになります」


 支払いを済まし早速装備する。


 武器もだったがAngel In Onlineの防具の装備は他のRPGとは少し違う。

 防具の装備欄がけた違いにあるのだ。


 まず、下着欄として

  下着(上)、下着(下)

 そして服欄として

  頭、首、胴、腰、腕、手、脚、足

 服の上に装備する鎧欄として

  頭、鎧、腰、腕、手、脚、足、盾

 最後にアクセサリー欄として

  頭、顔、耳×2、首、手首×2、指×2、背中


 とまぁ、28個もの装備欄があったりする。


 何故こんなに装備欄があるのかというと、AI‐On(アイオン)開発者が普通のRPGの装備であれば『旅人の服』から『鉄の鎧』に装備を変えた時、『鉄の鎧』の下は裸なのか?という疑問から始まったらしい。

 普通であれば『鉄の鎧』の下にも服を着ているのだから、『鉄の鎧』と『下の服』もセットという考えになる。

 だったら『旅人の服』の上に『鉄の鎧』を装備できてもおかしくはないのではと、開発者の考え。

 装備によっては服と鎧などが同時に装備できないものもあるが、AI‐On(アイオン)では最終的にこの案に落ち着いたらしい。


 この装備欄により服装備はただのお洒落アイテムと化してしまった。

 服の上に鎧を装備できるのだから、服にも防御力があると鎧と合わせてとんでもない数値になってしまうからだ。


 そのため防具の装備に関してはどの職業でも装備できるようになってる。

 ただし、その防具に必要なステータスが無いと動きにペナルティがかかる。

 例えば、魔法職なのに筋力が必要な鎧を装備すると動けなくなるとか。


 俺も初期装備の冒険者の服の上から胸当て等を装備していく。

 といっても、見た目は萌えスキルの所為で魔法少女服が少し鎧っぽいデザインに変化しただけだが。


「ん~? 装備したんだよね? どうなってるの? それ?」


 お姉さんが当然の疑問をぶつけてくる。


「あはは、企業秘密ということで」


 俺は可愛らしく人差し指を唇に持っていきウインクをする。


「ねぇお姉さん、頑丈な剣欲しいんだけど良い露店しらない?」


「うん? 頑丈のアビリティは駆け出しの鍛冶生産なら誰でも付けれるから、どの露店でも売ってると思うよ。

 まぁ、あたしのお勧めは広場の北の方に露店を開いているライトっていう鍛冶職人だね。

 あたしの朝霧の名前を言えば安くしてくれると思うよ」


「ライトっていう人の露店だね。ありがと!」


 俺はお礼を言ってお姉さん―朝霧さん―の露店を立ち去る。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 朝霧さんのお勧めの露店を探しながら、あちこち覘きながら歩いていたら人にぶつかってしまった。


「あ、ごめんなさい」


「いえ、こっちもごめんなさ・・・い」


 ぶつかったのは、黒髪をポニーテールにした戦士風の14歳くらいの女の子だった。

 女の子は謝りながら驚愕の表情でこっちを見た。


「うわあぁ! すごい! その格好! いいなぁ~、ねぇ! それどうやるの!?」


 女の子は身体(アバター)にも関わらす目をキラキラさせてると分かる表情で質問をぶつけてくる。


「えっと、ごめんなさい。これは秘密の魔法で変身してるの。だから今のキミにはちょっと無理かな」


「そっか~残念。ねぇ、もしあたしも使えるようになったら教えてくれる?」


「う、うん・・・」


 女の子の押しに俺は思わず頷いてしまう。

 この年の頃の女の子って魔法少女に憧れるものなのかな?


「ほんと!? 絶対だよ! じゃあフレンド登録しよ」


 女の子は早速メニューを開いてフレンド登録申請をしてくる。

 フレンド登録をして女の子の名前を確認するとアイと表示されていた。


「フェンリルお姉ちゃんだね。

 あ、さっきはぶつかってごめんなさい。

 もしよかったら今度一緒に遊ぼうね。それじゃあたし行くね」


「それはこっちもよそ見してたからおあいこよ。

 そうね機会があったら一緒に遊びましょうね。

 バイバイ、アイちゃん」


 アイちゃんは手を振って南門の方へ行ってしまう。

 う~ん、嵐のような女の子だったなぁ。

 あ、身体(アバター)はランダムだから見た目通りの年齢の女の子ってわけじゃないのかも。

 それにしてもこの魔法少女の格好・・・やっぱり目立つのか・・・




 俺はそのあとライトさんの露店を見つけ、予備を含めて剣を6本購入する。

 朝霧さんの紹介だけあって他の露店の剣より攻撃力が高かった。

 さすがに6本も剣を購入したので奇特な目で見られたが。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 そろそろ夕食の時間なのでログアウトするための宿を探す。


 Angel In Onlineではログアウトはシビアだ。

 フィールドでログアウトした場合、身体(アバター)が3分間その場に残ってしまうのだ。

 その状態でHPがゼロになってしまうと、すべてのアイテムがその場にばら撒かれてしまう。

 そうすべての装備を含めたアイテムがばら撒かれてしまうのだ。(ただし下着は除く)

 フィールドでログアウトするにはキャンピングセットのアイテムが必要になる。

 キャンピングセットで展開されたキャンプの中でなら安全にログアウトが出来るのだ。

 と言ってもキャンピングセットを展開するのにも3分間必要なのだが。

 なぜこんなにもシビアかというと、他のMMOでもあるようにアイテムを持ち逃げするなどの即ログアウトを防止するためだ。


 そして町の中でもフィールド程ではないがログアウトはシビアだ。

 街の中の場合は1分間身体(アバター)がその場に残る。

 そしてログアウト時の身体(アバター)のみ町の中での攻撃が可能になり、その状態でHPがゼロになるとアイテムストレージのアイテムがランダムで数個ばら撒かれてしまうのだ。

 そのために安全にログアウトするには宿をとるのがAI‐On(アイオン)では常識だ。


 俺は宿屋街通りを歩きそこそこ良さそうな宿を探す。

 この宿屋街通りの宿は、食事を含めた高級な宿から寝泊りをするだけの安宿までピンきりだ。


 『極上のオムライス亭』

 俺の目に飛び込んできたのはそんな名前の宿だった。


 俺は名前に魅かれて宿に入る。

 宿の主人は恰幅のいいおばちゃんだった。


「いらっしゃい、泊まりかい?」


「はい、とりあえず10日ほど泊まりたいんですけど、部屋空いてますか?」


「大丈夫だよ。10日だね、500ゴルドになるよ」


 1日50ゴルドの計算か。安いな。

 500ゴルド支払い、部屋の鍵をもらう。


「毎度あり。部屋は207号だよ。食事したい時はわたしに言えば出してあげるよ。特にオムライスはお勧めだね」


「あはは、食事のときは期待してますよ」


 俺は部屋に入り一息つく。

 あれ? そういえば今のおばちゃんってNPCなんだよな。

 あまりにも自然で気づかなかった。

 さすがAIに力を入れてるだけあるな。


 妙な感心をしつつメニューを開いてログアウトをする。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 ログアウトした俺は生身の体をストレッチでほぐしてから、食事会場に向かう。


 今の時間は午後7時なので夕食時ではあるがさすがネットゲーマー、ぶっ通しプレイの為か24時間バイキングにもかかわらず食事会場は人が散開していた。


 主に肉を中心にしたメニューを選び空いている席に着く。


「あれ~? 大神君? 大神君もAI‐On(アイオン)のキャンペーンに応募してたんだ」


 声をかけてきたのは同じクラスの鳴沢鈴だった。

 鳴沢も丁度夕食らしくトレイを持って俺の向かいに座る。


「鳴沢、こんなところで会うとは奇遇だな」


「だね。それにしても大神君がVRMMOをやるとは思わなかったなぁ~ 

 大神君ってどちらかというとアウトドア派に見えたんだけどね」


「おいおい、俺は根っからのゲーマーだよ。むしろ鳴沢の方がVRMMOをやるようには見えないよ」


 俺から見た鳴沢は、今時の女子高生ではあるが、活発で優しくクラスの人気者だ。

 しかも見た目も可愛いので狙っている男子はかなりいる。

 俺もその一人であったりする。

 この場で出会ったのはものすごいラッキーだ。


「あはは、あたしがVRMMOの影響を受けたのはお兄ちゃんのせいだからね~

 お兄ちゃんがアドベントを持っていてね。あたしが勝手に使ってLord of World Onlineをプレイしてたりしたんだ」


「え? Lord of World Onlineをプレイしてたのかよ。もしかしてVRMMOはベテラン?

 あれ? でもベテランならなんでこのキャンペーンに応募してるんだ?」


「んー、ベテランまではいかないけど、そこそこかな。

 AI‐On(アイオン)でもそのままアドベントを使おうと思ったら、お兄ちゃんが自分もAI‐On(アイオン)をプレイするからってとられちゃってね」


 鳴沢は、だからキャンペーンに応募したんだってほほ笑む。

 う、メチャクチャ可愛い。


「ねね、よかったらこの後一緒にプレイしない?」


 鳴沢が魅力的な提案をしてくる。

 もちろん異論はない。

 むしろこちらからお願いしたいくらいだよ。


「ああ、もちろ・・・」


 言いかけて俺は気が付く。

 AI‐On(アイオン)内の俺は女だ・・・

 さすがにネカマプレイをしてるんだとは言えない。


「あ、あ~ 折角の申し出だけどそのままプレイしたんじゃ普通すぎるから、ゲーム内での名前を聞かずにお互いを探しあわないか? その方が面白いじゃん」


 鳴沢はちょっと考えてにっこり笑う。


「いいね、面白そう。じゃあ何かヒント頂戴。さすがにノーヒントじゃ探しようがないからね」


「ああ、ヒントは俺の名字の大神だ。ちょっと捻ってるから分かりづらいかもしれないがな」


「あたしのは名前の鈴がヒントね。あたしのは捻りがないから分かりやすいかも。

 うふふ、絶対見つけてあげるからね。覚悟しておいてね!」


 はい、覚悟しておきます。

 見つかったら俺の姿を見て呆れられるんだろうなぁ。

 一緒にプレイはしたいが、したくない気持ちもある。


「ああ、楽しみにしてるよ」


 俺は食事を終えてトレイを持って立ち去る。

 ああああ~~~ なぜ俺はネカマプレイを始めたんだ。

 この時俺はネカマプレイを激しく後悔した。

 かと言ってあのチートスキルを捨てるのは勿体ない。

 ・・・鳴沢に会わないように祈ろう。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


露店に関するスレ


56:justice

 オープン初日なのに露店が賑わってるね

 どういうことなんだろ?


57:佐々やん

 あーそれはβプレイヤーの特典だね

 βプレイ時の生産スキル・生産素材を持ち越しできるんだ


58:朱里

 そうそう、ゲーム進行を円滑にするためにね


59:justice

 あーなるほど、アイテム・装備が充実してれば攻略も楽になるもんね


60:ワーカーホリック

 攻略が進めば生産アイテムも充実するからね~


61:ブックオフ

 AI‐Onの生産はやりごたえあるわ~

 レシピ集めは特に面白い


62:justice

 レシピによっては複数の生産スキルが必要なんだっけ?


63:炎の料理人

 うん、中でも錬金術のスキルは重要

 いろんなレシピの必要スキルに錬金術が載っている

 料理のレシピにさえ載っているw


64:朱里

 必要なNPCに話しかけるとすぐ覚えられるから生産スキルは取りやすいよね


65:ワーカーホリック

 そういえばこれ露店のスレだっけ~?

 なぜか生産の会話になってる~w


66:佐々やん

 話を露店に戻すけど、露店に魔法少女が来てたね


67:justice

 mjd!?

 その時の状況をkwsk!


68:朱里

 >>67 何その食いつきww


69:justice

 いや~ 一目見てファンになっちゃってねw


70:佐々やん

 なんか剣を買っていったみたいだったよ

 しかも6本ww


71:justice

 は? え? 魔法少女だよね? なんで剣?


72:炎の料理人

 >>71 魔法少女を見たスレ 235参照


73:ライト

 あ、剣を買っていったのは俺の所ね

 うん、いきなり6本も剣を買っていったのはさすがにビビったw

 でも>>72でなっとく

 たぶん剣の耐久力が持たないんだろう

 買っていった剣は頑丈のアビリティ付きだったからね


74:justice

 魔法少女が剣・・・orz

 魔法少女じゃなくなってるじゃん!


75:朱里

 以上>>74の魂の叫びでしたww



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